この記事で分かること
- 新凱来とは:中国深センに拠点を置く半導体製造装置メーカーです。中国政府の支援を受け、EUVに頼らず5ナノ級チップを製造する技術(自己整合四重パターニング)を開発しているとされ、中国の半導体産業を牽引する新星として注目されています。
- 自己整合四重パターニングとは、EUV露光装置に頼らず、既存の技術を用いて回路を微細化する手法です。特定のパターンを形成した後、その側面に薄膜を堆積・除去する工程を繰り返すことで、元のパターンの1/4の幅まで微細化し、5ナノメートル級のチップ製造を可能にします。
新凱来の急成長
中国・深センに拠点を置く半導体製造装置メーカーである新凱来(SiCarrier)は、急成長を遂げている中国半導体の新星として注目を集めています。
https://www.afpbb.com/articles/-/3597225
特に、受注額が100億元(約2070億円)を超えたとの報道が、その存在感を際立たせています。
新凱来とはどんな会社か
新凱来(SiCarrier)は、中国の半導体製造装置メーカーであり、急成長を遂げている中国半導体の新星として注目されています。2021年に深センで設立された比較的新しい会社ですが、その存在感は急速に高まっています。
主な事業内容と技術
新凱来は、半導体製造における以下の分野に注力しています。
- 半導体製造装置: チップ製造に必要なエッチング装置、薄膜堆積装置、検査装置などを開発・製造しています。
- 精密製造技術: 高精度な加工、光学検査、微細加工といった技術にも強みを持っています。
- 産業用オートメーション: 自動化生産ラインやロボットシステム、インテリジェント制御技術も提供しています。
特に、EUV露光装置のような最先端の装置に頼らず、5ナノメートル級のチップを製造する技術を開発しているとの情報があり、これが米国の技術規制を回避する上で重要な意味を持つとされています。ファーウェイ(Huawei)と共同で自己整合四重パターニング(SAQP)技術の特許を出願していることも、その技術力の高さを裏付けています。
成長の背景と特徴
新凱来の急速な成長には、以下のような特徴が挙げられます。
- 半導体国産化の旗手: 中国政府が半導体サプライチェーンの自給自足を目指す中、新凱来はその中心的な役割を担う企業として期待されています。
- 政府からの支援: 深セン市の国有資産監督管理委員会の直属企業が出資しており、政府からの強力な支援を受けています。
- ファーウェイとの緊密な関係: ファーウェイと共同で技術開発を行うなど、深い協力関係にあります。この関係から、2023年後半には米商務省の輸出管理規制リスト(エンティティリスト)に追加されました。
- 巨額の資金調達と受注: 受注額が100億元(約2070億円)を超えるなど、設立間もない企業としては異例の成功を収めています。また、約4100億円という巨額の資金調達にも成功していると報じられています。
新凱来は、単なる特定の装置メーカーに留まらず、中国の主要な半導体メーカーであるSMICやYMTCなどを顧客に持ち、チップ製造に必要なあらゆる装置を提供する「ワンストップショップ」となることを目指しているとされています。
これらの動きから、新凱来は中国の半導体産業において、国産化を牽引する重要な存在として位置づけられています。

新凱来は、中国深センに拠点を置く半導体製造装置メーカーです。中国政府の支援を受け、ファーウェイと連携して半導体国産化を推進し、EUVに頼らず5ナノ級チップを製造する技術(自己整合四重パターニング)を開発しているとされ、設立間もないながら100億元を超える巨額の受注を獲得するなど、中国の半導体産業を牽引する新星として注目されています。
中国政府が半導体サプライチェーンの自給自足を目指す理由
中国政府が半導体サプライチェーンの自給自足を目指す主な理由は、経済安全保障と技術覇権を確保するためです。特に、米国による技術規制の強化が最大の要因となっています。
1. 米国の技術規制への対抗
米国は、中国の軍事力強化や技術的台頭を阻止するため、半導体関連の技術や製造装置の中国への輸出規制を強化しています。
これには、最先端チップの製造に必要なEUV露光装置などが含まれます。中国は、これらの技術が利用できなくなることで、AIや5Gといった主要な産業分野の発展が阻害されることを懸念しており、外部からの供給に依存しない自前のサプライチェーンを構築する必要に迫られています。
2. 経済成長の維持
半導体は、スマートフォン、自動車、AI、スーパーコンピューターなど、あらゆるハイテク製品に不可欠な「産業の米」です。外部からの供給が不安定になると、国内経済全体に深刻な影響を及ぼします。自給自足体制を確立することで、このようなリスクを回避し、安定的な経済成長を維持しようとしています。
3. 軍事技術の確保
半導体は、ミサイル、戦闘機、偵察衛星などの軍事システムに欠かせない部品です。米国が中国の軍事力を封じ込める目的で半導体輸出を規制しているため、中国は独自に高性能な半導体を開発・製造することで、軍事的な優位性を確保しようとしています。
中国政府は、これらの理由から、「中国製造2025」のような産業政策を掲げ、巨額の国家ファンドや補助金を投入するなど、半導体産業の育成に総力を挙げて取り組んでいます。

中国政府が半導体サプライチェーンの自給自足を目指す理由は、主に米国の技術規制に対抗し、経済と軍事の安全保障を確保するためです。外部からの供給が断たれるリスクを回避し、国内のハイテク産業の安定的な発展と、技術的優位性の獲得を目指しています。
自己整合四重パターニングとは何か
自己整合四重パターニング(SAQP: Self-Aligned Quadruple Patterning)は、半導体の微細化技術の一つです。これは、EUV(極端紫外線)露光装置のような高価で複雑な最先端技術に頼らず、より古い世代の露光装置を使って回路の密度を大幅に高める手法です。
仕組み
SAQPは、サイドウォール成膜とエッチングを繰り返すことで、元のパターンのピッチ(間隔)を1/4に微細化します。
- まず、初期の粗いパターン(コアと呼ばれる)を形成します。
- このコアの側面に、薄い膜(サイドウォール)を均一に堆積させます。
- コアをエッチングで除去すると、サイドウォールだけが残ります。この時点でパターンの密度は2倍になります(SADP: Self-Aligned Double Patterning)。
- このサイドウォールを新たなコアとして、再度サイドウォール成膜とエッチングを行います。これにより、元のパターンの4倍の密度を持つ微細なパターンが形成されます。
この技術は、露光時にパターンのズレ(オーバーレイエラー)が生じにくいため、「自己整合」と呼ばれます。
重要性
SAQPは、米国などの規制によりEUV露光装置の入手が困難な中国の半導体メーカーにとって、最先端チップを製造するための重要な代替手段となります。これにより、既存の装置を活用しつつ、5ナノメートル級のチップ製造が可能になると考えられています。

自己整合四重パターニング(SAQP)は、EUV露光装置に頼らず、既存の技術を用いて回路を微細化する手法です。特定のパターンを形成した後、その側面に薄膜を堆積・除去する工程を繰り返すことで、元のパターンの1/4の幅まで微細化し、5ナノメートル級のチップ製造を可能にします。
自己整合四重パターニングのデメリットは
自己整合四重パターニング(SAQP)の主なデメリットは、製造プロセスの複雑化とそれに伴うコスト増、そして生産性の低下です。
プロセスの複雑化とコスト増
SAQPは、露光・成膜・エッチングといった工程を複数回繰り返すことで微細化を実現します。このため、EUV露光装置を使用するよりも工程数が大幅に増えます。工程が増えれば増えるほど、時間、材料、エネルギー、そして製造装置の稼働時間が増えるため、必然的に製造コストが上昇します。
生産性の低下
工程数の増加は、生産性にも悪影響を及ぼします。一つのウェハを処理するのにかかる時間が長くなるため、単位時間あたりのチップ生産枚数(スループット)が低下します。量産を目的とする場合、これは大きな課題となります。
欠陥発生リスクの増大
多段階のプロセスを経るため、それぞれの工程でわずかな誤差や汚染、欠陥が発生する可能性があります。これらの小さな問題が積み重なることで、最終的な製品の歩留まり(良品率)が低下するリスクが高まります。
これらのデメリットがあるため、SAQPはEUV露光装置の代替技術としては非常に有用ですが、EUVが使える状況であれば、よりシンプルで効率的なEUV露光が好まれるのが一般的です。

自己整合四重パターニングのデメリットは、製造プロセスの複雑化にあります。工程を複数回繰り返すため、製造コストが上昇し、生産性が低下します。また、各工程での小さな欠陥が積み重なることで、歩留まり(良品率)が低下するリスクも伴います。
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