データセンター増加による化学メーカーの特需 データセンターとは?どんな素材の需要が増加しているのか?

この記事で分かること

  • データセンターとは:企業などが保有する大量のデジタルデータを保存・管理し、アプリケーションやサービスを安定的に稼働させるための、サーバーやネットワーク機器などのIT機器を集約・運用する専用の施設のことです。
  • AI増加の影響:AIの増加は、単にサーバーの数を増やすだけでなく、従来とは比較にならないほどの高密度な計算能力、膨大なデータ処理能力、そしてそれらを支えるための電力と冷却インフラを、データセンターに求めるようになっています。
  • 需要が伸びている素材:AIの発熱に対応する液浸冷却液や熱伝導材料、高速通信を支える光ファイバーや高機能樹脂、さらに半導体関連材料が特に需要を伸ばしています。

データセンター増加による化学メーカーの特需

 生成AIの発展を背景に、データセンターの建設・増設が世界的に加速しており、これに伴い、日本の化学メーカーをはじめとする素材各社が「特需」の波に乗っています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC06A2A0W5A600C2000000/

 データセンターは、大量の情報を処理し、AIの学習や運用を支えるために不可欠なインフラであり、その高性能化・高効率化には、様々な先端素材が欠かせず、データセンターを支えている化学メーカーの技術も必要となっています。

データセンターとは何か?

 データセンターとは、企業や組織が保有する大量のデジタルデータを保存・管理し、アプリケーションやサービスを安定的に稼働させるための、サーバーやネットワーク機器などのIT機器を集約・運用する専用の施設(建物)の総称です。

データセンターの主な役割

 データセンターは、現代のデジタル社会において以下のような重要な役割を担っています。

  1. データの安全な保管と管理: 企業が扱う膨大な顧客データや業務データ、さらにはAI学習に必要なデータなどを安全に保存し、適切に管理します。データ損失を防ぐための定期的なバックアップや、障害発生時の迅速な復旧も行います。
  2. アプリケーションとサービスの安定稼働: Webサイト、オンラインサービス、企業の基幹システム、クラウドサービスなどのアプリケーションを24時間365日安定して稼働させるための基盤を提供します。
  3. 高性能ネットワークの提供: データセンター内、および外部ネットワークとの間で高速かつ大容量のデータ通信を可能にするためのネットワークインフラを提供します。
  4. セキュリティの強化: 物理的なセキュリティ(入退室管理、監視カメラなど)とサイバーセキュリティ(ファイアウォール、不正侵入検知システムなど)の両面から、データとシステムを保護します。
  5. 災害対策(BCP/DR): 地震や火災などの自然災害、あるいはシステム障害などが発生した場合でも、データやシステムの損失を最小限に抑え、事業継続を可能にするための対策が施されています(免震・耐震構造、自家発電設備、バックアップシステムなど)。

データセンターの構成要素

 データセンターは、主に以下の要素で構成されています。

  • サーバー: データを処理、保存、管理し、アプリケーションを実行するための高性能なコンピュータ。
  • ストレージデバイス: サーバーから生成された膨大なデータを保存するための装置(HDD、SSDなど)。
  • ネットワーク機器: サーバー間や外部とのデータ通信を円滑にするためのルーター、スイッチ、ロードバランサーなど。
  • 電源設備: 安定した電力供給を確保するための受変電設備、無停電電源装置(UPS)、非常用発電機など。
  • 空調・冷却設備: 多数のIT機器から発生する熱を効率的に排出し、適切な温度・湿度を維持するための空調機や冷却装置。特に近年はAIの利用拡大により発熱量が増大しているため、液浸冷却などの高効率な冷却技術が注目されています。
  • 防火設備: 火災発生時に延焼を防ぎ、機器への被害を最小限に抑えるための防火区画、火災検知システム、消火システム(水ではなく窒素ガスなどが使われることが多い)。
  • セキュリティ設備: 物理的な入退室管理システム(生体認証、カード認証など)、監視カメラ、そしてサイバー攻撃からシステムを守るためのセキュリティソフトウェアやハードウェア。

データセンターの種類

データセンターは、その規模、目的、所有形態などによっていくつかの種類に分類されます。

  • 企業所有のデータセンター(オンプレミスデータセンター): 特定の企業が自社のデータとシステムを運用するために所有・管理するデータセンター。
  • コロケーションデータセンター(ハウジング): データセンター事業者が提供するスペース(ラック単位、ケージ単位など)を借り、そこに自社のサーバーなどのIT機器を設置する形態。電源や空調などのインフラはデータセンター事業者が提供します。
  • クラウドデータセンター: Amazon Web Services (AWS) や Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) などのクラウドサービスプロバイダーが運用する大規模なデータセンター。利用者は物理的な機器を所有せず、インターネット経由で仮想的なITリソース(サーバー、ストレージ、ネットワークなど)を利用します。
  • モジュラー型データセンター/コンテナ型データセンター: 必要に応じて拡張可能なモジュール構造や、コンテナにIT機器を収容した移動可能なデータセンター。

 データセンターは、私たちが日常的に利用するインターネットサービスやアプリケーションの裏側で、目には見えない形でその安定稼働を支える、現代社会の重要なインフラとなっています。

データセンターの特需が、AI進化と需要増大で加速中です。冷却液や高機能樹脂など先端素材が不可欠で、日本の化学・素材各社に商機が拡大しています。環境配慮と省エネ技術が今後の鍵となります。

どのような製品、素材が特需となっているのか

 データセンターの「特需」を支えている素材や製品は多岐にわたりますが、特にAIの進化に伴う高性能化・高効率化のニーズから、以下の分野で需要が急増しています。

1. 冷却技術関連

AIチップの発熱量増大が著しいため、従来の空冷や水冷では対応しきれないケースが増え、より効率的な冷却技術が求められています。

  • 液浸冷却液: サーバーを直接液体に浸して冷却する技術で、発熱量の高いAIサーバーの冷却に有効です。フッ素系液体などが使われ、熱的・化学的安定性、低粘度、速乾性などが求められます。ダイキン工業の「DAISAVE」などが代表的です。
  • コールドプレート用フッ素樹脂: 水冷コールドプレートの採用が増える中、水分からの電子機器保護、高密度実装に対応するための水バリア性、柔軟性、耐屈曲性に優れたフッ素樹脂が活用されています。
  • 熱伝導性材料(TIM: Thermal Interface Material): 半導体と冷却装置の間で効率的に熱を伝えるための材料。アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、グラファイトシートなどが使われ、高い熱伝導率が求められます。

2. 通信・電力関連

 データセンター内の高速通信や電力供給の安定化・効率化に貢献する素材や製品です。

  • 光ファイバー・光通信部品: データセンター内の膨大なデータ通信を高速かつ大容量で行うために不可欠です。光ファイバーそのものや、光トランシーバー(高速光モジュール)、光フィルター、光パワーモニターなどの関連部品が特需となっています。フジクラ、古河電気工業、住友電気工業などが関連企業です。
  • 高周波特性・難燃性に優れたフッ素樹脂: 高速通信ケーブルや電線の被覆材として、信号の劣化を抑え、かつ安全性を確保するための素材として使用されます。
  • 低誘電率材料: プリント基板やケーブルなどで、信号の減衰を抑え、高速伝送を可能にするために重要です。特殊なエポキシ系樹脂やシクロオレフィンポリマー(COP)などが用いられます。
  • 電力設備関連部品: データセンターの消費電力増大に対応するため、安定した電力供給を支える変圧器、配電盤、ケーブルなどの需要が高まっています。特に電力ケーブルの被覆材や絶縁材に高性能な素材が求められます。

3. 半導体関連

データセンターの中核をなすAI用半導体の需要増に伴い、関連製品も特需となっています。

  • 半導体製造装置・材料: AIチップ(GPU、HBMなど)の製造に必要な半導体製造装置や、その装置で使用される高純度な化学薬品、フォトレジスト、ターゲット材、CMPスラリーなどの材料が不可欠です。
  • ハードディスクドライブ(HDD): データセンターの大容量データストレージにおいては、コスト効率や省電力性から依然としてHDDの需要が高く、高容量化・高性能化が進んでいます。レゾナックなどが関連企業です。

 これらの素材や製品は、AI技術の発展とデータセンターの建設・増強に欠かせないものであり、日本の化学メーカーや素材メーカーが高い技術力を持つ分野が多く、特需の恩恵を享受しています。同時に、省エネルギー化や環境負荷低減に貢献する素材・技術への需要も高まっています。

データセンター特需では、AIの発熱に対応する液浸冷却液熱伝導材料、高速通信を支える光ファイバー高機能樹脂、さらに半導体関連材料が特に需要を伸ばしています。

なぜ、AIが特にデータセンターの需要を増加させるのか

 AIの増加がデータセンターの需要を爆発的に高めている主な理由は、その圧倒的な計算処理能力とデータ量にあります。

  1. 膨大な計算能力の要求:
    • AIモデルの学習(トレーニング): 特にChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIなどの生成AIは、膨大な量のデータ(テキスト、画像、音声など)を学習することで、その能力を獲得します。この学習プロセスには、想像を絶するほどの計算リソースと時間がかかります。数千から数万個の高性能GPU(Graphics Processing Unit)が並列で稼働するような、極めて高い計算能力を持つサーバー群がデータセンターに必要となります。
    • AIモデルの推論(インファレンス): 学習済みのAIモデルを利用して、新しいデータに対して予測や生成を行う「推論」処理も、大量のデータが入力されるほど多くの計算リソースを必要とします。リアルタイムでの応答が求められるAIアシスタントや自動運転などでは、低遅延で高速な推論が不可欠です。
  2. 大量のデータ保存と処理:
    • AIの学習には、テラバイト、ペタバイト、さらにはエクサバイト規模のデータが必要です。これらの膨大なデータを効率的に保存し、AIモデルが迅速にアクセスできるストレージシステムがデータセンターには求められます。
    • データの前処理や後処理、結果の保存など、データライフサイクル全体で大量のデータが生成・移動するため、高性能なネットワークとストレージが不可欠です。
  3. 発熱量の増大:
    • AI処理に特化したGPUは、従来のCPUと比較して格段に多くの熱を発生します。この高発熱は、データセンター内の温度上昇を引き起こし、機器の故障リスクを高めます。そのため、効率的な冷却システム(液浸冷却など)が必須となり、それがデータセンターの設計や設備をより複雑かつ大規模にしています。
  4. 電力消費の急増:
    • AIサーバー群の稼働と、それに伴う冷却システムの電力消費は莫大です。AIの普及は、データセンター全体の電力消費量を劇的に押し上げており、一部の試算では、数年でデータセンターの電力消費量が倍増し、一国の総電力消費量に匹敵する規模になるとも言われています。このため、データセンターは大規模な電力インフラを必要とし、電力会社との連携も重要になっています。

AIの増加は、単にサーバーの数を増やすだけでなく、従来とは比較にならないほどの高密度な計算能力、膨大なデータ処理能力、そしてそれらを支えるための電力と冷却インフラを、データセンターに求めるようになっています。

今後必要となる技術、素材は何か

 データセンターの進化は著しく、特にAIの台頭に伴う計算負荷と発熱量の増大、そして環境規制の強化が、新たな技術と素材の開発を強く要求しています。今後特に重要となるのは、以下の分野です。

1. 超高効率冷却技術と関連素材

現在の空冷や一般的な水冷では対応しきれない発熱量に対応するため、以下の技術とそのための素材が不可欠になります。

  • 液浸冷却(Liquid Immersion Cooling)の進化:
    • 高性能な絶縁性冷却液: 現在使用されているフッ素系液体に加え、さらに冷却効率が高く、環境負荷の低い(例えばPFASフリーなど)新素材の開発が求められます。また、沸点や粘度など、システム全体の効率に影響を与える特性の最適化も進むでしょう。
    • 冷却液対応の電子部品・パッケージング素材: 冷却液に浸されるサーバーや電子部品は、液に対する耐久性や適合性が求められます。液体の浸透を防ぐコーティング技術や、液中で安定稼働する新しいパッケージング素材が必要になります。
    • 高効率な熱交換器・ポンプ: 冷却液の循環・放熱システムをより効率化するための、コンパクトで高性能な熱交換器や、低電力で動作するポンプ技術が重要になります。
  • コールドプレート冷却のさらなる進化:
    • 高熱伝導性材料: CPUやGPUといった発熱源に直接接触させるコールドプレートには、さらに高い熱伝導率を持つ金属や複合材料が求められます。
    • 高耐久性・高気密性の配管材: 冷却液を安全に、かつ効率的に循環させるための、耐腐食性、耐熱性、柔軟性に優れた配管材が重要です。

2. 光電融合技術と関連素材

データセンター内の通信において、現在の電気信号による伝送では発熱や信号遅延、消費電力の増大が限界に近づいています。これを解決する「ゲームチェンジャー」として光電融合技術が注目されています。

  • 光電融合チップ: 半導体チップ内で電気信号と光信号の変換を行うことで、信号伝送の消費電力を劇的に削減し、高速化・大容量化を実現します。これには、以下の素材・技術が重要です。
    • シリコンフォトニクス: シリコンをベースに光回路を集積する技術で、低コストで集積度を高められる可能性があります。
    • 化合物半導体(GaN、InPなど): 光の生成・検出効率に優れ、高速な光通信を実現するための素材として重要です。
    • 超低損失な光導波路素材: チップ内や基板上で光を伝送する際の損失を極限まで抑える素材が求められます。
    • 高効率な光変調器・検出器: 電気信号と光信号の変換効率を高めるためのデバイス技術とそのための新素材。
  • Co-Packaged Optics (CPO): スイッチASICなどと光モジュールを同じパッケージに搭載する技術で、配線長を短縮し、電力効率と性能を向上させます。これには、微細な光部品の製造技術や、高密度実装を可能にするパッケージング素材が求められます。

3. 次世代パワー半導体

データセンター全体の電力効率を向上させるために、電力変換や制御に使用されるパワー半導体の進化が不可欠です。

  • SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム): シリコンよりも高効率で、高耐圧・高周波動作が可能な次世代パワー半導体素材。データセンターの電源装置やサーバーの電源回路に採用が進むことで、大幅な省エネルギー化が期待されます。
  • 酸化ガリウム (Ga2O3): さらなる低損失化と高耐圧化が期待される究極のパワー半導体材料として研究が進められています。

4. 高機能基板材料とパッケージング技術

高性能なAIチップの性能を最大限に引き出し、安定稼働させるための基盤技術です。

  • 高多層基板・低誘電CCL(銅張積層板): 信号の減衰を抑え、高速伝送を可能にするための、誘電損失の少ない高性能な基板材料が求められます。
  • 高度なパッケージング技術: HBM(高帯域幅メモリ)などの積層チップや、CPOのような光電融合デバイスを効率的に接続・保護するための、微細配線技術、熱対策技術、信頼性の高い封止材料などが必要です。

今後のデータセンターでは、AIの高性能化に伴う発熱抑制(液浸冷却、高効率熱伝導材)消費電力削減(光電融合、次世代パワー半導体)が最も重要な課題となります。

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