ステランティスのディーゼル車復活 なぜ復活させるのか?他社はどう対応するのか?

この記事で分かること

  • なぜディーゼル車を復活させるのか:EV販売の急減速と巨額損失を受け、現実路線へ転換したためです。中国勢の安価なEVに対抗しつつ、長距離・商用利用などディーゼルの根強い需要に応える狙いがあります。規制緩和やバイオ燃料活用も背景にあります。
  • なぜ排ガス規制を緩和したのか:自動車業界の反発と経済的現実を考慮した結果です。2035年の新車販売EV化を控え、エンジン車への追加投資を抑えてEV開発へ資金を集中させるべきというメーカー側の主張が認められました。
  • 他社はどう対応するのか:VWやアウディ、BMWなどもディーゼル車から撤退せず「継続・洗練」する構えです。EV不況を受け、長距離需要の強いセダンやSUVに最新ディーゼルを投入し、PHEVと併せて「現実的な選択肢」として維持しています。

ステランティスのディーゼル車復活

 ステランティスが欧州市場でディーゼル車を「復活」させていると報道されています。

https://jp.reuters.com/markets/global-markets/DWI43GN4YBJ7LIKNZ4ZIE2ORLE-2026-02-15/

 かつて「2030年までに欧州での販売を100%電気自動車(EV)にする」と宣言していた同社が、なぜ今ディーゼル回帰には、理想(カーボンニュートラル)と現実(市場の冷え込み)のギャップが大きく関係しています。

なぜディーゼル車を復活させるのか

 ステランティスが欧州でディーゼル車を復活(または強化)させている理由は、「EV一本足打法の限界」に直面し、現実的な収益と顧客ニーズを優先する方針に転換したためです。


1. EV販売の急減速と「220億ユーロ」の打撃

 ステランティスは、かつて「2030年までに欧州販売の100%をEVにする」という野心的な目標を掲げていました。

 しかし、2025年後半から欧州全域でEVの需要が予想を大きく下回り、過剰な投資や在庫によって約220億ユーロ(約3.5兆円)もの巨額の特別損失を計上する事態となりました。

 この経営危機を受け、「売れないEVよりも、今確実に売れる車を作る」という現実路線への修正を余儀なくされたのです。

2. 中国メーカーとの「差別化」

 現在、欧州市場には安価で高性能な中国製EVが押し寄せています。

  • 中国勢: EVやプラグインハイブリッド(PHEV)に特化し、価格競争力が非常に高い。
  • ステランティス: 中国勢が持たない「高効率なディーゼルエンジン技術」をあえて活用することで、競合が手を出さない市場シェアを確保し、差別化を図っています。

3. 長距離・商用ユーザーからの「切実な需要」

 EVには、長距離走行時の電費悪化や充電インフラの不足、積載時の航続距離低下といった課題が依然として残っています。

  • 商用車・バン: 荷物を積んで長距離を走る物流業者にとって、ディーゼルは今も「最もコストパフォーマンスが高い選択肢」です。
  • 地方ユーザー: 充電環境が整っていない地域では、ディーゼル車の利便性が圧倒的に支持されています。

4. 規制の緩和と「バイオ燃料(HVO)」の活用

 EUの排ガス規制(ユーロ7)が当初の案よりも緩和されたこと、また2035年の内燃機関禁止方針に「合成燃料」などの例外が認められる可能性が出てきたことも追い風です。

 ステランティスは「HVO(水素化植物油)」という、既存のディーゼルエンジンでそのまま使える次世代バイオ燃料のプロジェクト(Auroraプロジェクト)を推進しており、「ディーゼル=汚い」というイメージを塗り替えつつ、脱炭素を進める道を模索しています。


 現在の彼らのスタンスは、「Multi-Energy(マルチエネルギー)戦略と呼ばれます。「EVだけ」と決めつけるのではなく、市場の要求に合わせてEV、ハイブリッド、そしてディーゼルを柔軟に作り分けることで、生き残りを図ろうとしています。

EV販売の急減速と巨額損失を受け、現実路線へ転換したためです。中国勢の安価なEVに対抗しつつ、長距離・商用利用などディーゼルの根強い需要に応える狙いがあります。規制緩和やバイオ燃料活用も背景にあります。

EUの排ガス規制が緩和されたのはなぜか

 EUの次期排ガス規制(ユーロ7)が当初の厳しい案から大幅に緩和されたのは、欧州の自動車産業を守り、EVシフトへの投資を最優先させるためです。


1. 「二重投資」の回避(メーカーの悲鳴)

 当初の案では、内燃機関(エンジン車)の排ガスを極限まで減らすための非常に高価な装置の搭載が義務付けられる予定でした。

  • メーカーの主張: 「2035年にエンジン車販売が禁止される(EVへ移行する)のに、今さら古い技術(エンジン)の改良に巨額の資金を投じるのは無駄だ。その分をEV開発に回すべきだ」
  • 結果: この主張が認められ、乗用車の排ガス基準は現行(ユーロ6)のまま据え置かれました。

2. 「安価な小型車」の消滅を防ぐため

 規制が厳しくなると、排ガス浄化装置のコストが跳ね上がります。

  • 懸念: 特に安価な小型車(プジョー208やフィアット500など)は、コスト増を価格に転嫁すると消費者が買えなくなってしまいます。
  • 政治的判断: 欧州経済への影響や、市民の移動手段を奪うことへの反発を恐れたフランスやイタリアなどの加盟国が「緩和」を強く求めました。

3. 地政学的・経済的な不安定さ

  • エネルギー危機とインフレ: ロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰や物価高により、自動車業界も消費者も余裕がなくなりました。
  • 中国勢の台頭: 安価な中国製EVが欧州に流入する中、自国メーカーにさらなる規制コストを課すことは「産業の自殺行為」であるという危機感が共有されました。

緩和された結果

 「ユーロ7」は全く無意味になったわけではなく、ターゲットを「マフラー以外」に変えました。

項目ユーロ7での決定事項
排ガス(NOx等)乗用車は現行(ユーロ6)を維持
ブレーキ・タイヤ新設。 摩耗による粉塵(マイクロプラスチック等)を規制(EVも対象)。
バッテリー寿命新設。 EVのバッテリーが長く使えるよう最低基準を設定。

 「排ガス(空気の汚れ)の追求はほどほどにして、EV化に向けた競争力と、EVでも発生する粉塵対策に注力しよう」という現実的な妥協がなされたのです。

自動車業界の反発と経済的現実を考慮した結果です。2035年の新車販売EV化を控え、エンジン車への追加投資を抑えてEV開発へ資金を集中させるべきというメーカー側の主張が認められました。物価高や中国勢との競争激化を受け、自国産業の保護と安価な移動手段の維持を優先した形です。

他社の対応はどうか

 ステランティスの「ディーゼル復活」に対し、他の欧州メーカーは「復活」というよりは「しぶとく継続・洗練」させる方向で動いています。

 多くのメーカーが「2030年までに完全EV化」という目標を掲げていましたが、足元のEV不況を受けて、ステランティス同様に現実的な多角化戦略を取っています。


1. ドイツ勢(VW、アウディ、BMW、ベンツ)

 彼らは「復活」させるまでもなく、一貫してディーゼルの改良を続けてきました。

  • フォルクスワーゲン (VW) / アウディ:
    • 最新動向: 2026年モデルの新型アウディ A6に、最新のV6 TDI(ディーゼル)を投入するなど、むしろプレミアムセグメントでのディーゼル回帰が鮮明です。
    • 戦略: 2026年が「最後の内燃機関開発」と公言しつつも、そこから2040年頃までは販売を続ける構えです。
  • BMW / メルセデス・ベンツ:
    • 以前から「技術的な中立性」を掲げ、ディーゼル、ガソリン、PHEV、EVを併売。長距離走行が多い法人車両(フリート)向けにディーゼルの需要が堅調なため、開発の手を緩めていません。

2. ルノー (Renault)

  • 戦略: ルノーは小型EV(R5など)に注力する一方で、商用車やSUVには依然としてディーゼルをラインナップしています。
  • 特徴: ステランティスが既存モデルにディーゼルを「後付け」で復活させたのに対し、ルノーは商用車ブランドを中心に着実に維持する戦略です。

3. 日本メーカー(欧州市場において)

  • マツダ: 欧州でも直列6気筒ディーゼルなどの独自技術が一定の評価を得ており、「内燃機関の効率化」という独自のポジションを維持しています。
  • トヨタ: ハイブリッドが圧倒的に強いため、乗用ディーゼルからはほぼ撤退していますが、商用車(ハイラックス等)では継続しています。

他社とステランティスの違い

 他社が「段階的な縮小」を緩めているのに対し、ステランティスは一度止めた(または止める予定だった)車種にディーゼルを「再投入」している点が異例です。

メーカーディーゼルに対するスタンス(2026年時点)
ステランティス「積極的復活」:EV不況を埋めるため、一度外したディーゼルを急ぎ再投入。
VW / アウディ「高級化・洗練」:最新のV6エンジンなどで、長距離の快適性を求める層を維持。
BMW / ベンツ「多角化継続」:全パワートレインを揃え、顧客に選ばせるスタイルを崩さない。
ルノー「実用車維持」:小型車はEV、大型・商用はディーゼルと割り切る。

 欧州メーカー全体が「EV一本化はまだ早すぎた」という共通認識に至り、各社が「ディーゼルという最強のサブプラン」を改めて使い倒そうとしている状況です。

VWやアウディ、BMWなどのドイツ勢は、撤退せず「継続・洗練」する構えです。EV不況を受け、長距離需要の強いセダンやSUVに最新ディーゼルを投入し、PHEVと併せて「現実的な選択肢」として維持しています。

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