この記事で分かること
- 非晶質合金とは:非晶質合金(アモルファス)は原子が不規則に並ぶ金属材料で、変圧器の鉄損(エネルギーロス)を従来比で約8割削減可能です。世界的な脱炭素化の流れを受け、電力インフラの省エネ化に不可欠な素材となっています。
- なぜエネルギーロスが小さいのか:アモルファスは原子配列が不規則なため、磁力の向きを変える際の抵抗(ヒステリシス損)が極めて小さくなります。また、高抵抗かつ極薄な構造が「渦電流」による発熱を抑えるため、劇的な省エネを実現しています。
- なぜ鉄、ホウ素、ケイ素が使用されるのか:鉄で強力な磁性を確保し、ホウ素で原子の整列を妨げ「アモルファス化」を促進。ケイ素で電気抵抗と耐熱性を高めています。この3元素の絶妙な配合が、低損失で安定した次世代の変圧器材料を実現する鍵です。
プロテリアルの変圧器向け非晶質合金の供給強化
プロテリアルは、インドで変圧器向け非晶質合金(アモルファス合金)の生産能力を約5割増強するため、約120億円を投じて新工場を建設することを発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC251EZ0V20C26A2000000/
電力損失を抑える省エネ材料の需要拡大に対応し、供給体制を強化する狙いがあると思われます。
変圧器向け非晶質合金とは何か
変圧器に使用される非晶質合金(アモルファス合金)は、鉄、ホウ素、ケイ素などを主成分とする次世代の軟磁性材料です。
通常の金属(結晶質)は原子が規則正しく並んでいますが、アモルファスは原子がバラバラに配置された不規則な構造を持っています。この特殊な構造が、電力インフラの効率化に劇的な効果をもたらします。
1. 主な特徴とメリット
- 低待機電力(無負荷損の低減): 変圧器は電気を使っていない時でも「鉄損」というエネルギーロスが発生します。アモルファス合金は、従来のケイ素鋼板に比べてこのロスを約70〜80%削減できます。
- 優れた磁気特性: 原子構造が不規則であるため、磁力線の方向を変える際の抵抗(保磁力)が非常に小さく、スムーズに磁化します。
- 薄さと強度: 製造時に液体金属を急冷して作るため、厚さは約0.025mmと非常に薄く、高硬度であるのが特徴です。
2. なぜ今、インドなどの海外で需要があるのか
脱炭素社会の実現に向け、世界中で送電網の効率化が求められています。
特にインドのように電力需要が急増している地域では、送電ロスを抑えることが国家レベルの省エネに直結するため、プロテリアル(旧日立金属)が持つこの技術に大きな期待が寄せられています。

非晶質合金(アモルファス)は原子が不規則に並ぶ金属材料で、変圧器の鉄損(エネルギーロス)を従来比で約8割削減可能です。世界的な脱炭素化の流れを受け、電力インフラの省エネ化に不可欠な素材となっています。
なぜアモルファス合金のエネルギーロスが少ないのか
アモルファス合金のエネルギーロス(鉄損)が少ない最大の理由は、その「デタラメな原子配列」にあります。
一般的な金属(電磁鋼板など)は原子が規則正しく並んだ「結晶構造」を持っていますが、アモルファスは液体状態から急冷して固めるため、原子がバラバラに並んだ「非晶質構造」になります。
1. 磁区の動きがスムーズ(ヒステリシス損の低減)
変圧器の中では、電流の向きが変わるたびに材料内部の「磁石の向き(磁区)」が激しく入れ替わります。
- 結晶材料: 原子が整列しているため、磁石の向きを変えようとすると「結晶磁気異方性」という壁(抵抗)にぶつかります。
- アモルファス: 原子が不規則なので、特定の「向きにくさ」がありません。そのため、少ないエネルギーでスッと磁石の向きを変えられます。
2. 電気抵抗が高く、渦電流を抑える(渦電流損の低減)
金属に磁界がかかると、内部に「渦電流」という余計な電流が流れ、これが熱となって逃げてしまいます。
- アモルファス合金は原子の並びが乱れているため、電子が通りにくく、材料自体の電気抵抗が結晶材料より高くなります。
- さらに、製造工程上、厚さが約0.025mm(髪の毛の数分の一)と極めて薄いため、物理的にも渦電流が広がりにくい構造になっています。

アモルファスは原子配列が不規則なため、磁力の向きを変える際の抵抗(ヒステリシス損)が極めて小さくなります。また、高抵抗で極薄な特性が「渦電流」による発熱を抑えるため、劇的な省エネを実現しています。
変圧器向け非晶質合金の市場動向はどのようなものか
1. 市場動向とシェア
現在、世界のアモルファス合金市場は、脱炭素化に伴う「電力網の効率化」を背景に急速な拡大期にあります。
- 市場シェア: プロテリアル(旧日立金属)は、米国子会社の Metglas, Inc. を通じて世界トップクラスのシェアを誇ります。中国の 青島雲路(Qingdao Yunlu) などの競合が存在しますが、プロテリアルは特許技術と品質、材料から鉄芯までの一貫生産体制で優位性を保っています。
- 需要の急増: インドや北米を中心に、配電用変圧器の入札条件に「アモルファス鉄芯の指定」や「エネルギー損失規制」が盛り込まれるケースが増えています。インドでは、送電ロス削減が国家課題となっており、今回の120億円投資もこの旺盛な内需に応えるための戦略的判断です。
2. プロテリアルの特徴と強み
プ ロテリアルの最大の特徴は、「世界に先駆けた開発力」と「圧倒的な材料特性」にあります。
- ブランド力「Metglas®」: 1970年代から続く研究開発の歴史があり、2003年に米国Metglas社を買収して以来、この分野のグローバルスタンダードを築いてきました。
- 次世代材料「MaDC-A®」: 2020年に開発された新材料で、従来のアモルファス合金よりもさらに磁束密度を高め、変圧器の小型化とさらなる低損失化を両立させています。
- 3拠点体制: 日本、米国、そして今回建設するインドの3拠点で生産することで、地産地消の供給網を構築し、地政学リスクを抑えつつ世界中に安定供給できる体制を整えています。

世界のアモルファス合金市場を牽引するプロテリアルは、独自ブランド「Metglas®」で高いシェアを保持しています。インド等の電力需要地での地産地消を強めつつ、次世代材「MaDC-A」でさらなる高効率・小型化を追求しています。
アモルファス合金はどのように製造されるのか
アモルファス合金は、独自の「単ロール急冷法(液体急冷法)」というプロセスで製造されます。通常の金属のようにゆっくり冷やすと原子が規則正しく並んで「結晶」になってしまうため、一気に凍結させるのがポイントです。
製造の仕組み
- 溶解: 鉄、ホウ素、ケイ素などの原料を約1,300℃以上の高温で溶かし、ドロドロの液体(湯道)にします。
- 噴射: 精密なノズルから、高速回転する銅製の冷却ロール(ドラム)の表面に、この溶融金属を薄く吹き付けます。
- 超急冷: ロールに触れた瞬間、金属は1秒間に約100万℃という驚異的なスピードで冷却されます。
- 固化: 原子が整列する暇もなく、液体のバラバラな状態のまま固まり、厚さ約0.025mmの極薄リボン状(箔)として連続的に巻き取られます。
製造上の技術的難所
- 均一な薄さ: 高速回転するロールに対して、ミクロン単位でノズルの隙間を制御し、ムラのない薄いリボンを作る高度な制御技術が必要です。
- ロールの材質: 常に高温の金属に触れながら熱を奪い続けるため、冷却ロールには非常に高い熱伝導性と耐久性が求められます。

1,300℃以上の溶融金属を高速回転する冷却ロールへ噴射し、1秒間に100万℃の速さで超急冷します。原子が整列する前に固めることで、アモルファス特有の不規則な構造を持つ極薄リボンを連続製造します。
なぜ鉄、ホウ素、ケイ素が使用されるのか
アモルファス合金(非晶質合金)に鉄(Fe)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)が選ばれるのは、磁石としての性能と、液体から一瞬で固めるための「固まりやすさ」を両立させるためです。
1. 鉄 (Fe):磁力の主役
鉄は、磁場に反応して磁力を発生させる「強磁性」を持つ中心的な元素です。
- 役割: 変圧器の芯(鉄芯)として、電気エネルギーを磁気に変えて効率よく伝える役割を担います。鉄の含有量を増やすほど磁束密度(磁力の強さ)が高まります。
2. ホウ素 (B):「ガラス化」の促進剤
ホウ素は、金属を「アモルファス(ガラス状)」にするために不可欠な添加物です。
- 役割: 鉄の原子は本来、冷えるとすぐに規則正しく並ぼうとします(結晶化)。しかし、サイズの異なるホウ素が混ざることで、原子が整列するのを物理的に邪魔し、バラバラな状態のまま固まるのを助けます。
3. ケイ素 (Si):熱への強さと電気抵抗の向上
ケイ素は、材料としての安定性を高める役割があります。
- 役割: 電気抵抗アップ: 鉄にケイ素が混ざることで電気抵抗が上がり、エネルギーロスの一因である「渦電流」をさらに抑えます。
- 耐熱性: 変圧器は稼働中に熱を持ちますが、ケイ素を加えることで高温下でも磁気特性が劣化しにくくなります。
金属の「カクテル」のような配合
これら3つを絶妙な比率で混ぜることで、「磁力が強く」「電気が通りにくく」「一瞬で固まる」という、変圧器に理想的な素材が完成します。プロテリアルなどのメーカーは、この配合比率(組成)に独自のノウハウを持っています。

鉄で強力な磁性を確保し、ホウ素で原子の整列を妨げ「アモルファス化」を促進。ケイ素で電気抵抗と耐熱性を高めています。この3元素の絶妙な配合が、低損失で安定した次世代の変圧器材料を実現する鍵です。

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