この記事で分かること
- 製造している半導体材料:主にリソグラフィー工程向けの反射防止コーティング材(ARC®)やEUV下層膜を製造しています。
- 反射防止コーティング材とは:主に精密有機合成で設計された有機高分子化合物を溶剤に溶かした液状の材料です。ウェハに塗布し、露光光の反射を防ぐとともに、基板の段差を平坦化する機能を持っています。
- EUV下膜層:最先端EUVリソグラフィーで、フォトレジストの下に塗布される薄膜です。基板からの光の反射を防ぐ(BARC機能)とともに、ウェハの平坦化やレジストの密着性を高め、極めて微細な回路パターンの精度を確保する役割を果たします。
日産化学の半導体材料事業の好調
半導体材料事業の好調で、日産化学は業績予想を上回る純利益の上振れを達成しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB075890X01C25A1000000/
日産化学は、半導体市場の技術革新と拡大の波を捉え、独自の精密有機合成や微粒子制御技術を活かした高機能材料で収益を伸ばしています。
どんな半導体材料を製造しているのか
日産化学が製造している半導体材料は、主にリソグラフィー工程を支える高機能な材料と、後工程(パッケージング)向けの特殊材料に分類されます。
特に、同社のコア技術である「精密有機合成」と「機能性高分子設計」を活かした以下の製品群が稼ぎ頭となっています。
1. リソグラフィー工程向け材料(前工程)
半導体の回路パターンをウェハに転写するリソグラフィー工程において、微細化・高集積化に不可欠な材料を提供しています。
| 製品カテゴリー | 具体的な製品/技術 | 用途と特長 |
| 反射防止コーティング材 | ARC® Coating (Anti-Reflective Coating) | フォトレジストの下に塗布し、露光時に発生する光の反射を防ぎ、パターンの歪みやばらつきを解決します。i線用から最先端のArF液浸用まで幅広い製品を揃え、アジアでトップシェアを確保しています。 |
| EUV下層膜 | EUV(極紫外線)用材料 | 最先端のEUVリソグラフィープロセスで使用されるレジストの下層膜です。先端市場の拡大に伴い需要が伸びています。 |
| 多層プロセス用材料 | シリコンハードマスク、スピンオンカーボン (SOC) | 微細なパターンを形成するために複数の層を重ねる多層レジストプロセスで使用される材料です。ARCやEUV下層膜とセットで提案されています。 |
2. 後工程(パッケージング)向け材料
チップの組み立てやパッケージングの工程(後工程)で使用される材料も、新たな収益源として成長しています。
| 製品カテゴリー | 具体的な製品/技術 | 用途と特長 |
| 仮貼り合せ材 | 液状の仮貼り材料 | HBM(広帯域メモリー)などの薄化プロセスにおいて、チップを一時的にキャリア基板に接着するために使用されます。競合のテープ製品に比べ、様々な機能を持たせられるのが特長です。 |
| 異物除去膜 | (次世代パッケージ向け) | プロセス上で発生した異物を膜内に取り込み、クリーニング時に除去することで、残渣を抑制する目的で開発が進められている材料です。 |
日産化学は、これらの高付加価値な材料を、世界中の半導体メーカーやファウンドリ(受託製造会社)に供給することで、半導体市場の成長を収益に繋げています。

日産化学は主にリソグラフィー工程向けの反射防止コーティング材(ARC®)やEUV下層膜を製造しています。これらは半導体の微細化・高集積化に不可欠な高機能材料で、アジアトップシェアを占めるなど、同社の稼ぎ頭です。また、仮貼り合せ材などの後工程材料も手掛けています。
反射防止コーティング材はどんな素材なのか
日産化学の製造する半導体用反射防止コーティング材(ARC®)は、主に有機化合物(高分子材料)を主成分としています。
これは、一般的なレンズやディスプレイに使われる無機物(フッ化マグネシウムや酸化チタンなど)を主成分とする反射防止膜とは異なり、半導体リソグラフィープロセスに特化した材料です。
ARC®の主な素材と特性
- 有機高分子化合物:
- ARC®は、フォトレジスト(感光性樹脂)と同じく、精密有機合成技術を用いて作られた高分子を主成分としています。
- 日産化学は、トリアジン系ポリマーなどの独自の高分子や化合物を配合していると考えられ、これによって材料の屈折率や吸光度を精密に制御しています。
- 塗布液の形:
- この高分子材料を溶剤に溶かした液状のコーティング材として提供されます。
- 半導体ウェハ上にスピンコート(回転塗布)という技術で薄く均一に塗布され、乾燥・熱処理を経て反射防止膜となります。
- 機能性:
- 反射防止(AR):基板(シリコンなど)からの光の乱反射を防ぎます。
- 段差平坦化:ウェハ上の微細な段差を埋め、平坦化する役割も持ちます。
- 高い吸光度・制御された屈折率:露光光の波長(i線、KrF、ArF、EUVなど)に合わせて、最も効率良く光を吸収し、反射を打ち消すように材料の組成が設計されています。
これらの精密有機合成技術と、それに伴うナノレベルでの材料設計が、日産化学のARC®が高いシェアを持つ強みとなっています。

半導体用ARC®は、主に精密有機合成で設計された有機高分子化合物を溶剤に溶かした液状の材料です。ウェハに塗布し、露光光の反射を防ぐとともに、基板の段差を平坦化する機能を持っています。
EUV下層膜とは何か
EUV下層膜(BL: Bottom Layer)とは、最先端のEUV(極紫外線)リソグラフィーにおいて、ウェハ上のフォトレジストの下に塗布される薄膜のことです。
従来の光リソグラフィーにおける反射防止コーティング材(BARC: Bottom Anti-Reflective Coating)の役割に加え、極めて微細なパターン形成を成功させるために、より高度で複雑な役割を担います。
EUV下層膜の主な役割
- 反射防止効果(BARC機能):
- 露光光(EUV光)が基板表面で反射し、フォトレジスト内で干渉縞を作ったり、散乱したりするのを防ぎます。これにより、設計通りの正確なパターンをレジストに形成できます。
- 平坦化効果:
- ウェハ表面の微細な段差を埋めて平坦化し、その上に塗布されるレジストを均一な厚さに保ちます。これは、微細な回路を正確に形成する上で極めて重要です。
- レジスト密着性・形状調整:
- 上のフォトレジスト層との密着性を高め、露光・現像後のパターンが崩れるのを防ぎます。
- レジスト層と下層膜の界面の特性を調整することで、ラインエッジラフネス(LER: 線端のガタつき)を低減し、パターンの精度向上に貢献します。
- エッチングマスク機能(多層プロセス時):
- EUVプロセスでは、非常に薄いレジストしか使えないため、その下の層を中間膜やハードマスクとして利用することが多くあります。下層膜はこれらの層と連携し、エッチングの際に下の基板を保護するマスクとしての役割も果たします。
日産化学は、このEUV下層膜の分野で、塗布プロセスで膜厚1ナノメートル級の薄膜形成を可能にする新規材料を開発するなど、最先端の技術を提供しており、この分野で高いシェアを誇っています。

EUV下層膜は、最先端EUVリソグラフィーで、フォトレジストの下に塗布される薄膜です。基板からの光の反射を防ぐ(BARC機能)とともに、ウェハの平坦化やレジストの密着性を高め、極めて微細な回路パターンの精度を確保する役割を果たします。
なぜウエハ表面を平坦化できるのか
EUV下層膜(ARC®なども含む塗布型下層膜)が基板の凹凸を平坦化できるのは、主にその塗布方法であるスピンコートの流体力学的な特性によるものです。れは、液体の特性と回転速度によって自動的に平坦な膜を形成するメカニズムです。
1. スピンコートによる平坦化の原理
- 液体の充填と流動:
- 塗布液を下層膜を形成したいウェハ(基板)の中央に滴下します。液は表面張力や遠心力によって基板表面を覆います。
- ウェハには微細な段差がありますが、初期段階では粘度の低い液体であるため、重力と表面張力の効果で、液体は凹部にもスムーズに流れ込み、段差を埋めます。
- 遠心力による排出:
- ウェハを毎分数千回転という高速で回転させます。これにより強力な遠心力が発生します。
- 遠心力は、ウェハ表面にある液体を半径方向(外側)へ押し出し、余分な液体を吹き飛ばします。
- 均一な膜厚への収束:
- 遠心力と液体の粘性、溶媒の蒸発速度などのバランスにより、最終的に基板の広い範囲で膜厚が一定になるように収束します。
- 凹部の上では液体が厚く、凸部の上では液体が薄くなろうとしますが、強い遠心力と流動性によって、この厚さの差が解消され、最終的に膜の表面が極めて平坦になります。
2. 塗布液の設計の工夫
日産化学などの材料メーカーは、このスピンコートの平坦化効果を最大限に引き出すため、下層膜の塗布液を設計しています。
- 適切な粘度: 液体が流れ込みやすく、かつ遠心力で均一に広がるように、高分子の分子量や溶剤の種類を調整し、最適な粘度を設定しています。
- 低分子量化合物の配合: 下層膜のベースポリマーに分子量の低い化合物をブレンドすることで、流動性を高め、段差の埋め込み特性を向上させる工夫も行われています。
このように、スピンコート法は、ウェハ表面の物理的な凹凸に依存せず、液体の流体力学的特性を利用して表面を「液体の高さ」で平らにすることができるため、平坦化に非常に有効なのです。

平坦化は、塗布液を高速回転させるスピンコートの特性によります。遠心力で余分な液がウェハ外に排出され、液体の流体力学的特性により、ウェハ表面の凹凸に関わらず均一な膜厚に収束するためです。
仮貼り合せ材が必要な理由は何か
日産化学が製造している仮貼り合せ材(Temporary Bonding Material, TBM)は、主に半導体の薄型化(裏面研削)や積層化(3Dパッケージング、HBMなど)といった、後工程の高度な製造プロセスにおいて不可欠な材料です。
仮貼り合せ材が必要な理由は、製造中の極めて薄いウェハ(チップ)を保護し、安定して加工するためです。
1. ウェハの薄型化と保護
- 目的: 半導体チップを縦に積み重ねる積層技術(3D-IC、HBMなど)では、チップ間の距離を縮めるために、ウェハやチップを極限まで薄くする必要があります。
- 課題: シリコンウェハは、薄くすると非常に脆くなり、割れやすく、反りやすくなります。特に数マイクロメートル(μm)の薄さに研削する際、ウェハの自立性が失われ、物理的なストレスに耐えられなくなります。
- 仮貼り合せ材の役割: 割れやすいウェハの裏面を研削・加工する間、厚くて剛性の高い支持基板(キャリア)に一時的に貼り付けるための接着剤の役割を果たします。これにより、薄いウェハを安定した状態で取り扱い、研削やエッチングなどのプロセスを行うことができます。
2. 加工後の剥離(テンポラリ・ボンディングの重要性)
- 課題: 加工が完了したら、保護の役目を終えた支持基板を、ウェハ(チップ)を傷つけずにきれいに剥がす必要があります。
- 仮貼り合せ材の役割: 仮貼り合せ材の最大の特長は、加工中は高い接着力を保ちつつ、特定のトリガー(熱、UV光など)を与えることで、後から簡単に、かつ残留物なく剥離できる点です。
日産化学の液状材料は、特にHBM(広帯域メモリー)の製造など、高い精度と歩留まりが求められる最先端パッケージング技術の進展に不可欠なものとなっています。

仮貼り合せ材は、半導体ウェハの薄型化(裏面研削)や積層化プロセスに必要です。極限まで薄くなり脆くなったウェハを、加工中に支持基板に一時的に固定し、安定して保護するためです。加工後はきれいに剥がせる特性を持ちます。

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