この本や記事で分かること
・メタノールは何に利用されている:化学産業やエネルギー分野で多く理由されている
・どうやって二酸化炭素からの合成を可能にしたのか:合成に利用されている触媒の開発によって
・二酸化炭素の使用は何をもたらすのか:二酸化炭素の固定化、二酸化炭素排出削減による温暖化対策
酸化炭素を原料としたメタノールおよびパラキシレンの合成
三井化学が二酸化炭素を原料としたメタノールおよびパラキシレンの合成に関する実証試験に成功したことを報告しています。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2025/2025_0220/index.htm
二酸化炭素を産業に利用することで、二酸化炭素の固定化、温暖化対策への期待がされています。
メタノールはどのように利用されているのか
メタノール(CH₃OH)は、以下のようにさまざまな産業で重要な役割を果たしています。
1. 化学原料としての利用
メタノールは、多くの化学製品の原料になります。
- ホルムアルデヒド(HCHO)の製造
→ 接着剤、塗料、樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂など)の原料 - 酢酸(CH₃COOH)の製造
→ 食品添加物(酢)、染料、医薬品の原料 - MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)
→ ガソリンのオクタン価向上剤(燃焼効率を上げる添加剤)
2. 燃料としての利用
メタノールは燃料としても広く使われます。
- バイオメタノール・e-メタノール(CO₂と水素から合成したメタノール)
→ カーボンニュートラルな燃料として期待 - メタノール燃料電池(DMFC:直接メタノール燃料電池)
→ 携帯電子機器や小型発電装置のエネルギー源 - 船舶燃料
→ SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)をほとんど出さない環境対応燃料
3. 溶剤や抗凍剤としての利用
- 溶剤(塗料やインクの溶剤として使用)
- ウィンドウォッシャー液(凍結防止剤として配合)
4. 医薬・医療分野
- 消毒・防腐剤(ただし毒性が強いためエタノールの方が一般的)
5. エネルギー貯蔵・輸送
- メタノールは水素キャリア(水素を運ぶ物質)としても有望。水素社会の実現に向けたエネルギー貯蔵手段として研究されている。
- 水素キャリア(Hydrogen Carrier)は、水素(H₂)を安全かつ効率的に貯蔵・輸送するための物質や技術を指します。水素は軽量で爆発の危険性があり、そのままの形で扱うのが難しいため、水素キャリアを利用して化学的または物理的に水素を保持し、必要に応じて放出する技術が開発されています。
- メタノールは輸送や貯蔵のしやすさ、エネルギー密度の高さから注目されています。

CO₂から様々な用途で利用されるメタノールが実用化されると、化学産業やエネルギー分野の脱炭素化に大きく貢献する可能性があります。
二酸化炭素からどのようにメタノールが合成されるのか
二酸化炭素(CO₂)を原料としたメタノールの合成は、カーボンニュートラル技術として注目されており、以下のような反応によって合成されています。
1. 水素化還元反応(CO₂ + H₂ → CH₃OH)
CO₂を水素(H₂)と反応させてメタノール(CH₃OH)を生成する方法です。
この反応には触媒が必要で、銅(Cu)、亜鉛酸化物(ZnO)、アルミナ(Al₂O₃)などの触媒が使われます。
2. CO₂の電解還元(電気化学的手法)
電気化学的にCO₂を還元してメタノールを得る方法です。再生可能エネルギーを使えば、環境負荷を抑えたメタノール合成が可能になります。
3. CO₂と一酸化炭素(CO)の併用
CO₂だけでなく、一酸化炭素(CO)とH₂の混合ガス(合成ガス)を用いる方法もあります。CO₂を一部COに変換することで反応効率を高めることができます。
これらの技術が実用化されると、CO₂を有効活用しながら化学産業のカーボンニュートラル化が進むと期待されています。

二酸化炭素化からメタノールの合成には水素化、電気分解などの方法があります。
どのような触媒が利用されるのか
二酸化炭素からメタノールを合成する場合、反応効率や選択性を向上させるために適切な触媒が不可欠です。
1. Cu‐ZnO‐Al₂O₃系触媒
- 概要:
産業的にも最も広く使われる触媒系です。銅(Cu)が水素化還元反応の活性部位として機能し、亜鉛酸化物(ZnO)やアルミナ(Al₂O₃)が銅の分散性を向上させ、反応の安定性や効率を補助します。 - 特徴:
- 反応温度は200〜300℃程度で運転されることが多い
- 高い反応活性と選択性を示す
- 長期間の使用でも性能を維持するため、実用化に適している
2. 改良型および複合触媒
- 概要:
研究開発の現場では、従来のCu‐ZnO‐Al₂O₃に添加剤や他の金属(Pd、Pt、Niなど)を組み合わせることで、より低温での反応や高いCO₂転化率を狙った改良型触媒が検討されています。 - 特徴:
- 添加剤やセラミック支持体との組み合わせにより、反応の選択性や活性が向上する可能性がある
- 触媒の寿命や耐久性、さらには副反応の抑制にも寄与する
3. 電気化学的還元向け触媒
電極材料の微細構造や表面修飾が、反応経路に大きな影響を与えることが知られています
- 概要:
電気化学的手法でCO₂を直接還元してメタノールを生成する場合、従来の熱触媒とは異なる金属や材料が利用されます。 - 例: 銀(Ag)、錫(Sn)、鉛(Pb)などの金属電極が研究対象になっており、これらはCO₂の還元生成物の選択性に影響を与えます

効率的で環境負荷の低いプロセスを実現するため、触媒の改良や新規材料の開発が進んでいます。
パラキシレンはどのように利用されているのか
パラキシレン(PX)は、主にポリエステル製品の原料として利用され、繊維や包装材などの幅広い産業で重要な役割を果たしています。
1. テレフタル酸(PTA)の製造 → ポリエステル樹脂の原料
PXの約98%は、精製テレフタル酸(PTA)の製造に使用されます。
- 化学反応: PXは酸化されてPTAに変換される。
- 用途: PTAはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の主要原料になります。
・ PET樹脂の主な用途
- ペットボトル(飲料・食品容器)
- ポリエステル繊維(衣類、カーペット、産業用繊維)
- フィルム・包装材(食品包装、電子部品の保護フィルム)
2. ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂の製造
PBT樹脂は、PX由来のPTAを用いて合成されるエンジニアリングプラスチックです。
・ 用途:
- 自動車部品(コネクター、センサー、ギアなど)
- 電子・電気部品(コネクタ、スイッチ、プリント基板)
3. 溶剤や化学中間体としての利用
- 塗料やインクの溶剤
- 農薬・医薬品の合成中間体
4. 燃料添加剤の原料
- ガソリンのオクタン価向上剤(芳香族化合物として使用)
5. 次世代用途(CO₂由来パラキシレンの活用)
CO₂を原料としたパラキシレンが実用化されると、持続可能なPETボトルやポリエステル製品の製造が可能となり、化石資源を使わない「グリーン・プラスチック」の開発が進むと期待される。

二酸化炭素を原料としたパラキシレンが実用化されると、持続可能なPETボトルやポリエステル製品の製造が可能となり、化石資源を使わない「グリーン・プラスチック」の開発が進むと期待される。
パラキシレンの合成では、どのような触媒が利用されるのか
二酸化炭素(CO₂)からパラキシレン(PX)を合成するには、複数の触媒が必要となります。
これは、二酸化炭素を直接パラキシレンに変換するのではなく、メタノール → オレフィン → 芳香族化 → パラキシレンという複数の段階を経るためです。
1. CO₂ → メタノール合成触媒
主な触媒:
- Cu‐ZnO‐Al₂O₃系触媒(銅-亜鉛酸化物-アルミナ)
- 代表的な産業用触媒。CO₂とH₂を反応させてメタノールを合成。
- In₂O₃(酸化インジウム)触媒
- CO₂の直接水素化に優れた触媒で、新たな研究が進行中。
2. メタノール → オレフィン(MTO反応)
主な触媒:
- SAPO-34(シリコアルミノリン酸塩)
- MTO(Methanol-To-Olefins)プロセスにおいて、エチレン(C₂H₄)やプロピレン(C₃H₆)の生成を促進。
- 細孔構造を最適化することで、オレフィンの選択性を向上可能。
3. オレフィン → 芳香族化(Aromatization)
主な触媒:
- ZSM-5(ゼオライト系触媒)
- 軽質オレフィンをベンゼン、トルエン、キシレン(BTX)に変換する。
- ZSM-5のSi/Al比を調整することで、パラキシレンの収率を最適化。
4. 芳香族化 → パラキシレン選択合成
主な触媒:
- 改良型ZSM-5(Si/Al比の最適化)
- 直鎖状アルキル化反応を促進し、p-Xyleneの生成を優先させる。
- Ga/ZSM-5(ガリウム修飾ZSM-5)
- 芳香族化を促進しつつ、副生成物の抑制効果がある。
- Mo/ZSM-5(モリブデン修飾ZSM-5)
- さらに選択性を向上させるための新規触媒として研究が進められている。

二酸化炭素(CO₂)からパラキシレン(PX)を合成するには、複数の触媒が必要となります。
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