この記事で分かること
- 低炭素セメントとは:製造・使用過程での二酸化炭素(CO₂)排出量が少ないセメントのことです。セメント産業は、世界のCO₂排出量の約7~8%を占めるとされているため非常に重要な技術です。
- どのようにCO2排出量を減らすのか:産業副産物の利用など原材料の工夫、焼成温度の低温化、CO2 吸収素材の利用などが考えられています。
- 普及に向けた課題:品質のばらつき、初期強度の遅れといった材料面の問題だけでなく、制度・社会受容・経済モデルの整備が不可欠です。
太平洋セメントの低炭素セメント
太平洋セメントが日鉄スラグ製品とデイ・シイ製造出荷拠点とした低炭素型混合セメントを発売することを発表しています。
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/news/news/pdf/250513_3.pdf
太平洋セメントは、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、低炭素セメントの開発と製造プロセスの革新に取り組んでいます。今回の開発品では、従来品からCO2排出量を40~65%削減したとしています。
低炭素セメントとは何か
低炭素セメントとは、製造・使用過程での二酸化炭素(CO₂)排出量を従来のセメントよりも大幅に削減したセメントのことです。セメント産業は、世界のCO₂排出量の約7~8%を占めるとされており、その脱炭素化は気候変動対策の重要な柱とされています。
【なぜセメントはCO₂を多く出すのか?】
- 石灰石(CaCO₃)の熱分解
- セメントの主原料である石灰石を高温で焼成する際に、CO₂が発生。 コピーする編集する
CaCO₃ → CaO + CO₂(化学反応由来)
- セメントの主原料である石灰石を高温で焼成する際に、CO₂が発生。 コピーする編集する
- 高温焼成に必要な燃料の燃焼
- 1,450℃以上の温度を得るために化石燃料(石炭など)を多く使用。
【低炭素セメントの主な特徴】
特徴 | 内容 |
---|---|
① 原材料の工夫 | 高炉スラグ、フライアッシュ、バイオマス焼却灰など、産業副産物を活用。 |
② 焼成温度の低減 | 低温で硬化する成分を使うことで、燃料消費を削減。 |
③ CO₂吸収型素材の活用 | 一部セメントは、硬化時にCO₂を吸収する特性を持つ(例:カーボフィクスセメント)。 |
④ カーボンキャプチャー技術との併用 | 製造時に排出されるCO₂を回収・再利用または貯留。 |
【代表的な低炭素セメントの種類】
- 高炉セメント(スラグセメント):鉄鋼業の副産物である高炉スラグを使用。
- フライアッシュセメント:火力発電所の副産物であるフライアッシュを活用。
- カルシウムシリケート系セメント(例:CARBOFIXⓇ):CO₂吸収性がある新素材。
- エコセメント:都市ゴミ焼却灰などを原料に用いたセメント。
【メリットと課題】
メリット | 課題 |
---|---|
CO₂排出削減 | 強度や耐久性の確保が必要 |
廃棄物の有効利用 | 材料の安定供給が難しい場合も |
資源循環型社会への貢献 | 社会的認知・普及促進が必要 |
低炭素セメントは、建設業の脱炭素化を支える鍵となる素材であり、今後も技術革新と制度的支援によって普及が進むと見込まれています。

低炭素セメントとは、製造・使用過程での二酸化炭素(CO₂)排出量が少ないセメントのことです。セメント産業は、世界のCO₂排出量の約7~8%を占めるとされているため、低炭素セメントはカーボンニュートラルにも欠かすことができないものです。
産業副産物を使うときに必要となる技術はなにか
産業副産物(高炉スラグ、フライアッシュ、焼却灰など)をセメントに利用する際には、以下のように、その物性の違いや不安定さを克服し、安全・高性能なセメントを製造するためのさまざまな技術が必要です。
【1. 分析・評価技術】
- 化学組成分析(XRF、ICPなど):副産物の成分(SiO₂, Al₂O₃, Fe₂O₃, CaO, 重金属など)を正確に把握。
- 物理特性評価(粒度分布、比表面積、反応性など):反応性や強度発現性を予測。
- 有害物質の検出:六価クロム、鉛、ダイオキシンなどの含有確認が必要。
【2. 前処理・安定化技術】
- 脱塩処理:焼却灰などは塩分を含むため、溶出防止のため洗浄・乾燥が必要。
- 焼成・中和:重金属の不溶化や有害成分の安定化(例:融解スラグ化処理)。
- 均質化処理:成分のバラつきを抑えるため、混合・粉砕して安定化。
【3. 混合設計・配合技術】
- 適切な混合比設計:副産物の反応性に応じたブレンド率の設計(例:高炉スラグは40~70%)。
- アルカリ活性化技術:フライアッシュやスラグの反応性を高めるために水酸化ナトリウムなどのアルカリを併用。
- 混和材との相乗効果設計:シリカフュームなどの高性能混和材との併用で性能向上。
【4. 品質管理・性能評価】
- 強度試験(圧縮、引張など)
- 耐久性評価(中性化、凍結融解、塩害など)
- 長期性能予測(反応性の遅延に対応)
【5. 生産・施工技術】
- 粉砕技術:副産物を微粉末化し、反応性を高める。
- バッチ処理設備:多様な原料に柔軟に対応できる混合設備。
- 施工管理技術:硬化の遅延や温度管理が求められる場合がある。
【6. 環境対策・法規制対応】
- 廃棄物処理法・建設資材リサイクル法の遵守
- エコマーク認証、グリーン購入法対応などの制度面の確認

産業副産物からのセメント製造では、分析・評価技術や前処理技術などの科学的な技術、高度なプロセス制御、法規制対応などが必要です。
低温で硬化可能なメカニズムは
低温で硬化可能なセメントは、以下に示すように、通常のポルトランドセメントの水和反応とは異なる化学反応や活性化メカニズムによって硬化します。
【1. アルカリ活性化(アルカリ活性化材料, AAM)】
例:高炉スラグやフライアッシュ + 水酸化ナトリウム等のアルカリ
- メカニズム:
- アルカリによって副産物中のシリカ(SiO₂)やアルミナ(Al₂O₃)が溶解。
- それが再結晶してN-A-S-H ゲル(ナトリウムアルミノシリケート水和物)やC-A-S-H ゲル(カルシウムアルミノシリケート水和物)を形成。
- 結果:セメントのような強度を持つ構造体が生成される。
【2. カーボネーション硬化(炭酸化硬化)】
例:CARBOFIXⓇセメント(太平洋セメント)
- メカニズム:
- セメント成分(例:Ca(OH)₂や未反応のCaOなど)が空気中のCO₂と反応。
- 生成されるCaCO₃(炭酸カルシウム)がセメントの骨格となり、強度を発現。 scssコピーする編集する
Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ + H₂O
- 特徴:水和反応を主とせず、CO₂が「硬化剤」となる。CO₂を吸収=脱炭素貢献。
【3. マグネシア系硬化】
例:MgO + CO₂ や MgO + H₂O 系
- メカニズム:
- MgO(酸化マグネシウム)は水と反応してMg(OH)₂に。
- さらにCO₂と反応して炭酸マグネシウム(MgCO₃)になり、硬化体を形成。
- 特徴:比較的低温・短時間でも反応が進行しやすい。CO₂を吸収するタイプもあり。
【4. ジオポリマー反応】
例:メタカオリン(焼成カオリン)+ アルカリ水溶液
- メカニズム:
- シリカ・アルミナ成分がアルカリにより溶解・重合し、高強度の3次元ゲル構造(N-A-S-H)を形成。
- 特徴:100℃以下でも高強度発現可能。高温不要、初期強度も良好。
【まとめ】
メカニズム | 主な反応 | 低温で硬化できる理由 |
---|---|---|
アルカリ活性化 | Si, Alの溶解→ゲル化 | アルカリで加速される低温反応 |
カーボネーション | Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ | CO₂と反応して常温で硬化 |
マグネシア系 | MgO + H₂O(+ CO₂) | 吸湿・炭酸化で強度発現 |
ジオポリマー | Si, Alの重合 | 化学的重合反応が低温で進行 |
これらの技術は、省エネルギー性・CO₂吸収能力・副産物の活用性を持ち、カーボンニュートラルに向けた先進的なセメント技術の中核となっています。

低温で硬化可能なセメントはアルカリによる低温反応加速、二酸化炭素や酸化マグネシウムとの反応、高強度の3次元ゲル構造の形成などで可能になっています。
低炭素セメントの課題は何か
低炭素セメントには多くの利点(CO₂削減・副産物利用・資源循環)がありますが、技術的・経済的・社会的に克服すべき課題も多く存在します。
【1. 材料・性能面の課題】
● 品質のばらつき
- 高炉スラグやフライアッシュなど副産物は発生源・ロットによって化学成分が変動しやすい。
- 均一な品質を維持するための分析・処理が必要。
● 反応性の低さ・硬化の遅れ
- 一部の低炭素セメントは初期強度の発現が遅く、施工スケジュールに影響。
- 気温や湿度によって反応速度が大きく左右されることもある。
● 耐久性や長期挙動の不確実性
- カーボネーション硬化やアルカリ活性化材料では、中性化・収縮・化学安定性などの長期性能に不透明な部分がある。
- ポルトランドセメントほどの実績蓄積が少ない。
【2. 製造・供給面の課題】
● 副産物の安定供給
- 高炉スラグやフライアッシュの供給量は製鉄・火力発電の縮小で減少傾向。
- 長期的には材料の確保が困難になるリスクがある。
● 前処理・加工コスト
- 脱塩、乾燥、微粉砕など、使用前に必要な処理が多く、製造コストが高くなる傾向。
【3. 社会・制度面の課題】
● 規格・認証の未整備
- 既存の建築・土木用材料のJIS規格は、ポルトランド系に最適化されている。
- 新しいセメントの認証取得や設計基準の整備が遅れている。
● 施工現場での取り扱い難易度
- 水和反応と異なる挙動をするため、職人の知識不足や誤施工のリスク。
- 練混ぜ時間、温度管理、硬化時間などに注意が必要。
● コストと経済性
- 通常のセメントに比べ、材料費・加工費・施工管理コストが高い場合が多い。
- 長期的なライフサイクルコストでは有利でも、初期費用が高いため採用が進みにくい。
【4. 環境・安全面の課題】
● 有害物質の懸念
- 焼却灰などには重金属や有機塩素化合物が含まれる場合があり、安全性の確保が必須。
- リサイクル利用でも、環境基準(溶出試験など)への適合が必要。
【まとめ】
分野 | 主な課題 |
---|---|
材料 | 品質のばらつき、初期強度の遅れ、耐久性の不透明さ |
供給 | 副産物の安定供給、前処理コスト |
制度 | 規格未整備、施工現場での扱いづらさ |
経済 | 高コスト、初期費用の高さ |
環境 | 有害物質の管理、安全性の確保 |

低炭素セメントに普及には、品質のばらつき、初期強度の遅れといった材料面の問題だけでなく、制度・社会受容・経済モデルの整備が不可欠です。
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