この記事で分かること
- 市場全体の状況:グローバル経済の動向、自動車産業の変化、そして環境意識の高まりといった複合的な要因によって、ダイナミックに変化している状況です。
- 自動運転で求められるタイヤとは:センサー内蔵で路面・摩耗情報をリアルタイム伝達し、システムと連携します。これにより、安全性、耐久性、静粛性、高荷重対応、低電費性の向上させ、信頼性の高い自動運転走行を支えることが可能です。
- 質の高いタイヤとは:18インチ以上の高インチ品や、低燃費、静粛性、ウェット性能に優れる高機能・高性能タイヤ、そしてEV専用や農業機械用など特定用途に特化した高付加価値タイヤを指します。
タイヤ業界の状況
横浜ゴムの株価は続伸し、2025年6月27日に3,923円の年初来高値を更新しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL2740P0X20C25A6000000/
横浜ゴムの株価が1年ぶりの高値を更新している背景には、複数の好材料が挙げられます。
今回はタイヤ市場全体の状況についての記事となります。
タイヤ業界の状況
タイヤ業界全体は、複数の要因が絡み合い、変化と課題、そして機会が混在する状況にあります。
【全体的な市場動向】
- 成長基調: 世界のタイヤ市場は、今後も緩やかな成長が予測されています。特にアジア太平洋地域が最大の市場シェアを占め、新興国での自動車販売台数の増加がタイヤ需要を牽引すると見られています。
- 新車用と市販用: 新車用タイヤの販売は、半導体不足などの影響で一時落ち込みましたが、自動車生産の回復に伴い増加傾向にあります。一方、市販用タイヤは物価高やガソリン価格高止まりによる消費マインドの低下、暖冬などの影響で伸び悩むケースも見られます。
- 高機能・高性能タイヤの需要増: SUVや電気自動車(EV)、高性能スポーツカーの普及に伴い、18インチ以上の大径タイヤや、高い安全性、燃費効率、静粛性などを備えた高性能タイヤの需要が増加しています。
【課題】
- 原材料価格の変動: 天然ゴムや合成ゴム、カーボンブラックなどの原材料価格の変動は、タイヤメーカーのコストに大きな影響を与えます。
- 激しい競争: 世界のタイヤ市場はブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーの大手3社が寡占状態でしたが、近年は韓国や中国などのメーカーの台頭により競争が激化しており、大手メーカーのシェアは徐々に低下傾向にあります。価格競争も常に課題です。
- サプライチェーンの不安定性: COVID-19の影響などでサプライチェーンの混乱が生じ、生産や供給に影響が出る可能性があります。
- 環境規制とサステナビリティ: 環境負荷低減への意識の高まりから、温室効果ガス排出量の削減、天然資源の持続可能な調達、リサイクル技術の進化など、よりサステナブルなタイヤ製造と製品開発が求められています。
【機会】
- 電気自動車(EV)市場の拡大: EVは車両重量が重く、高トルクであるため、EV専用の耐久性、静粛性、電費性能に優れたタイヤの需要が増加しています。これはタイヤメーカーにとって新たな技術開発とビジネスチャンスをもたらしています。
- 自動運転技術の進化: コネクテッドタイヤやセンサー内蔵タイヤなど、自動運転に対応した新しい機能を持つタイヤの開発が進められています。
- リトレッドタイヤ市場の成長: コスト効率と環境負荷低減の観点から、商用車を中心にリトレッドタイヤ(再生タイヤ)の需要が拡大しています。
- 高付加価値戦略: 高性能・高機能タイヤや、タイヤ以外のソリューション(フリート管理など)を提供することで、価格競争からの脱却と収益性向上を図る動きが加速しています。

タイヤ業界はグローバル経済の動向、自動車産業の変化、そして環境意識の高まりといった複合的な要因によって、ダイナミックに変化している状況です。
各社のシェアと状況は
横浜ゴム以外の主要タイヤメーカーの近況は、各社が置かれている状況や戦略によって明暗が分かれています。以下が主なメーカーのシェアと最近の業績動向となっています。
- ブリヂストン(日本):約14.2%
- 2024年12月期は増収ながらも減益を予想しています。
- 2025年2月発表の決算では、米州セグメントの減収や事業・工場再編費用の増加が影響し、営業利益が大幅に減少しました。
- しかし、高付加価値戦略や「地産地消」の強化により、高水準の営業利益率を維持しようとしています。
- ミシュラン(フランス):約15.1%
- 2023年の売上高、営業利益ともに高い水準を維持しています。
- 特に18インチ以上の高級タイヤの販売が好調で、売上・営業利益を押し上げています。
- 利益率の高い農業トラック事業や航空機用タイヤの需要拡大も好調を維持する要因となっています。
- グッドイヤー(アメリカ):約9.6%
- 2024年12月期の通期決算では、売上高は減少したものの、最終損益が黒字に転換しました。前期は赤字でしたが、改善傾向にあります。
- コンチネンタル(ドイツ):約6.7%
- 2023年度は増益となり、2024年度もさらなる業績改善を目指しています。
- タイヤセクターは安定した収益性を提供しており、高水準の調整後EBITマージンを維持しています。
- 住友ゴム工業(日本):約3.8%
- 2024年12月期は売上収益、事業利益ともに過去最高を更新しました。
- 構造改革の効果もあり、事業利益率も改善しています。
- タイヤ事業全体では増益となっており、高付加価値戦略などで差別化を図っています。
- ピレリ(イタリア):約3.7%
- 2023年の決算は予想を上回り、好調に推移しています。
- 高級車向けタイヤに強みがあり、このセグメントが収益を牽引しています。
- ハンコックタイヤ(韓国):約13.4%
- 近年、高インチタイヤの販売比率を高めることで質的な成長を続けています。
- 2022年決算では売上高が過去最高を記録し、営業利益も増加しました。
- 原材料価格や物流費の高騰影響があったものの、価格面や製品ミックス、為替がプラスに働きました。

各社は原材料費や物流費の変動、地政学的リスクなどの影響を受けつつも、高付加価値商品の販売強化や事業構造改革、コスト効率化などによって収益性の確保・向上を目指している状況が見られます。
自動運転技術に適したタイヤとはどのようなものか
自動運転技術に適したタイヤは、従来のタイヤに求められる基本的な性能に加え、より高度な情報連携能力や耐久性、そして信頼性が重視されます。
- センサー内蔵・コネクテッド機能:
- タイヤ内部センサー: 温度、空気圧、摩耗状態、路面状況(濡れているか、凍結しているかなど)といった情報をリアルタイムで検知するセンサー(スマートタイヤ)が組み込まれています。
- 情報連携: 検知した情報を車両の自動運転システムやクラウドに送信し、車両の制御(例:グリップに応じた加速・減速調整)、経路選択、メンテナンス予測などに活用されます。これにより、安全性の向上と効率的な運行が可能になります。
- 高い信頼性と耐久性:
- 異常検知と予測: タイヤのパンクや空気圧異常などを即座に検知し、運転システムに警告することで、走行中の安全性を確保します。
- 長寿命・耐摩耗性: ドライバーによる日常的な点検が少なくなるため、より長期間安定した性能を維持できる耐久性と、予測可能な摩耗特性が求められます。
- 優れた静粛性と快適性:
- 自動運転中は、車内の乗員がよりリラックスできる環境が求められるため、ロードノイズや振動を低減する高い静粛性と乗り心地が重要になります。
- 高い操縦安定性とグリップ性能:
- 人間のドライバーの判断に頼らないため、あらゆる路面状況や速度域において、車両の意図通りの挙動を保証する高レベルの操縦安定性とグリップ性能が必要です。
- 特に緊急時の回避行動など、予測不能な状況でも車両の制御を確実にサポートする能力が求められます。
- 高荷重・高トルク対応:
- EVベースの自動運転車両が増える中で、バッテリーによる車両重量増加や、モーターの強力なトルクに耐えうる高い負荷能力と耐久性が求められます。
- 効率性(低転がり抵抗):
- 特にEVにおいては、電費性能に直結するため、エネルギー消費を抑える低転がり抵抗性能が重要になります。
これらの機能を備えたタイヤは、自動運転システムが安全かつ効率的に機能するための「足元」を支える重要な要素となります。タイヤメーカー各社は、センサー技術や素材開発、構造設計において、自動運転時代に向けた研究開発を加速させています。

自動運転タイヤは、センサー内蔵で路面・摩耗情報をリアルタイム伝達し、システムと連携します。これにより、安全性、耐久性、静粛性、高荷重対応、低電費性が向上し、信頼性の高い自動運転走行を支えます。
量から質とはどのようなタイヤを指すのか
量から質へのシフトにおける「質」とは、単に「高価なタイヤ」を指すのではなく、付加価値の高いタイヤを意味します。具体的には以下のような特徴を持つタイヤを指します。
- 高インチタイヤ:
- 18インチ以上の大径タイヤを指します。これらのタイヤは、高級車、高性能スポーツカー、高級SUV、そして近年増加している電気自動車(EV)に多く装着されます。製造コストは高いですが、販売単価も高く、利益率も良い傾向にあります。
- 高機能・高性能タイヤ:
- 低燃費タイヤ(エコタイヤ): 転がり抵抗を低減し、燃費向上に貢献するタイヤです。
- 静粛性タイヤ: ロードノイズを低減し、車内の快適性を高めるタイヤです。
- ウェット性能強化タイヤ: 雨天時の排水性やグリップ力を高め、安全性を向上させたタイヤです。
- プレミアムブランドタイヤ: 各メーカーの最上位ブランドに位置づけられ、上記のような多様な性能を高次元でバランスさせたタイヤです。(例:ブリヂストンの「POTENZA」「REGNO」、ミシュランの「Pilot Sport」「Primacy」、横浜ゴムの「ADVAN」「GEOLANDAR」など)。
- EV専用タイヤ: EVの重い車重、高トルク、静粛性要求に対応し、かつ電費性能にも優れたタイヤです。
- 特定の用途に特化したタイヤ:
- 農業機械用タイヤ(OHT): 上記で説明したような、特殊な牽引力や土壌への影響軽減機能を備えたタイヤです。
- 鉱山・建設車両用タイヤ(OTR): 極めて過酷な環境での耐久性や耐カット性が求められるタイヤです。
これらの「質の高いタイヤ」は、高い技術力と開発投資が必要であり、一般的な廉価タイヤと比較して利益率が高いため、タイヤメーカーは単なる販売数量(量)を追うのではなく、このような高付加価値製品の販売比率を高めることで、収益性の向上を目指しています。

「質の高いタイヤ」とは、18インチ以上の高インチ品や、低燃費、静粛性、ウェット性能に優れる高機能・高性能タイヤ、そしてEV専用や農業機械用など特定用途に特化した高付加価値タイヤを指します。
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