この記事で分かること
- imecとは:ベルギーに本拠を置く、ナノエレクトロニクスおよびデジタル技術分野の世界的な独立系研究開発機関で、半導体技術の最先端を切り拓き、その成果を世界中の産業界に供給することで、半導体産業全体の発展を牽引しています。
- 成功の理由:特定企業に偏らない中立的な立場とオープンイノベーションを追求し、世界中から研究者が集まる場を提供したことが成功の理由とされています。
- imecの実績:EUVリソグラフィやHigh-NA EUVリソグラフィといった超微細加工技術の確立、FinFETやGAA構造などの次世代トランジスタ開発、そして3次元積層(3D Integration)技術の推進に大きく貢献し、現代の半導体産業の発展を牽引しています。
東京エレクトロン、imecとの提携延長
東京エレクトロンは2025年6月16日、ベルギーに本拠を置く半導体研究開発機関であるimec(アイメック)との提携を延長すると発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1664C0W5A610C2000000/
この提携は今後5年間で、微細化や積層化が進む最先端半導体の開発において連携を強化するものです。東京エレクトロンはimecの先端半導体研究における世界的ハブの地位を強固なものとするとともに、自社の技術的リーダーシップを強化し、将来に向けたイノベーションを推進していく考えです。
imecとは何か
imec(アイメック)は、ベルギーに本拠を置く、ナノエレクトロニクスおよびデジタル技術分野の世界的な独立系研究開発機関です。
その主な特徴と役割
- 世界最大級の半導体研究開発機関: 半導体の微細化や積層化といった最先端技術の研究開発をリードしており、世界のチップ研究所とも呼ばれています。
- 非営利団体: 1984年に設立された非営利団体であり、その研究成果は産業界に還元されています。
- 多様な研究分野: ナノエレクトロニクスだけでなく、バイオエレクトロニクス、量子エレクトロニクス、エネルギー技術など、幅広い分野にわたる研究を行っています。特に、スマートフォンから医療、自動車、農業、エネルギーに至るまで、様々な分野でのイノベーションを推進しています。
- オープンイノベーション型: 世界中の大学、企業(半導体メーカー、装置メーカー、材料メーカーなど)、研究機関から研究者が集まり、共同で研究開発を行っています。これにより、普段は競合する企業間でもオープンでフラットな議論ができる環境が強みとなっています。
- 先行研究と産業への橋渡し: 業界より5~10年先の最先端プロセスモジュールを開発し、それを会員企業に提供する役割を担っています。これにより、半導体技術のブレークスルーを促進し、産業界への技術移転を加速させています。
- 試作ラインの整備: 2ナノメートル以下のシステムオンチップ(SoC)の試作ライン整備を進めるなど、次世代半導体の開発において重要な役割を果たしています。
- 国際的な連携: ベルギーのルーヴェンに本部を置き、90カ国以上から約5,500人の研究者を擁しています。日本とも深い関係があり、ラピダスとの連携や日本法人の設立、日本の大学との共同研究なども行われています。

imecは半導体技術の最先端を切り拓き、その成果を世界中の産業界に供給することで、半導体産業全体の発展を牽引する、非常に重要な研究機関です。
ベルギーがimecを設立した理由と成功の理由
imecがベルギーに設立された背景には、いくつかの要因が組み合わさっています。
フランダース政府の戦略的イニシアティブ(1980年代)
1980年代初頭、ベルギーのフランダース地方政府は、地域の経済活性化と産業競争力強化のため、マイクロエレクトロニクス産業の育成を戦略的に推進するプログラムを立ち上げました。
このプログラムの一環として、マイクロエレクトロニクスの高度な研究を行うための研究所として、1984年にimecが設立されました。当時のベルギーは、半導体産業が盛んな国ではありませんでしたが、将来を見据えた産業育成の必要性を認識していたと言えます。
「大学間連携(Interuniversity)」というコンセプト
「Interuniversity Microelectronics Centre」という名称が示すように、設立当初から大学間の連携を重視していました。これにより、国内外の優れた研究者や学生が参加しやすい環境が整い、最先端の研究を行うための人的資源を確保することができました。
中立性とオープンイノベーションの追求
imecは設立当初から、特定の企業や国の利害に縛られない「中立的な研究機関」であることを強く意識していました。
これにより、普段は競合する世界の半導体企業や装置・材料メーカーが、共通の課題解決のために協力し、研究成果を共有できる「オープンイノベーション」の場を提供することができました。これは、巨額の投資と複雑な技術が必要となる半導体研究において、非常に重要な成功要因となりました。
公的資金と企業からの研究資金のバランス
設立当初はフランダース政府からの助成金が主要な資金源でしたが、imecは早い段階から企業からの研究資金を積極的に獲得し、公的資金への依存度を低減していきました。現在では、全体の予算の大部分が企業からの研究資金によって賄われており、これにより、より産業界のニーズに即した研究開発を進めることが可能となっています。
地理的な利点(ヨーロッパの中心)
ベルギーはヨーロッパの中心に位置しており、主要な交通の要衝であるため、世界各国からの研究者や企業がアクセスしやすいという地理的な利点も無視できません。
これらの要素が複合的に作用し、ベルギーのルーヴェンという地でimecが誕生し、そして現在のような世界的な半導体研究機関へと成長を遂げることができました。

ベルギーのフランダース政府が1980年代に地域経済活性化のため、マイクロエレクトロニクス産業の育成を戦略的に進め、その中核としてimecを設立しました。特定企業に偏らない中立的な立場とオープンイノベーションを追求し、世界中から研究者が集まる場を提供するためです。
imecの実績は
imecは、半導体技術の最先端を切り拓き、その成果を産業界に提供することで、数々の成功事例を生み出してきました。その性質上、個別の製品として消費者の目に触れることは少ないですが、現代の半導体デバイスの基盤となる技術開発に大きく貢献しています。
主な成功例としては、以下のような点が挙げられます。
- 最先端リソグラフィ技術の確立(特にEUVリソグラフィ):
- EUV(極端紫外線)リソグラフィは、現在の最先端半導体製造に不可欠な技術であり、imecはこの技術の発展に中心的な役割を担ってきました。ASMLなどの露光装置メーカーと連携し、EUV露光装置の性能向上や、EUVレジスト(感光材)の開発、欠陥制御技術の確立などに大きく貢献しています。
- 特に、High-NA EUVリソグラフィのような次世代技術の開発においては、ASMLと共同で世界初のHigh-NA露光装置を稼働させ、2nm以降の超微細パターン形成を実現する上で重要なブレークスルーを達成しています。これにより、ムーアの法則の継続に貢献しています。
- 東京エレクトロンとの提携においても、EUVレジスト塗布・現像技術の共同開発は、EUV技術の量産適用に不可欠な欠陥制御の改善に貢献した顕著な成果として挙げられています。
- 先進的なロジックデバイスプロセスの開発:
- FinFET(フィンフェット)構造などの3Dトランジスタ技術、そしてその次世代となるGAA(Gate-All-Around)構造やCFET(Complementary FET)などの研究開発を主導しています。これらの技術は、トランジスタの性能向上と消費電力低減に不可欠であり、将来の高性能プロセッサの実現に直結します。
- 2nm以降の技術ノードに向けたCMOSロジックの微細化技術、例えばスタンダードセルの面積を大幅に削減する配線レイアウト技術なども発表しています。
- 次世代メモリ技術の開発:
- DRAMやNANDフラッシュといった既存メモリの進化だけでなく、MRAM(磁気抵抗メモリ)やReRAM(抵抗変化型メモリ)といった新しい種類の不揮発性メモリの研究にも力を入れています。これらのメモリは、IoTデバイスやAIチップなど、多様なアプリケーションでの利用が期待されています。
- 3次元積層技術(3D Integration)の推進:
- 複数のチップを垂直方向に積層する3D積層技術は、半導体デバイスの小型化、高性能化、低消費電力化を実現するための重要な技術です。imecは、この3D積層技術におけるウェーハ接合、ビア形成、熱管理などの課題解決に貢献しています。
- 新しい材料やデバイス構造の研究:
- シリコン以外の新しい半導体材料(例:GaN on Si)や、量子コンピュータ、シリコンフォトニクス(光と電子の融合技術)など、将来のコンピューティングや通信技術の基盤となる革新的な研究も行っています。例えば、シリコン上に電気的に励起されたGaAs系ナノリッジレーザーを300mmウェーハ上で作製する画期的な成果も発表しています。
- オープンイノベーションモデルの確立:
- 特定の企業に縛られず、世界中の企業、大学、研究機関が共同で研究開発を行う「オープンイノベーション」モデルを確立し、成功させてきたこと自体が大きな成果です。これにより、莫大な研究開発費と技術力を要する最先端半導体技術の進歩を加速させています。
これらの成果は、個々の半導体企業が単独では成し遂げることが難しい、業界全体の技術革新を支える基盤となっています。

imecは、最先端半導体技術の開発で世界をリードしています。特に、EUVリソグラフィやHigh-NA EUVリソグラフィといった超微細加工技術の確立、FinFETやGAA構造などの次世代トランジスタ開発、そして3次元積層(3D Integration)技術の推進に大きく貢献し、現代の半導体産業の発展を牽引しています。
ほかにどんな企業と提携しているのか
imecは、そのオープンイノベーションモデルに基づき、半導体バリューチェーン全体にわたる幅広い企業や研究機関と提携しています。主要な提携先には以下のような企業・機関が含まれます。
主要な提携企業・機関
- ASML: 世界最大の半導体露光装置メーカーであり、imecとは30年以上にわたる強固なパートナーシップを築いています。特に、EUVリソグラフィやHigh-NA EUVリソグラフィといった最先端技術の共同開発において、不可欠な存在です。
- 大手ファウンドリ(半導体受託生産会社)
- TSMC (台湾)
- Samsung Electronics (韓国)
- Intel (米国)
- GLOBALFOUNDRIES (米国) これらの企業は、imecの「持続可能な半導体技術研究プログラム」など、様々な先端研究プログラムに参加しています。
- 半導体メーカー
- Micron Technology (米国)
- Qualcomm (米国)
- SK Hynix (韓国)
- Sony Semiconductor Solutions (日本)
- AMD (米国)
- Kioxia Corporation (日本)
- Western Digital (米国) など、多くの大手半導体メーカーがimecのコアパートナープログラムに名を連ねています。
- 日本の企業
- Rapidus: 日本の次世代半導体製造を目指す新会社で、imecのコアパートナープログラムに参加し、2nm以降の先端ロジック半導体技術の開発で深く連携しています。
- SCREENホールディングス: 半導体製造装置メーカーとして、imecとの共同研究を加速させています。
- 三井化学: EUV露光用CNTペリクル技術の事業化に向けた戦略的パートナーシップを締結しています。
- 栗田工業: imecの持続可能半導体技術プログラムに参加しています。
- 材料・装置メーカー: 東京エレクトロンのほかにも、半導体製造に不可欠な材料や装置を供給する多くの企業と協力関係にあります。
- 研究機関・大学: 世界各国の大学や研究機関とも連携しており、日本では北海道大学や大阪大学、理化学研究所、物質・材料研究機構などとも研究提携を進めています。
- 自動車業界: 車載チップレットプログラムを発足させ、BMWやARMなどが参加しています。これは、自動車の電子化が進む中で半導体技術の応用を加速させる目的があります。
- 医療・ライフサイエンス分野: 例えば、Merckと共同でMicroPhysiological Systems(MPS)プラットフォームの開発を進めるなど、半導体技術を医療・ヘルスケアに応用する研究も行っています。

imecは、広範なパートナーシップを通じて、半導体技術のイノベーションを加速し、多様な産業分野への応用を推進しています。
コメント