東レのフッ化物不使用離型フィルム 離型フィルムとはなぜか?どのようにフッ化物不使用としたのか?

この記事で分かること

  • 離型フィルムとは:製品の製造工程で樹脂や接着剤が金型等に付着するのを防ぐ「工業用の敷き紙」です。表面に特殊なコーティングが施されており、成形後に製品を傷つけずスムーズに剥がすための重要な役割を担います。
  • フッ化物が使用される理由:物質の中で最も「他のものとくっつきにくい(非粘着性)」性質を持つためです。また、熱や薬品に非常に強く、高温の製造プロセスでも変質せずにスルッとはがれる高い信頼性があるため、長年重宝されてきました。
  • フッ化物不使用とした方法:ナノアロイ技術を用い、複数の樹脂をナノレベルで混合・制御した、フッ素なしでも160℃の高温に耐える強度と、製品がスルッとはがれる高い離型性を両立させました。

東レのフッ化物不使用離型フィルム

 東レが開発した「フッ化物不使用(フッ素フリー)」かつ「160℃の耐熱性」を備えた離型フィルムは、環境規制への対応と高性能化を両立させた画期的な材料です。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC232OF0T20C26A1000000/

 これまで高い離型性(はがれやすさ)と耐熱性を両立するにはフッ素系材料が不可欠でしたが、東レは独自の高分子設計技術でこれを打破しました。

離型フィルムとは何か

 「離型(フィルム」とは、「くっつくのを防ぐための、使い捨ての敷き紙やカバー」のような役割を持つ工業用フィルムのことです。

 身近な例で例えると、お菓子作りで使う「クッキングシート」は生地が天板にくっつかないように敷き、焼き上がったらペロッとはがすことができます。この機能を高度な工業製品(スマートフォンや車の部品など)の製造工程に持ち込んだものが離型フィルムです。


1. 離型フィルムの3つの大きな役割

 製品を作る過程で、接着剤や樹脂が「余計な場所」にくっつかないようにするために使われます。

  • 型離れを良くする: 金型で樹脂を固める際、フィルムを挟んでおくことで、完成した後に製品を傷つけずスムーズに取り出せます。
  • 表面の保護: 製造・輸送中にデリケートな製品の表面が傷ついたり汚れたりするのを防ぎます。
  • 厚みの制御: 粘着剤などの材料を均一な厚さで塗り広げる際の「土台」として機能します。

2. どんな構造になっている?

 離型フィルムは、主に「ベースとなるフィルム」「はがしやすくする薬剤(離型剤)」の2層構造になっています。

  1. ベース(基材): PET(ポリエチレンテレフタレート)などが一般的です。強さや熱への耐性を担います。
  2. 離型層: 表面に薄く塗られたコーティング剤です。
    • シリコーン系: 最も一般的で、非常によく滑ります。
    • 非シリコーン系: 電子部品など、シリコーンを嫌う(接点不良の原因になるため)現場で使われます。
    • フッ素系: 粘着力が非常に強いものを剥がす際に使われます(※東レの新型は、これをフッ素なしで実現したのが凄い点です)。

3. 私たちの身の回りのどこで使われている?

 製品そのものとして残るわけではなく、「作る工程」で活躍して捨てられる影の立役者です。

  • スマホやタブレット: 内部の精密な基板を作る工程や、液晶画面の保護フィルムを貼る前のはがすシートとして。
  • シール・ラベル: シールを剥がした後に残る、ツルツルした台紙そのものです。
  • 医療用パッチ: 湿布や絆創膏の薬剤面を保護している透明なフィルムです。
  • 航空機・自動車: カーボンファイバー(炭素繊維)を固めてパーツを作る際、型にくっつかないよう敷かれます。

 離型フィルムは「はがれる」のが仕事ですが、製造現場はどんどん過酷(より高温、より精密)になっています。

 今回の東レの技術は、「地球環境に配慮した素材(フッ素フリー)を使いつつ、160℃という高温にも耐え、かつきれいにはがれる」という、相反する条件を同時にクリアしたため、製造業界で注目されているのです。

離型フィルムとは、製品の製造工程で樹脂や接着剤が金型等に付着するのを防ぐ「工業用の敷き紙」です。表面に特殊なコーティングが施されており、成形後に製品を傷つけずスムーズに剥がすための重要な役割を担います。

従来品でフッ素が使用されていた理由は何か

 従来品でフッ素(主にフッ素樹脂やフッ素系化合物)が多用されてきた理由は、大きく分けて2つあります。

1. 圧倒的な「非粘着性」

 フッ素は、あらゆる物質の中で最も「他のものとくっつきにくい(非粘着性)」性質を持っています。

  • 強力な接着剤への対応: 一般的なシリコーン系離型剤ではくっついてしまうような、粘着力の非常に強い樹脂や特殊な接着剤でも、フッ素ならスルッとはがすことができます。
  • 表面エネルギーの低さ: 物質の表面張力が極めて低いため、液体状の樹脂が表面に広がらず、弾かれる性質(撥水・撥油性)が非常に高いのです。

2. 過酷な環境に耐える「安定性」

 フッ素と炭素の結合は非常に強固であるため、以下の特性に優れています。

  • 耐熱性: 200℃を超えるような高温プロセスでも、離型剤が溶けたり変質したりしません。
  • 耐薬品性: 製造工程で使用される強力な溶剤や薬品にさらされても、機能が損なわれません。

「どんなに熱くても、どんなにベタベタな材料が来ても、絶対にくっつかずに仕事をする」という点で、フッ素は長年「代わりがいない存在」とされてきました。 

 しかし、この「壊れにくく安定している」という長所が、環境中では「分解されずに残り続ける」というPFAS問題(残留性)として裏目に出てしまったため、今回の東レのような「フッ素なし(フッ素フリー)」技術が急務となっています。

フッ素は、物質の中で最も「他のものとくっつきにくい(非粘着性)」性質を持つためです。また、熱や薬品に非常に強く、高温の製造プロセスでも変質せずにスルッとはがれる高い信頼性があるため、長年重宝されてきました。

フッ素の非粘着性が小さい理由は

 「フッ素の非粘着性が小さい(くっつく力が弱い)」理由は、原子レベルでの「まわりの物質を引き寄せる力の弱さ」にあります。主に以下の2つの科学的理由が挙げられます。

1. 表面自由エネルギーが極めて低い

フッ素原子は非常に高い「電気陰性度(電子を引き付ける力)」を持っています。

  • 内向的な性質: フッ素は自分の電子をぎゅっと抱え込み、外にある他の物質の分子と相互作用しようとしません。
  • 相互作用の遮断: 表面にフッ素が並んでいると、他の物質が近づいても「分子間力(引き合う力)」がほとんど働かないため、接触してもすぐに離れてしまいます。

2. 結合が極めて強固で安定している

フッ素は炭素(C)と非常に強く結びつきます(C-F結合)。

  • 不動のバリア: この結合は非常に安定しているため、外から化学物質が来ても反応して結びつく(くっつく)隙がありません。テフロン加工のフライパンのように、表面が「化学的に完成しきっている」ため、他の物質が入り込めないのです。

フッ素の表面自由エネルギーが極めて低いためです。フッ素は自分の電子を強く保持する性質があり、他の物質と引き合う力(分子間力)がほとんど働きません。その結果、何が接触しても滑り落ちる性質を持ちます。

東レはどのようにしてフッ化物不使用としたのか

 東レがフッ素(PFAS)を使わずに160℃の耐熱離型フィルムを実現した背景には、主に2つの独自技術があります。

1. 「ナノアロイ®」技術による高分子制御

 東レの核となるのが、複数のポリマーをナノ(100万分の1ミリ)単位で細かく混ぜ合わせる「ナノアロイ®」技術です。

  • 仕組み: 熱に強い「ハード成分」と、柔軟性や離型性を担う「ソフト成分」を精密に配置しました。
  • 効果: 本来、熱に弱いポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレンなど)の分子構造を補強し、160℃という高温下でもフィルムが溶けたり伸びたりしない「骨組み」をナノレベルで作っています。

2. 新開発の「高耐熱ポリオレフィン樹脂」

 表面の離型層には、フッ素の代わりに「高耐熱性を持つポリオレフィン(プラスチックの一種)樹脂」を新たに採用しています。

  • 仕組み: 従来のポリオレフィンは高温でベタつきやすいのが弱点でしたが、東レは表面の分子の状態を工夫することで、熱をかけても他の物質と反応しにくい(くっつきにくい)特性を持たせました。
  • メリット: これにより、フッ素コーティングなしでも、高い離型性を維持することに成功しました。

東レ独自の「ナノアロイ技術」を用い、複数の樹脂をナノレベルで混合・制御したのが鍵です。これにより、フッ素なしでも160℃の高温に耐える強度と、製品がスルッとはがれる高い離型性を両立させました。

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