この記事で分かること
- 排除の理由:、米国の補助金獲得と地政学的リスクの回避があります。米国「CHIPS法」の要件を満たすため、中国での先端技術投資を制限し、サプライチェーンから中国製品を排除する方針です。
- 排除する中国製装置:TSMCが排除するのは、中国のNAURAやAMEC、ACM Researchなどが製造するエッチング、成膜、洗浄などの半導体製造装置です。
- NAURAとは:中国最大の半導体製造装置メーカーです。エッチング、成膜、洗浄など、半導体チップ製造に必要な多岐にわたる装置を手掛けており、中国政府の支援のもと、急速に技術力を高めています。
TSMCの中国製製造装置の排除
TSMCは、米国からの補助金獲得や規制リスクの低減を目的として、2ナノメートル(2nm)プロセスの半導体製造において、中国製の製造装置を排除する方針です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC252CV0V20C25A8000000/
この動きは、中国の技術的台頭を阻止しようとする米国の輸出規制政策と密接に関係しています。米国は、TSMCのような主要な半導体メーカーに対し、中国国内の工場の技術レベル向上を制限するなどの措置を講じています。
排除の背景は何か
TSMCが中国製の製造装置を排除する主な理由は以下の通りです。
技術保護
2nmプロセスは、GAA(Gate-All-Around)トランジスタ技術を採用する世界最先端の技術です。中国の製造装置メーカーが、この最先端技術にアクセスすることを制限する狙いもあります。
米国の輸出管理規則と補助金
米国のチップ製造に対する大規模な補助金法である「CHIPS and Science Act」の要件を満たすためです。この法律は、補助金を受け取る企業が中国での先進的な製造能力を拡大することを制限しています。TSMCは、米国アリゾナ州に最先端の工場を建設しており、補助金獲得には米国の政策に沿ったサプライチェーンの構築が不可欠です。
サプライチェーンの多様化とリスク低減
米中間の地政学的緊張が高まる中、TSMCは特定の国への依存を減らし、より安全で安定したサプライチェーンを構築しようとしています。中国製の装置を排除することで、将来的な規制変更やサプライチェーンの混乱リスクを低減できます。

TSMCが中国製製造装置を排除する背景には、米国の補助金獲得と地政学的リスクの回避があります。米国「CHIPS法」の要件を満たすため、中国での先端技術投資を制限し、サプライチェーンから中国製品を排除する方針です。
どんな装置が中国産なのか
TSMCが排除を検討している中国製の半導体製造装置は、主に以下のメーカーが製造しているものです。
主要な中国製半導体製造装置メーカー
- NAURA(北方華創科技集団): 中国最大の半導体製造装置メーカーです。エッチング装置、PVD(物理蒸着)装置、CVD(化学蒸着)装置、洗浄装置などを手掛けています。
- AMEC(中微半導体設備): プラズマエッチング装置やMOCVD(有機金属化学気相成長)装置に強みを持つメーカーです。特にエッチング装置はTSMCの7nmプロセスにも一部採用実績があると言われています。
- ACM Research(盛美半導体): 洗浄装置を主力としています。
これらの企業が製造する装置は、半導体製造プロセスのさまざまな段階で使用されます。具体的には、シリコンウェハーの表面を削ったり(エッチング)、薄膜を形成したり(成膜)、不要なものを洗い流したり(洗浄)する装置が挙げられます。
この動きは、米中間の技術覇権争いがサプライチェーンの隅々にまで及んでいることを示しています。TSMCは、政治的リスクを最小限に抑えつつ、安定した製造体制を維持するために、非中国圏のサプライヤー(オランダのASML、米国のApplied MaterialsやLam Research、日本の東京エレクトロンなど)との連携をさらに強化していくと見られています。

TSMCが排除するのは、中国のNAURAやAMEC、ACM Researchなどが製造するエッチング、成膜、洗浄などの半導体製造装置です。米国からの補助金獲得や技術流出防止のため、最先端の2ナノプロセスでは非中国圏のサプライヤーに限定する方針です。
NAURAはどんな企業なのか
NAURA(北方華創科技集団)は、中国最大の半導体製造装置メーカーです。中国のハイエンドな半導体技術機器を牽引する存在として、急速に成長しています。
事業内容
NAURAの主な事業内容は以下の通りです。
- 半導体製造装置: エッチング装置、PVD(物理蒸着)装置、CVD(化学蒸着)装置、洗浄装置、熱処理装置などを手掛けています。これらの装置は、半導体チップ製造のさまざまな工程で不可欠なものです。
- 真空機器: 真空ポンプや真空バルブなどの真空関連製品も製造しています。
- 精密部品: 半導体製造装置などに使用される精密な電子部品も提供しています。
特徴と強み
- 中国国内での圧倒的なシェア: PVD装置など特定の分野では、中国市場で大きなシェアを占めており、Applied Materialsに次ぐ存在感を示しています。
- 急速な技術力向上: 中国政府の強力な支援を受け、海外企業の買収や技術開発に積極的に投資することで、技術力を急速に向上させています。
- 幅広い用途: 半導体だけでなく、太陽光発電、LED照明、リチウムイオン電池、航空宇宙など、多岐にわたる産業に製品を供給しています。
NAURAは、米中間の技術覇権争いの中で、中国の半導体産業における自給自足の目標を達成するための重要な役割を担う企業として、国際的な注目を集めています。

NAURAは中国最大の半導体製造装置メーカーです。エッチング、成膜、洗浄など、半導体チップ製造に必要な多岐にわたる装置を手掛けており、中国政府の支援のもと、急速に技術力を高めています。
NAURAはtsmc向けにどれくらい半導体製造装置を販売しているのか
NAURAがTSMCに半導体製造装置をどれだけ販売しているかについて、具体的な金額や台数といった詳細な公式データは公開されていません。
しかし、複数の業界レポートやアナリストの分析から、以下の点が推測されます。
- 取引は限定的: NAURAの装置は、これまで主に中国国内の半導体メーカー(SMIC、YMTCなど)に供給されてきました。TSMCのような最先端を走るファウンドリは、歩留まり率や信頼性を重視するため、長年の実績と高い技術力を持つ非中国圏のサプライヤー(ASML、Applied Materials、Lam Research、東京エレクトロンなど)を主に使用しています。
- 一部のプロセスでの採用: 以前は、一部の汎用的なプロセス(例:旧世代の半導体製造や一部のエッチング・洗浄工程)で、TSMCの中国工場などでNAURAの装置が採用されたという報道もありましたが、その取引規模はごく小規模なものと見られています。
- 最先端プロセスでの採用は皆無: 2nmのような最先端のプロセスでは、NAURAを含む中国製装置の採用は、技術的要件を満たせないだけでなく、米国の補助金獲得や地政学的なリスク回避の観点から、ほぼないと考えられます。
NAURAとTSMCの間の直接的な取引規模は非常に小さいか、最先端の生産ラインに関しては皆無に等しいと言えます。
あえて中国製装置を排除した背景には、NAURAなどの中国製装置メーカーとの直接的な取引規模がたとえ小さかったとしても、TSMCがそれを排除する背景には、米国との関係を極めて重視しているという戦略的な判断があります。
直接的な取引量が少なくても、TSMCにとっては、米国との良好な関係を維持し、巨額の補助金を確保し、ビジネス上のリスクを回避する方が、中国製装置を使用し続けることよりも遥かに重要であると判断したのです。

AURAとTSMCの間の直接的な取引規模は非常に小さいものと推測されています。排除の表明は米国との関係を極めて重視しているTSMCの姿勢を示すものとされています。
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