TSMCのファウンドリ市場売上高シェアが70.2%に到達 高いシェアを誇る理由は何か?

この記事で分かること

  • 高いシェアを持つ理由:世界最高水準の技術力、特に最先端の微細化プロセスで競合を大きくリードしています。また、自社製品を持たず製造に特化する純粋なファウンドリとして、顧客の信頼を確立しました。さらに、巨額の投資を継続し、強固なエコシステムを構築することで、圧倒的な地位を築いています。
  • AIの普及でファウンダリ事業に求められるもの:最先端の微細化技術と生産量の増大、複数のチップを統合する高度なパッケージング技術などが必要です。

TSMCのファウンドリ市場売上高シェアが70.2%に到達

 台湾の市場調査会社であるTrendForceの調査によると、TSMCの2025年第2四半期(4-6月)における半導体受託生産(ファウンドリ)市場の売上高シェアは、70.2%に達しました。

TSMC、市場シェアが驚異の70%を突破:半導体ファウンドリー『完全寡占』時代が描く光と影 | XenoSpectrum
2025年第2四半期、世界のテクノロジー業界を震撼させる数字が発表された。台湾の半導体製造大手TSMCが、世界のファウンドリ(半導体受託製造)市場において、史上初めて70%を超えるシェア(70.2%)を獲得したのだ。これ ... Read more

 これは同社史上最高のシェアであり、市場での圧倒的な優位性をさらに強固にしたことを示しています。

ファウンドリとは何か

 「ファウンドリ(foundry)」とは、半導体産業において、半導体の製造を専門に請け負う企業や、そのビジネスモデルのことを指します。

 もともと「foundry」という言葉は、英語で「鋳造所」や「鋳物工場」を意味します。そこから転じて、半導体業界では、他社から依頼を受けて半導体チップを「製造」することに特化したビジネスを指すようになりました。

ファウンドリの役割と半導体業界の分業

 半導体の製造は、以下のようにいくつかの工程に分かれています。

  1. 設計・開発(デザイン):半導体の回路や機能を設計する。
  2. 製造(ファウンドリ):設計されたデータを基に、実際にシリコンウェハーに回路を形成し、半導体チップを生産する。
  3. 後工程(OSAT):製造されたチップを組み立てたり、パッケージングしたり、最終的なテストを行ったりする。

ファウンドリは、このうち「製造」の部分だけを専門に行う企業です。

このビジネスモデルは、半導体業界の分業体制を支える重要な存在です。

  • ファブレス企業(fabless):自社で工場(fab)を持たず、半導体の設計・開発に特化する企業。NVIDIA、AMD、Qualcommなどが代表的です。これらの企業は、自社の設計データをファウンドリに持ち込み、製造を委託します。
  • ファウンドリ企業(foundry):自社では半導体の設計を行わず、他社からの製造を専門に受託する企業。TSMCがその代表例であり、UMCやGlobalFoundriesなどもこれに当たります。

 かつては、設計から製造、販売までを一貫して自社で行う「垂直統合型デバイスメーカー(IDM)」が主流でした。しかし、最先端の半導体製造には莫大な設備投資と高度な技術が必要となり、そのコストとリスクが年々増大しています。そのため、設計と製造を分けることで、それぞれの企業が専門性を高め、コストやリスクを分散する「水平統合型」の分業体制が主流となりました。

 ファウンドリは、この分業体制の中で、高価な製造設備への投資と技術開発に集中することで、複数の企業から製造を受託し、設備の稼働率を高め、効率的に高品質な半導体を生産する役割を担っています。

ファウンドリは、半導体の製造を専門に請け負う企業です。自社で設計は行わず、NVIDIAやAMDといった設計専門企業(ファブレス)から依頼された設計データをもとに、半導体チップを生産します。これにより、高度な製造設備への投資リスクを分担し、半導体業界の分業体制を支えています。

なぜ圧倒的なシェアをもつのか

 TSMCが圧倒的なシェアを持つ理由は、以下の3つの主要な強みによります。

1. 突出した技術力

 TSMCの最大の強みは、世界最高水準の半導体製造技術です。

 特に、半導体の性能を左右する「プロセスルール」の微細化競争で、競合他社を常にリードしています。現在、AIプロセッサや高性能チップに必須とされる3nmプロセスでは、TSMCが他社に先行して量産体制を確立しています。

 この技術的優位性が、最新の高性能チップを開発する企業(NVIDIA、Appleなど)を引きつけています。


2. 純粋なファウンドリビジネスモデル

 TSMCは、自社ブランドの半導体製品を設計・販売せず、製造のみに特化する「純粋なファウンドリ」です。このビジネスモデルは顧客からの信頼を強固にしています。

 顧客であるファブレス企業(工場を持たない設計専門企業)と競合することがないため、安心して自社の設計を委託できるからです。一方、サムスンやインテルは自社製品も手掛けるため、顧客にとって情報漏洩や競争上のリスクが懸念されることがあります。


3. 巨額投資とエコシステムの構築

T SMCは、最先端技術の研究開発と工場建設に毎年数兆円規模の巨額投資を継続しています。この投資力は、競合他社が容易に追いつけない参入障壁となっています。

 さらに、TSMCは製造装置メーカーやIPベンダーなど、半導体製造に関わる500社以上の企業と緊密なパートナーシップを築き、強固なエコシステムを構築しています。これにより、顧客は製品開発から量産までをシームレスに進めることができ、技術とサービスの相乗効果で圧倒的な優位性を維持しています。

TSMCは、世界最高水準の技術力、特に最先端の微細化プロセスで競合を大きくリードしています。また、自社製品を持たず製造に特化する純粋なファウンドリとして、顧客の信頼を確立しました。さらに、巨額の投資を継続し、強固なエコシステムを構築することで、圧倒的な地位を築いています。

AIの普及でファウンドリに必要なことはなにか

 AIの普及により、ファウンドリに必要なことは、主に以下の3つの要素に集約されます。

1. 最先端の微細化技術と生産能力の拡大

 AIチップは、膨大なデータを高速で処理するために、極めて高度な演算能力と低消費電力を要求します。これを実現するには、半導体の回路線幅を可能な限り細かくする最先端の微細化技術(3nm、2nm、さらには1.4nmなど)が不可欠です。AIの進化速度は非常に速く、それに合わせてチップの性能も飛躍的に向上しています。

 ファウンドリは、この技術開発競争で優位性を保つため、巨額の設備投資を継続し、新しいプロセスノードをいち早く量産に結びつける必要があります。

 また、生成AIブームによりAIチップの需要は爆発的に増加しているため、その膨大な需要に応えるための生産能力の拡大も喫緊の課題です。


2. 後工程技術の強化と多様なニーズへの対応

 AIチップは、従来の半導体とは異なり、複数のチップを一つのパッケージに統合するパッケージング技術(後工程)が極めて重要です。高性能なGPUは、演算チップ(ダイ)と高帯域幅メモリ(HBM)を積層し、高速で接続することで性能を最大限に引き出しています。

 ファウンドリは、製造(前工程)だけでなく、この後工程技術(例:TSMCのCoWoS)においても、顧客の多様なニーズに対応できる技術力を持つことが不可欠です。

 AIチップの種類は、データセンター向け高性能GPUだけでなく、エッジAI(小型機器向け)や自動運転向けなど多岐にわたるため、それぞれの用途に最適なパッケージングソリューションを提供できることが求められます。


3. 高い信頼性と安定した供給体制

 AIチップは、データセンターなどの社会インフラを支える基幹部品であり、その供給が途絶えることは大きなリスクとなります。したがって、ファウンドリには、地政学的なリスクや災害に左右されない高い信頼性と安定した供給体制が求められます。

 顧客企業は、少数のファウンドリに依存するリスクを分散するため、複数のサプライヤーを確保しようとする動きも見られますが、現状では最先端技術を持つTSMCへの依存度は非常に高いです。

 そのため、ファウンドリは、複数の地域に生産拠点を分散させるなど、サプライチェーンの強靭化を図る必要があります。

AIの普及でファウンドリに最も求められるのは、最先端の微細化技術と、複数のチップを統合する高度なパッケージング技術です。高性能なAIチップの需要拡大に応じるため、これらの技術への巨額な投資と生産能力の増強が不可欠となっています。

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