この記事で分かること
- 低迷の理由:高インフレと高金利が家計と企業を圧迫し、サービス部門(特に小売り)と建設部門の活動が大きく落ち込んだためです。製造業の回復も遅れました。
- サービス部門の不調理由:インフレと高金利で家計の購買力が低下し、小売りなど裁量的支出が大幅に抑制されたためです。また、セールを控えた買い控えも影響しました。
- 今後の見通し:景気後退リスクが高まり、低成長が続く見通しです。インフレ鈍化と景気の冷え込みから、イングランド銀行(BOE)による利下げ観測が強まっており、これが今後の経済回復の鍵となります。
イギリスのGDP低迷
英国立統計局(ONS)が発表した2025年8月から10月の国内総生産(GDP)は、前期比で0.1%の減少となり、市場予想の横ばい(0.0%)を下回る予想外のマイナス成長となりました。
https://jp.reuters.com/markets/japan/RTYGGEOG4NKPFAFWW4BRVTVXBY-2025-12-12/
このマイナス成長は、英経済が引き続き高金利やインフレ、そして政策的な不確実性の影響を受け、非常に低調な状況にあることを示しています。
予想外のマイナス成長となった理由は
予想外のマイナス成長(8月-10月期で0.1%減)となった主な理由は、サービス部門と建設部門の活動が大きく落ち込んだためです。特に以下の要因が経済活動の足を引っ張りました。
1. サービス部門の予想外の落ち込み
- 最大の下落要因: イギリス経済の約8割を占めるサービス部門が予想を裏切って大きく落ち込みました。
- 小売り業の不振: 特に10月単月で、小売り業を含む消費に関連する活動が低調でした。高いインフレと高金利による家計への圧迫が、消費者の支出を抑制したと考えられます。
2. 建設部門の不振
- 金利上昇の影響: 建設部門は、イングランド銀行(BOE)による度重なる利上げの影響を最も強く受ける分野の一つです。高金利によって住宅ローン金利が上昇し、住宅投資が大幅に減少したことが、建設活動の急激な落ち込みにつながりました。
3. 製造部門の回復の遅れ
- サイバー攻撃の影響: 9月に自動車大手ジャガー・ランドローバー(JLR)が受けたサイバー攻撃により、一時的に生産が落ち込みました。10月には回復が期待されていましたが、エコノミストが予想していたほどの力強い回復は見られず、これも全体を押し上げる要因とはなりませんでした。
、高インフレと高金利が家計と企業に重くのしかかり、サービスと建設といった主要部門で活動が停滞または後退したことが、予想外のマイナス成長の直接的な原因となりました。

高インフレと高金利が家計と企業を圧迫し、サービス部門(特に小売り)と建設部門の活動が大きく落ち込んだためです。製造業の回復も遅れました。
サービス部門が予想を裏切って大きく落ち込んだ理由は何か
サービス部門が予想を裏切って大きく落ち込んだ理由は、主に消費者の信頼感の低下と支出の抑制にあります。サービス部門の中でも、特に小売りと顧客向けサービスが不振でした。
サービス部門落ち込みの主要因
- 高インフレと高金利による消費圧力:
- 過去数年間続いた高インフレ(物価高)と、それを抑えるためのイングランド銀行による度重なる利上げが、家計の購買力を著しく低下させました。
- ローンやクレジットカードの支払い負担が増したことで、消費者は必需品以外の裁量的支出(Optional Spending)を大幅に手控えました。
- 「ブラックフライデー」前の買い控え:
- 10月は、多くの消費者が11月後半のブラックフライデーや年末のセールに向けて、家電や衣料品などの購入を意図的に延期したことが、小売り売上高を大きく押し下げました。
- 小売業者の報告でも、「大幅な割引を待つ顧客」の存在が指摘されています。
- 顧客信頼の脆弱化と不確実性:
- 今後の経済見通しや、政府の予算案(Autumn Budget)を控えた政策的不確実性から、顧客の信頼感(Consumer Confidence)が弱まりました。
- 企業も顧客からの需要が弱まっているため、新規採用を控えたり、逆に人員を削減したりする動きが見られました。
サービス部門が重要である理由
サービス部門は英国経済の約8割を占めており、この部門の僅かな活動の落ち込みであっても、GDP全体に大きな影響を与えます。高金利の影響が時間差で徐々にサービス部門全体に浸透し、特に消費に直結する分野の活動を冷え込ませたことが、マイナス成長の決定打となりました。

サービス部門は高インフレと高金利で家計の購買力が低下し、小売りなど裁量的支出が大幅に抑制されたためです。また、セールを控えた買い控えも影響しました。
今後の見通しはどうか
2025年8月-10月期の予想外のマイナス成長を受け、今後の英国経済の見通しは、引き続き低成長が続くと見られています。ただし、この経済の冷え込みは、金融政策の大きな転換を促す可能性が高いです。主な見通しと注目点は以下の通りです。
1. 景気回復のペースと成長見通し
- 低成長の継続: 2026年にかけても、英国経済は高い金利と購買力の低迷の影響を受け、緩やかな回復にとどまる可能性が高いです。一部の予測では、2026年の成長率は今年の水準から鈍化すると見られています(例:INGは2026年を0.9%成長と予想)。
- OECDの予測: 経済協力開発機構(OECD)は、2026年の英国GDP成長率を1.2%に上方修正していますが、これは主に財政拡張的な予算の影響を見込んだもので、景気の力強い回復を示すものではありません。
- 内需の重荷: 高金利とインフレによる実質可処分所得の伸び悩み(2026年は0.5%増に鈍化予想)が、個人消費を抑制し続ける最大の足かせとなります。
2. 金融政策(イングランド銀行/BOE)の動向
この予想外のマイナス成長は、BOEの金融政策に利下げ圧力を強める要因となります。
- 利下げ観測の加速: 景気後退リスクが高まったことで、市場ではBOEが金融引き締め(高金利)から金融緩和(利下げ)へと舵を切る時期が早まるとの観測が強まっています。
- 利下げのタイミング:
- 一部の市場関係者は、BOEが直近の会合(12月)や2026年初頭にも利下げに踏み切る可能性を織り込み始めています。
- BOEはすでに2025年8月に利下げを実施しており、経済がさらに冷え込む中、今後もインフレが鈍化すれば利下げサイクルが再開されると見られています。
- 目的: 利下げは、高金利で冷え込んだ住宅市場や企業投資を下支えし、経済活動を刺激することを目的とします。
3. リスク要因
- 政治的不確実性: 2026年を巡っては、政治的な不確実性(次期総選挙など)が企業投資や経済見通しに対する最大のリスク要因の一つとされています。
- インフレ再燃リスク: 賃金上昇率の鈍化は予想されるものの、地政学的リスクなどによるエネルギー価格の再高騰や、賃料(家賃)上昇によるサービスインフレの高止まりなど、インフレの上振れリスクは依然として存在します。
英国経済は「高金利の副作用による景気減速」という厳しい状況にあり、今後はBOEがいつ、どれだけ利下げに踏み切るかが景気回復の鍵を握ることになります。

景気後退リスクが高まり、低成長が続く見通しです。インフレ鈍化と景気の冷え込みから、イングランド銀行(BOE)による利下げ観測が強まっており、これが今後の経済回復の鍵となります。

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