この記事で分かること
- アルバックのFPD製造装置:真空装置であるスパッタリング装置や真空蒸着装置などが主力となっています。
- スパッタリング装置の役割:ガラス基板上に透明電極膜や金属配線膜など、ディスプレイに不可欠な様々な薄膜を、高精度かつ均一に形成することです。
- 国内のFPD製造関連メーカの状況:FPDメーカーは、パネル生産では韓国・中国に主導権を譲りました。しかし、製造装置(アルバック、東京エレクトロンなど)や高性能な材料分野で依然として強い競争力を持ち
アルバックがFPD製造装置の国内生産から撤退
アルバックがFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置の国内生産から撤退し、中国に生産を集中させるという報道があります。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00760385
この動きは、国内のFPDパネル生産が縮小する中で、日本の装置メーカーがグローバル市場で生き残るための戦略的転換と言えるでしょう。
アルバッグのFPD製造装置とは何か
アルバックのFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置とは、主に液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)などの製造プロセスで使用される、さまざまな真空装置のことです。
アルバックは、長年にわたり、この分野で高い技術力と実績を誇ってきました。その主要な装置と技術には、以下のようなものがあります。
主要な装置の種類
- スパッタリング装置:
- FPDの基板上に、透明導電膜(ITO)や配線膜(金属)などを形成するための装置。
- ディスプレイの画素を構成する上で不可欠な薄膜を、均一かつ高精度に成膜する技術が強みです。
- 特に大型ガラス基板に対応したスパッタリング装置は、同社の主力製品でした。
- 真空蒸着装置:
- 主に有機ELディスプレイの有機材料層を成膜するための装置です。
- 有機ELは、その性質上、非常に薄い膜を高い精度で形成する必要があり、アルバックの真空技術が活かされています。
- PE-CVD装置:
- 「プラズマCVD(化学気相成長)」装置のことで、ディスプレイの絶縁膜やバリア膜などを形成するために使われます。
- 安定したプラズマ環境を作り出し、高品質な薄膜を成膜する技術が重要です。
- ドライエッチング装置:
- ディスプレイの回路パターンを形成するために、不要な薄膜を除去する装置です。
- 微細な加工を正確に行うために、高度なプラズマ制御技術が求められます。
アルバックの強み
アルバックは、これらの装置を単体で提供するだけでなく、FPD製造プロセス全体をカバーする幅広いラインナップと、顧客のニーズに合わせたカスタム装置を提供できる総合力が強みです。
特に、以下の技術が同社のFPD製造装置を支えています。
- 大型基板への対応: 第8世代、第10.5世代といった超大型ガラス基板にも対応し、高効率な生産を可能にします。
- 高精細・高純度な成膜技術: 塵や不純物の発生を抑え、高品質なディスプレイ製造に貢献します。
- 真空技術: すべての装置の基盤となる真空技術は、半導体製造装置など他分野にも応用されています。
近年、FPD市場の変動や、半導体・電子部品といった他の成長分野への注力から、アルバックの事業構造は変化しています。しかし、FPD製造装置で培った真空技術や薄膜形成技術は、現在の主力事業である半導体や電子部品製造装置にも活かされています。

アルバックのFPD製造装置は、液晶や有機ELディスプレイの製造に使われる真空装置です。スパッタリング装置や真空蒸着装置などを主力とし、大型ガラス基板に対応した薄膜形成技術で、ディスプレイの高性能化に貢献しています。
FPD製造でのスパッタリング装置の役割は
FPD製造におけるスパッタリング装置の役割は、ディスプレイを構成する様々な薄膜を、ガラス基板上に高精度で形成することです。
これは、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)の画素や回路を形成する上で、不可欠なプロセスです。
1. 仕組みと形成される膜
スパッタリングとは、真空中でターゲット(成膜材料)にアルゴンなどの高エネルギー粒子を衝突させ、弾き出されたターゲットの原子をガラス基板上に堆積させて薄膜を作る技術です。
この技術によって、以下のような重要な膜が形成されます。
- 透明導電膜: 液晶ディスプレイやタッチパネルに不可欠なITO(酸化インジウムスズ)などの透明な電極膜です。
- 金属配線膜: TFT(薄膜トランジスタ)アレイの回路を構成する金属の配線膜。
- 絶縁膜・半導体膜: 回路を形成するために、必要な絶縁膜や半導体膜を成膜します。
2. なぜスパッタリングが使われるのか
FPD製造において、スパッタリングは他の成膜方法に比べて以下の利点があります。
- 高密着性・高耐久性: 高エネルギーの粒子が膜を形成するため、基板との密着性が非常に高く、耐久性に優れた膜ができます。
- 均一で緻密な膜: 広範囲にわたって均一な厚みと滑らかな表面を持つ膜を形成できるため、大型ガラス基板での高精細なディスプレイ製造に適しています。
- 幅広い材料への対応: 金属、酸化物、窒化物など、様々な材料の薄膜を形成できます。
これらの特性から、スパッタリング装置は現代の高性能なディスプレイ製造に欠かせない装置となっています。

FPD製造でのスパッタリング装置の役割は、ガラス基板上に透明電極膜や金属配線膜など、ディスプレイに不可欠な様々な薄膜を、高精度かつ均一に形成することです。これにより、高精細な回路や画素が作られます。
国内のFPD製造メーカーの現状は
現在、日本国内のFPD(フラットパネルディスプレイ)製造メーカーは、かつてのようなパネル(最終製品)の製造においては、大きなシェアを占めているとは言えません。グローバルな競争、特に韓国や中国メーカーの台頭により、パネル製造の主戦場は海外へと移っています。
しかし、日本企業は別の形でFPD産業において重要な役割を担い続けています。
1. 装置・材料メーカーとしての強み
日本の企業は、FPD製造に必要な製造装置や高性能な材料の分野で依然として強い存在感を示しています。
- 製造装置: アルバック、東京エレクトロン、キヤノン、ニコン、SCREENホールディングス、芝浦メカトロニクスなどが、FPD製造に欠かせないスパッタリング装置、露光装置、コータ/デベロッパ、検査装置などを提供しています。これらの企業は、最先端の技術を活かし、特に高精細な有機EL(OLED)ディスプレイの製造装置で高いシェアを誇っています。
- 材料: ディスプレイの偏光板、カラーフィルター、液晶材料、有機EL材料といった、高性能を左右する重要部材でも日本企業が強みを持っています。
2. 中国・韓国メーカーとの連携
日本の装置・材料メーカーは、FPDの生産拠点となっている中国や韓国のパネルメーカーに対して、自社の技術や製品を供給することで事業を拡大しています。これにより、最終製品の製造拠点が海外にシフトしても、日本のFPD関連産業は成長を続けています。
3. 今後の動向
今後は、スマートフォンやタブレット向けの高付加価値な有機ELディスプレイや、VR・AR向けの超高精細ディスプレイなど、新たな市場の需要に対応するため、製造装置や材料への投資が継続すると見られています。
特に、中国ではG8.6(第8.6世代)の有機EL投資が計画されており、日本の装置メーカーにとってはビジネスチャンスとなります。
まとめると、日本のFPD製造メーカーは、最終製品であるパネルの生産は縮小傾向にあるものの、その製造を支える「装置」と「材料」の分野で世界的に重要な地位を維持していと言えます。

かつて世界を牽引した国内FPDメーカーは、パネル生産では韓国・中国に主導権を譲りました。しかし、製造装置(アルバック、東京エレクトロンなど)や高性能な材料分野で依然として強い競争力を持ち、世界のFPD産業を支えています。
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