電子部品:黄銅のコンタクト部への利用 黄銅の特徴は何か?なぜ亜鉛の添加で加工性や展延性が良化するのか?

この記事で分かること

  • 黄銅の特徴:加工性に優れ、比較的安価なため、コストが重視される民生機器や自動車向けに広く使われています。ただし、バネ性はリン青銅に劣るため、めっきによる表面処理が重要です。
  • 亜鉛の添加で加工性が改善する理由:展延性と被削性の両方を兼ね備えているため加工性に優れます。銅本来の延性に加え、亜鉛が適度な硬度を与え、切削時に切りくずが分断しやすくなります。
  • 展延性が良化する理由:亜鉛を添加しても銅の面心立方格子(FCC)構造が維持されるため、優れた展延性が保たれます。また、亜鉛が合金内で均一に固溶することで、組織が安定し、プレス加工などの塑性加工が容易になるため、加工性が向上します。

黄銅のコンタクト部への利用

 日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。

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 日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。

 今回は受動部品であるコネクタのコンタクト部分に使用される金属、黄銅についての記事となります。

黄銅の特徴は何か

 黄銅(真鍮)は、コネクタのコンタクトに広く使用される金属であり、亜鉛の合金です。特に、比較的安価で優れた加工性と良好な導電性を持つため、民生品や自動車用途など、コストと性能のバランスが求められる多くの分野で採用されています。


特徴と利点

  • 優れた加工性: 黄銅は展延性や被削性に優れており、複雑な形状のコネクタコンタクトをプレス加工や切削加工で効率よく大量生産するのに適しています。
  • 比較的安価: リン青銅やベリリウム銅などの他の銅合金と比較して、原材料費が安いため、コストを抑えることが可能です。
  • 良好な導電性: 純銅には劣りますが、コネクタとして十分な電気伝導性を持ちます。
  • 美しい外観: 黄金色に輝くため、装飾的な用途にも使用されます。

欠点と対策

 黄銅は、リン青銅に比べてバネ性(弾力性)が劣るという欠点があります。このため、着脱回数が多く、高い接触安定性が求められる用途にはリン青銅が選ばれることが多いです。また、空気中の酸素と反応して酸化被膜ができやすく、接触抵抗が増加する可能性があります。

 この問題に対処するため、黄銅のコンタクトには通常、スズめっき金めっきなどの表面処理が施されます。これにより、酸化を防ぎ、安定した電気的接続を長期間維持することができます。

 黄銅は、リン青銅やベリリウム銅などとそれぞれの特性に応じて使い分けられ、コネクタの機能やコスト要件を満たす上で重要な材料となっています。

黄銅(真鍮)は、コネクタのコンタクトに用いられる銅と亜鉛の合金です。加工性に優れ、比較的安価なため、コストが重視される民生機器や自動車向けに広く使われています。ただし、バネ性はリン青銅に劣るため、めっきによる表面処理が重要です。

なぜ加工性に優れるのか

 黄銅(真鍮)が優れた加工性を持つのは、主に展延性被削性の両方を兼ね備えているからです。

展延性(プレス加工性)

 黄銅は、銅の優れた展延性(薄く伸ばしたり、細く引き延ばしたりできる性質)を受け継いでいます。そのため、常温でも破断することなく大きく変形させることができ、プレス加工や深絞り加工など、板材を曲げたり成形したりする加工に非常に適しています。


被削性(切削加工性)

 黄銅は、切削加工で削りやすい性質(被削性)にも優れています。これは、黄銅に添加されている亜鉛の働きと、切削性を高めるために意図的に加えられるの働きによるものです。

  • 亜鉛の働き: 亜鉛を添加することで、純粋な銅よりも適度な硬さが加わり、切削時に粘りすぎず、切りくずが細かく分断されやすくなります。
  • 鉛の働き: 鉛を添加した「快削黄銅」では、鉛が金属内部で微細に分散し、切削時の潤滑剤のような役割を果たします。これにより、切削工具への摩擦抵抗を減らし、切削をよりスムーズに行うことができます。

 これらの特性により、黄銅は複雑な形状や高精度が求められる部品を、高速かつ効率的に加工するのに適した材料となっています。

黄銅は銅と亜鉛の合金で、展延性被削性の両方を兼ね備えているため加工性に優れます。銅本来の延性に加え、亜鉛が適度な硬度を与え、切削時に切りくずが分断しやすくなります。

亜鉛を添加することで展延性が改善するのはなぜか

 黄銅に亜鉛を添加すると展延性が向上する理由は、銅の結晶構造を保ちつつ、亜鉛原子が銅の格子内に固溶し、合金全体の組織を安定させるからです。


亜鉛添加による効果

 純粋な銅は、面心立方格子 (FCC) と呼ばれる結晶構造を持っています。この構造は原子の配列が密で、各原子が互いに滑りやすいため、優れた展延性を示します。

 一方、亜鉛を銅に添加して黄銅を作ると、亜鉛原子は銅のFCC格子の中に溶け込み、合金全体として均一な単相固溶体(α相)を形成します。このα相の黄銅は、亜鉛の含有量が約38%程度までであれば、銅と同じ面心立方構造を維持します。

 この構造が保たれるため、黄銅は銅本来の展延性を引き継ぎつつ、亜鉛がもたらす特性も獲得します。また、亜鉛が加わることで、純粋な銅よりも加工の際に滑りがよくなり、切削加工性も向上します。

まとめ

 亜鉛が混ざることで、黄銅は純銅よりも加工がしやすくなります。これは、亜鉛が銅の展延性に優れた結晶構造を保ちながら、加工性をさらに高めるからです。しかし、亜鉛の含有量が多すぎると、β相などの別の結晶構造に変化し、脆くなるため、コネクタの材料としては適切な亜鉛量に調整することが重要です。

亜鉛を添加しても銅の面心立方格子(FCC)構造が維持されるため、優れた展延性が保たれます。また、亜鉛が合金内で均一に固溶することで、組織が安定し、プレス加工などの塑性加工が容易になるため、加工性が向上します。

亜鉛の添加で適度に硬くなるのはなぜか

 亜鉛を銅に添加すると、固溶強化と呼ばれる現象が起こるため、金属が適度に硬くなります。


固溶強化の仕組み

純 粋な金属(この場合、銅)は、規則正しく原子が並んだ結晶構造を持っています。この結晶構造には「転位」と呼ばれる原子の配列のズレ(欠陥)が存在し、この転位が移動することで、金属は力を加えても破断せずに形を変える(塑性変形する)ことができます。

 亜鉛を銅に添加すると、亜鉛の原子が銅の結晶格子の内部に入り込み、銅の原子の代わりに不規則に配置されます。この不規則な原子の配置が、転位の動きを妨げる障害物となります。

 この結果、黄銅は純粋な銅よりも硬く、強度が増加します。同時に、亜銅の含有量が適切であれば、銅の持つ優れた展延性も維持されるため、黄銅は加工しやすい材料となるのです。

亜鉛原子が銅の結晶格子の内部に溶け込み、不規則な配置で固溶するためです。これにより、金属の塑性変形を担う転位の動きが妨げられ、金属全体の強度が向上し、適度な硬さになります。

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