この記事で分かること
- 植物工場とは:工的に管理された環境の中で作物を栽培する施設のことで天候の影響を受けない、品質が安定し、都市近郊でも栽培が可能になるなどの利点がある一方、コスト面や作物の種類が少ないなどの課題もあります。
- 植物工場の重要性:気候・人手・安全・効率・未来すべての面で従来の農業を補完・進化させる存在として、注目されています。
- わさびが選ばれた理由:「難しいけど儲かる」「栽培が特殊だから工場に向く」「差別化できる」という三拍子がそろってるため、植物工場に最適になっています。
植物工場でのわさび栽培
三菱ガス化学は、福島県白河市の「QOLイノベーションセンター白河」内に、国内最大規模となる完全人工光型植物工場を建設するなど植物工場の検証、運用を進めています。

わさびの大規模工場栽培に関する技術開発を開始 | 当社について | 三菱ガス化学株式会社
三菱ガス化学のニュースリリースをご覧いただけます。
同社は、わさびの大規模栽培に関する開発委託契約を締結し、大規模植物工場での技術開発を開始したことを報告しています。
植物工場とは
植物工場とは、人工的に管理された環境の中で作物を栽培する施設のことです。天候や季節に左右されず、安定的に高品質な農作物を生産できるのが大きな特徴です。
■ 植物工場の主な種類
- 完全人工光型
- LEDなどの人工光だけで植物を育てる。
- 密閉空間で空調・光・水・養分などを完全制御。
- レタスやバジルなど葉物野菜に多い。
- 例:三菱ガス化学の工場やスプレッド社など。
- 太陽光利用型
- ハウス型(ビニールハウスなど)で自然光+一部人工補助。
- 温度・湿度・二酸化炭素濃度などを管理。
- トマト・イチゴなど果菜類にも適用。
■ 特徴・メリット
- 通年生産:天候不問で365日栽培可能。
- 品質安定:形・味・栄養価が均一に。
- 病害虫リスク低減:密閉空間なので農薬がほとんど不要。
- 都市近郊での栽培:輸送コストや鮮度保持が有利。
- 省スペース・多段栽培:高層化も可能で省土地型。
■ 課題・デメリット
- 初期投資が高額:設備費用・ランニングコストが高い。
- 電力消費が大きい:特に完全人工光型。
- 限られた作物:根菜や果実類はまだ難易度が高い。
■ 最近の動向・用途
- 企業参入が加速:三菱ガス化学、パナソニック、サントリーなど。
- 医療・機能性野菜の開発:ワサビ・高ポリフェノール野菜など。
- 宇宙農業への応用:閉鎖環境での自給自足技術として注目。

植物工場とは、人工的に管理された環境の中で作物を栽培する施設のことで天候の影響を受けない、品質が安定し、都市近郊でも栽培が可能になるなどの利点がある一方、コスト面や作物の種類が少ないなどの課題もあります。
植物工場の重要性の増加背景は何か
植物工場は、現代社会の食料・環境・経済の課題を解決する鍵として注目されています。
■ 1. 気候変動・異常気象
- 台風・干ばつ・大雨などの自然災害で露地栽培は不安定に。
- 植物工場なら「天気に左右されない」安定生産が可能。
■ 2. 農業人口の減少・高齢化
- 日本をはじめ多くの国で、農業を担う人が減少中。
- 植物工場は自動化・省人化がしやすく、若者や都市部の人も参入しやすい。
■ 3. 食の安全・衛生ニーズの高まり
- コロナ以降、衛生的な食品供給への関心が上昇。
- 農薬を使わず、異物混入リスクの少ない工場野菜は「安心・安全」。
■ 4. 都市部でのフードロス削減・地産地消
- 都市近郊で栽培→そのままスーパーやレストランへ。
- 輸送距離が短く、鮮度が高く、ロスも少ない。
■ 5. 世界の人口増加と食料問題
- 2050年には世界人口が約100億人に到達。
- 土地や水の資源が限られる中、効率的な食料生産手段として期待。
■ 植物工場は「農業×テクノロジー」の象徴
- IoT・AI・LED・ロボティクスなど、先端技術を駆使。
- 持続可能(サステナブル)で未来志向の農業。

植物工場は気候・人手・安全・効率・未来すべての面で従来の農業を補完・進化させる存在として、注目されています。
なぜわさびが選ばれたのか
今回栽培種として、わさびが以下のような背景やメリットがあります。
■ 1. 自然栽培が難しく、生産が限られている
- わさびはきれいな清流・冷涼な気候・特定の土壌など、非常に限定された条件が必要。
- 日本でもごく一部の地域(静岡・長野・島根など)でしか栽培されていない。
- そのため安定供給が困難で、価格が高止まりしている。
■ 2. 植物工場での環境制御と相性がいい
- わさびが好む「冷涼・高湿・クリーン」な環境は、植物工場で人工的に再現しやすい。
- 根茎(本わさび)だけでなく、葉わさびなど付加価値商品も同時に栽培可能。
■ 3. 高付加価値作物としての魅力
- わさびは比較的小ロットでも高単価が取れるため、工場栽培の高コストをカバーしやすい。
- 海外需要(高級和食・寿司ブーム)もあり、輸出ビジネスにも展開可能。
■ 4. 機能性・健康成分に注目
- わさびに含まれる成分「6-MITC」には抗菌・抗炎症・抗がん作用の報告があり、機能性野菜としても注目。
- 医療・サプリメント用途の原料としての展開も視野に。
■ 5. 他社との差別化
- レタスやバジルは既に多くの企業が手がけており、競争が激しい。
- わさびはまだ工場栽培の事例が少なく、先行者利益が見込める。

わさびは「難しいけど儲かる」「栽培が特殊だから工場に向く」「差別化できる」という三拍子がそろってるため、植物工場に最適になっています。
優れた植物工場には何が必要か
優れた植物工場をつくるには、以下のように単なるハコモノだけでなく、「技術・設計・運用・ビジネスモデル」が一体になっている必要があります。
1. 最適な環境制御技術
- 温度・湿度・CO₂・光(波長・強度・周期)・養液の精密制御。
- 特にLED光のスペクトル設計は、収量・味・栄養価に直結。
- 根の酸素供給や液肥の循環設計も超重要(NFT、水耕など)。
2. 高度な栽培ノウハウ(アルゴリズム)
- 品種ごとの「成長データベース」や「栽培レシピ」が不可欠。
- AI・IoTを用いた最適化や機械学習による予測制御も◎。
3. 省力化・自動化技術
- 播種→育苗→収穫→包装の自動化(AGV、ロボットアーム等)。
- 人手不足対策+一貫生産による品質・衛生の安定化。
4. エネルギー効率・コスト構造の最適化
- 照明・空調の電力消費を最小化する技術設計。
- 再生可能エネルギーとの連携(ソーラー併設など)も重要に。
5. 立地と物流設計
- 都市近郊(販路が近い) or 工業団地(電力・水が安い)。
- 出荷・販売ネットワークとの連携も含めたサプライチェーン設計。
6. 明確な収益モデル・販売戦略
- 高付加価値野菜、機能性成分、業務用OEM、外食直販など。
- 安定した販売先(契約栽培など)があると投資回収も早い。

植物工場の成功には、技術×経営の融合がカギであり、単に「ハイテク」であればよいのではなく、「何を育てるか」「どう売るか」「どこで運用するか」「誰に届けるか」を明確にし、それに合った技術・設計・運用を統合する必要があります。
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