この記事で分かること
- ディスクリートGPUとは:CPUとは独立した専用の基板(グラフィックボード)に搭載されるGPUです。専用のVRAMを持ち、統合型GPU(iGPU)より高い演算能力をもっています。
- ディスクリートGPUのシェア:ディスクリートGPU市場でもNVIDIAは約80%の圧倒的シェアを持ちます。
- インテルの参入理由:AIやデータセンターでのNVIDIAの優位性に対抗し、CPUだけでなく高性能なdGPUも提供することで総合的なプラットフォームを構築するため、収益性の高いPC市場でのシェア拡大も狙いとして参入しました。
ディスクリートGPU
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。ィスクリートGPU
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回はディスクリートGPUに関する記事となります。
ディスクリートGPUとは何か
ディスクリートGPU(Discrete GPU、dGPU)とは、メインのCPUとは分離した、独立したグラフィックス処理ユニットのことです。
一般的に「グラフィックボード(またはグラフィックカード)」として知られている、高性能なGPUを指します。
1. ディスクリートGPUの基本的な特徴
- 独立性: CPUやマザーボードとは別の専用の基板(グラフィックボード)に搭載されており、PCI Express (PCIe) スロットを通じてシステムに接続されます。
- 専用リソース: 独自のVRAM(ビデオメモリ)を搭載しており、システムのメインメモリ(RAM)とは独立して高速に動作します。これにより、グラフィックス処理やAI計算に必要な大量のデータを迅速に処理できます。
- 高性能: 独自の強力な電源回路や大型の冷却システム(ヒートシンクやファン)を備えているため、統合型GPU(iGPU)と比べて桁違いに高い演算能力と描画性能を持ちます。
- 用途: 高負荷な3Dゲーミング、4K/8K動画編集、3Dモデリング、そしてAIの学習・推論など、高い計算能力が求められる分野で使われます。
2. 統合型GPU(iGPU)との違い
ディスクリートGPUの対義語として、統合型GPU(Integrated GPU, iGPU)があります。
| 特徴 | ディスクリートGPU (dGPU) | 統合型GPU (iGPU) |
| 位置 | 独立した基板(グラフィックボード) | CPUチップの内部に組み込まれている |
| メモリ | 専用のVRAMを使用 | システムのメインメモリ(RAM)を共有 |
| 性能 | 非常に高性能 | 比較的低性能 |
| 消費電力 | 高い | 低い |
| 用途 | ゲーミング、AI、クリエイティブ作業 | 一般的なPC操作、Web閲覧、軽作業 |
3. どこで見られるか
- デスクトップPC: NVIDIAのGeForce RTXシリーズやAMDのRadeon RXシリーズといった、増設可能なグラフィックボードの形で搭載されます。
- 高性能ノートPC: 薄型化が課題になりますが、高性能なゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCには、専用の冷却設計とともにディスクリートGPUが搭載されます。
高いパフォーマンスが必要な作業を行う場合、ディスクリートGPUの搭載は不可欠な要素となります。

ディスクリートGPU(dGPU)は、CPUとは独立した専用の基板(グラフィックボード)に搭載されるGPUです。専用のVRAMを持ち、統合型GPU(iGPU)より高い演算能力で、ゲーミングやAI処理などを行います。
ディスクリートGPUでもエヌビディアのシェアが高いのか
ディスクリートGPU(dGPU)市場においても、NVIDIA(エヌビディア)は圧倒的なシェアを維持しています。
特に、高性能なデスクトップPC向けや、AI・データセンター向けの高性能アクセラレーターとしての市場で、非常に強力な地位を築いています。
ディスクリートGPUの市場シェア
ディスクリートGPU(一般的にグラフィックボードとして販売されている製品)の市場シェアは、四半期ごとに変動しますが、長期的に見てNVIDIAがAMDを大きく引き離しています。
- NVIDIAのシェア: 一般的に、市場全体の約80%前後のシェアを占めているとされています(デスクトップPC向け、2024年時点)。
- AMDのシェア: 残りの約20%前後を占める形となっています。
- Intelのシェア: 2022年後半からディスクリートGPU市場に本格参入しましたが、現在のシェアはまだ少数派です。
シェアが高い理由(再確認)
ディスクリートGPUは、AI用途からゲーミングまで高性能が求められますが、NVIDIAの強みは以下の点にあります。
- AI/データセンターでの独占:
- 高性能なAI向けGPU(H100/A100など)は、事実上NVIDIAの独占市場であり、これが売上・利益の大きな柱となっています。
- CUDAエコシステムの存在により、AI開発者はNVIDIA製品を選ぶことが不可避となっています。
- ゲーミング市場でのブランド力と技術革新:
- 高性能な「GeForce RTX」シリーズは、長年の実績と高いブランド力があります。
- DLSS(ディープラーニング スーパーサンプリング)やレイトレーシングといった、最新のグラフィックス技術をいち早く導入し、ゲーマーからの支持を集めています。
- 高性能モデルの優位性:
- 特に価格帯の高いハイエンドモデルでは、NVIDIAの性能的な優位性が顕著であり、この層のユーザーから絶大な支持を得ています。
ディスクリートGPU市場においてもNVIDIAは技術革新と強固なエコシステムによって、圧倒的なトップランナーであり続けています。

ディスクリートGPU市場でもNVIDIAは約80%の圧倒的シェアを持ちます。これは、AI/データセンターでの独占的な地位と、ゲーミング向けの技術革新(RTX/DLSS)によるブランド力によるものです。
インテルがディスクリートGPUを投入した理由は
Intel(インテル)がディスクリートGPU(dGPU)市場に本格的に参入し、Intel Arcシリーズを投入した主な理由は、複数の戦略的な狙いと、長期的な市場の変化に対応するためです。
最大の理由は、データセンターとAI市場でのNVIDIAの優位性への対抗と、PC市場での収益機会の確保です。
1. データセンターとAI市場への戦略的布石
- 総合的なプラットフォーム提供: Intelは、CPU(Xeon)、ネットワーク製品、メモリ、そしてAIアクセラレーター(Gaudiなど)を全て自社で提供する「データセンター向けの総合プラットフォームプロバイダー」を目指しています。
- AI計算資源の確保: AI計算の中心がGPUに移る中で、汎用的なCPUだけではAIワークロードに対応しきれません。高性能なディスクリートGPUを自社で持つことで、AI学習・推論の分野でNVIDIAに対抗する選択肢を顧客に提供し、データセンター市場での主導権を取り戻す狙いがあります。
- アクセラレーターとしての利用: ディスクリートGPUは、ゲーミングだけでなく、AI開発者や科学技術計算のアクセラレーターとしても利用されます。
2. PC市場での収益機会の拡大
- 付加価値の創出: PC市場で長年CPUに内蔵された統合型GPU(iGPU)を主力としてきましたが、高性能化するゲーミングやクリエイティブ作業のニーズに応えるには、高性能なディスクリートGPUが必要不可欠です。
- プレミアムPCセグメントの獲得: ハイエンドなゲーミングPCやクリエイター向けPC市場は利益率が高く、ここに高性能なdGPUを投入することで、収益源を拡大できます。
- 競合他社の牽制: PC市場におけるAMDのCPU(Ryzen)とGPU(Radeon)の連携(デュアルプラットフォーム)に対抗し、自社のCPUと組み合わせることで高いパフォーマンスを発揮する「Intelプラットフォーム」の付加価値を高める狙いもあります。
3. ソフトウェアエコシステムの構築
- 開発環境の統一: Intelは、CPU、iGPU、dGPU、AIアクセラレーターなど、すべての自社製ハードウェアで動作する共通の開発環境「oneAPI」を推進しています。
- 開発者誘致: ソフトウェアの互換性を高めることで、開発者がIntel製ハードウェア全体でアプリケーションを構築しやすくし、結果的に自社のGPU製品への採用を促すことを目指しています。
IntelのディスクリートGPU参入は、PCからクラウドまでの全てをカバーする包括的なコンピューティング企業としての地位を強化するための、重要な戦略的ステップであると言えます。

Intelは、AIやデータセンターでのNVIDIAの優位性に対抗し、CPUだけでなく高性能なdGPUも提供することで総合的なプラットフォームを構築するため、収益性の高いPC市場でのシェア拡大も狙いとして参入しました。

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