この記事で分かること
- ツェナーダイオードとは:逆方向に特定の電圧(ツェナー電圧)が加わると、それ以上電圧が上昇せず、電流が流れ出す特殊なダイオードです。
- 急に電流が流れる理由:強い逆方向電界によって電子が空乏層を突破したり(ツェナー効果)、電子が原子に衝突して雪崩的に増殖したりする(アバランシェ効果)ことで、ある特定の電圧値から急激に電流が流れ出すように作られています。
ツェナーダイオード
日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。
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日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。
今回はツェナーダイオードについての記事となります。
ツェナーダイオードとは何か
ツェナーダイオード(Zener Diode)とは、逆方向にある特定の電圧(ツェナー電圧)が加わると、それ以上電圧が上昇せず、電流が急激に流れ出すという特殊な特性を持つダイオードです。この特性を利用して、回路の電圧を一定に保つ(定電圧化)目的や、過電圧から回路を保護する目的で使われます。「定電圧ダイオード」とも呼ばれます。
ツェナーダイオードの主な特徴と仕組み
一般的なダイオードは、逆方向に電圧をかけるとほとんど電流を流さず、ある程度の逆電圧を超えると破壊されてしまいます。しかし、ツェナーダイオードは、この「逆方向の降伏現象」を積極的に利用するように設計されています。
- ツェナー電圧(降伏電圧):ツェナーダイオードに逆方向の電圧を徐々に加えていくと、ある特定の電圧値に達したときに、急激に逆方向の電流が流れ始めます。この時の電圧が「ツェナー電圧」と呼ばれ、ダイオードの種類によって数ボルトから数百ボルトまで多様な値があります。
- 定電圧作用:ツェナー電圧に達した後は、流れる電流が変化してもダイオード両端の電圧はほぼ一定に保たれます。この「電流は変化するが、電圧は一定に保たれる」という特性が、ツェナーダイオードの最も重要な点です。
- ツェナー効果とアバランシェ効果:この降伏現象には、「ツェナー効果」と「アバランシェ効果」という2つの物理現象が関与しています。
- ツェナー効果: 比較的低いツェナー電圧(5V以下)で優位に働き、高電界によって電子がPN接合の空乏層を「トンネル効果」で直接通り抜ける現象です。
- アバランシェ効果: 比較的高いツェナー電圧(5V以上)で優位に働き、加速された電子が半導体原子に衝突し、新たな電子と正孔を次々と生み出す「雪崩(アバランシェ)」のような現象です。
ツェナーダイオードの主な用途
ツェナーダイオードのこの定電圧特性や電圧制限特性は、様々な回路で活用されます。
- 定電圧回路(シャントレギュレータ):不安定な入力電圧から、特定の安定した直流電圧を得るために使われます。例えば、ICの動作に必要な基準電圧を生成する際に利用されます。比較的簡素な回路で実現できますが、電力効率はあまり高くないため、小電流の用途で使われることが多いです。
- 過電圧保護回路(クランプ回路):回路に異常な高電圧(サージ電圧や静電気放電:ESDなど)が印加された際に、ツェナーダイオードが導通して過大な電圧を吸収し、その電圧をツェナー電圧以下に制限することで、後段のデリケートな電子部品が破壊されるのを防ぎます。
ツェナーダイオードは、電子回路の安定動作と部品保護において、シンプルながらも非常に重要な役割を担っています。

ツェナーダイオードは、逆方向に特定の電圧(ツェナー電圧)が加わると、それ以上電圧が上昇せず、電流が流れ出す特殊なダイオードです。この特性を利用し、不安定な電源から安定した基準電圧を生成する「定電圧回路」や、回路を過電圧から守る「保護回路」に用いられる重要な部品です。
急激に逆方向の電流が流れる理由は何か
ツェナーダイオードに特定の電圧値が加わったときに、急激に逆方向の電流が流れる現象を「降伏現象(ブレークダウン現象)」と呼びます。この降伏現象には、主に以下の2つの物理的な理由が関わっています。
ツェナー効果(Zener Effect):
- 主に低いツェナー電圧(約5V以下)で優位になります。
- ツェナーダイオードは、PN接合部の不純物濃度を高く設計することで、空乏層(キャリアがほとんど存在しない領域)が非常に薄くなっています。
- この薄い空乏層に逆方向の高い電圧が加わると、非常に強い電界が発生します。
- この強い電界によって、電子が量子力学的な「トンネル効果」という現象で、空乏層という障壁を直接通り抜けてしまうことがあります。これにより、ごくわずかな電圧の上昇で急激に電流が流れ始めます。
アバランシェ効果(Avalanche Effect)
- 主に高いツェナー電圧(約5V以上)で優位になります。通常のダイオードが逆方向に破壊される原因もこれです。
- 逆方向に電圧が印加され、空乏層に強い電界が発生すると、そこに存在するわずかな自由電子が電界によって加速されます。
- この加速された電子が、半導体結晶内の原子に高速で衝突します。すると、その衝突によって原子から新たな電子(と正孔)が叩き出されます(衝突電離)。
- 叩き出された新たな電子もさらに加速され、別の原子に衝突して、次々と電子を生み出します。このように、自由電子が「雪崩(アバランシェ)」のように指数関数的に増殖していくため、短時間で急激に大きな電流が流れるようになります。
ツェナーダイオードの設計
一般的なダイオードでは、この降伏現象は素子の破壊につながるため避けるように設計されます。しかし、ツェナーダイオードは、このツェナー効果やアバランシェ効果が発生する電圧(ツェナー電圧)を意図的に制御できるように、半導体の不純物濃度などを調整して製造されます。そして、この降伏領域での「電流は変化しても、電圧はほぼ一定に保たれる」という特性を積極的に利用することで、定電圧源や電圧保護デバイスとして機能するのです。

ツェナーダイオードは、強い逆方向電界によって電子が空乏層を突破したり(ツェナー効果)、電子が原子に衝突して雪崩的に増殖したりする(アバランシェ効果)ことで、ある特定の電圧値から急激に電流が流れ出すように作られています。
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