この記事で分かること
- チップの直接接合とは:はんだバンプや接着剤などの中間材料を介さず、チップ表面どうしを直接貼り合わせて接続する技術です。
- 直接接合の利点:接続密度の高さや、優れた電気特性から半導体デバイスのさらなる性能向上に向けて注目されています。
- 銅銅接合の特徴:金属(銅)同士を直接接合する技術で、異なるチップやウェーハの銅配線同士の接合することで、従来のバンプ接合よりも高密度・高性能な接続を低温で実現できる技術です。
半導体デバイスへの直接接合の普及
半導体デバイスのさらなる高集積化を目指し、ウエハー同士またはチップとウエハーを直接接合する新技術の「ハイブリッドボンディング」の実現に向けた動きがニュースになっています。

AI、5G、データセンターなどの需要増大により、演算処理能力・データ転送速度の向上が求められなかで、微細化(ムーアの法則)だけでは性能の向上の限界を向けています。
従来のワイヤボンディングやバンプ接合では配線長や接合密度に制約があり、より高密度・低抵抗・低インダクタンスの接続方式が必要となっています。
チップ直接接合とは何か
「チップ直接接合(chip-to-chip direct bonding)」とは、複数の半導体チップを、はんだバンプや接着剤などの中間材料を介さず、チップ表面どうしを直接貼り合わせて接続する先端技術です。
特に、電気的・熱的な接続を行う「金属対金属接合(例:銅-銅接合)」や、チップの基板や絶縁層を直接貼り合わせる「表面接合(例:シリコン-シリコン接合)」などが代表的です。
現在のスマートフォンやAI向け先端チップ(Apple, AMD, TSMCなど)では、TSMCのSoIC技術やSamsungのX-Cubeなど、実際にこのチップ直接接合が実装され始めています。
特徴
- バンプレス(突起なし)でチップ間を直接接合
- 微細配線・高密度I/O接続が可能
- 低伝送遅延・高帯域・低消費電力を実現
- 多層(3D)構造のチップ実装に最適
主な接合方法の種類
- 銅-銅接合(Cu-Cu bonding)
→ 電極同士を直接接合し、電気的・熱的に優れた接続が可能 - 表面接合(oxide-to-oxide bonding / Si-Si bonding)
→ 絶縁層や基板を原子レベルの平坦性で接合。強固な接着性を持つ - ハイブリッド接合(Hybrid bonding)
→ 金属と絶縁層の同時接合(例:Cu/SiO₂)で、信号線と絶縁を一体化
利用される分野
- 高性能プロセッサ(3D-IC, HBM, チップレット)
- AI・5G・データセンター向け高帯域パッケージ
- センサー・MEMS・フォトニクス分野
メリットと課題
項目 | メリット | 課題 |
---|---|---|
接続密度 | 非常に高い(μm~nmピッチが可能) | 高精度なアライメントと平坦性制御が必要 |
電気特性 | 低抵抗・低遅延・高帯域 | 酸化膜・微粒子による接合不良リスク |
熱特性 | 優れた熱伝導 | 熱膨張差による信頼性課題 |
歩留まり | ウェーハレベルで同時接合が可能(高効率) | 欠陥が1つでもあると全体不良になりうる |

チップ直接接合は複数の半導体チップを、はんだバンプや接着剤などの中間材料を介さず、チップ表面どうしを直接貼り合わせて接続する技術です。
接続密度の高さや、優れた電気特性から半導体デバイスのさらなる性能向上に向けて注目されています。
従来の微細化はなぜ限界か
「微細化の限界」には、主に以下の理由があります。
1. 物理的限界:トランジスタのサイズが原子サイズに近づく
- 半導体の微細化はゲート長や配線幅を縮小すること
- 7nm、5nm、3nmと進むにつれ、シリコン原子数個分の構造になる
- 量子効果(トンネル電流の増加)によりリーク電流が増える
- → 電力消費・熱問題が深刻化
例:ゲート酸化膜が1nm未満 → 電子がゲート絶縁膜を「すり抜ける」
2. 製造技術の限界
- 微細化にはEUV(極端紫外線)リソグラフィが必要
→ 装置が非常に高額(数百億円規模)
→ マスク精度・光学系の難易度が増す - 歩留まり(不良率)が下がり、コストが大幅上昇
3. 配線遅延と抵抗の問題
- トランジスタが小さくなっても、配線の抵抗(R)と容量(C)によるRC遅延が支配的に
- 配線材料(Cuなど)の限界 → 抵抗率の改善が困難
- トランジスタ自体のスイッチ速度ではなく、配線の遅延がボトルネック
4. 発熱と電力密度の限界
- 微細化でチップあたりのトランジスタ数が増加
- 消費電力・発熱が局所的に集中(電力密度の上限)
- 冷却技術だけでは追いつかない
5. コスト対性能の限界
- 単純なスケーリングでは性能向上に対するコストの上昇が急激
- 1世代進むごとに開発費・工場投資が爆発的に増加
- 大手ファウンドリ(TSMC、Samsungなど)以外が追随できない状況

物理・技術・経済の三重の壁に直面し、微細化による単一チップの性能向上の限界を迎えており、チップレットのような垂直方向への拡張技術が注目されています。
銅銅接合とは何か
「銅銅接合(Cu-Cu接合)」は、半導体パッケージや3D-ICで用いられる金属(銅)同士を直接接合する技術です。
1. 銅銅接合とは
- 異なるチップやウェーハの銅配線同士を、はんだやバンプを介さず直接接合
- 電気的・熱的に優れた接続が可能
- バンプ(突起)を介する接合と比べて配線ピッチを微細化できる
従来
「はんだバンプ」「金バンプ」 → 接続径に制限(数10μm)
銅銅接合
数μm以下の超微細ピッチでも高密度接続が可能
2. 接合メカニズム
- 拡散接合(diffusion bonding):
- 接合面の銅原子が相互に拡散し合い、結晶格子が連続した状態に
- 低温で接合:
- 一般に200~300℃程度で接合可能
- 表面に酸化膜があると接合が阻害 → 酸化膜除去・防止が重要
3. 必要条件
銅銅接合では以下の条件が重要です
- 表面平坦性
- 原子レベル(Ra < 1nm)が望ましい
- 表面清浄性
- 酸化銅や有機汚染物が残ると接合強度が低下
- 表面活性化処理
- プラズマ洗浄、還元雰囲気(H2/N2)、イオンビームなど
4. メリット
- 高密度化
- 1μm以下の超微細接続が可能
- 低インピーダンス・低伝送遅延
- 電気的・熱的接続性能が良い
- 低温接合
- 熱ダメージが少ないため他の材料への影響が小さい
- バンプレス
- 機械的突起がないため高さの低いパッケージが可能
5. 課題
- 酸化防止・除去技術の確立
- 銅は大気中で酸化しやすい
- 大面積接合の均一性
- 接合後の信頼性(熱サイクル、接合強度)
6. 応用分野
- 3D-IC(立体集積回路)
- チップレット間接続
- 先端パッケージ(heterogeneous integration)
- MEMSデバイス接合

銅銅接合は、金属(銅)同士を直接接合する技術で、異なるチップやウェーハの銅配線同士の接合することで、従来のバンプ接合よりも高密度・高性能な接続を低温で実現できる技術です。
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