この記事で分かること
- ウルフスピードとは:アメリカの半導体メーカーでシリコンカーバイド(SiC)チップやウエハの製造を行っています。
- SiCチップとは:シリコンカーバイドで作成された半導体チップのことで、従来のシリコンのチップに比べて、高温・高電圧・高周波に強いという特徴を持っています。
ウルフスピードの破産申請
米国の半導体メーカー、ウルフスピード(Wolfspeed)は、現在、連邦破産法第11章(チャプター11)に基づく破産申請の準備を進めていると報じられています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4ff42cee72490012888a034c2947ff04cf4de079
同社はシリコンカーバイド(SiC)チップの製造で知られ、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー分野での需要増加を背景に急成長を遂げていましたが、中国企業の台頭など近年の経済環境の変化や競争激化により財務状況が悪化しています。
SiCチップとは何か
SiCチップとは、「シリコンカーバイド(Silicon Carbide)」という材料で作られた半導体チップのことです。
従来のシリコン(Si)チップに比べて、高温・高電圧・高周波に強いという特徴を持っており、特に電力変換(パワーエレクトロニクス)の分野で注目されています。
SiCチップの主な特徴
特徴 | 説明 |
---|---|
高耐圧 | 高電圧でも動作可能。1000Vを超える用途に適している。 |
高温動作 | 200℃以上でも安定して動作でき、冷却装置の小型化が可能。 |
高速スイッチング | 電力のON/OFFが高速で、エネルギー損失が少ない。 |
低損失 | 通電時のエネルギー損失が少なく、高効率な電力制御が可能。 |
利用分野
- 電気自動車(EV):インバータ、オンボード充電器、DC-DCコンバータ
- 再生可能エネルギー:太陽光・風力発電のパワーコンディショナ
- 産業機器:モーター制御、電源装置
- 鉄道・送配電:高電圧直流(HVDC)変換装置など
なぜ重要なのか?
SiCチップは、従来のシリコンに比べてエネルギー効率が高く、システムの小型化・軽量化・高効率化が可能になります。
これは電気自動車の航続距離の延長や、再エネ設備の導入コスト低減につながるため、脱炭素社会を支える中核技術として期待されています。

SiCチップとは、シリコンカーバイドで作成された半導体チップのことで、従来のシリコンのチップに比べて、高温・高電圧・高周波に強いという特徴を持っています。
なぜエネルギー効率が高いのか
SiC(シリコンカーバイド)チップのエネルギー効率が高い理由は、材料としての特性が従来のシリコン(Si)よりも電力損失を抑えるのに非常に優れているためです。
1. バンドギャップが広い(Wide Bandgap)
- SiCは3.26 eVと、Si(1.12 eV)に比べて約3倍のバンドギャップを持つ。
- これにより:
- 高温でも電子が漏れにくくなる(=漏れ電流が少ない)
- 絶縁破壊しにくく、高耐圧でも動作可能
→ 結果的に、熱損失や漏れによる無駄な消費電力が減る。
2. 高い電界破壊強度
- SiCは電界に対する絶縁耐性がSiの約10倍ある。
- 同じ電圧を扱う場合、デバイスを薄く・小さくできる。
- → 内部抵抗が小さくなり、オン抵抗(導通時の損失)が減少。
3. 高速スイッチング性能
- SiCは、トランジスタなどのスイッチ動作が速い。
- スイッチがオン・オフする際に発生する損失(スイッチング損失)を大幅に削減。
- → 特にインバータやコンバータなど、電力の変換効率が向上する。
4. 高温動作が可能
- SiCは200℃以上でも安定して動作。
- →冷却装置を小型・簡易にできるため、冷却にかかるエネルギーやコストも削減。

バンドギャップの広さ、電界に対する高い絶縁特性、スイッチ動作の速さ、高温で動作可能な度の特徴から、電気を通すときや切るときに無駄が少ないため、システム全体の電力損失が減り、効率が高くなります。
中国企業の台頭はどれくらい進んでいるのか
中国のSiC(シリコンカーバイド)半導体産業は、近年急速に成長しており、特にSiC基板の生産能力において世界市場での存在感を高めています。
中国国内での生産能力の急増により、SiC基板の供給過剰が懸念されており、価格競争が激化する可能性があります。
電気自動車(EV)や再生可能エネルギー分野での需要増加に伴い、SiCチップの重要性が高まる中、中国企業の動向は世界の半導体市場に大きな影響を与えると考えられます。
生産能力の急拡大
- 中国の主要SiCメーカーであるSICC、TankeBlue、San’anなどは、2023年から2024年にかけて生産能力を大幅に増強しました。これにより、2024年には中国のSiC基板生産量が世界全体の約50%に達する見込みです。
国際的な評価と提携
- 当初は品質や供給能力に懸念がありましたが、Bosch、Infineon、STMicroelectronicsなどの国際的なIDM(垂直統合型デバイスメーカー)が中国企業と提携を結ぶなど、中国製SiC基板の品質と供給能力が国際的に認められつつあります。
SiC基板市場の主要プレイヤー(2023年時点)
企業名 | 市場シェア(推定) |
---|---|
Wolfspeed(米国) | 約60% |
Coherent(米国) | 約15% |
SiCrystal(ROHM傘下、独) | 約13% |
SK Siltron(韓国) | 約5% |
SICC・TankeBlue(中国) | 合計約5% |
*2024年以降、中国企業のシェアはさらに拡大する見込みです。

2023年段階出野シェアはまだ低い状態ですが、中国の主要SiCメーカーであるSICC、TankeBlue、San’anなどは生産能力を増強しており、今後はSiC基板の供給過剰による価格競争が激化する可能性があります。
ルネサスへの影響は
ウルフスピード(Wolfspeed)の破産申請準備は、同社と10年間のSiC(シリコンカーバイド)ウェハ供給契約を結んでいるルネサスエレクトロニクス(Renesas Electronics)にとって、財務的・戦略的な影響を及ぼす可能性があります。
株価への影響
2025年3月末、ウルフスピードの再融資問題が報じられた際、ルネサスの株価は一時11%下落し、約8か月ぶりの大幅な下落となりました。
契約と財務的関係
ルネサスは2023年にウルフスピードと10年間のSiCウェハ供給契約を締結し、2025年からの供給開始に向けて約20億ドルの前払いを行っています。
この前払いは、ウルフスピードの資金調達の一環として位置づけられており、ルネサスは債権者の一部として再建交渉に関与しています。
供給リスクと対応
ウルフスピードの財務問題は、SiCウェハの安定供給に影響を及ぼす可能性があります。ルネサスは、ウルフスピードとの契約を維持しつつ、他の供給元の確保や自社生産能力の強化など、リスク分散策を検討していると考えられます。
今後の展望
ルネサスは、ウルフスピードとの関係を維持しつつ、SiCウェハの安定供給を確保するための戦略を模索しています。
ウルフスピードの再建が成功すれば、ルネサスにとっても長期的な利益となる可能性がありますが、リスク管理の観点から、他の供給元の確保や自社生産能力の強化など、複数のシナリオを想定した対応が求められます。

ルネサスはウルフスピードからSiCウエハの供給を受けているため、破綻による影響を受けるものと考えられます。
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