ACEサバイバー 三谷はるよ 要約

本の概要

子供のころに受けた虐待やネグレトはその人に大きな傷を残します。

このような体験はACEと呼ばれ、近年の研究ではACEは成人後までその人に多くの悪影響を与えることが明かになっています。

福祉社会学、家族社会学、福祉・家族・子どもをめぐる問題や実践について、社会調査による実証研究を行っている筆者によってACEとは何か、ACEは成人にどんな影響を及ぼすのか、ACEから立ち直るために必要なことは何か、ACEの人でも生きやすい社会、ACEを予防するために社会に何が求められているのかなどを知ることができる本になっています。

この本や記事で分かること

・ACEとは何か

・ACEを予防するために必要なことは何か

・子供のころの虐待などのトラウマが将来どう影響するのか

本の要約

要約1

我々の多くは多かれ少なかれ、様々な苦しいことを経験しますが、誰もがその苦痛に折り合いをつけて、見えない傷を抱えながら大人になっていきます。

しかし、幼いころに予測できない危機的状況や耐え難い状況に繰り返し、直面し、傷を負ってしまうと本人が思う以上にその心や体は蝕まれてしまいます。

このような傷を負う体験は逆行的小児体験はAdverse Childhood Experieneces=ACEとよばれています。

ACEは身体的、心理的、性的虐待やネグレクトを受けていたか、家族間での暴力、家族のアルコール依存や薬物、家族の精神疾患やの服役の有無などの質問でスコア化されています。

要約2

ACEスコアは大人になったあともその人に大きな影響を及ぼしてしまいます。

ACEスコアは以下の様なことと相関性があることが明らかになっています。

・心身の疾患(肥満、心疾患、がん、脳卒中、肺疾患、糖尿病)

・問題行動

・失業

・貧困

・社会的孤立

・子育ての困難

ACEによる長期的なストレスで以下のような悪影響を及ぼすため、成人後にまで大きな影響を及ぼしてしまいます。

・ホルモンの働きを妨げることで体内で炎症を招く

・ストレスに敏感な脳の領域が悪影響を受ける

・DNAの発現に関わるエピゲノムを変化させる

要約3

ACEサバイバーは精神状態が良くないことや経済的に不安定なこともあり、自身が子育てをする際に子への虐待やネグレクトなどをする割合が増えており、連鎖が起きてしまっています。

しかし、逆境から立ち直ることができる人もいます。

ACEから立ち直った人は逆境へ適応するプロセスと結果であるレジリエンスを高めていたことが分かっており、下記のような要素がレジリエンスを高めることが分かっています。

・少なくとも片親との密接な関係を持つ

・親へのソーシャルサポート

・子供が地域で信頼できる他者や手段と関わりを持つ

レジリエンスは個々の素養や能力ではなく、プロセスと結果によってもたらされるものであり、逆境を乗り越えることを自己責任としないことが重要です。

要約4

たまたま生を受けた家族の境遇の格差が生涯にわたる多面的な格差につながっていることを理解する必要があり、このような格差を放置しているのは社会の怠慢といえます。

以下のような対策でACEでも生きやすい社会、ACEを予防できる社会を目指す必要があります。

・ACEの発生率や特徴を評価する動向調査を強化する

・ACE研究を支援

・地域のサービス提供者に技術的な支援を行う

・ACEの予防、特定、対応のための公衆衛生的アプローチを啓発していく

・医師や看護師、社会福祉士の養成課程でのACEを学ぶ場の導入

・小中学校でのACE教育の実施

・児童相談所の人員増加、負担軽減

・妊娠期から切れ目のない支援の実施

ACEへの理解を深め、支援を行うことで、ACEでも生きやすい社会とACEを防ぐ社会を実現することができます。

ACEとは何か

 我々の多くは多かれ少なかれ、様々な苦しいことを経験しますが、誰もがその苦痛に折り合いをつけて、見えない傷を抱えながら大人になっていきます。

 しかし、幼いころに予測できない危機的状況や耐え難い状況に繰り返し、直面し、傷を負ってしまうと本人が思う以上にその心や体は蝕まれてしまいます。

 心や体は蝕まれてしまうと、生きていくこと自体に支障を抱え、生涯にわたって苦しみ続けることとなります。

 このような傷を負う体験はACEとよばれています。ACEはAdverse Childhood Experieneces の略であり、逆行的小児体験と訳され、0~18歳までの子供時代に経験するトラウマとなる出来事を指す言葉です。

ACEはAdverse Childhood Experieneces の略であり、0~18歳までの子供時代に経験するトラウマとなる出来事を指す言葉です。

ACE経験者は生涯にわたって苦しみ続けることとが多くあります。

ACEとはどのような経験のことか

 ACEは身体的、心理的、性的虐待やネグレクトを受けていたか、家族間での暴力、家族のアルコール依存や薬物、家族の精神疾患やの服役の有無などの質問でスコア化されます。

90年代からアメリカで始まったACE研究では、ACEスコアと成人後の心身の疾患や問題行動に明らかな関係があることが証明されています。

 最近の研究では、心身の悪影響だけでなく、失業、貧困、社会的孤立、子育ての困難などにもACEが長期的に影響を及ぼすことが分かっています。

ACEは身体的、心理的、性的虐待やネグレクトを受けていたか、家族間での暴力、家族のアルコール依存や薬物、家族の精神疾患やの服役の有無などの経験です。

ACEをスコア化した研究では、ACEスコアと成人後の心身の疾患や問題行動に明らかな関係があることが証明されています。

ACEとどのように向き合うべきか

 近年、児童虐待や家庭内暴力の相談件数は増加傾向にあります。相談しやすい環境が整ってきたことで増加しているため悪いことだけではありませんが、多くの人が虐待や暴力で苦しんでいるといえます。

 家族は大切な存在でありますが、その閉鎖性と不平等さから暴力や葛藤を生み出しやすい組織体でもあります。

 近年は核家族化や地域との関わりの薄さ、経済的な厳しさの増加など家族の閉鎖性がより高まっていることも児童虐待や家庭内暴力増加の要因になっています。

 ACEで受けた格差が生涯にわたる格差へとつながってしまっています。これまで見落とされてきたACEに関する科学的知識を普及し、ACEが少しでも生きやすい視点を持ち、対策と予防の社会的取り組みを喚起することが求められています。

 ただし、ACEが差別につながらないようにすること、ACEとなる両親を糾弾することを目的としないこと、ACEは成人期の生きにくさの原因の一つでしかないことは強く意識する必要があります。

ACEに関する科学的知識を普及し、ACEが少しでも生きやすい視点を持ち、対策と予防の社会的取り組みを喚起することが求められています。

ただし、ACEを差別につなげないこと、両親を糾弾することを目的としないこと、ACEが生きにくさの要因の一つでしかないことを意識する必要があります。

ACEはどんな健康問題に影響を与えているのか

 ACE研究は、肥満の背景に子供のころの逆境体験があるというデータが発見されたことでスタートしました。

 ACEの有無と成人後の健康問題と明らかな相関がみられました。ACEスコアが高いと心疾患、がん、脳卒中、肺疾患、糖尿病などの病気になりやすいことが分かっています。

 また、アルコール依存、薬物依存、自殺未遂など精神状態の悪さによっておこる行動にもACEスコアとの相関がみられました。

ACEスコアが高いと肥満、心疾患、がん、脳卒中、肺疾患、糖尿病などの病気になりやすいことが分かっています。

精神状態の影響するアルコール依存、薬物依存、自殺未遂などもACEスコアは関係しています。

なぜ、ACEは心身に大きな影響を与えるのか

 ACEが心身に与える主要な影響に、ストレス反応の変化があります。

 長期反復的に経験されるACEは通常の限度を超えたストレス反応を引き起こし、心身を損傷してしまいます。

 通常のストレス反応はストレスの原因が収まれば、体内で調整されますが、慢性的なストレスを受けてしまうと、調整ができなくなってしまいます。

 長期のストレスによってホルモンの働きがうまくいかなくなり、体内で炎症を抑制できなくなります。体内での慢性的な炎症が様々な疾患の原因となってしまいます。

 また、ストレスに敏感な脳の領域である前頭前野、偏桃体、海馬などもACEによって悪影響をうける、DNAの発現にかかわるエピゲノムの形を変化させてしまい、標準的な機能を発揮できないことなども明らかになっています。

ACEは長期的なストレスの原因となります。慢性的なストレスを受けるとホルモンの働きがうまくいかなくなり、体内で炎症を抑制できなくなることで心身に悪影響があります。

ストレスに敏感な脳の領域が悪影響を受けたり、DNAの発現にかかわるエピゲノムの形が変化させてしまい、標準的な機能を発揮できないことも心身に悪影響を及ぼす原因です。

ACEは身体外にも影響を与えるのか

 ACEは身体的な影響だけでなく、社会経済的地位へも大きく影響しています。 

 高校中退、失業、貧困にも影響があることも分かっています。

 貧困などの影響は家庭の経済状況の影響も大きいものですが、経済状況の影響を除去しても、より多くのACEを経験した人ほど高等教育を受けにくく、安定した職に就きにくく、経済的なゆとりを受けにくくなっています。

 日本ではACEスコアが0の人が61.6%、1以上の人が38.4%、4以上の人が2.8%となっています。

ACEは身体的な影響だけでなく、社会経済的地位にも影響を与えます。ACEスコアが高いほど、高校中退、失業、貧困の割合が

ACEはほかにどのようなものに影響するのか

 ACEサバイバーは他社との人間関係の構築にも困難を抱えやすい傾向にあります。

 発達段階で親などの養育者と愛着を形成することができなくなったために、適切な人間関係を作る能力に障害が生じてしまっています。

 心のよりどころとなる安全基地がなかったため、不安や怒りをうまく処理できず、他者への基本的信頼も持てず、自尊心や自身を持ちにくくなってしまいます。

 実際にACEサバイバーは結婚しにくく、結婚しても離婚する割合が多い、困った状況に直面しても周囲に頼れる人がいないなど、対人関係に問題を抱えやすくなっています。

ACEサバイバーは結婚しにくく、結婚しても離婚する割合が多い、困った状況に直面しても周囲に頼れる人がいないなど、人間関係の構築にも困難を抱えやすい傾向にあります。

ACEは次世代へ連鎖してしまうのか

 ACEサバイバーは精神状態が良くないことや経済的に不安定なこともあり、自身が子育てをするさいに子への虐待やネグレクトなどをする割合が増えてしまっています。

 逆境を断ち切ることができず、連鎖が起きてしまっています。

 しかし、すべての人が逆境に悪影響から立ち直れないわけではありません。

 ACEから立ち直った人は逆境へ適応するプロセスと結果であるレジリエンスを高めていたことが分かっています。

 レジリエンスは個々の素養や能力ではなく、プロセスと結果によってもたらされるものであり、逆境を乗り越えることを自己責任としないことは重要です。

ACEサバイバーは精神状態が良くないことや経済的に不安定なこともあり、子育ての際に虐待やネグレトをする割合が増えてしまいます。

どうすれば、レジリエンスを高めることができるのか

 レジリエンスを高める要素には以下のようなものがあります。

・少なくとも片親との密接な関係を持つ

・親へのソーシャルサポート

・子供が地域で信頼できる他者や手段と関わりを持つ

 ACEであったとしても、周囲のサポートや幼少期の良い体験をさせることで、レジリエンスを高めたり、子供へのACEを回避できる可能性が高まることも分かっています。

 世帯人数が縮小し、地域の興隆が少なくなった日本では、社会の取り組みとして、親子をサポートし、ポジティブな経験をさせられるかを考える必要があります。

 また、ACEサバイバーが助けを求めようと一歩を踏み出した際に、周囲の人がレジリエンスを妨げ、再トラウマをもたらすことがないようにする必要もあります。

レジリエンスを高める要素には以下のようなものがあります。

・少なくとも片親との密接な関係を持つ

・親へのソーシャルサポート

・子供が地域で信頼できる他者や手段と関わりを持つ

世帯人数が縮小し、地域の興隆が少なくなった日本では、社会的な取り組みで親子をサポートする重要性が増しています。

社会全体でACEとどう向き合うべきか

 人生の初期に経験したACEは障害にわたって、心身の健康を害し、社会経済的地位や人間関係を脆弱にしてしまい、ACEの経験が次世代にも連鎖しやすくなってしまいます。

 たまたま生を受けた家族の境遇の格差が生涯にわたる多面的な格差につながっていることを理解する必要があります。

 このような格差を放置して言えるのは社会の怠慢でしかなく、ACEでも生きやすい社会、ACEを予防できる社会を目指す必要があります。

たまたま生を受けた家族の境遇の格差が生涯にわたる多面的な格差を放置することは社会の怠慢です。

ACEでも生きやすい社会、ACEを予防できる社会を目指す必要があります。

ACEに対して社会は何をすべきなのか

 ACEでも生きやすい社会、ACEを予防できる社会に必要なものは以下のようなものです。

・ACEの発生率や特徴を評価する動向調査を強化する

・ACE研究を支援

・地域のサービス提供者に技術的な支援を行う

・ACEの予防、特定、対応のための公衆衛生的アプローチを啓発していく

・医師や看護師、社会福祉士の養成課程でのACEを学ぶ場の導入

・小中学校でのACE教育の実施

・児童相談所の人員増加、負担軽減

・妊娠期から切れ目のない支援の実施

 ACEが当たり前の知識として普及し、ACEサバイバーやその予備軍の子供たちに対する無関心が払しょくされることで、彼らが生きやすい社会を実現し、ACEを予防する社会づくりが進んでいきます。

ACEでも生きやすい社会、ACEを予防できる社会のためには、ACEへの理解を深め、支援を行うことが重要です。

教育の実施、啓蒙活動、支援の増加などが有効な手段となります。

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