運動脳 アンデシュ・ハンセン 要約

本の概要

脳に関する様々な研究が進んだことで、脳は私たちの一部でなく、脳が私たち自身であることに疑う人はいなくなっており、脳という器官をうまく働かせる方法は多くの人が知りたいところ。

 多くの人のイメージと異なり、脳の働きを高めるのは脳トレではなく、運動。運動をすることで脳の機能が高まることが分かっており、その効果は

・ストレスの軽減

・集中力の増加

・うつの抑制

・記憶力の強化

・創造性の向上

など様々な領域に及ぶ。

 脳の仕組みは狩猟採集時代と変わっておらず、運動量が多いほど生き延びる可能性の高かったため、脳は運動することに喜びを感じ、機能が高まるようにできている。

 狩猟採集時代には動き回ることが多かったため、基本的に脳には有酸素運動が有効である。

この本がおすすめの人

・脳の働きについて知りたい人

・脳の機能を高めたいけど方法が分からない人

・運動を始めるモチベーションのために運動の利点を知りたい人

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脳を働かせるために有効なことは何か

 脳に最高のエクササイズが運動であることが近年の数多くの研究から明らかになっている。

 体を動かすと気分がよくなるだけでなく、記憶力、注意力、創造性、知力などあらゆる認知機能が向上する。

 脳は頭を働かせようとするよりも、身体を動かすことでその真価を発揮するようにできている。

脳の機能は頭を動かすのではなく、身体を動かすことでよくなる。

なぜ、運動は脳に良いのか

 1万2千年前の人類と今の人類に身体の機能のほとんど変わらない。

 しかし、原始時代の人たちは現代人に比べ、はるかによく動いていた。人類の歴史のほとんどで身体を動かさなければ食糧を得ることはできず、生き延びることができなかった。

 人類の身体は生き延びるために動くことに適したつくりになっており、脳も例外ではない。

原始時代の人々は動かなければ、生き延びられなかったため、人類の身体は動くことに適したつくりになっている。

運動は脳にどのような影響を与えるのか

 機能的に優れた脳は、細胞がたくさんある脳でも、細胞同士がたくさんつながっている脳でもなく、それぞれの領域がしっかりと連携していること。

 そして、各領域の連携は身体を活発に動かすことで強化することができる。

 また、脳に欠損した箇所があるとほかの領域で欠損した箇所の機能を補うことがある。脳は可塑性を持ち変化することが可能であり、その変化は大人になっても起こりうる。

 脳の可塑性の研究では身体を活発に動かすほど脳を変えることができ、運動以上の効果をもつものはないことも分かっている。

優れた脳とは各領域が連携していること。脳の各領域は運動によって連携を強化するため、運動によって脳の機能が高まる。

ストレスに運動は有効か

 ストレスによって生じる様々な症状に悩まされている人は非常に多い。ストレス疾患の治療には投薬やセラピーが一般的だが、運動のほうがよりストレス疾患の治療と予防に役立つことが研究によって立証されている。

 そもそもストレスは、脳がなんらかの脅威を感じた際にコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンを放出し脅威に備えるように身体を臨戦態勢する。この状態がストレスを感じている状態。

 ストレス反応は海馬によって抑制されているが、海馬はストレスが長期間続くと委縮し、ブレーキをかけられなくなってします。ストレスが長引いたり、慢性化するのは海馬の委縮によるもの。

運動は投薬やセラピー以上にストレスの軽減に効果がある。

なぜ運動でストレスが軽減されるのか

 運動することでも身体に負担がかかるため、コルチゾールが分泌される。しかし、運動によるコルチゾールの分泌は運動を続けると減っていく。

 また、定期的に運動を続けると運動以外のことが原因でストレスを抱えていても、コルチゾールの分泌が少なくなる効果がある。

 また、同じように冷静な判断を下す機能を持つ前頭葉も運動によって活発化し、ストレス反応を抑制することができる。

 運動は長時間に一回よりも短時間で複数のほうが効果が大きいこともわかっている。また有酸素運動のほうが筋トレなどの無酸素運動よりも効果的であるとするデータも多い。

 ある程度負荷のかかる運動(ウォーキングよりもランニング)で心拍数を上げることで、心拍数の増加=ストレス反応と身体がみなすことにブレーキをかけることができるようになっていく。

運動による負荷に慣れるとストレスホルモンであるコルチゾールの分泌少なくなり、前頭葉が活発化することでストレスを感じにくくなる。

集中力に運動は有効か

 集中力を高めたい人は多く、集中力の改善は自己啓発やサプリメント、民間療法など一大マーケットへと成長している。

 しかし、集中力にも運動の効果のほうがより大きいことが分かっている。

 ドーパミンは報酬系として知られ、食事、運動、人との交流、性行為などの生存確率を上げ、遺伝子を次の世代に残す行為を行った際に放出され心地よい気分になる。

 原始時代の人類は狩猟や住処を探すために走っていたため、生き延びるために必要な運動にで運動に脳が報酬を与えていたと考えられている。

 報酬系の仕組みには、より刺激的なものを求める働きがあるため、目の前のことに集中していても、徐々にドーパミンは放出されないようになり、集中力がきれてしまう。集中しているときにドーパミンの分泌量が減らなければ、集中力を維持することができる。

 運動には集中力を高める効果がある。脳は生き延びるために必要な行為を行うと報酬物質であるドーパミンを放出、快感を得るようになっている。

 ドーパミンが放出されるときほど集中力が高まる

なぜ運動が集中力を高めるのか

 薬でドーパミンの放出量を増やすこともできるが、それ以上に運動の影響が大きい。

 運動することでドーパミンのの放出量を増やすことが可能にある。また運動によって前頭葉が活発化すると衝動を抑えることができ、集中力を増すことができることも分かっている。

 狩りの最中やライオンなどから逃げるときにミスは許されず、精神を集中することが大きな武器になる。身体に負荷を与えることで脳はそれが生死を分ける重要な行動と解釈し、結果的に集中力を高めることができる。

 集中力にもある程度の運動量があるほうがよく、朝30分ほどランニングを行い続けることで大きな効果を得ることができるようになる。

運動によってドーパミンを放出量が増えること、前頭葉が活発化することで衝動を抑え、集中力が増す。

狩りやライオンなどから逃げるときに集中力が欠かせないため、体に負荷がかかると脳は生死にかかわる重大な行動と判断し、集中するようになっている。

うつと運動はどのような関係があるか

 ふさぎこむ状態が続き、将来のことに悲観的になったり、普段なら楽しめることも楽しめなくなっているとうつ病の可能性が高い。

 うつの症状は極度の疲労感、不眠、異常な食欲や食欲の減退など様々だが、共通するのは大きな苦悩を抱えている点。

 うつについても投薬などの治療が知られているが、運動の効果もとても大きく、抗うつ剤に匹敵する効果があることが明らかになっている。

 再発の防止という面では、薬以上に強力で大きな効果があるが、薬のように企業がプロモーションすることもなく、多くの人はその効果を知ることができていない。

うつに対しても、投薬以上の効果があるが、企業のプロモーションがないため、あまりしられていない。

なぜ、うつにも運動が有効なのか

 うつ病にはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質の欠乏と密接にかかわっていると考えられている。

 これらの神経伝達物質は感情、集中力、意欲、意思決定などの認知能力に欠かすことができない。抗うつ剤はセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンの濃度を高めるために処方されている。

 ただし、これらの神経伝達物質は互いに連携したり、ほかの物質にも影響していることもあり、複雑で全容は解明されておらず、ただ神経伝達物質を増やせば解決するものではない。

 うつ病の症状を最終的に取り除く物質として注目されているのが「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれる大脳皮質や海馬で合成されるたんぱく質。

 BDNFは生まれた細胞を助けたり、細胞間のつながりを強化し、脳の可塑性を促すなど様々な働きがある。

 うつ病の人はBDNFが低く、症状が緩和するとBDNFが生成される量が増加することも報告されている。

 運動、特に有酸素運動を行うことでBDNFの分泌を増加させることができる。

運動を行うことで脳の細胞を助け、つながりを強化し、可塑性を促す「BNDF」と呼ばれるたんぱく質が分泌されるため、うつ状態に有効と考えられている。

記憶力にも運動は有効か

 脳そのものは毎年0.5%~1%ほど縮んでいく。記憶力をつかさどる海馬も同じように縮んでいくが心拍するの上がる運動を行うことで海馬を成長させることができることが明らかになっている。

 運動によって分泌したBDNF(脳由来神経栄養因子)は海馬の成長も促すものと考えられている。

 持久力系のトレーニングを定期的に続けることで暗記力は向上し、技術の取得にも効果的であることも分かっている。

 激しすぎる運動は逆効果で限界点はまだわかっていないが、30分程度走ることができれば十分に記憶力の増加に効果がある。

 海馬は運動によって最も活性化する脳の領域で記憶力、感情にふりまわされなくなり、思考のスピードを上げることができる。

 数多くある脳トレは繰り返すことでトレーニングそのものは上達するが、それによって脳の機能が向上するような効果はない。

運動によって分泌されるBNDFは記憶力をつかさどる海馬の成長を促すため、記憶力の増大にも効果がある。

創造性を高めるために運動は有効か

 運動は創造性にも大きな影響を及ぼすことが分かっている。

 歩きながら創造性をテストした場合のほうが点数がよいことが分かっている。

 創造性を発揮するにはよい着想を得ることが重要だが、根気よく創造に取り組むことも重要。運動は地道に努力する気力を養う効果もある。

 運動によって情報を処理する視床の機能が改善し、アイデアを思いつく量とそれを生かす力の両方が高まることが運動によって創造性が高まる要因とされている。

創造についても2~30分のランニングが効果的。2時間ほどは創造性を高めることができる。ただし、疲れきるまで走るとその後の数時間は増槽の力は衰えてしまう。

情報を処理する視床の機能が改善するため、創造性を高める効果もある。また運動は創造性を高めるために欠かせない地道に努力する気力を養う効果もある。

運動は子供にも効果はあるのか

 子供の記憶力や学習能力にも運動の効果は非常に大きい。

 ただ、体育の授業を増やしただけで、そのほかの科目の成績が上がった例は多い。子供であっても運動による海馬の成長は見られることが分かっている。

9歳児が20分の運動を一回しただけで読解力が格段に上がったデータや10歳児が4分の運動で集中力が改善したデータもあるなどその効果は非常に大きい。

子供の記憶や学習にも運動の効果は大きい。わずかな運動でも効果は非常に大きい。

運動で脳の老化を防ぐことはできるのか

 加齢によって記憶力、思考のスピード低下、集中力、マルチタスキングの能力など様々な能力は低下していく。

 脳の前頭葉が年を取り、縮むことが要因の一つだが、定期的に運動する人は前頭葉の委縮が少なく、加齢による認知能力の衰えが少ないことが明らかになっている。

 認知症、血圧、血糖値、体内の炎症など加齢に伴う多くの身体の不調を運動を行うことで改善することができる。

 身体と脳は2つに分かれた器官ではなく、身体を動かすことで体そのものに良い影響があれば、脳にも良い影響がある。

 脳の老化に抗うにはウォーキングやランニングなどの有酸素運動のほうが効果が高い。筋トレは身体の機能の維持には役立つが脳の老化を食い止める効果があるかはまだわかっていない。

有酸素運動に認知力や身体の不調を取り除くことができるデータは多い。

脳と身体は別々の機関ではなく、それぞれに連動しあっている。

なぜ、運動はここまで大きな効果があるのか

 脳が運動によって様々な利点がうけることは明らか。

 そもそも脳の最も大切な仕事はその生物を移動させること。移動する個体ほど食料を豊富に調達し、絶滅を逃れることで遺伝子を残すことができた。

 現代の生活は、原始時代や活動量は大きく減少している。人類の歴史を1日にすると狩猟生活が終了したのは夜の23:40と現代の生活はわずかな時間でしかなく、生物学的には私たちの脳と身体はいまでもサバンナにいる。

 多くの精神的な不調も原始時代と現代の生活の違いが原因。脳は身体を活発に動かすことで確実によくなっていく。

脳の重要な仕事である移動を行わせることでその個体は生き延びることができた。そのため我々は身体を動かすことを重視し適応してきた。

感想

 運動が体に良いことは誰もが知っていますが、実は脳にも大きな影響があるというのが本書の主題になっています。スマホ脳、ストレス脳などで知られるアンデシュ・ハンセン氏によって運動にどれほど大きな効果があるかが書かれています。

 運動することですっきりした気分になる程度と考えていましたが、そのあまりの効果の高さと幅広さには驚かされました。

 集中力の向上、うつの予防や治療、ストレスの軽減など誰もがその恩恵を受けたいような効果がずらりと並んでおり、運動を始めたくなります。

 現代社会と我々が長い間生きてきた自然の中での環境差がもたらす害は、様々な本でも書かれていますが、運動量の減少がどれほど多くの害をもたらしているかがよくわかりました。

 ついさぼりがちになるランニングを再開しようと思ういいきっかけの一冊になりました。

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