不老不死ビジネス チップ・ウォルター NATIONAL GEOGRAPHIC 要約

老化を阻止する動きが本格化している

 現在、マルコ―と呼ばれる死者を冷凍保存し、科学が発展し元に戻せるようになるまで保管する施設が存在している。 

 しかし、このやり方は長いく生きるための根本の問題である老化の解決に向き合っているわけではない。

 ベビーブームと呼ばれる1946~64年生まれの世代が年を取ることで長生きの要望や市場は大きくなり続けている。しかし、大昔から老化や死について多くの人が考え、研究してきたが、根本から覆すような発見は成されていない。

 近年、グーグルが主な出資者となってキャリコと呼ばれる新会社を設立した。
キャリコは老化に取り組むことを目的とした会社であり、CEOにはアップルの会長も務めたレビンソンが打診された。メディアもグーグルが死と対決と見出しをつけ注目した。

 他にもシリコンバレーの大物投資家が出資し。ヒトゲノムの解読で中心的な役割をになったベンターが率いるHLI社も誕生し、老化の克服に多くの注目が集まっている。

 老化そのものの解決は多くの病気の原因を解消することとなり、個々の病気の治療以上に大きな効果がある。本書では不老不死ビジネスがいま世界でどこまで進んでいるのかに迫っている。

何かをするのは4つの力が必要

 何か素晴らしいことを実現するのには4つの力が必要となる。

1.ニーズが存在すること
2.ニーズを満たそうとする意志と意欲がある
3.設備、資金、人材などのリソース
4.夢を実現する才能を持つ人材

 ベビーブームの高齢化でニーズはかつてないほど高まっている。彼らは若さという概念を広め、アンチエイジング市場を巨大化してきた。

寿命長くなるにつれ新しい病気が増える

 古代の医師たちは残した著作には頭痛、天然痘、コレラ、ハンセン病などの記載はあるが現代で老化した際の病気である癌、糖尿病、心臓病、脳卒中、認知症などの記載はほとんどない。
 これは老化以外の死因が山のようになり、老化する前に死んでしまうほど寿命が短ったため。

 公衆衛生の改善、抗生物質、ワクチンや抗菌薬などで寿命は徐々に伸びてきた。しかし、寿命が伸びると今度はがん、心臓発作、脳卒中などの病気が増え始めた。それに伴い、老年学とよばれる体や脳の老化についての研究が広がっていった。
 しかし老年学も生物学者も老化に伴う機能低下や病気に治療や対応には力を入れるが、老化そのものをお食い止める方法を考える人間はいなかった。

キャリコは老化という病気を治療することが目標

 アーサー・レビンソンは一流の分子生物学者であり、製薬会社ジェネンティックの経営者としても知られた人物で、アップルの会長も務めた。
 
 そもそも、米国食品医薬品局(FDA)は老化を病気とみなしておらず、治療できると考えてこなかった。
 グーグルの創始者であるラリー・ペイジはレビンソンに老化を解明する会社であるキャリコの設立と経営者になることを依頼した。

不死への挑戦でも収穫加速がおきる

 カーツワイルは多くの発明を世に送り出してきた人物で、彼は2045年までに人類が高度な人工知能と融合すると予想している。 
 ムーアの法則は集積回路の部品数は2年で倍増し続けると予測されたもの。カーツワイルはこの法則はもっと大きな枠組みで当てはまると考え、収穫加速の法則と提唱した。
 収穫加速とは様々な分野で過去の土台と発展を足掛かりとする加速度的な成長が見られるとしたもの。
 ある分野の発展は最初はゆっくりだが、変曲点に達すると急に上昇する。カーツワイルは不死への挑戦でも同じことが起きると予想している。

ヒトゲノムが解読されても老化の原因はわからなかった

 遺伝子には全ての人間に共通する設計図と人によって異なるレシピの両方が書き込まれていると信じられてきた。ヒトゲノム計画は人間の遺伝子をすべて解読することを目標として始まった。
 2000年に解読を終え、その配列が明らかになった。遺伝子暗号を読み取ることで、多くの病気の問題に取り組めるようになり、すぐに大勢に命が救われるようになると思われていた。しかし、ヒトゲノムがどのように我々を老化に至らせるかを知る道はまだ遠かった。

デグレイは老化が病気の元凶と考えた

 デグレイは老化が人間の体に与えるダメージを突き止め、そこを修復すればよいと考えた。人間の機能がどのように低下するかリストアップし、それを修復できる可能性があるかを考えた。

 デグレイは人体の小身体を有機的な機械の集まりと考え、老化による体の働きに低下した際に若いときのようにうまく機能するようにする方法を見つけようと考えてる。
 心臓病やがんのような病気が老化を起こしているのではなく、老化が病気を起こしており、老化があらゆる病気の元凶と考えた。

キャリコは根本的な老化原因の究明と老化がもたらす病気の治療の2つをめざした 

 レビンソンはキャリコのやり方として老化のもたらす病気を治す方法と老化の根本原因を探る二つのやり方でキャリコを設立することでリスクを分散することとした。
 
 会社を設立し、主要なメンバーが老化に関する論文や査読記事をよみ、多くの研究所に足を運んだ。
 そこでわかったことは老化があまり理解されていないのではなく、全く理解されていないということだった。

特定の遺伝子の働きと老化の関係は理解され始めた

 インスリン抵抗性を低下させるとがんの発症率、酸化ストレスを下げることがわかっている。インスリン抵抗性の低下した遺伝子は食糧の乏しい世界で生きていると体に思わせているようである。
 飢餓には子孫を残すために寿命を延ばし、老化を遅らせる効果がある。

胎盤幹細胞からあらゆる細胞を作りだせれば老化の治療にも利用できるかもしれない

 ハリリは医師であり彼はDNAの秘密を解き明かすことで、人間の健康が理解できるという考えではなく、胎盤幹細胞が再生の原動力で薬として商品化できると考えていた。

 ハリリは胎盤にはどんな細胞にもなることのできる万能性幹細胞が含まれていることを明らかにし、胎盤があらゆる種類の細胞を作り出せると考えた。

 ハリリはヒューマン・ロンジェビティという会社をヒトゲノム計画で中心を担ったベンダー、実業家であるディアマンディとともに立ち上げた。

わずかな変化で大きく寿命を伸ばすことのできる要因があるかもしれない

 時間の流れと死ぬ人の割合を示す法則はゴンペルツの法則と呼ばれる。その式ではα、β、γとう変数が用いられており、それぞれにはこのような意味がある。
αは遺伝子や個人の経験(ストレスや食生活など)
βは人類全体に影響する普遍的な力
γは事故などのアクシデント

 γを0にすることはできない。αは現在も改善中だが限界がある。
 しかし、βが加齢とともに上昇しないとすると、数千年生きることができるという計算結果になる。βを0にすることはできないが、βに作用できれば他の要因よりもはるかに大きな効果がある。

自然界には似た種と比較し大きく長生きする種が存在する

 オレンジフィーという魚は4年ほどで死ぬスズキの仲間だが、149年生きた記録をもつなど長寿である。他にもハダカデバネズミもげっ歯類として異常に長い寿命を持っている。

 ハダカデバネズミはフリーラジカルを察知し、抑え込むタンパク質を持つことで体内の酸化を抑えることができる。ハダカデバネズミの長寿はこのタンパク質を作る遺伝子が要因である。

 他にも多くの長寿な動物たちが研究されている。それらの要因が進化の過程でできたものであれば、それを科学でもできる可能性がある。

健康、老化、病気、ゲノムは全て同じテーマが形を変えたもの

 現在の研究では遺伝子のみからその人の顔がわかるほど、遺伝子の解析はすすんできた。
 遺伝子の解析のコストが下がりとスピード上がったことで、データ数も増加している。ゲノム情報と実際の健康状態でデータが増えれば、AIによる機械学習と合わせて個人の遺伝子と病気を結びつけることで病気の予防に大きな効果がある。健康、老化、病気、ゲノムはすべて同じテーマが形を変えたものに過ぎない。

長生きのパズルを解くには賢い機械が必要

 既に医学には機械学習が取り入れられ、デジタル技術は科学で利用されているが、
不死の追及を進めるには、これまで以上の強力なデジタルの力が必要となる。

 カーツワイルはAIの出現を受け、人間の体と心を強力な形に進化すると予想した。細胞サイズのロボットが動脈を掃除したり、筋肉を強化し、脳がクラウドにアクセスできるようにする可能性も有る。

 遺伝子の内部のあらゆる分子が何をしているのか、どのようにタンパク質のオンとオフを切り替えているのか、遺伝子が他の遺伝子にどのように影響を与えているのかを研究している。それらすべてをくまなく調べることが人間の身体を痛めつけるダメージを元に戻す方法。
 これらの答えは人間ではなく、機械から出てくるはず。

 ニーズ、意思、資金、科学の力がすべて死の克服のために集めり始めた。極めて長く生きることできるようになったときに永遠の生を我々が生きることができるかは分からない。
 

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