この記事で分かること
1. 三菱重工が提携する冷却技術の特徴
水不使用で気化熱を利用する「二相式ダイレクトチップ冷却」と、既存施設に導入しやすい縦型の「ラック型液浸冷却」です。これらを自社の電源や管理技術と掛け合わせ、総合インフラとして提供する点が特徴です。
2. 液浸冷却に使われる物質と機械への影響
フッ素系不活性液体やミネラルオイル等の「絶縁性液体」を使います。空気並みに電気を通さない圧倒的な絶縁性能と、金属や樹脂を腐食・溶解させない優れた化学的不活性(安定性)を持つため、機械が故障しません。
3. 二相式ダイレクトチップ冷却の特徴
チップ上のプレート内で冷媒を沸騰させ、液体から気体に変わる際の「気化熱」で超強力に冷やす技術です。絶縁性冷媒を循環させる水不使用の仕組みのため、漏水による故障リスクがなく、均一な冷却が可能です。
NVIDIAと三菱重工業の技術連携
米エヌビディア(NVIDIA)と三菱重工業が、AIデータセンター分野における技術提携を進めることが明らかになりました。
データセンターの「莫大な消費電力」と「GPUの猛烈な発熱」が世界的なボトルネックとなっています。エヌビディアの最先端AIハードウェアと、三菱重工の高度な熱・エネルギー管理技術を掛け合わせることで、データセンターの電力消費や発熱を効率的に抑えるインフラの確立を目指します。
なぜ冷却技術が重要なのか
AIデータセンターで冷却技術が死活問題となっている理由は、「GPUの発熱量が、空気で冷やせる物理的な限界を超えたため」です。
具体的には、以下の3つの理由があります。
1. 1チップあたりの発熱量が「電子レンジ」並み
最新のAI用GPU(NVIDIAのBlackwell世代など)は、1基あたり1,000W〜1,200W以上の電力を消費し、その大半が熱に変わります。
- 空冷の限界: 空気は熱を運ぶ能力(熱容量)が低いため、これほど熱が密集すると、どれだけ大型ファンで強風を当てても冷やしきれません。
- 液冷への転換: 液体は空気の約4,000倍の熱容量を持ちます。そのため、チップに金属プレートを重ねて直接液体を循環させる「ダイレクトチップ冷却(DTC)」や、サーバーごと油性液体に沈める「液浸冷却」への移行が必須になっています。
2. 「サーマルスロットリング(熱による性能低下)」を防ぐ
半導体は高温になると、回路の焼き付きを防ぐために自動でクロック数を落として処理速度を下げる機能(サーマルスロットリング)が働きます。
莫大な投資をして構築したAIインフラの計算能力が、熱のせいで低下することは許されません。冷却技術は、高価なGPUの性能を24時間100%引き出し続けるための命綱です。
3. データセンターの「電力不足」に直結する
従来のデータセンターでは、施設全体の消費電力のうち約30〜40%が「サーバーを冷やすための空調(冷却)」に使われていました。
冷却効率を高めてこの無駄な電力を削れば、その分をより多くのGPUを動かす電力に回せます。限られた地域の電力枠の中で、AIの処理能力を最大化するために冷却の省エネ化が求められています。
現代のAI開発において、冷却技術の優劣は「計算スピード」と「電気代(運営コスト)」を直接左右する決定的な要素になっています。

AI用GPUの発熱が空冷の限界を超えたためです。熱による性能低下を防ぎ、冷却にかかる消費電力を削減することで、データセンターの電力不足を回避し、AIの計算能力を最大限に引き出すために不可欠です。
三菱重工の次世代冷却技術とは何か
三菱重工が国内外のパートナー企業と提携・共同開発し、次世代データセンター向けに推進している冷却技術の核心は、大きく分けて「二相式ダイレクトチップ冷却(DTC)」と「ラック型液浸冷却」の2つです。
1. 二相式ダイレクトチップ冷却(DTC)
米国のパイオニア企業・ZutaCore(ズタコア)社と戦略的提携を結んで展開している技術です。
- 仕組み: 発熱の大きいGPUなどのプロセッサーに、直接金属製の「コールドプレート」を密着させます。プレート内を流れる冷媒がチップの熱を吸って「液体から気体へ蒸発(相変化)」する際の気化熱を利用して、ピンポイントかつ猛烈に熱を奪い去ります。気体になった冷媒は外側の装置で冷やされて再び液体に戻り、循環します。
- メリット: サーバーごと液体に沈める必要がないため、既存のサーバーラックの構成をほとんど変えずに導入できます。メンテナンス性(保守性)が非常に高く、NVIDIAのBlackwell世代などが求めるTDP(熱設計電力)1,000Wを超える超高発熱チップの冷却にも対応可能です。
2. ラック型液浸冷却
NTTデータやKDDIなどと共同開発や実証試験を重ねている技術です。
- 仕組み: 通電してもショートしない「絶縁性」の専用液体(オイルなど)を満たした密閉容器の中に、サーバーなどのIT機器を基盤ごと丸ごとドボンと沈めて冷却します。
- メリット: 従来の液浸冷却はプールのような巨大な「タンク型」が主流で、データセンターの床面積を圧迫するのが課題でした。三菱重工が開発したシステムは、一般的なサーバーラックと同じように縦に積み重ねて収納できる「ラック型」のため、既存のデータセンターにもそのまま導入しやすいのが強みです。空冷に比べて、冷却にかかる消費エネルギーを90%以上削減できます。
NVIDIAとの提携における位置づけ
NVIDIAが今後展開する高性能AIサーバー環境では、運用コストや設置スペースの観点から「水を大量に使わないこと」「既存のデータセンター建屋を流用できること」が重視されています。
三菱重工の持つこれら2つのアプローチは、いずれも「高い冷却力を持ちながら、既存のインフラに組み込みやすい」という実用性を備えているため、エヌビディアが進める次世代「AIファクトリー」の標準インフラとして深くコミットできると期待されています。

冷媒の気化熱でチップを直接冷やす「二相式ダイレクトチップ冷却」と、サーバーを絶縁液体に沈める「ラック型液浸冷却」です。既存施設に導入しやすい形状が特徴で、超高発熱なAI用GPUを効率的に冷却します。
液浸冷却にはどんな物質が使われるのか
液浸冷却に使われる液体は、一見すると「水」のように見えますが、中身は全く異なる性質を持つ「電気を通さない特殊な液体(絶縁性液体)」です。
1. 液浸冷却に使われる主な物質
主に以下の3つのタイプが、データセンターの特性や冷却方式に合わせて使い分けられています。
- 炭化水素系・合成油(ミネラルオイル / パラフィンなど)
- 現在の主流の一つです。ベタつきの少ないサラサラした工業用オイルで、蒸発しにくく、長期間安定して使えるのが特徴です。最近では環境負荷の低い植物由来の合成油も登場しています。
- フッ素系不活性液体
- フッ素と炭素の化合物です。水のようにサラサラしており、全く燃えない(不燃性)という高い安全性を持っています。液体が熱で気化するときの熱を大きく利用する冷却方式にも使われます。
- シリコーン系液体
- 耐熱性や化学的な安定性が非常に高く、劣化しにくいため長寿命なのが特徴の人工的な流体です。
2. なぜ機械(基盤やパーツ)に影響がないのか
電子機器を丸ごと液体に沈めても、ショートや故障が起きない理由は主に3つあります。
① 圧倒的な「絶縁性」(電気をまったく通さない)
水が電子機器を壊すのは、水に含まれるミネラルなどの不純物が電気を通してしまい、本来流れてはいけない場所に電気が流れてショートするからです。
液浸冷却用の液体は「電気を流す性質が空気並みにゼロに近い」ため、基盤のむき出しの回路に液体が直接触れても、電気が外に漏れず、本来の設計ルート通りに正しく流れます。
② 「化学的に不活性」(他の物質と反応しない・溶かさない)
これらの液体は非常に安定した分子構造を持っています。基盤に使われている銅や金などの金属を「サビ(腐食)」させることがなく、半導体を保護する樹脂やプラスチック、ゴムなどを「溶かす」こともありません。そのため、何年沈めておいてもパーツが劣化しないのです。
③ 完全に「水分」を排除している
電子機器の天敵である「湿気や水分」をシャットアウトします。液体そのものが水を弾く性質(疎水性)を持っているか、水分を極限まで含まないように精製されているため、金属が酸化する隙を与えません。
電柱の上にあるバケツのような機器(変圧器)の中にも、実は古くから電気を通さない絶縁油が満たされています。液浸冷却は、その仕組みをさらに進化させて超精密なAIサーバーに応用したものです。

電気を通さないフッ素系不活性液体やミネラルオイルなどの「絶縁性液体」が使われます。空気並みに電気を流さない高い絶縁性と、金属や樹脂を腐食・溶解させない優れた化学的不活性を持つため、機械を壊しません。
二相式ダイレクトチップ冷却と、従来のコールドプレートの違いは何か
「二相式ダイレクトチップ冷却(DTC)」と「従来のコールドプレート(単相式)」の最大の違いは、「プレートの中で液体を沸騰させて『気化熱』を利用するかどうか」です。
これにより、冷却能力や安全性に決定的な差が生まれます。
| 項目 | 従来のコールドプレート(単相式) | 二相式ダイレクトチップ冷却(DTC) |
| 冷却の仕組み | 液体の温度上昇で熱を奪う(温水プールのように熱を吸う) | 液体が気体に変わる気化熱で熱を奪う(沸騰させて熱を飛ばす) |
| 使用する液体 | 主に水(純水や不凍液) | 電気を通さない特殊な冷媒(絶縁性液体) |
| 冷却能力 | TDP 800W付近が物理的な限界とされる | TDP 1,000W〜1,500W以上の超高発熱も対応可能 |
| 漏水リスク | 漏れるとサーバーがショート・全損する | 漏れても電気を通さず、すぐ蒸発するため安全 |
| 温度の均一性 | 出口に近づくほど水が温まり、温度ムラが出やすい | 沸騰中は温度が一定に保たれ、均一に冷やせる |
1. 圧倒的な冷却力(「気化熱」のパワー)
注射の前にアルコールを塗ると腕がひんやりするように、液体が気体に変わる瞬間(相変化)には猛烈な熱が奪われます。
従来の単相式は「温まった水を循環させるだけ」なので、1,000Wを超える最新のAI用GPUを冷やそうとすると、大量の水を猛烈なスピードで流さなければならず、配管やポンプのサイズが限界を迎えてしまいます。二相式は気化熱を使うため、少ない液量で効率よく冷やせます。
2. 「水漏れ」による故障リスクがない
従来のコールドプレートは「水」を循環させるため、万が一配管から漏れると、数千万円クラスのAIサーバーが一瞬でショートして壊れます。
一方、二相式(三菱重工が提携するZutaCoreなど)は、電気を通さない「絶縁性液体」を使います。万が一漏れても機械は壊れず、しかも室温で一瞬で気化して消えてしまうため、運用上の安全性が劇的に高まります。
3. チップを均一に冷やせる
水で冷やす従来型は、プレートの「水の入り口」は冷たく、「出口」に行くほど水が温まってしまうため、チップ内で温度のムラ(ホットスポット)ができやすくなります。
二相式は、液体が沸騰している間は常に一定の温度に保たれるという物理特性(潜熱)があるため、チップ全体をムラなく均一に冷やすことができ、半導体の安定動作に貢献します。

従来は液体の温度上昇で冷やすのに対し、二相式は冷媒の「気化熱」を利用します。これにより冷却能力が飛躍的に向上し、1000W超のGPUにも対応可能です。また、絶縁性液体を使うため漏水による故障リスクもありません。

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