免疫不全豚の小型化 免疫不全豚とは何か?どのように利用されているのか?なぜ、豚なのか?

この記事で分かること

・免疫不全豚とは何か:免疫系の機能が低下または欠損しているブタのことです。特に、T細胞やB細胞などの免疫細胞が正常に働かないように遺伝子を改変したブタが研究で利用される。

・なぜ、免疫不全が必要なのか:通常、異なる個体の細胞や臓器を移植すると拒絶反応が起こりますが、免疫不全ブタではこれがほとんど起こらないためです。

・豚を利用するにはなぜか: ヒトと生理学的・解剖学的に類似していることや飼育のしやすさ、成長の早さなどから豚が利用されています。

免疫不全豚の小型化

 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、免疫不全ブタの小型化に成功したと発表しました。

jacom.or.jp

 従来の免疫不全ブタは体格が大きく、飼育施設が限られる上、感染症に弱く長期飼育が難しいという課題がありました。今回、ゲノム編集技術を用いて成長ホルモン受容体を機能しないようにした小型ブタと交配することで、体重を従来の約8割程度にまで小型化することに成功しました。

 さらに小型化が進めば、無菌的な長期飼育が可能となり、がん治療法の開発や再生医療の研究における応用が期待されています。

免疫不全豚とは何か

 免疫不全ブタとは、免疫系の機能が低下または欠損しているブタのことです。特に、T細胞やB細胞などの免疫細胞が正常に働かないように遺伝子を改変したブタが研究で利用されます。

 特徴

  1. 移植研究に適している
    • 通常、異なる個体の細胞や臓器を移植すると拒絶反応が起こりますが、免疫不全ブタではこれがほとんど起こりません。
    • そのため、ヒトの細胞や組織を移植し、がんや再生医療の研究に活用できます。
  2. ヒトに近い生理機能を持つ
    • ブタは解剖学的・生理学的にヒトに近いため、医療研究のモデル動物として適しています。
    • マウスに比べてサイズが大きく、臨床応用を見据えた研究がしやすいのもメリットです。
  3. 感染症リスクが高い
    • 免疫が機能しないため、病原体に感染しやすく、無菌環境での飼育が必要になります。

活用分野

遺伝子治療: 遺伝子治療技術の開発や効果検証

がん研究: ヒトのがん細胞を移植し、腫瘍の進行や治療法を研究

再生医療: ヒトの細胞や組織を移植し、臓器移植の前段階の研究

免疫不全ブタとは、免疫系の機能が低下または欠損しているブタのことで、人に近い整理特を持つため、移植研究に利用されています・

どのような臓器移植に免疫不全豚が利用されているのか

 免疫不全ブタは以下のような臓器移植研究に利用されています。

 
1. 損傷したヒト肺の修復

 2020年、コロンビア大学の研究者たちは、損傷したヒトの肺を生きたブタの血管に接続することで、肺の機能を回復させることに成功しました。この方法により、従来の体外灌流システムでは数時間しか保存できなかった肺を、長時間維持し、損傷を修復することが可能となりました。この技術は、将来的に移植用臓器の保存や修復に大きな可能性を示しています。

2. ヒトへの異種移植を目指した遺伝子改変ブタの開発

 米国のバイオ企業「eGenesis(イージェネシス)」は、ヒトへの臓器移植を目的とした遺伝子改変ブタの開発を進めています。同社は、日本で初めて生まれた遺伝子改変ブタの元となる細胞を提供し、異種移植の実現に向けた研究を推進しています。

3. 遺伝子改変ブタとサルの心臓移植手術の成功

 2024年、中国の研究チームは、遺伝子を改変したブタの心臓をサルに移植する手術に成功しました。この成果は、将来的なヒトへの異種移植の可能性を高めるものであり、免疫不全ブタの利用が臓器移植研究において重要であることを示しています。

 これらの研究は、免疫不全ブタの特性を活かし、臓器移植の分野での新たな可能性を切り拓いています。今後も、免疫不全ブタを用いた研究が進むことで、移植医療の発展が期待されます。

ヒト胚の修復や異種移植などの分野での研究が進んでいます。

なぜ、豚が用いられているのか

 ブタが医学研究や臓器移植のモデルとして用いられる理由は、主に以下の点にあります。

1. ヒトと生理学的・解剖学的に類似

  • ブタの臓器はサイズや機能がヒトに近いため、移植研究の対象として適しています。
  • 例えば、ブタの心臓や腎臓はヒトとほぼ同じ大きさで、解剖学的構造も類似しています。

2. 繁殖力が高く、短期間で成長

  • ブタは約4〜6か月で成体になり、1回の出産で10匹前後の子を産むため、研究に適した数を確保しやすい。
  • マウスやサルに比べ、より短期間でヒトサイズの臓器を得ることができます。

3. 免疫不全ブタの作成が可能

  • ゲノム編集技術により、免疫を抑制したブタ(免疫不全ブタ)を作ることができ、ヒト細胞や組織を移植しても拒絶反応が起こりにくくなります。
  • これにより、がん研究や再生医療、臓器移植の研究に活用できます。

4. 既存の畜産インフラを活用できる

  • ブタは古くから家畜として飼育されており、大規模な繁殖・管理がしやすい。
  • 飼育施設やエサの供給が確立されているため、研究コストを抑えやすい。

5. ヒトへの感染リスクが低い

ブタは比較的このリスクが低く、安全性の面でも研究に適しています。

サルなどの霊長類はヒトに近い分、未知のウイルスや病原体がヒトに感染するリスクが高い

ブタは医学研究、特にがん治療や臓器移植、再生医療の分野で重要なモデル動物として利用されています。

免疫不全豚の利用の欠点は何か

 免疫不全ブタの利用には多くの利点がありますが、いくつかの欠点や課題も存在します。

1. 感染症リスクが高い

  • 免疫不全のため、細菌やウイルスに感染しやすい
  • 無菌状態を維持するために高度な管理が必要で、飼育コストが高くなる。
  • 実験中に感染症が発生すると、データの信頼性が損なわれる可能性がある。

2. 飼育コストと管理の難しさ

  • 通常のブタよりも特別な飼育環境(無菌室、フィルター付き空調、無菌飼料など)が必要。
  • 免疫不全ブタは病原体に対する防御がないため、わずかな汚染でも致命的な影響を与えることがある。
  • 小型化が進められているものの、マウスやラットと比べると実験コストが高い

3. 遺伝子改変の倫理的問題

  • 免疫不全ブタは人工的に遺伝子改変された動物であり、動物福祉の観点から倫理的な問題が指摘されることがある。
  • 異種移植(ブタの臓器をヒトに移植)の研究が進むにつれ、「動物の権利」「遺伝子改変技術の限界」といった議論も増えている。

4. ヒトと完全には一致しない

  • ブタの臓器や免疫系はヒトに近いが、完全に同じではないため、実験結果をそのままヒトに適用できるとは限らない。
  • 免疫不全の仕組みがヒトと異なるため、一部の免疫研究には適さない場合がある。

5. 長期的な影響が未知数

例えば、ヒト細胞を移植した場合、それがどのように発達・変異するか、予測が難しい面もある。

免疫不全ブタの使用は比較的新しいため、長期間の研究データが少ない

免疫不全豚にも多くの課題がありますが、今回の開発では、豚の小型化によって、コスト高という欠点を減少させることに成功しています。

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