タイヤの製法 どのような工程で作られているのか?カーボンブラックや硫黄の役割は何か?

この記事で分かること

・タイヤの製造工程:原料の混合→押出→カレンダー工程→裁断・成形工程→加硫→検査といった手順でタイヤが作られています。

・カーボンブラックの役割:カーボンブラックの微粒子がゴム分子と結びつき、ネットワーク構造を形成することで、ゴム全体の強度を高めています。

・硫黄の役割:ゴムの分子同士を化学的に結合させる架橋反応によって、弾性を持たせたり、強度、耐久性の向上を担っています。

ブリヂストンのスペイン北部での工場人員削減

 ブリヂストンは、ヨーロッパ市場の不確実性や非欧州製品との競争激化に対応するため、スペイン北部の2つの工場で合計546人の人員削減を計画しています。 ​

 https://www.reuters.com/sustainability/sustainable-finance-reporting/tyre-maker-bridgestone-cut-546-jobs-spain-uncertainty-competition-2025-04-02/?utm_source=chatgpt.com

 前回の記事では、タイヤの製造法や差別化のポイント、規制がどのように変化しているかについて書きましたが、この記事では、より詳しいタイヤの製法や原材料について書いています。

タイヤの製造工程

 タイヤの製造工程は、大きく分けて以下の7つの工程を経て行われます。

1. 混合工程

 天然ゴム、合成ゴム、カーボンブラック、硫黄、その他の薬品などの原材料を、タイヤの種類や性能に合わせて最適な割合で混ぜ合わせます。この工程で、タイヤの基本となるゴムのコンパウンドが作られます。

2. 押出工程

 混合されたゴムを、タイヤの各パーツの形状に合わせて押し出します。トレッド(路面と接する部分)、サイドウォール(側面)、インナーライナー(内側の気密層)などがこの工程で作られます。

3. カレンダー工程

タイヤの骨格となるカーカス(骨組み)を作る工程です。ナイロンやポリエステルなどの繊維を織ったシートにゴムをコーティングし、強度を高めます。

4. 裁断・成形工程

 カレンダー工程で作られたカーカスや、押出工程で作られた各パーツを、タイヤのサイズや構造に合わせて裁断し、成形機で組み合わせて、タイヤの原型となる「生タイヤ」を作ります。

5. 加硫工程

 生タイヤを金型に入れ、高温・高圧で加熱します。これにより、ゴムが化学反応を起こして弾力性や強度を持つようになり、トレッドパターンが成形され、タイヤとしての形状が完成します。

6. 検査工程

 完成したタイヤは、外観、寸法、重量、強度など、様々な項目について厳しく検査されます。これにより、不良品が市場に出回るのを防ぎます。

7. 製品検査

 最終検査に合格したタイヤは、ラベルが貼られ、倉庫へと運ばれ、出荷を待ちます。

混合工程で用いられる原料にはどんなものがあるのか

タイヤは、主に以下の原材料から作られています。

天然ゴム

 ゴムの木の樹液から採取されるゴムで、主にトレッドに使用され、柔軟性やグリップ力に優れています。

合成ゴム

 石油などを原料とする化学合成されたゴムで、耐摩耗性、耐候性、低燃費性など、様々な特性を持たせることができます。

カーボンブラック

 タイヤの強度、耐摩耗性、グリップ力を向上させるために配合される炭素の粉末です。タイヤを黒くする役割も担っています。

シリカ

 近年、低燃費タイヤなどに使用される白色の粉末で、転がり抵抗を低減し、ウェット性能を向上させる効果があります。

スチールコード・繊維

 タイヤの骨格を形成し、強度や耐久性を高めるために使用されます。スチールコードは主にラジアルタイヤのベルト層に、ナイロンやポリエステルなどの繊維はカーカス層などに使われます。

配合剤

 加硫を促進する硫黄、老化を防ぐ酸化防止剤、ゴムを柔らかくするオイルなど、様々な薬品が使用され、タイヤの性能や製造工程を調整します。

天然ゴムとは何か、合成ゴムとの違いは何か

 天然ゴムは、主にパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)という植物の樹液(ラテックス)から採取される天然の高分子化合物です。このラテックスを凝固、加工することで得られます。

 主成分はポリイソプレンという炭化水素の重合体です。

主な特徴

  • 優れた弾性: ゴムの中でも最も高い弾性を持ち、大きく変形しても元の形状に戻る性質に優れています。
  • 高い引張強度・引裂強度: 非常に丈夫で、引っ張る力や裂ける力に対して強い抵抗力があります。
  • 優れた耐摩耗性: 摩擦に強く、摩耗しにくい性質を持っています。
  • 良好な柔軟性: 低温下でも硬くなりにくく、柔軟性を保ちます。
  • 金属との接着性が良い: 金属部品との接着に適しています。
  • 低い内部発熱性: タイヤなどの使用時に発生する熱が比較的少ないため、耐久性に優れます。

主な用途

  • タイヤ: 特にトラック、バス、航空機などの大型タイヤに多く使用されます。
  • 工業用品: ホース、コンベヤベルト、防振ゴムなど。
  • 日用品: 輪ゴム、ゴム手袋、風船、靴底など。
  • 医療用品: ゴム手袋、医療用チューブなど。

主な産地

 タイ、インドネシア、マレーシアなどの東南アジアが主な産地で、世界の生産量の多くを占めています。

合成ゴムとの違い

 天然ゴムと合成ゴムの主な違いは以下の通りです。

特徴天然ゴム合成ゴム
原料ゴムノキの樹液(ラテックス)石油、ナフサなどの化石燃料
主成分ポリイソプレン様々な種類のポリマー(用途に応じて設計可能)
弾性非常に優れている種類によるが、天然ゴムに匹敵するものから劣るものまで
強度・耐久性高い引張強度・引裂強度、耐摩耗性に優れる種類によるが、特定の性能に特化したものが多い
耐熱性・耐油性一般的に低い種類によっては天然ゴムより優れている
耐候性・耐オゾン性一般的に低い種類によっては天然ゴムより優れている
品質の安定性自然環境に左右されやすく、不純物を含む場合がある比較的安定しており、不純物が少ない
価格の安定性変動しやすい比較的安定している
加工性分子量が大きく、加工に手間がかかる場合がある種類によるが、一般的に加工しやすいものが多い
用途高い弾性や強度を活かした用途が多い耐熱性、耐油性、耐候性など特定の性能を活かした用途が多い

天然ゴムは、その優れた弾性、強度、耐摩耗性から、特に大型タイヤなど高い耐久性が求められる用途に不可欠な素材です。

一方、合成ゴムは、様々な原料と合成技術により、耐熱性、耐油性、耐候性など、特定の性能を天然ゴムよりも向上させることが可能です。そのため、用途に応じて天然ゴムと合成ゴムが使い分けられています。

カーボンブラックとは何か

 カーボンブラック(Carbon Black)は、炭素を主成分とする微粒子状の物質です。油や天然ガスなどの炭化水素を不完全燃焼させることによって製造されます。非常に細かい粒子で、色は漆黒です。

タイヤの製造においては、カーボンブラックは非常に重要な役割を果たしています。

タイヤにおけるカーボンブラックの役割

  • 補強効果: ゴムに混ぜることで、タイヤの強度、耐久性、耐摩耗性を大幅に向上させます。カーボンブラックの微粒子がゴム分子と結びつき、ネットワーク構造を形成することで、ゴム全体の強度を高めます。
  • 耐摩耗性の向上: 路面との摩擦による摩耗を抑制し、タイヤの寿命を延ばします。
  • グリップ力の向上: 路面との密着性を高め、グリップ力を向上させる効果があります。
  • 紫外線からの保護: ゴムの劣化の原因となる紫外線からタイヤを保護する役割も担います。
  • 着色: タイヤを黒色にするための顔料としても使用されます。

カーボンブラックの種類

カーボンブラックには、製造方法や粒子の大きさ、表面積などの違いによって様々な種類があり、タイヤのどの部分に、どのような性能を持たせるかによって使い分けられます。例えば、トレッド(路面と接する部分)には耐摩耗性に優れたカーボンブラックが、カーカス(タイヤの骨格)には強度を高めるカーボンブラックが使用されます。

なぜタイヤは黒いのか?

タイヤが黒いのは、このカーボンブラックが大量に配合されているためです。カーボンブラックは、タイヤの性能向上に不可欠な材料であり、単なる着色剤ではありません。

カーボンブラックの微粒子がゴム分子と結びつき、ネットワーク構造を形成することで、ゴム全体の強度を高めています。

カーボンブラックはタイヤの安全性、耐久性、走行性能を高めるために非常に重要な役割を果たしています。

硫黄を入れる意味は何か

 タイヤの製造工程で硫黄を入れる主な意味は、ゴムに弾性と強度を与える「加硫(かりゅう)」という化学反応を起こすためです。

加硫とは何か

 生ゴム(未加硫のゴム)は、粘土のように柔らかく、弾力もありません。そのままではタイヤとして使用するには強度や耐久性が不足しています。

 加硫とは、生ゴムに硫黄などの加硫剤を混ぜて加熱することで、ゴムの分子同士を化学的に結合させる反応のことです。この結合を架橋(かきょう)と呼びます。

硫黄の役割

 硫黄は、この架橋反応において、ゴム分子同士を結びつける橋のような役割を果たします。加熱によって硫黄が反応し、ゴムの長い分子鎖の間で共有結合を形成することで、網目状の構造ができます。

加硫によってゴムに与えられる効果

  • 弾性の向上: 分子同士が結合することで、ゴムが変形しても元の形状に戻る性質(弾性)が生まれます。
  • 強度の向上: 架橋構造により、引っ張る力やねじれる力に対する強度が増します。
  • 耐久性の向上: 熱や摩耗に対する耐久性が向上し、タイヤが長持ちするようになります。
  • 耐候性の向上: 紫外線などによる劣化を防ぐ効果も期待できます。

タイヤ製造における加硫工程

 タイヤの各パーツが組み合わされた「生タイヤ」は、金型に入れられ、高温・高圧下で加熱されます。この工程で、配合された硫黄がゴムと反応し、加硫が進行します。同時に、金型の形状によってトレッドパターンなどが成形され、最終的なタイヤの形状となります。

硫黄は、ゴムの分子同士を化学的に結合させる架橋反応によって、弾性を持たせる役割をもっています。硫黄はゴムを単なる柔らかい素材から、自動車の重さや走行時の様々な力に耐えうる、安全で高性能なタイヤへと変えるために不可欠な材料です。

弾性がカーボンブラックだけでは得られない理由

 カーボンブラックの微粒子がゴム分子と結びつき、ネットワーク構造を形成する主な効果は、強度、耐久性、耐摩耗性、グリップ力の向上であり、直接的に弾性を向上させるメカニズムは加硫とは異なります。

弾性の向上に最も重要な役割を果たすのは、加硫によるゴム分子鎖間の共有結合(架橋)です。

1. 結合の性質

  • 加硫による架橋: ゴムの長い分子鎖(ポリマー鎖)同士が、硫黄原子などを介して共有結合という強い化学結合で直接的に結びつけられます。                            この共有結合が、ゴム全体に三次元的なネットワーク構造を形成し、力を加えた際の分子鎖の動きを制限し、力を取り除いた際の復元力を生み出します。これが弾性の根源です。
  • カーボンブラックによる結合: カーボンブラックの微粒子は、ゴム分子と物理的な相互作用(ファンデルワールス力など)や、場合によっては弱い化学結合で結びつきます。           カーボンブラックの表面積が大きいため、ゴム分子との接触面積が増え、物理的な拘束力が高まります。これにより、ゴムの変形に対する抵抗力が増し、強度や硬度が向上します。          しかし、これは分子鎖同士が直接的に強く結合しているわけではありません。

2. ネットワーク構造の性質

  • 加硫によるネットワーク: ゴム分子鎖全体が、共有結合によってしっかりと結びついた、均一で強固なネットワーク構造を形成します。このネットワーク全体が、ゴムの変形と復元を支えます。
  • カーボンブラックによるネットワーク: カーボンブラックの微粒子が、ゴム分子の間に分散し、一種の「充填材」として機能します。微粒子同士が凝集して二次構造を形成することもあり、これがゴムマトリックス中の応力伝達を助け、強度を高めます。しかし、ゴム分子鎖そのものが直接的に強く結びついているわけではありません。

3. 弾性への影響

カーボンブラック

 カーボンブラックは、ゴムの変形に対する抵抗力を高め、硬度を上げる傾向があります。

 これは、ゴムが変形しにくくなる、つまり弾性率が上がることを意味しますが、伸び縮みする能力そのもの(弾性変形の範囲)を大きく広げるわけではありません。

 むしろ、過剰に添加するとゴムの柔軟性を損ない、弾性を低下させる可能性もあります。カーボンブラックは、主にゴムの機械的強度を高めることで、結果的にタイヤの耐久性やグリップ力を向上させる役割を果たします。

加硫

分子鎖間の直接的な共有結合が、ゴムが変形した際にエネルギーを蓄え、力を取り除いた際にそのエネルギーを解放して元の形状に戻るという、弾性特有の挙動を生み出します。

カーボンブラックはゴムの強度を高める重要な補強材ですが、弾性の根源となるのは、加硫によるゴム分子鎖間の共有結合によるネットワーク構造の形成です。カーボンブラックは、このネットワーク構造を補強し、タイヤ全体の性能を向上させる役割を担っています。

その他の薬品にはどんなものが利用されるのか

 タイヤの製造における「その他の薬品」は、ゴムの性能を向上させたり、製造工程を円滑に進めたりするために、多種多様なものが使用されます。主なものを以下に挙げ、それぞれの役割を説明します。

1. 加硫促進剤

  • 役割: 硫黄による加硫反応を促進し、より低い温度、より短い時間で効率的に加硫を行うために使用されます。
  • 種類: ジチオカルバミン酸塩、チアゾール系、スルフェンアミド系など、様々な種類があります。

2. 加硫遅延剤

  • 役割: スコーチ(早期加硫)を防ぎ、加工性を向上させるために使用されます。特に高温での混練や成形工程において、意図しない加硫の進行を抑制します。
  • 種類: フタル酸無水物、サリチル酸など。

3. 老化防止剤(酸化防止剤、オゾン劣化防止剤)

  • 役割: ゴムの劣化の原因となる酸素やオゾン、熱、光などからタイヤを保護し、寿命を延ばすために使用されます。
  • 種類: アミン系、フェノール系、ワックス類など。

4. 可塑剤(軟化剤、プロセスオイル)

  • 役割: ゴムの粘度を下げ、混練や成形などの加工性を向上させるために使用されます。また、低温での柔軟性を高める効果もあります。
  • 種類: パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、植物油など。近年では環境負荷の低い代替オイルも研究・使用されています。

5. シランカップリング剤

  • 役割: シリカを配合した低燃費タイヤなどで、シリカとゴムの間の結合力を高め、タイヤの性能(低燃費性、ウェットグリップ性、耐摩耗性など)を向上させるために使用されます。

6. 粘着付与剤(タッキファイヤー)

  • 役割: タイヤの各パーツを組み立てる際に、部品同士の粘着性を高め、作業性を向上させるために使用されます。
  • 種類: ロジン系樹脂、テルペン系樹脂など。

7. 着色剤(カーボンブラック以外)

  • 役割: タイヤに色を付けるために使用されます。ただし、カーボンブラックほどの補強効果はありません。
  • 種類: 無機顔料、有機顔料など(白色のシリカも着色剤として利用されることがあります)。

8. その他の添加剤

  • 充填剤: カーボンブラックやシリカ以外にも、クレー、炭酸カルシウムなどが配合されることがあります。これらは、コスト削減や特定の性能調整のために使用されます。
  • 難燃剤: 特定の用途のタイヤ(例:航空機用)に、燃えにくくするために配合されることがあります。

ゴムの性能を向上させたり、製造工程を円滑に進めたりするために、多種多様な薬品が添加されています。

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