AIは特許を取れるのか? AIの支援発明とは何か?どうやって判断するのか?

この記事で分かること

  • AIは特許を取れるのか:現状では、AIは「発明者」とは認められません。AIが発明プロセスに深く関与する「AI支援発明」に関する議論は始まっています。
  • 支援発明とは:AIが発明プロセスに深く関与するものの、最終的な発明者としては人間が認定されるケースを指します。
  • 判断の方法:人間がどれだけ発明の本質的な部分(課題の認識、解決策の着想、具体的な手段の考案、最終的な意思決定など)に創造的に関与したかという点が最大の判断基準となります。

AIは特許を取れるのか?

 日本の特許庁は、AIを「発明者」として認めていません。

 特許庁は、「発明者の表示は、自然人に限られる」という方針を明確に示しています。AIが自律的に行ったとされる発明についても、現状の特許法では「発明」として認められないと判断しています。です。

主なポイントは以下の通りです。

  • 特許庁の判断:
    • 特許庁は、「発明者の表示は、自然人に限られる」という方針を明確に示しています。AIを含む機械を発明者として記載することは認めていません。
    • AIが自律的に行ったとされる発明についても、現状の特許法では「発明」として認められないと判断しています。
  • 裁判所の判断:
    • 2024年5月には、AIを「ダバス(DABUS)、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した特許出願に対して、東京地方裁判所(後に知的財産高等裁判所も追認)が出願却下処分を取り消す請求を棄却する判決を出しました。
    • この判決では、特許法上の「発明者」は自然人に限られると判断されています。特許を受ける権利が自然人である発明者に発生することを前提としているため、AIにはこの権利が発生しないと解釈されています。
  • 国際的な動向:
    • AIを発明者として認めるか否かについては、各国で同様の議論が行われており、多くの国(欧州特許庁(EPO)、英国、米国、中国など)でもAIを発明者として認めていないのが現状です。
  • 今後の課題と議論:
    • AI技術の進展により、AIが創作的な貢献をするケースが増えることが予想されており、現行の特許法でどのように対応していくかが課題となっています。
    • 特許庁は、AIを活用した発明について、発明者の定義を明文化することや、AIの利活用が活発になることで発明者が不在になる状況が生じ、発明のモチベーション低下を懸念していることから、法整備の検討を進めています。
    • 現時点では、自然人がAIを利活用して行った発明は特許法上の「発明」に該当するという方向で検討が進められています。

 現状では、AIは「発明者」とは認められませんが、AIが発明プロセスに深く関与する「AI支援発明」については、人間が発明者として認められるための基準(例えば、「重要な貢献」をしたかなど)が議論されています。

AIは「発明者」とは認められませんが、AIが発明プロセスに深くかかわっている場合にどう判断するかの議論も行われています。

どうやってAIの支援発明かを判断するのか

 AI支援発明であるかどうかを判断する具体的な基準や、現行法における明確な定義は、まだ確立されていません。しかし、特許庁や専門家の間で議論が進められており、いくつかの観点から判断が試みられています。

AI支援発明かどうかを判断する際の主な観点

  1. 人間の関与の程度:
    • 主導性: 人間が発明の着想、課題設定、解決策の方向性、またはAIへの指示出しにおいて、どの程度主導的な役割を果たしたか。AIが単なるツールとして利用されたのか、それともAIが自律的に多くの部分を担ったのか。
    • 創造的寄与: 人間が、AIの出力に対して、修正、選択、組み合わせ、または新たな視点での解釈など、創造的な寄与を行ったか。AIが生成したものをそのまま受け入れるだけでなく、人間が「発明」として成立させるためにどのような付加価値を与えたか。
  2. AIの役割と機能:
    • 単なる計算・解析ツールとしてのAI: AIが膨大なデータを処理し、パターンを認識したり、最適解を導き出したりする「計算機」や「解析ツール」として機能した場合、その結果は人間の指示に基づいたものと見なされやすいです。この場合、人間が最終的な発明者となります。
    • 自律的な思考・提案: AIが、人間が予期しなかったような、または指示を超えた新たな解決策やアイデアを自律的に生成した場合、その「発明性」の帰属が問題となります。しかし、現行法ではAIを「発明者」とは認めていません。
  3. 発明の本質的な部分を誰が担ったか:
    • 課題の認識と設定: どのような課題を解決しようとしたのか、その課題を認識し、設定したのは人間かAIか。
    • 解決手段の考案: 課題を解決するための具体的な手段を考案したのは誰か。AIが生成した多くの候補の中から、人間が適切なものを選び出し、それを洗練させたのか。
    • 効果の確認と評価: 発明がもたらす効果をどのように評価し、その有用性を確認したのは誰か。

現在の特許庁の考え方(議論中のため確定ではない)

特許庁は、AIの関与が深まる発明についても、当面は「人間の貢献」に着目して発明者を判断する方向で検討を進めています。具体的には、以下のような考え方が示唆されています。

  • AIは「道具」としての位置づけ: AIがどれだけ高性能になっても、現状ではあくまで人間が発明を行うための「道具」であるという見方が強いです。
  • 「発明者」は自然人: 特許法上の発明者は自然人に限定されており、AIを単独の発明者とすることはできません。
  • 人間の「最終的な意思決定」と「創造的関与」が重要: AIが生成した結果の中から、人間が特定のものを選択し、特許出願に至るまでの最終的な判断や、その結果を「発明」として成立させるための創造的な関与があった場合に、その人間が発明者と認められる可能性が高いです。

判断が困難なケースの例

  • AIが、人間が全く想定していなかった画期的な解決策を自律的に見つけ出した場合。
  • AIが生成した膨大な数の候補の中から、人間がほとんど選択・修正を行わずに、そのまま特許出願に至るようなケース。

現状では、AI支援発明であるかどうかは、人間がどれだけ発明の本質的な部分(課題の認識、解決策の着想、具体的な手段の考案、最終的な意思決定など)に創造的に関与したかという点が最大の判断基準となります。

AIを発明者として認めないことで、起きるデメリットはなにか

 AIを発明者として認めないことには、いくつかのデメリットが指摘されています。主なものは以下の通りです。

  1. AI開発のインセンティブ低下とイノベーションの阻害
    • AIが自律的に高度な発明を生成できるようになっても、AI自体が発明者として認められず、その貢献が正当に評価されない場合、AI技術の開発者や研究者が、より高度なAIを開発する意欲を失う可能性があります。
    • 特に、人間がほとんど関与しない、あるいは全く関与しないAIによる「真の発明」が生じた場合、その発明の権利が曖昧になり、誰も権利主張できない(あるいは、誰もその権利を持つと明確に言えない)状況が生じかねません。これは、AIを活用したイノベーションの妨げとなる可能性があります。
  2. 権利帰属の曖昧化と紛争の増加
    • AIが発明プロセスに深く関与する「AI支援発明」において、「誰が発明者か」の判断が困難になるケースが増加します。AIの開発者、AIの利用者、AIにデータを提供した者など、複数の関係者がいる場合、権利の帰属が不明確になり、紛争が生じるリスクが高まります。
    • AIが生成した結果が、既存の特許を侵害するかどうかの判断も複雑になり、新たな法的な問題を引き起こす可能性があります。
  3. 社会の進歩への貢献の機会損失
    • AIが非常に有効な解決策や新たな技術を発見しても、それを特許として保護し、広く社会に普及させるためのインセンティブや仕組みが不足するため、その発明が埋もれてしまったり、適切に活用されなかったりする可能性があります。
    • これは、AIが持つ潜在的な能力を最大限に引き出し、社会全体の技術進歩に貢献する機会を逃すことにつながります。
  4. 国際的な法制度の不均衡と競争力の低下
    • もし将来的に一部の国がAIを発明者として認める(または、AIの貢献に応じた新たな権利保護制度を導入する)一方で、他の国が認めないという状況になれば、国際的な特許制度に不均衡が生じます。
    • AI発明を適切に保護できない国は、AI技術の競争において不利になる可能性があり、関連する企業や研究機関が海外に流出するリスクも考えられます。
  5. 「発明」の定義の時代との乖離
    • 現行の特許法における「発明者」の定義は、産業革命期など、人間の創造性を前提とした時代のものです。AIの進化により、人間が全く関与しない、あるいは極めて限定的な関与しかしない「発明」が登場した場合、現行の法の概念が現実と乖離していくことになります。
    • これにより、特許制度の本来の目的(発明の保護と利用を通じて産業の発展を図ること)が十分に果たせなくなる懸念があります。

AIのイノベーション阻害、権利帰属曖昧化、紛争増加、社会貢献機会損失、国際競争力低下などがデメリットとなり、これらのデメリットはAIの技術がますます高度化し、自律性が高まるにつれて顕在化する可能性が高いと考えられています。

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