ルネサスの株価 なぜ株価が一進一退なのか?ウルフスピード破綻の影響は?

この記事で分かること

  • 株価が一進一退となっている理由:増益率の鈍化と通期計画の見通し、半導体市場全体の在庫調整、ウルフスピード関連での特別損失があったものの、織り込み済みであったことなどから一進一退となっています。
  • ウルフスピード破綻の影響:EV向けSiC半導体基板の長期供給契約に伴う預託金が原因で、2500置く円の特別損失を計上しています。またSiCウェハ調達にも影響があります。
  • 増益率の鈍化理由:半導体市場全体の在庫調整の長期化、自動車や産業・IoT分野の需要減速が主な要因です。

ルネサスの株価

 ルネサスの株価が一進一退となっています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL240TU0U5A620C2000000/

 協業を行っていたウルフスピードの破産関連で2500億の損失計上を行っていますが、この情報はすでに織り込み済みで、株価への影響は限定的となっています。

株価が一進一退の理由は何か

 ルネサスエレクトロニクスの株価が小動きになっている背景には、いくつかの要因が考えられます。

考えられる要因

  • 増益率の鈍化と通期計画の見通し: 報道によると、増益率の鈍化や通期計画が投資家の期待を下回る可能性があることが、株価の動きを鈍らせている一因として挙げられています。
  • 半導体市場全体の在庫調整: 半導体業界全体が2023年後半から在庫調整局面に入っており、自動車や産業向け分野も現在調整が進んでいると指摘されています。ルネサスもこの影響を受けている可能性があります。シティ証券の分析では、ルネサスの株価は通常であれば底打ちに近いサイクルにあるものの、底打ちが遅れる可能性があると示唆されています。
  • 為替の影響: 円高への感応度が高いルネサスの収益構造も、株価の動きに影響を与えている可能性があります。
  • 特定の損失計上の可能性: 米ウルフスピード関連で約2500億円の損失計上が可能性として挙げられていますが、この情報はすでに織り込み済みで、株価への影響は限定的との見方も出ています。

今後の見通し

アナリストの予想では、ルネサスエレクトロニクスに対する見方は概ね強気です。

  • 強気買いのコンセンサス: 複数の証券アナリストが「強気買い」の判断を下しており、平均目標株価は現在の株価から大幅な上昇を見込んでいます。
  • 半導体市場の成長見通し: 世界半導体市場統計(WSTS)によると、今年の半導体市場は13.9%の成長が見込まれており、依然としてプラス成長が期待されています。
  • 自動車向け半導体などの需要: 自動車向け半導体における技術革新や、EVメーカーからの需要増加は、ルネサスの株価を押し上げる要因として注目されています。AI統合製品のイノベーションも需要増加につながると見られています。
  • サプライチェーンの改善: サプライチェーンの改善により生産能力が増加していることも、株価にポジティブな影響を与える可能性があります。

ウルフスピードの破綻はルネサスにどのような影響があるのか

 米ウルフスピードの経営破綻(または破産法の申請準備)は、ルネサスエレクトロニクスにとって以下のような影響を及ぼしています。

1. 巨額の損失計上

  • 約2500億円の損失計上: ルネサスは2025年6月中間期に、ウルフスピードの経営破綻に伴い約2500億円の損失を計上すると発表しました。これは、ルネサスが2023年7月にウルフスピードと締結した10年間のSiC(炭化ケイ素)ウェハ供給契約に関連し、ウルフスピードに提供していた約20億米ドル(約2,920億円)の預託金(前払い金)の大部分が損失となるためです。
  • 預託金の一部は転換社債や普通株式として受け取る: 損失処理の一方で、預託金の一部はウルフスピードの転換社債(元本総額2億400万ドル=約300億円)や普通株式として受け取る見込みです。

2. SiCパワー半導体戦略への影響

  • SiCウェハの調達先喪失: ルネサスはウルフスピードから電気自動車(EV)向け次世代パワー半導体基板の供給を受けることになっていました。ウルフスピードの破綻により、この重要なサプライチェーンが崩れ、SiCウェハの安定的な調達に影響が出ます。
  • SiC開発の中断: 報道によると、ウルフスピードからの調達が崩れたことで、ルネサスはSiCの開発そのものを中断する事態となっていると指摘されています。これは、将来的なSiCパワー半導体市場での競争力に影響を与える可能性があります。

3. 短期的な株価への影響と市場の反応

  • 株価の下落: ウルフスピードの破産申請準備が報じられた際、ルネサスの株価は一時的に下落しました。これは、巨額の損失計上の可能性やSiC戦略への懸念が投資家に広がったためです。
  • 織り込み済みとの見方も: しかし、一部ではこの損失計上の可能性はすでに市場に織り込み済みであり、株価への影響は限定的との見方も出ていました。実際に、ウルフスピードが債権者と合意したとの報道で株価が急反発する場面もありました。

今後の課題と展望

 ルネサスはSiCパワー半導体をEVなど成長分野の核と位置付けていただけに、ウルフスピードの破綻は大きな痛手となります。今後は、SiCウェハの新たな調達先の確保や、自社での開発・生産体制の見直しが急務となります。

 一方で、EV市場全体の減速やパワー半導体市場の調整局面という背景も考慮すると、ルネサスは戦略の再構築を迫られていると言えるでしょう。長期的には、半導体市場の回復や新たな戦略の成功が、ルネサスの株価と業績を左右する重要な要素となります。

ウルフスピードの破綻により、ルネサスは2025年6月中間期に約2500億円の損失を計上する見込みです。これは、EV向けSiC半導体基板の長期供給契約に伴う預託金が原因で、今後のSiC半導体戦略や開発に大きな影響が出ています。

増益率の鈍化の要因は何か

ルネサスエレクトロニクスの増益率の鈍化には、主に以下の要因が考えられます。

1. 半導体市場全体の調整局面

  • 在庫調整の長期化: 2023年後半から半導体業界全体で在庫調整が進んでおり、ルネサスの主要な顧客である自動車や産業向け分野もこの影響を受けています。新型コロナウイルス感染症による需要増で積み上がった在庫が、経済活動の正常化や需要の減速に伴い過剰となり、その調整に時間がかかっていることが背景にあります。
  • 景気減速の影響: 世界的なインフレ加速、中国経済の減速、地政学リスクの高まりなどが、半導体需要全体を冷え込ませています。

2. 特定分野での需要の鈍化

  • EV市場の減速: ルネサスが成長分野として注力していた電気自動車(EV)市場で、価格の高さや充電インフラの不足などから、期待されたほどの伸びが見られない状況があります。一部の自動車メーカーがEVへの投資計画を見直す動きも見られ、これが自動車向け半導体需要の減速につながっています。
  • 産業・インフラ・IoT向け事業の軟化: 自動車向けだけでなく、産業・インフラ・IoT向け事業も市場の軟化と流通在庫の調整により売上が減少していると報告されています。

3. ウルフスピード関連の損失計上

  • 巨額の損失: 米ウルフスピードの経営破綻に伴い、ルネサスが多額の預託金(前払い金)を損失として計上することが発表されました。これは、直接的に収益に大きなマイナスの影響を与え、利益率を押し下げる要因となります。

4. 為替の影響

  • 円高への感応度: ルネサスは海外売上比率が高く、円高に振れると海外売上を円換算した際に減少するため、収益が圧迫される可能性があります。

5. 費用増加

  • 研究開発費や設備投資: 半導体業界では、技術革新に対応するための研究開発費や生産能力増強のための設備投資が継続的に必要です。市場の成長が鈍化する中で、これらの費用が利益を圧迫する可能性があります。

 これらの要因が複合的に作用し、ルネサスエレクトロニクスは一時的に増益率の鈍化に直面していると考えられます。しかし、将来的にはAIやSDV(Software Defined Vehicle)の進展に伴う半導体需要の拡大など、成長の機会も存在するため、今後の市場動向やルネサスの戦略が注目されます。

ルネサスの増益率鈍化は、半導体市場全体の在庫調整の長期化、自動車や産業・IoT分野の需要減速が主な要因です。

ウルフスピードの破綻がそれほど株価影響しない理由は

 ウルフスピードの経営破綻がルネサスエレクトロニクスの株価にそれほど大きな悪影響を与えなかった主な理由は、以下の点が挙げられます。

  1. 損失の「織り込み済み」
    • ウルフスピードの経営悪化や再建への動きは以前から報じられており、ルネサスがSiCウェハの長期供給契約に基づいて預託金を供与していることも、市場ではある程度認識されていました。
    • そのため、約2500億円という巨額の損失計上の可能性が報じられた際も、市場の一部では「すでに織り込み済み」と判断され、サプライズ感が限定的だった可能性があります。発表直後に売りが先行しても、すぐに買い戻しが入る動きが見られました。
  2. Non-GAAPベースの業績予想への影響限定的
    • ルネサスは「Non-GAAPベース」で業績予想を開示しており、ウルフスピード関連の損失は会計上の特別損失として計上されるものの、Non-GAAPベースの業績予想には影響がないと説明しています。
    • 投資家は、企業の収益力を測る上でNon-GAAPベースの指標を重視する傾向があるため、今回の損失がコア事業の収益性に直結しないと判断されたことが、株価の悪影響を和らげた要因と考えられます。
  3. 再建支援契約の締結と不確実性の低下
    • ルネサスはウルフスピードとの間で再建支援契約を締結し、預託金の一部を転換社債や普通株式として受け取る見込みであると発表しました。これにより、損失の金額が明確になり、今後の不確実性が一定程度解消されたと市場が評価した可能性があります。
  4. SiC事業の戦略見直しへの期待
    • ウルフスピードからのSiCウェハ調達が難しくなったことで、ルネサスはSiC事業の戦略見直しを迫られています。一部の投資家は、これを機にルネサスがより安定的なSiC調達先を確保したり、自社生産を強化したりすることで、長期的にリスクを分散し、事業基盤を強化する可能性があると見て、かえってプラスに捉えた側面もあるかもしれません。

これらの要因が複合的に作用し、ウルフスピードの破綻がルネサスの株価に与えるマイナスの影響を限定的なものにとどめたと考えられます。

ウルフスピードの損失計上は市場に「織り込み済み」であったこと、またルネサスが重要視するNon-GAAPベースの業績予想には影響がないと説明されたため、株価への悪影響は限定的でした。

Non-GAAPベースの業績予想について

 Non-GAAP(非GAAP)ベースの業績予想とは、「一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)」に準拠して作成された財務諸表の数値から、企業が「本業の業績」をより正確に反映すると判断した特定の項目を除外したり調整したりして算出された業績予想のことです。

 GAAPは、財務報告の透明性、比較可能性、信頼性を確保するための標準的なルールです。しかし、GAAPに基づいて算出された純利益や売上高には、以下のような一時的、非経常的、または非現金性の損益が含まれることがあります。

  • リストラ費用: 事業再編に伴う一時的な費用。
  • M&A関連費用: 買収・合併にかかる費用や、買収した企業の無形資産の償却費。
  • 資産の減損損失: 投資した資産の価値が大幅に低下した場合に計上される損失。
  • 訴訟費用: 係争中の訴訟に関連する費用。
  • 株式報酬費用: 従業員に付与される株式やストックオプションに関連する費用(現金支出を伴わないことが多い)。
  • 為替差損益: 為替レートの変動による一時的な損益。

 これらの項目は、企業の通常の事業活動とは直接関係ない、あるいは一時的な要因によって発生するため、GAAPベースの数値だけでは、その企業の「本源的な収益力」や「継続的な事業のパフォーマンス」を正確に評価しにくい場合があります。

 そこで、企業は投資家がより実態を把握しやすいように、これらの一時的、非経常的な要素を排除した「Non-GAAPベース」の業績予想を提示することがあります。これにより、以下のようなメリットがあるとされています。

  • 本業の収益力を明確にする: 一時的な要因に左右されず、コアビジネスの健全性を示せる。
  • 期間比較の容易さ: 過去の業績や競合他社との比較がしやすくなる。
  • 経営陣の意図を伝える: 経営陣がどの部分を「本業」と捉え、投資家に評価してほしいと考えているかを明確にできる。

注意点

  • 基準が統一されていない: Non-GAAPはGAAPのように統一されたルールがないため、企業ごとに算出方法が異なります。そのため、異なる企業のNon-GAAPベースの業績を単純に比較することは難しい場合があります。
  • 恣意性が介入する可能性: 企業が都合の良いように調整項目を選択し、実際の業績を良く見せようとする可能性があるため、注意が必要です。

 ルネサスエレクトロニクスの例では、ウルフスピード関連の損失が「Non-GAAPベースの業績予想には影響がない」と説明されたことで、投資家はその損失が本業の継続的な収益性に直接的なダメージを与えるものではないと判断し、株価への悪影響が限定的だったと考えられます。企業はNon-GAAP指標を提示する際に、GAAPとの調整表(Reconciliation)を開示することが求められています。

Non-GAAPベースの業績予想は、一時的・非経常的な費用(減損損失など)を除外し、企業の「本業」の収益力を示す指標です。GAAPとは異なり統一基準はなく、企業が独自に調整するため、より実態を反映しやすく、投資家が重視することがあります。

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