キオクシアの第9世代の3次元フラッシュメモリ技術 フラッシュメモリとは何か?BiCS FLASHの特徴は何か?

この記事で分かること

  • フラッシュメモリとは電源を切ってもデータが消えない「不揮発性メモリ」の一種です。高速な読み書き、小型軽量、耐衝撃性が特徴です。
  • BiCS FLASHとは:キオクシアが開発した3次元フラッシュメモリ技術であり、メモリセルを垂直に積み重ねることで大容量化を実現し、性能向上と信頼性強化を図っています。
  • フラッシュメモリの有力メーカー:サムスン電子、SKハイニックス、キオクシア、ウエスタンデジタル、マイクロン・テクノロジーのフラッシュメモリ市場の大部分を占めています。

キオクシアの第9世代の3次元フラッシュメモリ技術

 キオクシアは、第9世代の3次元フラッシュメモリ技術である「BiCS FLASH」を発表しました。

 https://www.kioxia.com/ja-jp/about/news/2025/20250725-1.html

 キオクシアは、この第9世代NANDを通じて、低容量から中容量帯向けの市場で、高性能かつ優れた電力効率の製品を提供していく方針です。

フラッシュメモリとは何か

 フラッシュメモリは、「電源を切ってもデータが消えない」という特性を持つ不揮発性メモリの一種です。デジタルカメラのフラッシュのように、一瞬でデータをまとめて消去できることからこの名前が付けられました。

主な特徴

  • 不揮発性: 電源がなくても記録したデータを保持します。
  • 高速性: データの読み書きがHDD(ハードディスクドライブ)に比べて高速です。
  • 小型・軽量: 可動部分がないため、小型化・軽量化が容易です。
  • 耐衝撃性: 駆動部がないため、衝撃に強いです。
  • 低消費電力: 動作時の消費電力が少ないです。

仕組み

 メモリセルと呼ばれる小さな単位にデータを記憶します。このメモリセルは、主に「コントロールゲート」と「フローティングゲート」という2つのゲートを持つトランジスタで構成されています

  • 書き込み: コントロールゲートに電圧をかけることで、電子が絶縁体を通り抜けてフローティングゲートに閉じ込められます。この電子の有無で「0」か「1」のデータを表現します。
  • 消去: フローティングゲートに閉じ込められた電子を抜き取ることで、データを消去します。

種類

 主に以下の2種類があります。

  • NAND型フラッシュメモリ:
    • メモリセルを直列に接続した構造で、大容量化に適しています。
    • 一般的に「フラッシュメモリ」といえばNAND型を指すことが多いです。
    • SSD、USBメモリ、SDカード、スマートフォンのストレージなどに広く使われています。
    • 1つのセルに記録できるビット数によって、SLC(1ビット)、MLC(2ビット)、TLC(3ビット)、QLC(4ビット)などの種類があり、耐久性や速度、コストが異なります。
  • NOR型フラッシュメモリ:
    • メモリセルを並列に配置した構造で、ランダムアクセス(任意の場所への高速な読み出し)に優れています。
    • 書き込み速度はNAND型より遅いですが、信頼性が高いという特徴があります。
    • 主にBIOSやファームウェアなど、小容量で高速な読み出しが必要な用途に使われます。

用途

 USBメモリ、SDカード、スマートフォンの内蔵ストレージ、タブレット、デジタルカメラ、そしてPCのストレージとして普及が進むSSD(Solid State Drive)など、私たちの身の回りの様々な電子機器に幅広く利用されています。自動車や産業機器、データセンターなどでも不可欠な存在となっています。

フラッシュメモリは、電源を切ってもデータが消えない「不揮発性メモリ」の一種です。高速な読み書き、小型軽量、耐衝撃性が特徴です。スマートフォンやSSD、USBメモリ等に広く利用され、NAND型とNOR型があります。

BiCS FLASHとはなにか

 BiCS FLASH™(BiCSフラッシュ)は、キオクシア(旧東芝メモリ)が開発した3次元フラッシュメモリ技術の総称です。従来の2次元(平面)構造のNANDフラッシュメモリが、微細化の限界に直面した際に、より大容量化と高性能化を実現するために考案されました。

BiCS FLASH™の主な特徴と技術革新

  1. 3次元積層構造 (3D NAND):
    • 従来のNANDフラッシュメモリは、メモリセルをシリコン基板の平面上に並べて配置していました。しかし、微細化が進むにつれてセル間の干渉や信頼性の問題が顕在化しました。
    • BiCS FLASH™は、メモリセルを垂直方向に何層も積み重ねることで、単位面積あたりの記憶容量を飛躍的に向上させました。まるで高層ビルを建てるように、限られた敷地面積に多くの部屋(メモリセル)を確保するイメージです。
  2. 一括加工技術:
    • メモリセルを何十層、何百層と積み重ねるにあたり、各層を個別に加工するのではなく、積層した複数の層を一度に加工する「一括加工技術」が用いられています。これにより、製造工程の複雑さを低減し、コスト効率を高めています。
  3. 高性能化と信頼性向上:
    • 3次元構造にすることで、メモリセル間の物理的な距離をある程度確保できるため、セル間の干渉が低減され、信頼性が向上します。
    • また、データ転送速度の向上や電力効率の改善も図られています。
  4. CBA (CMOS Bonded to Array) 技術の採用 (BiCS FLASH™ 第8世代以降):
    • これは比較的新しい技術で、メモリセルアレイ(実際にデータを記憶する部分)と、それを制御する周辺回路(CMOS回路)を、それぞれ最適なプロセスで別々に製造し、その後高精度に貼り合わせる技術です。
    • これにより、メモリセルには高密度化に適したプロセスを、周辺回路には高速化や低消費電力化に適したプロセスを適用できるため、全体の性能と効率をさらに高めることが可能になりました。

BiCS FLASH™の歴史と応用

  • キオクシアは、2007年に世界で初めて3次元フラッシュメモリ技術のコンセプトを発表しました。
  • 2015年には、最初のBiCS FLASH™製品として48層のサンプル出荷が始まりました。
  • その後、世代を重ねるごとに積層数を増やし、性能を向上させています(例:第6世代は162層、第8世代は218層、そして最新の第9世代が登場)。
  • BiCS FLASH™は、スマートフォン、PC(SSD)、データセンター、自動車など、幅広いアプリケーションに搭載されており、大容量かつ高速なストレージソリューションとして、現代のデジタル社会を支える基盤技術となっています。

 BiCS FLASH™は、キオクシアがリードする「縦に積み重ねることでフラッシュメモリの大容量化・高性能化を実現する画期的な技術」であり、進化を続けることでデジタルデータの増加に対応しています。

BiCS FLASHはキオクシアが開発した3次元フラッシュメモリ技術です。メモリセルを垂直に積み重ねることで大容量化を実現し、性能向上と信頼性強化を図っています。CBA技術で高性能な周辺回路と高密度なメモリセルを最適化し、データセンターやスマートフォンなど多様なストレージ需要を支えます。

積み重ねたセルはどうやって接続するのか

 3次元NAND(BiCS FLASH™を含む)で積み重ねられたメモリセルを接続する主要な方法は、「貫通電極」と「ワード線のステアケース接続」、そして最近では「CBA (CMOS Bonded to Array) 技術」が挙げられます。

具体的には、以下のような仕組みで接続されています。

  1. チャネルホール(柱状電極)による垂直接続:
    • 3次元NANDでは、まずメモリセルアレイとなる複数の板状電極(ワード線となる部分)を何層も積層します。
    • その後、この積層された層を垂直に貫くように、微細な「チャネルホール」と呼ばれる穴を一括で開けます。
    • このチャネルホールの内壁に、電荷を蓄積するメモリ膜(電荷トラップ層など)と、その中心に電流が流れる「柱状電極(またはチャネル)」を形成します。
    • この柱状電極が、垂直方向に積み重なった個々のメモリセルを電気的に接続する役割を果たします。つまり、一つの柱状電極が、その柱の高さ方向にある全ての層のメモリセルを「直列」につなぐNANDストリングを形成します。
  2. ワード線(板状電極)とステアケース接続:
    • 各層にある板状電極は「ワード線」として機能し、メモリセルのゲート電極となります。
    • これらのワード線は、それぞれの層で独立してアクセスされる必要があります。そのために、積層されたワード線を外部の制御回路(デコーダなど)に接続するための「ステアケース(階段状)」構造が形成されます。
    • チップの端の方で、各層のワード線が階段のように少しずつずれて露出するように加工され、そこに外部から電極(コンタクト)が接続されます。これにより、特定の層のワード線に電圧を印加し、その層のメモリセルを選択的に制御することが可能になります。
  3. CBA (CMOS Bonded to Array) 技術による周辺回路との接続:
    • 第8世代以降のBiCS FLASH™で採用されているCBA技術では、メモリセルアレイ(上記のチャネルホールやワード線を含む部分)が作られたウェハーと、データ読み書きや制御を行う周辺回路(CMOS回路)が作られたウェハーを、非常に高精度で貼り合わせます。
    • この貼り合わせる際に、メモリセルアレイ側の最下層の電極と、周辺回路側の対応する電極が直接接続されます。これにより、データ転送のパスが短くなり、信号遅延が低減され、結果として性能向上や消費電力の削減につながります。

 これらの技術を組み合わせることで、何百層ものメモリセルが効率的かつ確実に電気的に接続され、高速で大容量のデータアクセスが可能になるのです。特に、微細な穴を開けたり、膨大な数のコンタクトを形成したりする加工技術は、3次元NAND製造における極めて高度な技術と言えます。

積み重ねたセルは、垂直に貫くチャネルホール(柱状電極)で直列接続されます。各層のワード線はチップ端で階段状に露出し、制御回路へ接続。CBA技術では、メモリセルアレイと周辺回路を直接貼り合わせ、効率的に電気接続します。

フラッシュメモリの有力メーカーはどこか

 フラッシュメモリ(特にNAND型フラッシュメモリ)の主要なメーカーは、以下の企業です。これらの企業が世界の市場シェアの大部分を占め、技術開発を牽引しています。

  1. Samsung Electronics (サムスン電子):
    • 韓国の企業で、NAND型フラッシュメモリ市場において長年トップシェアを維持しています。独自のV-NAND技術など、最先端の技術開発を積極的に行っています。
  2. SK Hynix (SKハイニックス):
    • 韓国の企業で、サムスンに次ぐ有力なNAND型フラッシュメモリメーカーです。近年、インテルからNAND事業の一部を買収し、さらにシェアを拡大しています。
  3. Kioxia (キオクシア):
    • 日本の企業で、旧東芝メモリです。NANDフラッシュメモリを発明した東芝からスピンオフしました。BiCS FLASH™などの3D NAND技術に強みを持ち、ウエスタンデジタルと提携して製造を行っています。
  4. Western Digital (ウエスタンデジタル):
    • アメリカの企業で、HDD(ハードディスクドライブ)でも有名ですが、NAND型フラッシュメモリ分野でも大きな存在感を示しています。キオクシアと共同でNANDフラッシュの製造・開発を行っています。SanDiskを傘下に持ちます。
  5. Micron Technology (マイクロン・テクノロジー):
    • アメリカの企業で、DRAM(揮発性メモリ)とともにNAND型フラッシュメモリも主要製品としています。独自の3D NAND技術を開発しています。

 これらの「ビッグ5」と呼ばれる企業が、フラッシュメモリ市場の大部分を占めています。特に、AIやIoTの進展に伴うデータ量の爆発的な増加により、NAND型フラッシュメモリの需要は今後も高まると予測されており、各社は技術開発と生産能力の増強に力を入れています。

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