セントラル硝子の高純度フッ化水素ガス増産 どんなエッチングに使用されるのか?選択性と反応性を両立できる理由は何か?

この記事で分かること

  • 使用されるエッチング:主に半導体製造でシリコン酸化膜などを精密に除去するエッチングやガラス表面のエッチングに使用されます。
  • 反応性と選択性の両立が可能な理由:フッ素の全元素中最大の電気陰性度と小さい原子半径により、非常に高い反応性を持ちます。特に半導体エッチングでは、シリコン酸化膜と強く反応して揮発性物質を生成しつつ、単体シリコンには比較的反応しにくいという選択性が、精密な回路形成を可能にしています。

セントラル硝子の高純度フッ化水素ガス増産

 セントラル硝子は高純度フッ化水素ガスの増産を検討しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00756183

 高純度フッ化水素ガスは、半導体製造プロセスやその他の先端材料の製造に不可欠な素材であり、その需要は高まっています。

フッ化水素ガスはどんなエッチングに使用されるのか

 フッ化水素(HF)ガスは、主に半導体製造プロセスにおけるエッチングに不可欠な材料として使用されます。特に、微細な回路パターンを形成するために、特定の材料を精密に除去する際にその特性が活かされます。

  • シリコン酸化膜のエッチング: 半導体デバイスにおいて、シリコン基板上に形成された二酸化シリコン(SiO₂)などの絶縁膜をエッチングする際に用いられます。これは、トランジスタや配線などの回路を形成するために、不要な酸化膜を選択的に除去する重要な工程です。特に、シリコン表面の自然酸化膜の除去にも使用されます。
  • ウェットエッチング: フッ化水素酸(HFの水溶液)として使用される場合が多く、シリコンウェハーの洗浄や、酸化膜のウェットエッチングに用いられます。極めて高いクリーン度が要求される半導体製造プロセスにおいて、最終的な洗浄工程でも不可欠な役割を果たします。
  • ドライエッチング: フッ化水素ガスやフッ化炭素ガス(CF₄、SF₆など)、あるいはそれらの混合ガスとして使用され、プラズマを利用してシリコンなどの材料をエッチングします。液体を使用しないため、より高精度な加工が可能であり、近年の微細化された半導体製造において重要性が増しています。

 フッ化水素は、その高い反応性と選択性により、半導体ウェハー上の不要な物質を正確に取り除き、微細な回路パターンを形成する上で極めて有効です。このため、半導体の性能や品質向上に大きく貢献する、半導体製造に不可欠な素材と言えます。

 半導体以外の分野では、ガラスのエッチング(すりガラスや彫刻加工、液晶基板やOLED基板のエッチングなど)や金属の洗浄、歯科医療などにも使用されることがありますが、その主要な用途は高純度を要求される半導体分野にあります。

フッ化水素ガスは、主に半導体製造でシリコン酸化膜などを精密に除去するエッチングに使用されます。これは、微細な電子回路パターンを形成するために不可欠なプロセスです。また、ガラスの表面を加工するエッチングにも利用されます。

フッ化水素ガス需要増加の背景は

 フッ化水素ガスの需要増加の背景には、主に以下の要因が挙げられます。

半導体産業の急速な成長と高度化

  • 微細化・高集積化の進展: スマートフォン、PC、データセンター、IoTデバイスなど、あらゆる電子機器に搭載される半導体は、より高性能で小型化が進んでいます。これに伴い、半導体チップ上の回路はナノレベルでの微細加工が求められ、フッ化水素ガスを用いた高精度なエッチング・洗浄工程が不可欠となっています。
  • 3D構造化(積層化)の進展: 半導体チップは、従来の平面的な構造に加え、垂直方向にも積層される3D構造(例えばNANDフラッシュメモリなど)が増えています。これにより、エッチング対象となる表面積が増加し、フッ化水素ガスの使用量も増加しています。
  • 不良率低減への要求: 半導体製造では、わずかな不純物でも製品の性能に致命的な影響を与えるため、超高純度のフッ化水素ガスを用いた徹底した洗浄が求められます。不良率を最小限に抑えるための品質要求の高まりが、フッ化水素ガスの需要を押し上げています。

フッ素系ファインケミカル製品の需要拡大

  • 冷媒(代替フロン): オゾン層保護や地球温暖化対策の観点から、従来冷媒の代替となるフッ素系冷媒の需要が増加しています。フッ化水素はこれらの冷媒の原料となります。
  • フッ素樹脂・ゴム: 耐熱性、耐薬品性、非粘着性などに優れたフッ素樹脂(テフロンなど)やフッ素ゴムは、自動車、航空宇宙、医療、調理器具など幅広い分野で利用されており、その需要も増加傾向にあります。
  • その他: 医薬品・農薬の中間体、リチウムイオン電池関連材料など、様々な先端分野でフッ素化合物が活用されており、フッ化水素ガスはその重要な原料となります。

 これらの背景から、特に半導体産業における技術革新と需要拡大が、フッ化水素ガス、特に高純度フッ化水素ガスの生産能力増強を促す大きな要因となっています。

フッ化水素ガス需要増加の背景は、半導体産業の微細化・高集積化によるエッチング・洗浄の需要拡大が主です。加えて、エアコン冷媒やフッ素樹脂など、幅広いフッ素系ファインケミカル製品の需要増も寄与しています。

高い反応性と選択性を持つ理由は何か

 フッ化水素(HF)が高い反応性と選択性を持つ理由は、主にフッ素原子の特性に由来します。

1. 高い反応性の理由

  • 全元素中最大の電気陰性度: フッ素は周期表で最も電気陰性度が大きい元素です(ポーリングスケールで3.98)。これは、フッ素原子が結合している電子を非常に強く引きつける性質があることを意味します。この強い電子吸引力により、フッ素は他の元素から電子を奪いやすく、非常に反応性に富みます。
  • 小さい原子半径: フッ素原子は原子半径が非常に小さいため、原子核と価電子の距離が近く、電子を引きつける力がさらに強くなります。
  • 単結合のエネルギー: フッ素同士の結合(F-F結合)は比較的弱いため、フッ素単体(F₂)は容易に分解し、非常に反応性の高いフッ素ラジカルを生成しやすいです。これがフッ素の反応性を高める要因の一つとなります。
  • フッ化水素における水素結合: フッ化水素(HF)分子間では強い水素結合が形成されますが、これはHF分子が集合体((HF)n)を形成し、特定の化学反応においてユニークな挙動を示す要因となります。

これらの特性により、フッ素はほとんど全ての元素と直接反応し、非常に安定なフッ化物(化合物)を形成しようとします。フッ化水素もこのフッ素の特性を強く引き継いでいます。

2. 高い選択性の理由(特に半導体エッチングにおいて)

フッ化水素の選択性は、特に半導体製造におけるシリコン(Si)とその酸化物(SiO₂)に対する反応性の違いに顕著に表れます。

  • シリコン酸化物(SiO₂)との強い反応性:
    • フッ化水素は、シリコン酸化物(SiO₂)のSi-O結合と非常に強く反応し、揮発性のフルオロシラン(SiF₄など)や水(H₂O)を生成します。SiO2​+4HF→SiF4​↑+2H2​O
    • この反応により、シリコン酸化膜を効率的かつきれいに除去できます。
  • 単体シリコン(Si)との反応性の違い:
    • 一方で、フッ化水素は単体シリコン(Si)に対しては、比較的反応性が低いです。これは、Si-Si結合がHFに対して安定であることや、反応によって形成されるSiFₓがシリコン表面に保護膜として作用するためです。
    • そのため、レジストなどで保護されていないSiO₂のみを狙ってエッチングすることが可能となり、下のSi層を損傷せずに精密なパターンを形成できます。

 この「シリコン酸化物と反応しやすいが、単体シリコンとは反応しにくい」という性質が、半導体製造におけるフッ化水素の「選択性」の核心です。これにより、目的の膜のみを除去し、デバイスの微細加工を可能にしています。

フッ素の全元素中最大の電気陰性度と小さい原子半径により、非常に高い反応性を持ちます。特に半導体エッチングでは、シリコン酸化膜と強く反応して揮発性物質を生成しつつ、単体シリコンには比較的反応しにくいという選択性が、精密な回路形成を可能にしています。

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