化学各社の非石油化学事業へのシフト どんな事業なのか?シフトを続ける理由は?

この記事で分かること

  • 非石油化学事業とは:半導体材料やディスプレイ材料、ヘルスケア分野では、医療用プラスチックや医薬品関連材料、高機能樹脂などがあります。
  • シフトを続ける理由:脱炭素化や環境規制への対応に加え、石油市況に左右されない安定的な収益確保のためです

化学各社の非石油化学事業へのシフト

 日本の化学各社は、地球温暖化対策や社会のニーズの変化に対応するため、石油化学に依存する事業構造から脱却し、非石油化学事業を新たな成長の軸足としています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1088E0Q5A910C2000000/

 これは、環境負荷の低い素材開発や、高機能・高付加価値な製品へのシフトを意味します。

非石油化学にはどんな物があるのか

 日本の化学各社が注力している非石油化学分野の実例は、以下の通りです。

材料分野

  • 半導体材料: スマートフォンやパソコンに使われる半導体の性能向上に欠かせない材料。JSRは半導体製造に不可欠なフォトレジストやCMP研磨材などで高いシェアを持っています。
  • ディスプレイ材料: 4K・8Kテレビやスマートフォンなどの液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの性能を左右する材料。JSRはディスプレイの表示を制御する配向膜で世界トップクラスのシェアを誇ります。

ヘルスケア分野

  • 医療・医薬品関連: 生体適合性の高い医療用プラスチック、医薬品の製造プロセスに必要な材料、再生医療向けの細胞培養基材などがあります。三菱ケミカルグループは、医薬品や診断薬の事業を強化しています。
  • メガネレンズ材料: 三井化学は、世界トップクラスの技術力を活かして高屈折率のメガネレンズ材料を提供しています。
  • 衛生材料: 紙おむつなどに使われる高機能な不織布や吸水性ポリマーもヘルスケア分野の重要な製品です。

機能性樹脂分野

  • 自動車部品: 車体の軽量化や燃費向上に貢献する高機能な樹脂材料が開発されています。三井化学は、自動車の軽量化に貢献する特殊な樹脂やバンパー材料などを提供しています。
  • 食品包装材料: 鮮度保持や安全性に優れた高機能フィルムや容器材料があります。例えば、酸素や水蒸気を遮断するバリア性の高いフィルムは、食品の長期保存に役立ちます。
  • 再生プラスチック: 使用済みプラスチックをケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルによって再生し、新たな製品の原料として活用する取り組みが進んでいます。

非石油化学の代表例は、半導体材料やディスプレイ材料です。ヘルスケア分野では、医療用プラスチックや医薬品関連材料、高機能なメガネレンズ材料などがあります。また、自動車軽量化に貢献する高機能樹脂や、鮮度保持に優れた食品包装材料も含まれます。

非石油化学へのシフトを続ける理由は

 化学各社が非石油化学へのシフトを続ける理由は、大きく分けて以下の3つです。

1. 脱炭素化と環境規制への対応

 石油化学製品の製造は、多くのCO₂を排出します。地球温暖化対策として、世界的にCO₂排出量削減が求められる中、化石燃料に依存する事業構造からの脱却は必須です。

 さらに、使い捨てプラスチックによる海洋汚染などの環境問題も深刻化しており、生分解性プラスチックや再生プラスチックといった環境負荷の低い製品への需要が高まっています。企業はこれらの課題に対応するため、非石油化学に軸足を移しています。


2. 安定した収益源の確保

 石油化学製品は汎用性が高く、コモディティ化しやすいため、市況の変動に収益が左右されがちです。一方で、非石油化学分野の製品は、半導体材料やヘルスケア関連材料など、高い技術力やノウハウが必要なものが多く、高付加価値です。

 これらの分野は、景気変動の影響を受けにくく、安定した収益を確保しやすいという特徴があります。これにより、企業はより強固な経営基盤を築くことができます。


3. 社会のニーズと成長市場への対応

 現代社会では、人々の健康意識の高まりや、IoT(モノのインターネット)の普及によるデジタル化が加速しています。

 これらの社会課題やニーズに対応するため、医療機器向けの高性能な素材や、電子部品の製造に不可欠な高機能材料の需要が拡大しています。非石油化学は、これらの成長分野を捉えるための重要な戦略であり、企業の持続的な成長に不可欠となっています。

化学各社が非石油化学へのシフトを続ける理由は、脱炭素化や環境規制への対応に加え、石油市況に左右されない安定的な収益確保のためです。ヘルスケアやデジタル関連といった高付加価値分野に経営資源を集中することで、持続的な成長を目指しています。

実際の取り組み内容は

 日本の化学メーカー各社は、非石油化学を新たな成長軸として、事業構造の転換を進めています。以下に代表的なメーカーとその具体的な取り組み例を紹介します。

  • 三菱ケミカルグループ
    • ヘルスケア・高機能製品への集中: 石油化学事業を再編し、医療・医薬品、機能性食品、電子材料といった高付加価値分野に経営資源をシフトしています。
    • ケミカルリサイクル事業: ENEOSとの共同事業として、使用済みプラスチックを熱分解して油に戻し、石油化学製品の原料として再利用するケミカルリサイクル設備を稼働させています。
  • 三井化学
    • バイオマス由来製品の開発: サトウキビなどを原料とするバイオポリエチレンの開発や、ひまし油由来のポリウレタン材料の生産を進めています。
    • 資源循環の取り組み: 使用済みプラスチックのマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを推進し、新たな組織「グリーンマテリアルズ」を設立して、事業変革を加速させています。
  • JSR
    • デジタルソリューションへの特化: 汎用的な石油化学事業から撤退し、半導体材料やディスプレイ材料といった高機能なデジタルソリューション事業に特化する方針を打ち出しています。半導体製造に不可欠なフォトレジストは、世界トップクラスのシェアを誇ります。
  • 住友化学
    • 石油化学部門の名称変更: 「石油化学部門」を「エッセンシャルケミカルズ部門」に名称変更し、社会に必要不可欠な化学品提供への決意を示しています。
    • 環境配慮型プロセスの開発: エタノールからプロピレンを直接製造するプロセスを開発しており、石油由来の原料から脱却する技術革新を進めています。
  • レゾナック(旧:昭和電工)
    • 機能性化学メーカーへの転身: 昭和電工と昭和電工マテリアルズが統合し、社名をレゾナックに変更。半導体・電子材料など、技術を活かした高機能・高付加価値な製品に注力しています。

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