京セラの低消費電力水晶発振器 水晶発振器とは何か?どうやって消費電力を減らしたのか?

この記事で分かること

  • 水晶発振器とは:水晶振動子の圧電効果を利用して、非常に安定した周波数の電気信号を生成する電子部品です。
  • 消費電力を減らした方法:、低電圧駆動が最も効果的です。発振ICの電圧を下げて動作させることで、消費電力を大幅に削減できます
  • 低電圧での使用を可能にした理由:低電圧駆動が難しいのは、電圧が下がると信号の振幅が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなるためです。低電圧でも安定して信号を増幅できる新しい発振ICの開発を行うことで、定電圧駆動が可能となりました。

京セラの低消費電力水晶発振器

 京セラは、スマートフォンやウェアラブルデバイス向けに、従来品と比べて消費電力を約50%削減したクロック用水晶発振器「KC1210Aシリーズ」を開発しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF175T30X10C25A9000000/

 新製品は消費電力の削減に大きく貢献し、AI機能搭載デバイスなどの省電力化ニーズに対応します。

水晶発振器とは何か

 水晶発振器は、電子機器に不可欠な電子部品で、水晶振動子発振回路を一つのパッケージに収めたものです。これは、安定した周波数の電気信号を生成し、電子機器のタイミングや周波数制御に利用されます。

仕組み

水 晶発振器の動作は、水晶が持つ圧電効果という特性に基づいています。圧電効果とは、水晶に電圧を加えると機械的なひずみ(変形)が生じ、逆に機械的な圧力を加えると電圧が発生する現象です。

  1. 水晶発振器内部の発振回路が水晶に電圧を印加します。
  2. この電圧により、水晶が特定の周波数で振動します。
  3. この振動は非常に安定しており、この振動によって水晶自身が電圧を発生させます。
  4. この電圧信号を再び発振回路に戻し、増幅することで、規則的な電圧振動(電気信号)が持続的に生成されます。

 この仕組みにより、水晶発振器は非常に精度の高いクロック信号を供給することができます。振り子が一定のリズムを刻むように、水晶発振器は電子機器の動作を同期させる役割を果たします。


用途

水晶発振器は、その高い周波数安定性から、さまざまな電子機器の「心臓部」として利用されています。

  • デジタル機器: コンピュータ、スマートフォン、デジタルカメラなどのCPUやメモリのクロック信号(動作基準となる信号)として使われます。
  • 通信機器: 携帯電話や無線機器の周波数信号の生成に不可欠です。
  • 計測機器: オシロスコープや周波数カウンタなどの測定機器の基準信号として用いられます。
  • 家電製品: テレビ、DVDレコーダー、電子レンジなどの内部動作のタイミング制御に使用されます。

水晶発振器は、水晶振動子の圧電効果を利用して、非常に安定した周波数の電気信号を生成する電子部品です。パソコンやスマートフォンなど、多くのデジタル機器の正確なタイミング制御に不可欠な「心臓部」として機能します。

水晶発振器の消費電力を減らす方法は

 水晶発振器の消費電力を減らすには、主に低電圧駆動回路設計の工夫が重要です。これらの技術は、特にスマートフォンやウェアラブルデバイスなど、バッテリー寿命が重要となる機器で不可欠です。

低電圧駆動

 発振回路に供給する電圧を低くすることで、消費電力を大幅に削減できます。消費電力は電圧の2乗に比例するため、電圧を半分にすると電力は4分の1になります。多くのメーカーは、より低い電圧で安定して動作する新しい発振ICを開発することで、この課題を解決しています。


回路設計の工夫

  • 高速起動と低消費電力の両立: 起動時に大きな電力を使って素早く発振を開始させ、安定した後は消費電力を抑える回路に切り替える「ハイブリッド型」の設計が研究・実用化されています。これにより、必要な時だけ電力を使い、待機時の電力消費を抑えます。
  • クロックゲーティング: 水晶発振器から出力されるクロック信号を、必要のない回路ブロックには供給しないように制御する技術です。これにより、回路全体の無駄な電力消費を抑えられます。
  • パワーゲーティング: さらに進んだ方法として、動作しない回路ブロックへの電源供給そのものを遮断する技術です。これにより、待機時の漏れ電流(リーク電流)を削減し、消費電力を大幅に減らします。

水晶発振器の消費電力を減らすには、低電圧駆動が最も効果的です。発振ICの電圧を下げて動作させることで、消費電力を大幅に削減できます。また、不要な時には動作を停止させるクロックゲーティングパワーゲーティングといった回路技術も用いられます。

低電圧駆動が難しい理由は何か

 低電圧駆動は、電力消費を抑える上で非常に有効な手段ですが、以下のような理由から技術的な難しさがあります。

1. 動作速度と安定性の低下

 低電圧で回路を動かすと、信号をON/OFFする際のスイッチング速度が低下します。これは、信号の電圧振幅が小さくなるため、ノイズの影響を受けやすくなり、正確な動作が難しくなるためです。特にクロック信号を生成する発振器では、安定した周波数を得ることが難しくなります。


2. ノイズ耐性の低下

 電圧が低いほど、外部からのわずかなノイズが信号に与える影響が大きくなります。例えば、電源ラインのわずかな電圧変動(IRドロップ)が、回路の誤動作や周波数変動を引き起こす可能性が高まります。

 このため、低電圧駆動を実現するには、非常に安定した電源供給と、ノイズに強い回路設計が求められます。


3. 微細化によるリーク電流の増加

 半導体の微細化は低電圧化を可能にしますが、同時にトランジスタが小さくなりすぎると、電流が完全に遮断されず、わずかに漏れ出してしまうリーク電流の問題が顕著になります。

 低電圧駆動はこのリーク電流を抑える目的もありますが、同時にリーク電流自体が消費電力の増加につながるというトレードオフの関係にあります。この課題を解決するために、GAA FET(Gate-All-Around FET)のような新しいトランジスタ構造が開発されています。

低電圧駆動が難しいのは、電圧が下がると信号の振幅が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなるためです。これにより、回路の安定性や動作速度が低下し、周波数の正確な制御が難しくなります。また、半導体の微細化によるリーク電流の増加も課題となります。

どうやって低電圧駆動を可能にしたのか

 低電圧駆動は、低電圧でも安定して動作する新しい発振ICを開発することで可能になりました。従来の水晶発振器は、一定の電圧がなければ安定した周波数を出力できませんでしたが、IC(集積回路)の技術革新により、この課題が克服されました。

発振ICの改良

 低電圧駆動の実現には、発振回路を構成するICの特性改善が鍵となります。電圧が下がるとノイズの影響を受けやすくなるため、IC内部の回路設計を根本から見直し、よりノイズに強く、わずかな電圧でも確実に信号を増幅できるような設計が求められます。

  • 高感度化: 弱い信号でも発振を開始・維持できるような高感度なアンプ回路をICに組み込みます。これにより、低い電圧でも水晶振動子を効率的に駆動させ、安定した発振を維持できます。
  • 低ノイズ化: IC自体の消費電流を極力抑えることで、内部で発生するノイズを低減させます。また、ノイズに強い設計技術(差動回路など)も用いられ、外部からのノイズの影響も受けにくくします。

水晶振動子との最適化

 発振器全体として低電圧駆動を実現するには、発振ICだけでなく、水晶振動子との総合的な最適化も重要です。

  • 素子設計の工夫: 京セラの例では、独自の小型素子設計技術により、水晶振動子自体の特性を改善し、低電圧でも効率よく振動するようになっています。これにより、ICが低い電圧で駆動されても、安定した周波数信号を出力することができます。

 これらの技術革新により、低消費電力化が求められるスマートフォンやウェアラブルデバイスなどの小型機器に、低電圧駆動の水晶発振器を搭載することが可能になりました。

低電圧駆動は、低電圧でも安定して信号を増幅できる新しい発振ICの開発により可能になりました。ノイズに強いIC設計や、水晶振動子自体の特性を改善することで、電圧を下げても正確な周波数を出力できるようになりました。

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