NTTと三菱重工のレーザー無線給電技術開発 レーザー無線給電技術とは何か?変換効率が落ちる理由は何か?

この記事で分かること

  • レーザー無線給電技術とは:レーザー光をエネルギー源として空間を介して電力を供給する技術です。送信側から発射されたレーザー光を、受信側にある太陽電池などの光電変換素子で電気に変換します。
  • 変換効率が落ちる理由:レーザー光を電力へ変換する過程では、光電変換素子の物理的限界が主なロスの原因です。光の一部は熱として放出されたり、反射や透過で失われたりするため効率が低下します。大気のゆらぎもレーザービームが不規則に広がったりぼやけたりするため効率を低下させます。
  • 大気のゆらぎの影響を少なくできた理由:ビーム整形技術によってレーザー光の強度分布をあらかじめ均一化し、出力電流平準化技術で受光側の電流変動を抑制することで克服しました。

NTTと三菱重工のレーザー無線給電技術開発

 NTTと三菱重工は、レーザー無線給電技術において、大気の揺らぎが強い環境下で世界最高効率となる15%の給電に成功しました。これは、1キロワットのレーザー光を1キロメートル先に照射し、152ワットの電力として受電することに成功したものです。

 https://www.mhi.com/jp/news/250917.html

 この成果は、シリコン製の光電変換素子を使用した地上での実験としては世界最高効率であり、30分間の連続給電にも成功しています。

レーザー無線給電技術とは何か

 レーザー無線給電技術とは、レーザー光を用いて空間を介して電力を供給する技術です。これは、送電側のレーザー発振器からレーザー光を発射し、受電側でその光を太陽電池などの光電変換素子で受けて電気エネルギーに変換する仕組みです。


仕組みと特徴

 レーザー無線給電は、ワイヤレス給電の一種であり、以下の特徴を持っています。

  • 長距離伝送が可能: レーザーは指向性が高いため、ビームが広がりくく、遠くまでエネルギーを効率よく送ることができます。
  • 非接触での電力供給: ケーブルが不要なので、移動体やアクセスが困難な場所への給電に適しています。
  • 高密度なエネルギー伝送: 高い周波数帯域を利用するため、マイクロ波などと比較して、より多くのエネルギーを狭い範囲に集中させて送ることができます。

 この技術は、宇宙空間での太陽光発電を地上に送る「宇宙太陽光発電」や、災害時の緊急給電、ドローンへの飛行中給電など、様々な分野での応用が期待されています。


課題

 実用化に向けては、いくつかの課題があります。

  • 給電効率の向上: レーザー光の送電から電力への変換過程で、ロスが発生するため、効率をさらに高める必要があります。特に、大気中の揺らぎや水蒸気によって、ビームの強度分布が不均一になり、変換効率が低下することが大きな課題です。
  • 安全性: 高出力のレーザー光は、人体や航空機などに危険を及ぼす可能性があるため、安全性を確保するための技術やガイドラインが必要です。
  • コスト: 導入コストがまだ高いため、より安価なシステムの開発が求められます。

 これらの課題を克服することで、レーザー無線給電技術の普及が進むと期待されています。

レーザー無線給電技術は、レーザー光をエネルギー源として空間を介して電力を供給する技術です。送信側から発射されたレーザー光を、受信側にある太陽電池などの光電変換素子で電気に変換します。災害時の給電やドローンへの充電、宇宙空間での活用が期待されています。

変換過程で、ロスが発生するのはなぜか

 レーザー光を電気に変換する過程でロスが発生する主な理由は、光電変換素子の変換効率の限界と、光の伝送中に生じる損失にあります。

光電変換素子による損失

 レーザー光を電気に変換する素子(太陽電池など)では、以下のような物理的な要因でロスが発生します。

  • 熱損失: 光電変換素子に照射されたレーザー光のうち、素子のバンドギャップより高いエネルギーを持つ光は、余分なエネルギーが熱として放出されます。この熱は電力に変換されず、損失となります。
  • 光の透過・反射: 素子に到達した光の一部は、表面で反射されたり、吸収されずに透過してしまったりします。これらの光は発電に利用できません。
  • キャリアの再結合: 光が素子内部で吸収されると電子(キャリア)が生成されますが、この電子が電極に到達する前に、再び原子と結合(再結合)して消滅してしまうことがあります。この再結合も発電量を減少させる原因です。

光の伝送による損失

 レーザーが空気中を伝送される際にもロスが発生します。

  • 大気の吸収・散乱: 空気中の水蒸気や二酸化炭素といった分子、またはちりや霧などの微粒子によって、レーザー光が吸収されたり、散乱されたりします。これにより、光のエネルギーが弱まり、受電側に届く光量が減少します。
  • ビームの不均一: 前述の大気のゆらぎによって、レーザービームの強度が不均一になります。受光パネル全体に均一に光が当たらないと、パネルの発電効率が大きく低下します。

 これらの様々なロスが複合的に作用し、レーザー光のエネルギー全てを電気エネルギーに変換することは現状不可能となっています。

レーザー光を電力へ変換する過程では、光電変換素子の物理的限界が主なロス原因です。光の一部は熱として放出されたり、反射や透過で失われたりします。さらに、空気中の水蒸気やちりによる光の吸収・散乱もロスにつながります。

大気のゆらぎとは何か、また変換効率が落ちる理由は何か

 大気のゆらぎとは、大気中の温度や気圧の不均一によって生じる空気密度の変動です。この密度の変動により、光が空気中を進む際に屈折率がランダムに変化するため、光の波面が乱れたり、ビームがぼやけたりします。これが、遠くの星が瞬いて見える主な原因です。


変換効率が落ちる理由

 レーザー無線給電において、大気のゆらぎによって変換効率が落ちる主な理由は、レーザービームの強度分布が不均一になるからです。

  1. ビームの散乱とぼやけ: 大気のゆらぎによってレーザービームが不規則に屈折し、ビームが広がったり、集光できなくなったりします。これにより、受光パネル全体に均一にレーザーが当たらず、エネルギーが分散してしまいます。
  2. ホットスポットの発生: ビームが広がると同時に、特定の場所にレーザーの光が集中し、ホットスポットが発生することがあります。 このホットスポットは、太陽電池などの光電変換素子の特定のセルに過剰な負荷をかけ、発電効率の低下を招きます。複数のセルが直列に接続されている場合、一部のセルに過負荷がかかると、パネル全体の発電量が大幅に低下する「ミスマッチ損失」が発生します。

 これらの影響により、大気中を伝送されたレーザー光を効率よく電力に変換することが難しくなるため、給電効率が低下します。NTTと三菱重工の成功は、これらの大気のゆらぎを克服する技術によって達成されました。

大気のゆらぎとは、空気密度の不均一による光の屈折で、レーザービームが不規則に広がったりぼやけたりする現象です。これにより、受光パネルに光が均一に当たらず、変換効率が低下します。

どうやって大気のゆらぎを克服したのか

 NTTと三菱重工は、以下の2つの独自技術を組み合わせることで大気のゆらぎを克服し、レーザー無線給電の世界最高効率を達成しました。

1. 長距離フラットビーム整形技術

 この技術は、レーザー光の強度分布を均一化することを目的としています。大気のゆらぎで光が乱れても、受光パネル全体に均一に光が当たるように、あらかじめビームの形状を設計します。

 具体的には、回折光学素子と呼ばれる特殊なレンズを用いて、長距離伝搬後に最適な強度分布になるようにビームを整形します。これにより、特定の場所に光が集中する「ホットスポット」の発生を防ぎ、光電変換素子のミスマッチ損失を抑制して変換効率を向上させました。


2. 出力電流平準化技術

 ビーム整形技術だけでは、大気のゆらぎが大きい場合に完全に強度の変動を抑えることはできません。そこで、この技術は、受電側の出力電流の変動を抑制する役割を担います。

 受光パネルに取り付けられたコンデンサを利用して、一時的に変動する電流を蓄え、平準化することで、安定した電力を供給できるようにしました。この技術により、大気のゆらぎが強い環境下でも、安定的な電力供給が可能になります。

NTTと三菱重工は、ビーム整形技術出力電流平準化技術を組み合わせることで大気のゆらぎを克服しました。前者は、レーザー光の強度分布をあらかじめ均一化し、後者は、受光側の電流変動を抑制して安定した電力を供給します。

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