この記事で分かること
- モールドに使用される装置とは:金型とプレス機で構成され、熱と圧力を加えて樹脂を硬化させます。主流は自動で一連の作業を行うオートモールド装置です。
- エポキシ樹脂以外の樹脂:シリコーン樹脂がLEDなど光を扱うデバイスの封止に、ポリイミド樹脂が耐熱性や微細なパターンが求められるデバイスの封止に利用されます。それぞれ独自の特性を活かして使い分けられています。
- モールド樹脂に微細なパターンが必要な理由:。モールドを配線層の一部として活用し、フォトリソグラフィ等を用いて再配線層(RDL)を形成することで、チップを接続し、パッケージの小型化と高性能化を実現可能となるためです。
モールドの樹脂や装置
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。
複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はモールド全般に関する記事でしたが、今回はモールドの装置や樹脂材料に関する記事となります。
モールドとは
半導体におけるモールドとは、半導体チップやワイヤーを、外部の衝撃や水分から守るために樹脂で覆い固める工程です。
この工程により、チップは信頼性が高く、取り扱いやすいパッケージとなり、製品の長寿命化に貢献します。
モールドにはどのような装置が使用されるのか
モールドに使用される主要な装置はモールド装置(またはモールディング装置)です。この装置は、半導体チップを樹脂で封止するためのもので、自動で一連の作業を行うオートモールド装置が主流となっています。
モールド装置の主要な構成要素
モールド装置は、主に以下の要素で構成されています。
- モールドプレス: 金型を加熱・加圧するための機構です。油圧式や電動サーボ制御式があり、現在は精密な制御が可能な電動サーボ制御方式が主流です。
- 成形金型: 半導体パッケージの形状を成形するための型です。上下の金型からなり、内部にチップを配置するキャビティ(凹部)や、樹脂を流し込むための流路(ランナー)などが形成されています。
- 樹脂供給部: 溶融させる前の樹脂ペレットを供給する部分です。トランスファーモールド方式では、この部分から加熱・加圧された樹脂が金型内に押し出されます。
モールド方式と装置
モールド装置は、採用するモールド方式によってその構造や機能が異なります。
- トランスファーモールド装置:この装置は、金型内にセットされたリードフレームに、溶融させた樹脂をプランジャーで押し込み、キャビティに充填します。高速かつ大量生産に向いており、幅広い半導体パッケージの製造に利用されます。
- コンプレッションモールド装置:この装置は、あらかじめ金型内に配置された樹脂を、金型をプレスすることで加熱・加圧し、チップに浸透させて固めます。樹脂の流動によるワイヤーへのダメージが少ないため、特に微細配線を持つ高性能な半導体や、フリップチップ実装されたチップのモールドに適しています。

モールドには、主にモールド装置が使用されます。これは、金型とプレス機で構成され、熱と圧力を加えて樹脂を硬化させます。主流は自動で一連の作業を行うオートモールド装置で、特に日本のTOWAやアピックヤマダが有力メーカーです。
モールド装置の有力メーカーはどこか
半導体モールド装置の有力メーカーは、主に日本企業が世界市場で高いシェアを占めています。
日本の有力メーカー
- TOWA株式会社: 半導体モールディング装置で世界トップシェアを誇る企業です。特にコンプレッションモールド技術に強みを持ち、高性能な半導体チップの製造に不可欠な存在となっています。
- アピックヤマダ株式会社: 日本で初めて半導体パッケージ用樹脂封止金型を開発・製造したメーカーであり、TOWAと並んで市場を独占しています。現在はヤマハロボティクスホールディングス傘下です。
これらの企業は、トランスファーモールドやコンプレッションモールドといった主要な方式の装置を幅広く提供しており、世界中の半導体メーカーに製品を供給しています。
エポキシ樹脂の有力メーカーはどこか
半導体材料として使われる半導体封止材では、日本のメーカーが世界的に高いシェアを持っています。
半導体封止材の有力メーカー
- 住友ベークライト株式会社: 半導体封止材で世界トップクラスのシェアを誇る大手メーカーです。
- レゾナック(旧昭和電工): 半導体封止材やアンダーフィル材などを手掛けており、高い技術力を持っています。
- 信越化学工業株式会社: シリコーン技術を基盤に、半導体封止材や接着剤などの電子材料を提供しています。
エポキシ樹脂以外の樹脂が使用されることはあるのか
エポキシ樹脂以外にも、特定の用途や要求特性に応じて別の樹脂が使用されることがあります。
1. シリコーン樹脂
シリコーン樹脂は、エポキシ樹脂に比べて柔らかく、弾力性があるため、半導体チップへの応力(ストレス)を緩和する用途に適しています。
また、高い光透過性を持つため、LED(発光ダイオード)やフォトカプラ(光半導体素子)といった光を扱うデバイスの封止に広く利用されます。
ただし、一般的にエポキシ樹脂よりも機械的強度が劣るため、外部からの衝撃保護が必要な用途には不向きな場合があります。
2. ポリイミド樹脂
ポリイミド樹脂は、非常に高い耐熱性と優れた電気特性を持つため、特に高温環境下で使用される半導体や、信頼性が求められる高機能なデバイスの封止に用いられます。
また、感光性ポリイミドは、微細なパターンを形成する用途にも使われます。ただし、エポキシ樹脂に比べて加工が難しく、コストも高くなる傾向があります。
これらの樹脂は、それぞれが持つ独自の特性を活かし、エポキシ樹脂では満たせない特定の性能要求に応えるために使い分けられています。

エポキシ樹脂以外では、シリコーン樹脂がLEDなど光を扱うデバイスの封止に、ポリイミド樹脂が耐熱性が求められるデバイスの封止に利用されます。それぞれ独自の特性を活かして使い分けられています。
応力や緩和が必要なチップとはどんなチップか
応力やその緩和が必要なチップは、主に発熱量が多い高性能なチップや、高い信頼性が求められるチップです。
高性能なチップ
CPUやGPUなどの高性能チップは、動作中に大量の熱を発生させます。この熱がパッケージ内の異なる材料(シリコン、樹脂、金属など)に伝わると、それぞれの熱膨張率の違いから応力が発生します。
特に、シリコンと樹脂の熱膨張率には大きな差があり、この熱応力がチップのひび割れや、内部の配線、はんだ接合部にダメージを与える可能性があります。そのため、高性能なチップは応力緩和が不可欠です。
高い信頼性が求められるチップ
車載用半導体や産業機器用半導体など、長期間にわたって過酷な環境(高温・低温の繰り返し、振動など)で使用されるチップは、わずかな応力でも故障につながる可能性があるため、特に厳格な応力緩和対策が求められます。
温度変化による熱応力が繰り返しかかると、はんだ接合部の「はんだクラック」といった故障につながるため、これらのチップでは熱応力を抑えるための材料選定やパッケージ設計が重要となります。
モールド樹脂に微細なパターンを形成することがあるのか
近年、半導体パッケージの進化に伴い、モールド樹脂上に微細なパターンを直接形成する技術が重要になっています。この技術は、ファンアウト・ウェハレベルパッケージ(FOWLP)などの先進パッケージで活用されています。
モールド樹脂に微細パターンを形成する理由
従来のパッケージでは、モールドはあくまでチップの保護材でした。しかし、FOWLPのような先進的なパッケージでは、モールド樹脂が電気配線の一部としての役割も担います。
- 再配線層(RDL)の形成: FOWLPでは、チップをモールドで一体化させた後、その表面に再配線層(RDL)と呼ばれる配線パターンを形成します。このRDLは、モールドされたチップの電極をパッケージの外部接続端子まで引き延ばす役割を担います。 モールド樹脂の表面に直接、フォトリソグラフィやめっき技術を用いて微細な配線を形成することで、配線長を短縮し、電気抵抗を低減することができます。
- チップの接続・集積: 複数のチップをモールドで一体化し、その上に微細な配線パターンを形成することで、チップ同士を直接接続することが可能になります。これにより、複数の機能を一つのパッケージに高密度に集積し、製品の小型化・高性能化に貢献します。
形成方法
モールド樹脂上に微細なパターンを形成するためには、モールド材料自体に高い平坦性やフォトリソグラフィプロセスへの適合性が求められます。
- ナノインプリント技術: 微細な凹凸パターンを持つモールド(型)を、熱や紫外線で軟化した樹脂に押し付けることで、パターンを転写する方法が開発されています。
- フォトリソグラフィとエッチング: モールド樹脂の上に感光性樹脂を塗布し、露光・現像してパターンを形成した後、エッチングによってモールド樹脂自体を加工する手法も使われます。
これらの技術は、従来のパッケージング技術の限界を超え、さらなる半導体の高性能化と小型化を実現するために不可欠なものとなっています。

モールド樹脂への微細パターン形成は、ファンアウト・ウェハレベルパッケージなどで使われる技術です。モールドを配線層の一部として活用し、フォトリソグラフィ等を用いて再配線層(RDL)を形成することで、チップを接続し、パッケージの小型化と高性能化を実現します。
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