この記事で分かること
- バイオ医薬品とは:遺伝子組み換えや細胞培養技術で製造される医薬品です。製造には生きた細胞を扱うための無菌環境や大規模な培養タンクが必要であり、非常に複雑なプロセスと厳格な品質管理が求められるため、巨額の設備投資とコストが発生します。
- 製造受託の需要が大きい理由:複雑な製造技術と莫大な設備投資が必要なバイオ医薬品において、製薬会社は外部に製造を委託することで、自社の研究開発(コア事業)に経営資源を集中させることができます。
富士フイルムのバイオ医薬品の開発・製造受託施設
富士フイルムはアメリカ、ノースカロライナ州ウェイク郡にバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)施設を開設しています。
https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/12994
この拠点は、世界最大のバイオ医薬品市場である米国において、同社が北米最大級の抗体医薬品CDMO製造拠点となることを目指して建設されています。
製薬会社の生産受託とは何か
製薬会社の生産受託とは、自社で医薬品を製造する代わりに、外部の企業(受託製造専門会社)に生産を委託することです。これは、製薬業界における水平分業の一環として、近年ますます一般的になっています。
受託製造の種類
生産受託には主に2つの形態があります。
- CMO(Contract Manufacturing Organization)
- 医薬品の製造のみを専門に請け負う形態です。
- 委託元の製薬会社が開発・設計した医薬品について、定められた手順に沿って生産を行います。
- 主な役割は、高品質な製品を効率的かつ安定的に供給することです。
- CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)
- CMOの機能に加え、医薬品の開発から関わる形態です。
- 開発初期段階の製法開発や治験薬の製造、安定性試験なども行います。
- 委託元の製薬会社やバイオベンチャーは、開発から商業生産までを一貫して任せられるため、時間やコストを削減できます。
生産受託のメリット
製薬会社が生産受託を利用する主な理由は以下の通りです。
- 設備投資の削減: 自社で高価な製造施設を建設・維持する必要がなくなります。
- 開発・製造の効率化: 専門的なノウハウと設備を持つ外部企業に委託することで、医薬品の開発や製造をより効率的に進められます。
- コア事業への集中: 医薬品の研究開発や販売といった、自社のコアコンピタンスに経営資源を集中できます。
- 生産能力の柔軟な調整: 市場の需要変動に応じて、生産量を増減させることが容易になります。特に、バイオ医薬品のように需要予測が難しい分野では大きな利点となります。

製薬会社の生産受託とは、医薬品の製造や開発を外部の専門企業に委託することです。これにより、自社で高額な製造設備を持つ必要がなくなり、研究開発や販売といったコア事業に経営資源を集中できます。この受託を専門に行う企業は、CMOやCDMOと呼ばれます。
製薬分野で生産受託の需要が大きな理由は何か
製薬分野で生産受託の需要が拡大している主な理由は、コスト削減、コア事業への集中、そしてバイオ医薬品市場の急成長です。
1. 巨大な設備投資の回避
医薬品の製造には、厳格な品質管理基準(GMP)を満たす高額な設備が必要です。特にバイオ医薬品は、従来の化学合成医薬品と比べて製造プロセスが複雑で、さらに大規模な設備投資が求められます。受託企業に製造を任せることで、製薬会社はこれらの投資を避け、初期コストを大幅に削減できます。
2. コア事業への経営資源集中
製薬会社のコアコンピタンス(中核的な強み)は、新薬の研究開発です。製造や品質管理は専門的なノウハウを要しますが、多くの製薬会社にとって直接的な利益を生む核心業務ではありません。
受託サービスを利用することで、製薬会社は貴重な人材や資金といった経営資源を、新薬の発見や開発、そして販売といった本来の強みに集中させることができます。
3. バイオ医薬品市場の急成長
がんや自己免疫疾患などの治療薬として期待されるバイオ医薬品は、近年市場が急速に拡大しています。 しかし、その製造には高度な技術と専門的な設備が不可欠です。
この分野に特化したCDMO(開発製造受託機関)は、複雑な製造プロセスや規制対応のノウハウを持っており、自社で製造能力を持たないバイオベンチャーや製薬会社にとって不可欠な存在となっています。
4. 柔軟な生産能力の確保
新薬開発は成功確率が低く、市場投入後も需要が変動する可能性があります。自社で生産設備を持つ場合、需要が少ないと遊休資産となり、需要が急増すると対応が難しくなります。
受託企業を活用すれば、市場の状況に応じて生産量を柔軟に増減させることができ、リスクを低減できます。

製薬分野で生産受託の需要が大きな理由は、バイオ医薬品市場の急成長と開発コストの削減です。複雑な製造技術と莫大な設備投資が必要なバイオ医薬品において、製薬会社は外部に製造を委託することで、自社の研究開発(コア事業)に経営資源を集中させることができます。
バイオ医薬とは何か、なぜ製造に巨額資金が必要なのか
バイオ医薬品は、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて、微生物や動物細胞に作らせる医薬品です。インスリンや抗体医薬品などが代表例で、従来の化学合成で作られる医薬品と比べて分子構造が大きく複雑で、特定の病原体や細胞を狙い撃ちする高い効果が期待されます。
製造に巨額資金が必要な理由
バイオ医薬品の製造には、従来の医薬品にはない特殊なプロセスと厳格な管理が求められるため、巨額の資金が必要となります。
1. 高度な製造設備の必要性
バイオ医薬品は、生きた細胞を使って有効成分を生産するため、巨大なタンク(バイオリアクター)で細胞を培養します。
これらの設備は、外部からの雑菌混入を完全に防ぐための無菌環境を維持しなければならず、極めて高度な設計と建設が必要です。また、製造工程ごとに異なる複雑な装置(精製装置など)も必要となります。
2. 複雑で厳格な製造工程
細胞が生産する目的のタンパク質を、培養液から高純度で抽出・精製する工程は非常に複雑です。わずかな製造条件の変化が品質に影響するため、各工程で厳密な品質管理とチェックが行われます。
これには、高い専門知識と技術を持った人材と、それを支える膨大なデータ管理システムが不可欠です。
3. 継続的な研究開発と品質改善
製造プロセスそのものが製品の品質に直結するため、生産効率や品質を改善するための研究開発も継続的に行われます。これには、新技術の導入や設備の改良など、常に最新の技術動向に合わせた多額の投資が求められます。
これらの理由から、バイオ医薬品の製造施設は建設・維持に莫大なコストがかかり、その負担を避けるために製薬会社は生産受託(CDMO)を積極的に利用する傾向があります。

バイオ医薬品は、遺伝子組み換えや細胞培養技術で製造される医薬品です。製造には生きた細胞を扱うための無菌環境や大規模な培養タンクが必要であり、非常に複雑なプロセスと厳格な品質管理が求められるため、巨額の設備投資とコストが発生します。
富士フィルム以外のバイオ医薬品の製造委託企業は
富士フイルム以外にも、以下のようにバイオ医薬品の製造委託(CDMO)を手掛ける大手企業は複数存在し、グローバルに事業を展開しています。
世界の大手バイオCDMO企業
- Lonza(ロンザ): スイスに本社を置く、世界最大級のCDMO企業です。バイオ医薬品だけでなく、低分子医薬品や細胞・遺伝子治療薬など幅広い分野で事業を展開しています。
- Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック): 米国に本社を置く科学機器メーカーですが、CMO事業にも力を入れています。買収したPatheon(パセオン)を通じて、バイオ医薬品の製造受託で大きな存在感を示しています。
- WuXi Biologics(ウーシー・バイオロジクス): 中国に本社を置く、急成長中のバイオCDMO企業です。開発から製造まで一貫して請け負う「CRDMO」モデルを強みとし、多くのグローバル企業と提携しています。
- Samsung Biologics(サムスン・バイオロジクス): 韓国のサムスングループの企業で、バイオ医薬品の製造受託を専門としています。大規模な製造施設への投資を積極的に行い、世界市場でのシェアを拡大しています。
- Catalent(キャタレント): 米国に本社を置くCDMOで、医薬品の開発から製造、包装まで幅広いサービスを提供しています。
日本の主な企業
日本の企業もこの分野に参入しています。
- AGC: 元々化学製品を製造していましたが、バイオ医薬品の受託製造事業を拡大しています。
- 日東電工: 核酸医薬品のCDMO事業で世界的な大手となっています。
これらの企業は、それぞれ異なる強み(特定の技術、製造規模、地域的な拠点など)を持っており、製薬会社の多様なニーズに応える形で競争しています。
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