サムスン電子のCXLメモリーやMRAMの開発強化 サムスン電子の状況は?CXLメモリー、MRAMとは何か?

この記事で分かること

  • サムスン電子のメモリー市場での状況:DRAM・NANDの首位級です。しかしAI向けHBMでSKハイニックスに追われ、シェア競争が激化していることもあり、CXL・MRAMなど次世代技術で巻き返しを図っています。
  • CXLメモリーとは:ompute Express Link規格に対応した次世代DRAMです。CPUとメモリー間の高速接続を実現し、メモリー容量の柔軟な拡張や共有を可能にします。
  • MRAMとは:子のスピンを利用しデータを磁気で記憶する次世代メモリです。高速性・不揮発性・低消費電力を兼ね備え、AIやIoT機器への応用が期待されています。

サムスン電子のCXLメモリーやMRAMの開発強化

 サムスン電子は、次世代メモリー技術であるCXL (Compute Express Link) メモリーMRAM (Magnetoresistive Random-Access Memory) の開発を強化することで、メモリー半導体市場でのリーダーシップを再確立しようと取り組んでいます。

 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03310/092400005/?i_cid=nbpnxt_pickup_top_ele_02

 これは、従来のDRAMやNANDフラッシュメモリーの限界を超え、AIやデータセンターなどの新しい需要に対応するための差別化戦略の一環です。

メモリー半導体市場でのサムスンの状況は

 メモリー半導体市場において、サムスン電子は依然として巨大な影響力を持つリーダーである一方で、特にAI時代における新しい分野で激しい競争に直面しています。

1. 従来のメモリー市場での強固な地位

  • DRAM・NANDフラッシュのトップクラス: サムスンは、DRAMとNAND型フラッシュメモリーの両市場で、長年にわたり世界トップクラスのシェアを維持しています。特にNANDフラッシュでは首位を維持している状況です。
  • 市場回復による業績改善: 2024年に入ってからは、AI技術の進展によるメモリーチップの需要増加と価格回復により、サムスンを含むメモリーメーカー各社が大幅な業績改善を見せています。

2. AIメモリー(HBM)分野での競争激化

  • HBM市場でのキャッチアップ: AIの「頭脳」となる高性能GPUに必要なHBM(高帯域幅メモリー)市場において、競合のSKハイニックスが先行し、NVIDIAなど主要顧客への供給でリードしている状況が続いています。
    • これにより、一時的にサムスンのメモリー部門の収益性や市場シェアが影響を受けるという見方も出ています。
  • 巻き返しへの注力: サムスンは、このHBM分野で巻き返しを図るため、第5世代HBM(HBM3Eなど)の開発と量産を加速し、品質テスト合格のニュースも出ています。AI時代においてHBMは最重要分野の一つであり、技術開発と顧客確保に全力を挙げています。

3. 次世代技術と差別化戦略

  • CXL・MRAMなどへの投資: 前述の通り、サムスンは従来のメモリーの限界を超えるCXLメモリーMRAMといった次世代技術の開発を強化しています。これは、将来のデータセンター、エッジAI、車載などの分野で、競合に対する技術的な差別化を図り、市場リーダーシップを確保するための重要な戦略です。

 サムスンは伝統的なメモリー市場の王者としての地位は揺るぎないものの、AI時代の象徴であるHBMという新しい最重要分野でSKハイニックスなどのライバルから猛追を受けています。

 そのため、HBMでの競争力を回復させるとともに、CXLやMRAMで市場の未来を先取りすることで、次の半導体サイクルでの絶対的優位を確立しようとしている段階にあると言えます。

DRAM・NANDの首位級ですが、AI向けHBMでSKハイニックスに追われ、シェア競争が激化しています。そのためCXL・MRAMなど次世代技術で巻き返しを図っています。

CXLメモリーとは何か

 CXLメモリーとは、Compute Express Link (CXL) という新しい高速インターフェース規格に対応したメモリー製品の総称です。主にデータセンターAI/高性能コンピューティングの分野で、メモリーの容量と帯域幅を柔軟に拡張するために使われます。

 これは、従来のDRAMがCPUのメモリーコントローラーの物理的な制約で容量と速度に限界があるという課題を解決するために開発されました。


CXLメモリーの主な特徴と仕組み

1. PCIe規格の活用とコヒーレンシ

 CXLは、既存のPCI Express (PCIe) の物理層/電気的特性を再利用し、その上位層に独自のプロトコルを追加することで実現されています。

  • キャッシュ・コヒーレンシ(Cache Coherency):CXLの最大の特長は、CPUと接続されたデバイス(アクセラレーター、CXLメモリー)間で、メモリーの内容の一貫性(コヒーレンシ)を保てることです。これにより、データ移動の手間や遅延を減らし、システムの効率を大幅に向上させます。

2. メモリー拡張(Type 3デバイス)

 CXLメモリーは、CXLの3種類のデバイスタイプのうち、主にType 3デバイスに分類されます。

プロトコル説明
CXL.memCXLメモリーデバイスのメモリーを、CPUが読み書きするために使用します。
CXL.ioデバイスの検出、設定、初期化などの基本的な入出力に使用します(PCIeベース)。

3. メモリープーリングと容量拡張

 CXLの最も重要な利用法は、メモリーの容量を柔軟に拡張し、リソースを共有することです。

  • 容量の壁の克服:従来のシステムでは、CPUに直結するDDR DIMMスロットの数で搭載メモリー容量に上限がありました。CXLメモリーは、PCIeスロットを通じてサーバーのメモリー容量をテラバイト(TB)級にまで増設できます。
  • メモリープーリング:複数のCXLメモリーデバイスを「プール」としてまとめ、必要に応じて複数のCPUやホスト間で共有したり、動的に割り当てたりできるようになります。これにより、メモリーリソースの利用効率が向上し、システム全体のコスト削減(TCO削減)に繋がります。

CXLメモリーがもたらすメリット

メリット詳細
容量の拡張DRAMスロットの制約から解放され、AIやビッグデータ解析など大容量メモリーを必要とするワークロードに対応しやすくなります。
帯域幅の向上CXLスイッチなどを介してメモリーを拡張することで、システム全体のメモリー帯域幅を最適化・向上させることができます。
柔軟性とTCO削減システム全体を交換せず、必要に応じてメモリーデバイスの追加・削除が可能なため、メモリーリソースを効率的に使用し、総所有コスト(TCO)を削減できます。

CXLメモリーは、Compute Express Link規格に対応した次世代DRAMです。CPUとメモリー間の高速接続を実現し、メモリー容量の柔軟な拡張や共有(メモリープーリング)を可能にし、AI・データセンターの効率を高めます。

プロトコルとは何か

 プロトコル(Protocol)とは、異なる機器やシステムが、スムーズかつ正確に通信(データ交換)を行うために定められた、共通の「約束事」や「手順」のことです。

簡単に言えば、コンピューター同士が会話するための「言語」や「マナー」に当たります。


プロトコルの役割と必要性

 プロトコルがなければ、メーカーや機種が異なるコンピューター同士は、データの形式、送る順番、タイミングなどがバラバラになり、お互いを理解できず通信が成立しません。

 プロトコルは、この問題を解決するために以下のルールを定めています。

  1. データの形式(フォーマット): データをどのような形(パケット)で送るか。
  2. 送受信の順番・手順: いつ、どのように接続を確立し、データを送り、通信を終了するか。
  3. エラー処理: データが破損したり届かなかったりした場合に、どのように再送やエラー通知を行うか。

 これにより、世界中の異なる機器がインターネットを通じて相互にデータをやり取りできる相互運用性が確保されています。


主なプロトコルの例

インターネットやネットワーク通信は、特定の目的や役割に応じて、複数のプロトコルが組み合わされて成立しています。この組み合わせを「プロトコルスタック」と呼びます。(例: TCP/IP)

プロトコル読み方役割
HTTPHyper Text Transfer ProtocolWebブラウザとWebサーバー間で、Webページ(HTMLなど)のデータをやり取りするためのルール。(暗号化されたものがHTTPS
IPInternet Protocolネットワーク上の各機器に住所(IPアドレス)を割り当て、データを目的の場所まで送り届けるためのルール。
TCPTransmission Control Protocolデータを信頼性高く(エラーチェックや再送制御をして)送信するためのルール。
FTPFile Transfer Protocolネットワーク上でファイルを転送するためのルール。
SMTPSimple Mail Transfer Protocolメールを送信するためのルール。

プロトコルとは、コンピュータや機器が通信・データ交換を行うための共通の「約束事」や「手順」です。異なるシステム間の相互接続を可能にし、スムーズで正確な情報伝達を実現します。

MRAMとは何か

 MRAM(Magnetoresistive Random-Access Memory:磁気抵抗メモリ)とは、電子のスピン(自転)と磁気抵抗効果を利用してデータを記憶する、次世代の不揮発性(電源を切ってもデータが消えない)半導体メモリです。


MRAMの仕組みと特徴

 MRAMの基本構造は、非常に薄い絶縁体を2つの強磁性体(磁石)で挟んだMTJ(磁気トンネル接合)素子です。

  1. データの記録(書き込み):
    • 一方の磁性層の磁化の向きを固定し、もう一方の磁性層の磁化の向きを外部から制御して変化させます。
    • この磁化の相対的な向きが「0」と「1」のデジタル情報に対応します。
  2. データの読み出し:
    • 2つの磁性層の磁化の向きが平行反平行(逆向き)かによって、電流の流れやすさ(抵抗値)が変化します(トンネル磁気抵抗効果)。
    • この抵抗値の変化を検出することで、データを読み出します。

従来のメモリに対する優位性

 MRAMは、従来の主要メモリ(DRAMやNANDフラッシュ)の長所を併せ持つ「ユニバーサルメモリ」として注目されています。

特徴MRAMの利点従来のメモリとの比較
不揮発性電源がなくてもデータを保持します。DRAMは揮発性(電源オフで消滅)。
高速性DRAMに匹敵する高速な読み書きが可能です。NANDよりも遥かに高速。
低消費電力データ保持に電力は不要。書き込み時も比較的少ない電流で済みます。DRAMはリフレッシュが必要で電力を消費。
高耐久性データの書き換え寿命が長く、理論上ほぼ無限です。NANDは書き換え回数に制限があります。

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MRAMの主な用途

これらの特性から、MRAMは特に高性能と信頼性が求められる分野で採用が進んでいます。

  • エッジAI・IoT機器: スタンバイ時の消費電力が極めて低いため、バッテリー駆動の小型デバイスに最適です。
  • 車載システム: 高温・高耐久性・高信頼性が求められる車載インフォテインメントやADAS(先進運転支援システム)などに適しています。
  • 組み込みシステム: CPU内のキャッシュメモリや、マイコンなどに搭載される組み込みフラッシュメモリの置き換えとして期待されています。
  • データセンター: 高速な不揮発性メモリとして、DRAMとストレージの中間的な役割を担う活用も検討されています。

 この技術は、CPUのメモリの近くに直接配置し、高速演算を可能にするなど、AI時代の新しいコンピューティングアーキテクチャの鍵を握るとも言われています。

MRAM(磁気抵抗メモリ)は、電子のスピンを利用しデータを磁気で記憶する次世代メモリです。高速性・不揮発性・低消費電力を兼ね備え、AIやIoT機器への応用が期待されています。

なぜ、磁気で記憶でき、不揮発性なのか

 MRAMが磁気で記憶できるのは、**「磁気トンネル接合(MTJ)」**という基本素子を使用しているからです。また、不揮発性であるのは、磁石の安定した性質を利用しているためです。


磁気で記憶できる理由

MRAMのデータ記憶は、微細な磁石の性質を利用しています。

  1. MTJの構造: MRAMのメモリセルは、薄い絶縁体を2枚の強磁性体(磁石)で挟んだ構造をしています。
  2. 情報としての磁気: データ(0または1)は、この2枚の磁石のうち、データを書き込む側の磁性体(自由層)の磁化の向きを、固定された磁性体(固定層)の向きに対して「平行」にするか「反平行(逆向き)」にするかで記録されます。
  3. 読み出し: この磁化の相対的な向きの違いによって、素子を流れる電流の抵抗値が変化します(トンネル磁気抵抗効果)。この抵抗値の違いを検出することで、データ(0または1)を読み出します。

不揮発性である理由

 不揮発性とは、「電源を供給しなくてもデータが消えない」性質を指します。

  • 安定した磁化: データが磁化の向き(磁石のN極/S極の安定した状態)として保持されているため、一度設定されると、電源を切ってもその状態は安定して維持されます。これは、一般的な磁石が電源がなくてもS極とN極を保持し続けるのと同じ原理です。
  • DRAMとの対比: 従来のDRAMは、コンデンサに電荷(電気)を貯めることで記憶しますが、この電荷は電源を切るとすぐに放電してしまい、データが消えてしまいます(揮発性)。MRAMは電荷ではなく磁気で記憶するため、電源供給が不要です。

磁気で記憶できるのは、MTJ素子磁化の向きを0と1に対応させるためです。不揮発性なのは、この磁化(磁石の性質)が電源なしでも安定して保持されるからです。

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