TSMCの先端ノードウェハー価格引き上げ 引き上げの理由は何か?他社の動向は?

この記事で分かること

  • 引き上げの理由:海外工場の高コストや次世代技術への巨額投資、そしてAI需要による圧倒的な市場支配力による価格決定権を有していることなどが理由です。
  • 製造コスト上昇の理由:最先端技術(EUV、GAA)の巨額な開発・設備投資、および海外工場(米国等)での人件費・建設費・サプライチェーンの高コスト化が主な理由です。
  • 他社の動向:他社もコスト高騰に直面していますが、最先端ではTSMC追撃のため価格は慎重です。しかし、AI需要や投資回収の必要性から、サムスンなども追随して値上げする圧力は高いです。

TSMCの先端ノードウェハー価格引き上げ

 TSMCの先端ノードのウェハー価格を段階的に引き上げる計画が報じられています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2510/14/news071.html

 特に2026年から5nm以下の最先端プロセスにおいて、5%から10%程度の値上げが予定されているとの情報があります。

値上げの概要と背景

 、値上げの動きは以下の点が主な要因とされています。

  1. 製造コストの急激な上昇:
    • 特に米国アリゾナ州をはじめとする海外での工場建設・運営にかかるコスト(高額な設備投資、人件費、関税など)が、台湾国内での生産に比べ高くなっています。
    • 次世代の製造技術(例えば、2nm以降のGate-All-Around: GAAトランジスタ技術など)の開発と導入に必要な巨額の設備投資(例:極端紫外線露光装置:EUVリソグラフィースキャナーの価格高騰)も、コスト増の大きな要因です。
  2. 地政学的な要請とグローバルな展開:
    • 地政学的な圧力により、生産拠点の多角化を進めており、これもコスト構造を押し上げています。TSMCは、粗利益率53%以上を維持するという財務目標を達成するために、価格調整が不可避であるとしています。
  3. 市場での支配的な地位:
    • TSMCは先端プロセスにおいて圧倒的な市場シェアと技術力を持ち、主要顧客(Apple、NVIDIAなど)は代替手段が限られているため、価格交渉で優位な立場にあります。
  4. AI半導体の需要急増:
    • 高性能なAI半導体の需要が急増していることも、最先端プロセスの価格を押し上げる要因となっています。

具体的な値上げ幅(報道)

  • 時期: 2026年より、段階的な値上げの実施が予定されています。
  • 対象: 5nm、4nm、3nm、および今後量産が本格化する2nmといった先端ノード
  • 値上げ幅:
    • 5%〜10%と報じられています。
    • 顧客やアプリケーション(スマートフォン向け、CPU向け、AI・データセンター向けなど)によって幅が異なるとされています。
  • 次世代プロセス: 次世代の1.4nmプロセスに関しては、現行の2nmプロセスから約50%もの大幅なウェハー価格引き上げ(30,000ドルから45,000ドルへ)の観測も一部で報じられています。

 これらの価格上昇は、最終的にスマートフォン、PC、AIサーバーなどの最終製品の価格に転嫁される可能性が高いと見られています。

TSMCは、2026年より先端ノード(5nm以下)のウェハー価格を5〜10%値上げする見込みです。背景には、海外工場の高コストや次世代技術への巨額投資、そしてAI需要による圧倒的な市場支配力があります。

製造コスト高騰の理由は何か

 TSMCの製造コスト高騰は、主に以下の3つの構造的な要因によるものです。

1. 最先端技術開発のコスト増(技術的複雑性)

 半導体の微細化が進むにつれ、製造の難易度が爆発的に上昇し、それに伴うコストが急騰しています。

  • EUV装置の導入・維持費: 最先端プロセス(7nm以下)で不可欠な極端紫外線露光装置 (EUV) は、1台あたり数億ドルと非常に高価です。また、EUVの導入により、マスク(原版)や材料のコストも上昇しています。
  • 新トランジスタ構造への移行: 2nm以降で採用されるGate-All-Around (GAA) などの新しいトランジスタ技術は、従来のFinFET構造よりも製造工程が複雑になり、研究開発費と設備投資額が大幅に増加しています。
  • 歩留まり(良品率)の難しさ: 技術が複雑化するほど、初期の歩留まり確保が難しくなり、欠陥を減らすためのコストが増大します。

2. グローバル化と地政学リスクのコスト

 地政学的な要請や顧客からの要望により、台湾国外に工場を建設・運営するコストが、全体の製造費を押し上げています。

  • 海外での製造コスト高: 米国アリゾナ州などの海外工場では、建設費人件費電力・水などのインフラ費用が台湾に比べて高く、チップ製造コストは5%〜20%高くなると予測されています。
  • サプライチェーンの未成熟: 台湾のような成熟した半導体サプライチェーンが現地に存在しないため、高純度な特殊材料や部品の調達に輸送コストや手間がかかります。
  • 地政学的リスク分散の費用: 台湾有事への懸念などから、生産拠点を分散させる「保険料」としての側面もコストに反映されています。

3. 巨額な設備投資の増加(Capex)

 TSMCが技術的優位性を維持し、AI半導体などの需要増に対応するために行っている記録的な設備投資が、コスト構造の大きな要因です。

  • 年間投資額の膨張: 新しい製造ノードの開発と量産能力の拡大のため、年間数兆円規模の巨額な設備投資を継続的に行っており、この投資回収のために価格引き上げが必要となります。
  • 為替変動: 新台湾ドルの対米ドルでの評価額変動なども、収益性(粗利益率)を維持するために価格調整が必要となる一因となることがあります。

最先端技術(EUV、GAA)の巨額な開発・設備投資、および海外工場(米国等)での人件費・建設費・サプライチェーンの高コスト化が主な理由です。

他社も値上げするのか

 最先端ノードに限れば、TSMCに匹敵する技術力を持つSamsungIntelも、同様のコスト構造に直面しているため、価格上昇の圧力はあります。

 ただし、各社の戦略や値上げの状況は以下のように異なります。

1. Samsung Foundry(競合)

 TSMCの最大の競合であるSamsungも、最先端ノード(特に3nmや2nmのGAA技術)の開発に巨額の投資をしています。

  • 価格上昇圧力: TSMCと同様に、先端技術の複雑化や設備投資の巨大化により、製造コストが高騰しています。
  • 戦略的な価格設定: 市場シェア拡大を目指すSamsungは、現時点ではTSMCほど強気な一律の値上げは打ち出しにくい状況にある可能性があります。しかし、将来的に2nmノードなどの次世代プロセスでは、TSMCと同様に大幅な価格上昇が見込まれています。過去には、比較的古いプロセスでの値上げを行ったことがあります。

2. Intel Foundry Services (IFS)(新規参入)

 ファウンドリ市場への本格参入を目指すIntelは、現在、顧客獲得を最優先しています。

  • 現状の価格設定: Intelは「18A」などの最先端プロセスを武器に顧客を獲得しようとしており、現時点では価格よりも技術的な優位性や生産能力の確保を強調しています。
  • 将来の価格: 長期的には、Intelも巨額の設備投資(特に米国政府のCHIPS法による補助金を受けつつも)を行っているため、コストを回収し、利益率を維持するためには、TSMCやSamsungと同様に価格を引き上げる必要が出てくる可能性が高いです。

3. 成熟ノードのファウンドリ(UMC, GlobalFoundriesなど)

 TSMCが進める最先端ノード(5nm以下)ではなく、成熟ノード(28nm〜)を主力とするファウンドリの動向は、市場の需給によって異なります。

  • 過去の値上げ: 2021年〜2022年の半導体不足の際には、UMCなどのファウンドリも、自動車向けやコンシューマ向けチップの需要急増により、大幅な値上げを実施しました。
  • 現在の動向: 現在はプロセスによっては需給が緩和傾向にあり、一部で値下げの要請も報じられています。しかし、電気自動車(EV)や産業機器向けの成熟プロセスチップは依然として根強い需要があり、急激な値下げには至っていません。

まとめ

 TSMCの値上げは、先端ノードにおける技術的優位性と市場支配力が背景にあります。競合他社もコスト高騰には直面していますが、市場シェアや顧客獲得の戦略により、一律に同様の値上げをするとは限りません。ただし、AI需要に牽引される最先端分野では、TSMCの価格動向が事実上の業界標準となり、他のファウンドリにも価格上昇の圧力が波及しやすい構造にあります。

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