JFEスチールのトポロジー最適化技術 トポロジー最適化技術とは何か?なぜ大型MPVで採用されたのか?

この記事で分かること

  • JFEのトポロジー最適化技術とは:JFEトポロジー最適化技術は、自動車の車体剛性向上と軽量化を両立する解析技術です。特に構造用接着剤や溶接の最適な接合位置を特定し、最小限の材料で最大の性能を引き出します。
  • 最適な接合位置特定が難しい理由:自動車の車体は部品が多く、荷重伝達が複雑で、どこに接合しても性能が向上するわけではないためです。また、最適な接着剤量と性能の両立が困難です。
  • 大型MPVで採用された理由:開口部が大きく剛性確保が難しいためです。本技術で最小限の接着剤量で操縦安定性と乗り心地を最大限に高められるため採用されました。

JFEスチールのトポロジー最適化技術

 JFEスチールが開発した「JFEトポロジー最適化技術」を用いた構造用接着剤の最適塗布設計手法が、国内外で販売される大型MPV(Multi-Purpose Vehicle)に適用拡大されています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14BA60U5A011C2000000/

 この技術は、車体の軽量化性能向上の両立を目指す自動車産業のニーズに応えるものです。

JFEトポロジー最適化技術とは何か

 JFEトポロジー最適化技術は、JFEスチールが開発した、自動車の車体設計に用いられる構造最適化の解析技術です。

 これは、従来のトポロジー最適化(与えられた設計空間内で、要求される性能を満たす最も効率の良い材料の配置を求める解析方法)を、薄鋼板からなる自動車車体の設計に特化させ、特に「接合位置の最適化」に応用した点に特徴があります。


技術の主な目的と貢献

1. 接合位置の最適化

  • 自動車の車体は、薄鋼板でできた数百の部品をスポット溶接や構造用接着剤などで接合して構成されています。
  • 本技術は、車体の剛性や衝突安全性といった性能を最大限に高めるために、構造用接着剤やスポット溶接といった接合部位をどこに設けるか、その最適な位置やパターンを高精度で特定します。
  • 特に構造用接着剤の塗布においては、最小の接着剤使用量で最大の性能向上(剛性向上)を実現し、コストや重量の増加を抑えます。

2. 部品形状の最適化

  • 車体部品単体の最適な形状を設計する際にも利用されます。これにより、必要な強度や剛性を維持しながら、部品の軽量化を達成します。

3. 動的性能の向上

  • 一般的な最適化技術が静止状態での剛性(静剛性)を主に評価するのに対し、JFEの技術は、走行時の慣性力なども考慮した解析により、操縦安定性乗り心地といった動的な性能の向上にも貢献します。

 この技術は、高張力鋼板(ハイテン)などの薄くても高強度の鋼板と組み合わせることで、「車体軽量化性能維持・向上の両立」という自動車メーカーの課題解決をサポートするものです。

JFEトポロジー最適化技術は、自動車の車体剛性向上軽量化を両立する解析技術です。特に構造用接着剤や溶接の最適な接合位置を特定し、最小限の材料で最大の性能を引き出します。

構造用接着剤とは何か

 構造用接着剤とは、長期間にわたり大きな荷重がかかっても、接着特性の低下が少なく、高い信頼性を保つように設計された高強度の接着剤のことです。(JIS K 6800 接着剤・接着用語による定義)

 単に物を貼り合わせるための接着剤ではなく、接合部が建物の柱や自動車のフレームといった構造体の一部として機能するために使われます。


構造用接着剤の特徴と用途

1. 特徴

特徴詳細
高強度・高耐久性溶接やボルトなどの機械的な接合に匹敵するか、それ以上の強度を持ち、大きな力に耐えられます。耐熱性、耐寒性、耐水性などにも優れます。
面接合による応力分散スポット溶接が「点」で接合するのに対し、接着剤は「面」で接合するため、荷重による応力(負荷)が接合面全体に分散され、特定の箇所への集中を防ぎます。
剛性・振動減衰性の向上接合部の滑りや微細な動きを抑えるため、構造全体の剛性(硬さ)が向上し、振動や騒音(NVH:Noise, Vibration, Harshness)の低減に貢献します。
異種材料の接合鋼板、アルミニウム、複合材料など、性質の異なる材料同士を、化学的に安定した状態で接合できます。
軽量化に貢献接着剤の使用により、車体の鋼板を薄くしたり、スポット溶接の数を減らしたりできるため、構造体の軽量化に繋がります。

2. 主な化学成分

 構造用接着剤として広く用いられる主な化学成分には以下のようなものがあります。

  • エポキシ系接着剤:最も一般的で、高い強度と耐久性を持ちます。
  • アクリル系接着剤:比較的速硬化性があり、油面(多少の油分がある表面)への接着も可能です。
  • ウレタン系接着剤:柔軟性も併せ持つものがあり、ガラス接着などにも使われます。
  • フェノール系接着剤:特に高い耐熱性が求められる用途に使われます。

3. 主な用途

 構造用接着剤は、高い信頼性が求められる様々な分野で利用されています。

  • 自動車:車体(ボディ・イン・ホワイト/BIW)のフレームやパネル接合、特にスポット溶接との併用による車体剛性の向上軽量化、そして異種材料(鋼板とアルミニウムなど)の接合に不可欠です。
  • 航空宇宙:航空機の機体や部品の接合(複合材の接着など)。
  • 建築・土木:集成材、パネル、コンクリートの補修・補強など。
  • 電子機器:小型モーターの部品固定や、医療機器の組み立てなど。

構造用接着剤とは、長時間大きな荷重に耐え、高い信頼性を保つよう設計された高強度な接着剤です。自動車の車体や建築物などで、溶接やボルトのように構造体の一部として機能します。

最適な接合位置の特定が難しい理由は何か

 構造用接着剤や溶接の最適な接合位置の特定が難しい主な理由は、自動車の車体構造の複雑さと、荷重伝達経路の予測が困難なことにあります。

主な難しさは以下の3点に集約されます。

1. 複雑な構造と荷重伝達経路

 自動車の車体は、数百もの薄鋼板部品を数千点のスポット溶接や接着剤で接合した複雑な一体構造です。

  • 複雑な部品構成: 荷重がかかると、その力は多くの部品と接合点を伝達していくため、力の流れ(荷重伝達経路)が非常に複雑に変化します。
  • 経験と試行錯誤の限界: 剛性や強度を効率的に高めつつ軽量化を達成するためには、この複雑な荷重伝達を正確に考慮する必要がありますが、設計者の経験や試行錯誤だけでは限界があります。

2. 接合箇所が非常に多い

 車体には、溶接や接着が可能なフランジ部(部品の端にあるつば状の部分)が合計100m以上にもわたって存在します。

  • 効率的な選択の必要性: 性能向上に最も有効な部分を、その広大な候補の中から効率よく抽出し、接着剤の塗布量や溶接の打点を最小限に抑えることが求められます。

3. 動的性能との関係性の複雑さ

 単に車体が変形しにくい静的な剛性(静剛性)を向上させても、走行中に感じる操縦安定性や乗り心地といった動的な性能は向上しないことがあります。

  • 走行状態の模擬の難しさ: 動的性能の向上には、走行中の加減速や旋回時に生じる慣性力を含む複雑な挙動を解析し、接合位置に反映させる必要がありますが、従来の解析手法ではこれが困難でした。

 これらの課題を解決し、最小限の接着剤・溶接点最大の性能向上を実現するために、JFEスチールのトポロジー最適化技術のような高度なコンピュータ解析が活用されています。

自動車の車体は部品が多く、荷重伝達が複雑で、どこに接合しても性能が向上するわけではないためです。また、最適な接着剤量と性能の両立が困難です。

大型MPVで採用された理由は何か

 大型MPVでJFEトポロジー最適化技術が採用された主な理由は、その車体構造が持つ、高い剛性確保の難しさを克服するためです。

 特に以下の構造的な特徴から、接着剤による接合位置の最適化が非常に有効となります。

1. 広い開口部と車内空間

 大型MPVは大人数が乗車できる広い車内空間を確保するため、車体の多くの部分が大きく開いています。

  • 剛性低下のリスク: 車内空間を広く取り、特にスライドドアなどの大きな開口部を持つ構造は、通常の乗用車と比べて車体骨格の連続性が途切れやすく、車体剛性(変形しにくさ)が低下しやすい傾向にあります。
  • 対策の必要性: 操縦安定性や乗り心地を向上させるには、この構造的な弱点を補い、十分な車体剛性を確保することが極めて重要です。

2. 最小限の接着剤で最大の効果を得るため

 車体剛性を高める一般的な手法として構造用接着剤の使用がありますが、やみくもに塗布すると重量増加コストアップにつながります。

  • 効率的な接合: JFEトポロジー最適化技術は、複雑な大型MPVの車体構造を解析し、接着剤を塗るべき最も効果的な位置をピンポイントで特定できます。
  • 軽量化との両立: その結果、最小限の接着剤使用量で、大型MPVに必要な最大の性能向上(剛性強化)を効率的に達成できるため、採用されました。

大型MPVは開口部が大きく剛性確保が難しいためです。本技術で最小限の接着剤量操縦安定性と乗り心地を最大限に高められるため採用されました。

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