この記事で分かること
- 田中科学研究所とは:主にリチウムイオン二次電池などの三元系正極材料やニッケル系正極を開発・製造・販売する化学メーカーです。特に電気自動車(EV)向けの車載用電池材料に強みを持っています。
- 三元系正極材料とは:リチウムイオン電池の正極に使われる材料で、主にニッケル・マンガン・コバルトの3元素を組み合わせています。高エネルギー密度と安全性を両立し、EVなどの車載電池に多く採用されます。
- ニッケルの増加でエネルギー密度が増加する理由:ニッケルは、コバルトよりリチウムイオンを多く吸蔵・放出できるため、正極材の単位重量あたりの放電容量が向上します。これにより、電池のエネルギー密度が増加します。
住友化学、田中化学研究所を完全子会社化
住友化学株式会社は、株式会社田中化学研究所を株式交換により完全子会社化することを決定し、両社間で契約を締結しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2860C0Y5A021C2000000/
田中化学研究所は、車載電池材料事業を担う住友化学の子会社としてすでに一部の株式を住友化学が保有していましたが、今回の措置により100%子会社となります。
田中化学研究所はどんな企業か
株式会社田中化学研究所は、二次電池用の正極材料の研究・開発・製造・販売を専門とする化学メーカーです。
企業概要と事業内容
- 事業の核:
- 主にリチウムイオン二次電池に使用される正極材料(正極材)とその前駆体を製造・販売しています。
- 二次電池の中でも、電池の性能や寿命に最も大きく影響を与える重要な材料を担っています。
- 製品の用途:
- 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などの環境対応車(車載電池)。
- スマートフォン、ノートパソコンなどの民生用小型二次電池。
- ニッケル水素電池用材料なども手掛けています。
- 主力製品:
- コバルトの一部をニッケルやマンガンに置き換えた三元系正極材料。
- アルミニウムなどを添加したニッケル系正極材料。
- 経営理念:
- 正極材開発で培った独自技術を基盤に、独創的な新製品を生み出すことを通じて、地球環境課題の解決に挑戦し、持続可能な社会の実現を目指しています。
田中化学研究所の強み
- 専門性と実績:
- 1973年以来、50年以上にわたり電池用材料の開発・製造に従事している歴史ある電池材料メーカーです。
- 主力である三元系正極材料は20年以上の生産実績を持ち、日本の、そして世界の電池産業を支えてきました。
- カスタムメイド対応:
- 顧客である電池メーカーや自動車メーカーからの多岐にわたる要望に、すべてカスタムメイドで応えることを強みとしています。
- 最終用途や電池設計に合わせて、必要な性能・特長を持つ正極材を最適化して製造する技術力があります。
- 独自技術:
- 「粒子形状制御技術」「複数元素共沈技術」「粒子径制御技術」「結晶制御技術」などのコア技術を確立し、化学反応を原子・分子レベルで制御して、高性能な電池材料を製造しています。
住友化学が今回、田中化学研究所を完全子会社化するのは、田中化学の持つこの二次電池材料の技術と実績を、成長分野であるモビリティ(EVなど)向け事業に完全に統合し、競争力を強化していく狙いがあるためです。

田中化学研究所は、主にリチウムイオン二次電池などの正極材料(正極材)を開発・製造・販売する化学メーカーです。特に電気自動車(EV)向けの車載用電池材料に強みを持ち、顧客の要求に応じたカスタムメイド製品を提供しています。
三元系正極材料とは何か
三元系正極材料(NMC:Nickel Manganese Cobalt)は、リチウムイオン二次電池の性能を左右する正極に使われる材料の一つです。
三元系正極材料の構成と特徴
三元系正極材料は、その名の通り、正極の主要な活性物質として3つの金属元素を組み合わせて使用しているのが大きな特徴です。
- 主成分:
- ニッケル(Ni)
- マンガン(Mn)
- コバルト(Co)
これらの金属酸化物にリチウムを加えて製造されます。
主なメリット
| 特徴 | 説明 |
| 高エネルギー密度 | ニッケルの比率を高めることで、電池のエネルギー密度(容量)を向上させやすく、特に航続距離が求められる電気自動車(EV)や高性能な電子機器に適しています。 |
| バランスの良さ | コバルトの安定性、ニッケルの高容量、マンガンの低コスト・安定性のそれぞれの長所を組み合わせることで、高容量、安全性、コストのバランスが取れています。 |
主な用途
主に高いエネルギー密度と信頼性が求められる以下の分野で広く採用されています。
- 電気自動車(EV)
- ハイブリッド車(HEV)などの電動車
- ノートパソコンや一部のスマートフォンなどのモバイル機器
近年は、特にニッケルの含有量を高めた「ハイニッケル系」の開発が進められており、EVのさらなる航続距離延長に貢献しています。

三元系正極材料は、リチウムイオン電池の正極に使われる材料で、主にニッケル・マンガン・コバルトの3元素を組み合わせています。高エネルギー密度と安全性を両立し、EVなどの車載電池に多く採用されます。
ニッケルの増加でエネルギー密度が増加する理由は
ニッケル(Ni)を増加させるとリチウムイオン電池のエネルギー密度が増加する主な理由は、ニッケルが持つ大きなリチウムイオン吸蔵・放出能力にあります。
エネルギー密度が増加するメカニズム
リチウムイオン電池のエネルギー密度は、「電圧」と「容量」の積で決まります。ニッケル含有量を増やすことで向上するのは、主に容量の要素です。
1. リチウム吸蔵・放出量の増加
正極材において、ニッケルはコバルトやマンガンよりも多くのリチウムイオンを吸蔵(充電)し、放出(放電)する能力が高い傾向があります。
- ニッケルの役割:
- 正極材に含まれるニッケルイオンが、充放電時にリチウムイオンの出入りを仲介する中心的な役割を果たします。
- ニッケル比率を高めると、反応サイトが増えるため、単位重量(g)あたりの電気化学的な放電容量(mAh/g)が向上します。
2. コバルト(Co)からの置き換え効果
従来の三元系正極材では、資源が希少で高価なコバルトの比率が高かったですが、ニッケル比率を高めることは、コバルトを置き換えることを意味します。
- コバルトの役割と課題:
- コバルトは電池の構造安定性や安全性に大きく貢献しますが、その容量(リチウム吸蔵・放出能力)はニッケルに比べて低いとされています。
- そのため、ニッケルの比率を上げてコバルトの比率を下げる(ハイニッケル化)ことで、材料全体の容量が効率的に増加し、結果として電池のエネルギー密度が向上します。
安全性・安定性とのトレードオフ
ニッケル含有量を上げると容量は向上しますが、以下の課題が生じやすくなるため、技術的なバランスが重要になります。
- 安全性(熱安定性)の低下: ニッケル比率が高まると、満充電時の熱安定性が低下し、熱暴走(サーマルランナウェイ)を起こしやすくなります。
- サイクル特性の低下: 充放電を繰り返すことによる劣化(サイクル寿命)が早まる傾向があります。
田中化学研究所などが取り組んでいるのは、ニッケルを増やして高容量化を実現しつつも、マンガンや特殊なコーティング技術などを活用して、安全性や耐久性を維持・向上させる技術の開発です。

ニッケルは、コバルトよりリチウムイオンを多く吸蔵・放出できるため、正極材の単位重量あたりの放電容量が向上します。これにより、電池のエネルギー密度が増加します。
子会社化の理由は何か
住友化学が田中化学研究所を完全子会社化する主な理由は、二次電池材料事業の強化と企業価値の向上にあります。
この背景には、以下の点が挙げられます。
1. 成長分野への経営資源集中
- 電動化の流れ: 田中化学研究所は、電気自動車(EV)などに不可欠なリチウムイオン二次電池用の正極材料を専門としており、将来的な市場の拡大が見込まれる分野です。
- 住友化学の戦略: 住友化学は、自動車やIT分野を含む「ICT&モビリティソリューション事業」を成長領域と位置付けており、田中化学を完全子会社化することで、この成長分野に経営資源を集中し、事業の加速を図ります。
2. 経営統合によるシナジー効果の最大化
- リソースの統合: すでに子会社であった田中化学を完全子会社化することで、両社の技術、人材、資金などのリソースを完全に統合します。
- 意思決定の迅速化: 完全子会社化により、株主構成や意思決定プロセスが簡素化され、急速に変化する電池市場において、機動的な経営戦略と迅速な意思決定が可能になります。
- 競争力強化: これにより、田中化学の持つ高い技術力と住友化学のグローバルな事業基盤や資金力を組み合わせ、グローバルな競争力を強化し、企業価値の最大化を目指します。
3. 田中化学研究所の事業環境への対応
- 田中化学研究所は、EV市場の成長鈍化などを背景に、業績予想を下方修正するなど厳しい事業環境に直面していました。
- 住友化学の完全子会社となることで、田中化学の少数株主の不利益を回避しつつ、住友化学の強力なバックアップのもとで事業継続と企業価値の維持・向上を図ることが最善の策であると判断されました。
住友化学は将来の成長の柱である電池材料事業をグループとして一体化し、市場競争に打ち勝つための体制を構築することが、今回の完全子会社化の最大の理由です。

住友化学は、EVに不可欠な二次電池材料事業を強化するためです。田中化学研究所を完全子会社化し、経営資源を完全に統合することで、迅速な意思決定とグローバルな競争力強化を図ります。

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