この記事で分かること
- SICCとは:中国のSiC(炭化ケイ素)基板専門メーカーです。EVや再生可能エネルギー向けのパワー半導体材料に特化し、世界的なリーダー企業の一つとして単結晶SiCウエハーの研究開発・製造・販売を行っています。
- 技術協力の内容:SICCが製造するSiCウエハーの特性向上と品質改善が主な内容でした。具体的には、SiCパワー半導体の電力損失低減と信頼性を高め、東芝への安定供給拡大を目指していました。
- 撤回の理由:主な背景はSiC技術の経済安全保障上の懸念と技術流出リスクへの懸念です。国際的な規制強化やレピュテーションリスクも影響したとみられます。
東芝デバイス&ストレージとSICCの技術協力の撤回
東芝デバイス&ストレージ株式会社は、中国の山東天岳先進科技股份有限公司(SICC)との間で締結していSiC(炭化ケイ素)パワー半導体用ウエハーに関する連携に向けた基本合意(MOU)を撤回(終了)しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC245WV0U5A021C2000000/
東芝は、この基本合意の終了後も、SiC技術およびサプライチェーン戦略を進め、高効率パワー半導体の需要増加に対応していく方針です。
SICCはどんな企業か
SICCは、山東天岳先進科技股份有限公司(Shandong Tianyue Advanced Material Technology Co., Ltd.)という中国の企業です。
企業概要と事業内容
SICCは、特に以下の分野に特化した半導体材料メーカーです。
- 専業分野: SiC(炭化ケイ素)基板(ウエハー)の研究開発、製造、販売を一貫して行っています。
- 材料の種類:
- 導電型(N-Type)SiC基板
- 半絶縁型(Semi-insulating)SiC基板
 
- 製品の用途:
- パワーエレクトロニクス分野: 電気自動車(EV)、再生可能エネルギーシステム、鉄道、サーバー電源、家電など、高い電力効率が求められる分野のパワー半導体に使用されます。
- マイクロ波エレクトロニクス分野: 高度な通信基地局などに使用されます。
 
- 特徴: SiCは、従来のシリコン(Si)よりも優れた物性を持つワイドバンドギャップ半導体(第3世代半導体)の材料であり、SICCはこの分野の主要メーカーの一つとしてグローバルに事業を展開しています。
- 技術的実績: 2024年に市場で初めて12インチSiCウエハーを発表するなど、大口径化技術において先進的な取り組みを行っています。
沿革・市場
- 設立: 2010年
- 所在地: 中国 山東省 済南市
- 上場: 2022年に上海証券取引所の科創板(STAR MARKET)に上場しました。
東芝デバイス&ストレージとの連携は、東芝がSiCパワー半導体の開発を加速する上で、SICCの持つSiCウエハー技術と安定供給力に期待したものとされていました。

SICC(山東天岳先進科技股份有限公司)は、中国のSiC(炭化ケイ素)基板専門メーカーです。EVや再生可能エネルギー向けのパワー半導体材料に特化し、世界的なリーダー企業の一つとして単結晶SiCウエハーの研究開発・製造・販売を行っています。
技術協力の内容は何か
東芝と中国のSICC(山東天岳先進科技股份有限公司)との間で基本合意が結ばれていた技術協力の内容は、以下の二点を目的としたSiC(炭化ケイ素)パワー半導体用ウエハーに関する連携でした。
- SiCウエハーの技術協力・品質改善
- SICCが開発・製造するSiCウエハーの特性向上、および品質改善に向けた技術協力を行うこと。
- 東芝がSiCパワー半導体の開発を加速する上で、ウエハーの技術改良との緊密な連携が必須であるとしていました。
 
- 高品質ウエハーの安定供給拡大
- 上記の技術協力の成果を用いた、東芝への高品質かつ安定的なウエハー供給の拡大に向けたビジネス上の連携を行うこと。
 
この連携は、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーシステムなどで需要が急拡大しているSiCパワー半導体の性能(損失低減、信頼性、効率)を向上させ、東芝の事業拡大を加速させることを期待して進められていました。

技術協力は、SICCが製造するSiCウエハーの特性向上と品質改善が主な内容でした。具体的には、SiCパワー半導体の電力損失低減と信頼性を高め、東芝への安定供給拡大を目指していました。
向上させる特性は何か
東芝とSICCが目指していた技術協力は、主にSiCパワー半導体用ウエハーの以下の2つの重要な特性を向上させることでした。
1. 特性(性能)の向上
これは、ウエハーを基に製造されるパワー半導体デバイスの性能を直接向上させることを意味します。具体的な目標は以下の通りです。
- 電力損失の低減: SiCパワー半導体の性能を左右する最も重要な要素の一つです。ウエハーの品質を高めることで、半導体デバイスにした際の電気抵抗を減らし、電力変換効率を向上させることを目指します。
- 高温動作性能の改善: SiCは高温環境に強いことが特長ですが、ウエハーの品質がその性能を左右します。これにより、電気自動車(EV)や産業機器など、厳しい環境下での安定的な動作を可能にします。
2. 品質・信頼性の改善
これは、ウエハー自体の欠陥を減らし、製品としての安定性を高めることを指します。
- 欠陥の低減: SiCウエハーの製造は難しく、結晶欠陥(マイクロパイプ、積層欠陥など)が生じやすいという課題があります。これらの欠陥を抑制・除去することで、デバイスの歩留まりと信頼性を大幅に向上させます。
- ウエハーの均一性: 大口径化が進む中で、ウエハー全体で特性の均一性を高めることにより、デバイス製造時の品質のばらつきを抑えることを目指します。
これらの特性・品質の向上が実現すれば、東芝はより高性能で信頼性の高いSiCパワー半導体を製造できるようになり、EVや再生可能エネルギーといった成長市場での競争力強化に繋がります。

SiCウエハーの特性向上は、主に電力損失の低減と品質・信頼性の改善が目的でした。具体的には、結晶欠陥を減らし、高温環境下での電力変換効率とデバイスの安定性を高めることを目指していました。
技術協力を撤回した理由は何か
東芝デバイス&ストレージ株式会社が、中国のSICC(山東天岳先進科技股份有限公司)とのSiCパワー半導体用ウエハーに関する基本合意を撤回した具体的な理由について、同社は公的な発表で詳細を明らかにしていません。
しかし、報道や市場関係者の見方としては、主に以下の要因が複合的に影響した可能性が指摘されています。
1. 経済安全保障上の懸念
- 技術流出リスクの懸念: SiCパワー半導体技術は、電気自動車(EV)や防衛関連技術にも応用される重要技術と見なされています。中国企業との技術協力は、日本国内および国際的な経済安全保障上の監視が強まる中で、技術流出リスクとして懸念された可能性があります。
- 国際的な規制: 特に半導体分野では、米国などを中心に中国への技術供与に対する規制が強化されており、この動きが日本の大企業である東芝の判断に影響を与えた可能性が考えられます。
2. レピュテーションリスク(評判)
- 東芝がSiCウエハーの技術協力を中国企業と進めることに対し、主要な顧客やパートナー企業、あるいは政府関係者から懸念が示された、またはレピュテーション(評判)リスクを懸念したため、との見方があります。
3. 協議の不一致
- 公的な発表にある通り、「両社による協議を経て」終了したことから、ウエハーの品質目標、供給の条件、技術協力の具体的なスコープなど、基本合意後に進められた詳細な協議の中で何らかの条件や方針の不一致が生じた可能性も考えられます。
東芝は、基本合意の終了後もSiC技術の開発と安定供給体制の構築に引き続き取り組む方針を示しています。

東芝が技術協力を撤回した公的な理由は不明ですが、主な背景はSiC技術の経済安全保障上の懸念と技術流出リスクへの懸念です。国際的な規制強化やレピュテーションリスクも影響したとみられます。
 
 

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