この記事で分かること
- シクロペンタノンの用途:導体・電子材料分野で特殊溶剤(レジスト現像液など)として使われるほか、ジャスミン系香料や医薬品・農薬の重要な合成中間体として幅広く利用されています。
- 値上げの理由:値上げの主な理由は、原料、エネルギー(ユーティリティ)、物流、労務費、設備管理費など、製造・供給にかかるコストが全般的に大幅に上昇し、企業の自助努力だけでは吸収が困難になったためです。
- シクロペンタノンの製造方法:日本ゼオンは、ジシクロペンタジエンを原料に、環境負荷を抑えて高純度で製造する独自のプロセスを開発しています。
日本ゼオンのシクロペンタノン値上げ
最近の発表によると、日本ゼオンはシクロペンタノンの価格を値上げします。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC107BQ0Q5A211C2000000/
シクロペンタノンは、香料(特にムスク系の香料)、医薬品中間体、農薬中間体、溶剤など、幅広い有機材料分野で使用される重要な化学品です。
シクロペンタノンはどんな用途があるのか
シクロペンタノンは、五員環の構造を持つケトンで、その特性から非常に幅広い分野で重要な合成原料や特殊溶剤として利用されています。主な用途は以下の通りです。
1. 電子材料・半導体分野(特殊溶剤・洗浄剤)
近年、特に需要が伸びている分野です。
- 現像液・溶剤:
- 半導体の製造工程、特に先端半導体パッケージの絶縁膜に使われる感光性ポリイミド樹脂の現像液として使用されます。高い溶解力、乾燥性、回収性に優れている点が評価されています。
- ウェーハ製造などにおける洗浄剤としても利用されます。
2. 香料分野(合成原料)
シクロペンタノンは、花の香りを再現する合成香料の重要な原料となります。
- ジャスミン系香料の原料:
- 花の王とも呼ばれるジャスミンが放つ華やかで甘い香りを人工的に合成する際の原料の一つであるメチルジヒドロジャスモネート(MDJ)の合成中間体として利用されます。
- シクロペンタノン骨格は、植物ホルモン様物質であるジャスモン酸にも含まれています。
3. 医薬品・農薬分野(合成中間体)
- 医薬品合成の中間体:
- 喘息治療薬や充血除去薬など、様々な医薬品の合成原料として利用されます。
- 例: 麻酔薬として使われるシクロペントバルビタール、充血除去薬のシクロペンタミンなどの前駆体。
- 農薬合成の中間体:
- 殺虫剤や、いもち病などに使われる農薬のペンシクロンなどの合成中間体として利用されます。
4. その他
- ゴム薬品の合成中間体。
- シクロペンタノン型液状シリコーンゴムの原料:低臭で、接着剤、シール材、コーティング材などに使われます。
このように、シクロペンタノンは、高度な技術を要する半導体から、身近な香料、そして医療・農業まで、現代社会を支える様々な製品の基盤となる化学品です。
日本ゼオンは、このシクロペンタノンを原料として、医薬品製造用の特殊溶剤であるシクロペンチルメチルエーテル(CPME)も製造・供給しており、特殊化学品事業を拡大させています。

シクロペンタノンは、半導体・電子材料分野で特殊溶剤(レジスト現像液など)として使われるほか、ジャスミン系香料や医薬品・農薬の重要な合成中間体として幅広く利用されています。
値上げの理由は
日本ゼオンが発表したシクロペンタノンの値上げの主な理由は、以下の通りです。
主な改定理由
- 製造・供給コスト全般の上昇:
- ユーティリティコスト(エネルギーコスト)
- 労務費
- 製造設備管理費
- 物流費
同社は、製品の製造および供給にかかるこれらのさまざまなコストが年々上昇し続けており、自助努力による吸収の限界を大幅に超えていると説明しています。
安定的な生産・供給を継続し、採算性を確保するためには、製品価格の改定が避けられないと判断した、というのが公式な理由です。
シクロペンタノンの製造方法は
シクロペンタノンを工業的に製造する方法は、主に以下の二つのルートがあります。
1. シクロペンタノール(CPL)の脱水素
これが一般的な工業的製造法の一つです。
- 原料: シクロペンタノール(Cyclopentanol, CPL)
- 反応: シクロペンタノールを銅系触媒(銅亜鉛触媒など)の存在下で高温(気相)で反応させ、分子内の水素を取り除く(脱水素)ことで、ケトンであるシクロペンタノンを生成します。
C5H9OH → C5H8O
- 特徴: 比較的シンプルなプロセスですが、触媒の活性や選択性を長時間維持するための技術的な知見が重要になります。
2. アジピン酸(Adipic Acid)のケトン化(古い方法・実験室的手法)
- 原料: アジピン酸(HOOC-(CH2)4-COOH、ナイロンの原料など)
- 反応: アジピン酸に水酸化バリウムなどを加えて加熱すると、分子内でのケトン化(環化)反応が起き、シクロペンタノンが生成し、水と二酸化炭素が脱離します。
- 特徴: 歴史的な合成法として知られていますが、工業的には製造プロセスが複雑になるなどの欠点があります。
3. 日本ゼオンが開発した新製造法
日本ゼオンは、ジシクロペンタジエン(DCPD)を原料とした、従来法に比べて高収率で二酸化炭素(CO2)の発生を抑えたクリーンなプロセスを2004年に開発し、第56回日化協技術賞を受賞しています。
- 原料: ジシクロペンタジエン(DCPD)から得られるシクロペンタジエン(CPD)
- 反応: シクロペンタジエン(CPD)に水を付加するシンプルな反応経路を採ることで、環境負荷が低い製造を実現しています。
この新製法によって得られるシクロペンタノンは、高い純度が求められる半導体用途などで活用されています。
このように、シクロペンタノンの製造方法にはいくつかのルートがあり、環境負荷の低減や高純度化への要求に応じて、新しいプロセスが開発・採用されています。

シクロペンタノールを銅系触媒で脱水素化する方法が一般的です。また、日本ゼオンは、ジシクロペンタジエンを原料に、環境負荷を抑えて高純度で製造する独自のプロセスを開発しています。

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