中国政府の外資優遇強化 強化の内容と目的は何か?

この記事で分かること

  • 外資融資強化の内容:外商投資奨励産業目録(2025年版)を新たに制定し、外資を歓迎する産業を過去最多の1,679項目に拡大しました。先進製造業、現代サービス業、グリーン技術、内陸部への投資を重点的に奨励し、関税免除や減税(15%)などの優遇措置で外資を呼び込む内容です。
  • 強化を行う理由:米中摩擦や景気停滞により「中国離れ」が進む中、減税などの恩恵で企業を繋ぎ止め、自国だけでは不足しているハイテク技術(半導体やAI等)や資金を呼び込み、経済再生と供給網の強化を狙っています。
  • 対中投資はどれくらい減少しているのか:対中投資は急減しています。2024年の外貨ベースの直接投資額は、ピークの2021年から約9割減の45億ドル(国際収支ベース)と、約30年ぶりの低水準に落ち込みました。2025年も前年同期比で約10%減の傾向が続いています。

中国政府の外資優遇強化

 中国政府は、景気停滞や米中貿易摩擦などの背景から、外資誘致を強化するために「外資優遇の対象拡大」を積極的に進めています。

 https://jp.reuters.com/markets/japan/7CPRL5L7VJLPFNJSAQFEDGHPMQ-2025-12-24/

 2025年12月24日に発表された「外商投資奨励産業目録(2025年版)」(2026年2月1日施行)がでは、優遇を受けられる分野が大幅に増えました。

外商投資奨励産業目録の内容は

 「外商投資奨励産業目録」は、中国政府が外国企業からの投資を特に歓迎し、優遇措置を与える産業をリストアップしたものです。

 2024年12月に発表された最新の「2025年版」(2026年2月施行)では、項目数が過去最多の1,679項目に拡大されました。主な内容は以下の通りです。

1. 重点的に拡大された分野

  • 先進製造業: 次世代の情報技術、ハイエンド装備、新素材、バイオ医薬品、航空宇宙、グリーン・低炭素技術などが追加・拡充されました。
  • 現代サービス業: 通信、医療、教育分野などの開放が進んでおり、特定の都市(北京、上海、広州など)で外資100%の病院設立を認めるなどの試行も行われています。
  • 中西部・東北地域への投資: 地域ごとの奨励項目も増やされており、内陸部への投資も促されています。

2. 主な優遇措置

 目録に記載された産業へ投資する外国企業は、以下のようなメリットを受けることができます。

  • 設備輸入時の関税免除: 自社で使用する設備の輸入にかかる関税が免除されます。
  • 所得税の軽減: 特定の地域(中西部や海南自由貿易港など)では、法人所得税が通常の25%から15%に軽減されます。
  • 土地利用の優遇: 工業用地の優先的な供給や価格面での優遇措置があります。

3. 改定の背景

 中国政府は、外資の流出を防ぐとともに、「新質生産力」と呼ばれる高付加価値な産業(DX、グリーン産業など)で海外の高度な技術や資金を取り込み、自国の産業を高度化させることを狙っています。

 一方で、データ安全法や反スパイ法など安全保障関連の規制は依然として厳しいため、投資にあたっては優遇措置と規制の両面を確認することが重要です。

2025年12月24日に発表された最新版は、外資を歓迎する産業を過去最多の1,679項目に拡大しました。先進製造業、現代サービス業、グリーン技術、内陸部への投資を重点的に奨励し、関税免除や減税(15%)などの優遇措置で外資を呼び込む内容です。

先進製造業はどんな製造業か

 「先進製造業」とは、従来の労働集約的な製造業(単なる組み立てなど)とは異なり、高度な技術、IT、自動化、持続可能性(グリーン技術)を核とした、付加価値の高い製造業を指します。

 2025年版の「外商投資奨励産業目録」では、特に以下の分野が「先進製造業」として重点的に挙げられています。


1. 次世代の情報技術 (High-Tech IT)

  • 半導体・集積回路: 微細加工装置、チップ設計、新材料(シリコンカーバイドなど)。
  • 通信機器: 5G/6G関連設備、光通信、衛星インターネット用デバイス。
  • AI・コンピューティング: 量子コンピュータ、高性能サーバー、産業用IoT(モノのインターネット)機器。

2. ハイエンド装備・ロボティクス (Smart Equipment)

  • 産業用ロボット: 精密減速機、サーボモーター、自律走行搬送ロボット(AGV)。
  • 工作機械: 高精度なCNC(数値制御)工作機械、積層造形(3Dプリンター)。
  • 航空宇宙: 衛星部品、ドローン、商用航空機向けの高度なエンジンやコンポーネント。

3. 新エネルギー・自動運転 (Green & Mobility)

  • 電気自動車(EV)関連: 高エネルギー密度バッテリー、全固体電池、水素燃料電池、自動運転用センサー(LiDARなど)。
  • グリーンエネルギー: 風力・太陽光発電の高度な制御システム、スマートグリッド。

4. バイオ・ヘルスケア (Biotech)

  • 医療機器: ハイエンド画像診断装置(MRI、CT)、手術支援ロボット、ゲノム編集技術。
  • 新薬製造: バイオ医薬品、mRNAワクチン、高度な製薬関連素材。

なぜこれらが「先進」なのか?

 これらは単に物を作るだけでなく、以下の3つの特徴を兼ね備えているためです。

  • デジタル化: データの活用やAIによる効率化(スマート工場)。
  • 技術的な自立: 他国に依存しないキーデバイスや原材料の生産。
  • 環境対応: 製造過程での炭素排出を抑える技術や、再利用可能な素材の使用。

先進製造業とは、高度な技術やIT、自動化を駆使した付加価値の高い製造業です。具体的には次世代IT、ハイエンド装備、バイオ医薬品、新エネルギー(EV等)などが含まれ、デジタル化や環境負荷の低減を両立しながら、産業全体の高度化を支える役割を担います。

外資優遇を行う理由は何か

 中国が外資優遇を拡大している理由は、「景気のテコ入れ」と「産業の高度化」を同時に進めるためです。

 2024年から2025年にかけて、中国では直接投資(FDI)が減少傾向にあり、外資の「中国離れ」への危機感が強まっています。これを食い止め、再び経済を活性化させるために以下の4つの大きな狙いがあります。


1. 外資流出の阻止と経済の安定化

 米中貿易摩擦や地政学リスクにより、多くの企業が拠点を他国へ移す「チャイナ・プラス・ワン」を進めています。

  • 狙い: 関税免除や減税などの強力なインセンティブを出すことで、外資企業の流出を食い止め、雇用の維持と消費の回復を図っています。

2. 「新質生産力」への技術・資金の取り込み

 中国は現在、従来の単純な工場モデルから、ハイテク技術を駆使した「新質生産力(ニュー・クオリティ生産力)」への転換を急いでいます。

  • 狙い: 自国だけでは不足している半導体、AI、バイオ、自動運転などの高度な技術を持つ外資企業を呼び込み、国内産業のレベルを底上げしようとしています。

3. 国内サプライチェーンの強化

 米国の輸出規制などにより、重要な部品や素材が手に入らなくなるリスク(デカップリング)に直面しています。

  • 狙い: 外資企業に中国国内で研究開発(R&D)から生産まで完結してもらうことで、制裁に強い「完結型サプライチェーン」を国内に構築することを目指しています。

4. 格差是正と地方経済の活性化

 沿海部(上海や深センなど)に偏っている投資を、内陸部や東北部にも広げたいと考えています。

  • 狙い: 今回の優遇策では内陸部向けの項目も増やしており、地域格差を縮小させて中国全体の経済バランスを整える意図があります。

米中摩擦や景気停滞により「中国離れ」が進む中、減税などの恩恵で企業を繋ぎ止め、自国だけでは不足しているハイテク技術(半導体やAI等)や資金を呼び込み、経済再生と供給網の強化を狙っています。

現状の優遇制度を利用している具体的な企業は

 外資優遇(外商投資奨励産業目録)を利用している企業は、主に「先進技術」「環境・エネルギー」「医療・サービス」の分野に集中しています。

1. 自動車・モビリティ(EV・自動運転)

 最も象徴的なのは、規制緩和と優遇措置をフルに活用している企業です。

  • テスラ (Tesla): 上海に「ギガファクトリー」を建設。外資独資での自動車製造が認められた最初の事例で、土地利用や低金利融資、税制優遇を受けています。
  • トヨタ自動車: 2024年以降、広州汽車集団との合弁などを通じて、自動運転タクシー(ロボタクシー)の量産や商用化に向けた投資を拡大しています。
  • フォルクスワーゲン (VW): 安徽省にEV開発拠点(合肥)を設置し、中国国内のサプライチェーン強化のために巨額投資を行っています。

2. 医療・ヘルスケア(外資独資病院など)

 2024〜2025年にかけての規制緩和により、新たな動きが出ています。

  • ボアオ富隆病院: 2025年12月、海南自由貿易港に設立された海南省初の外資独資(100%外資)病院。最新の医療設備や高度な運営モデルの導入が期待されています。
  • 日系・欧米系の製薬・医療機器メーカー: ハイエンド医療機器(MRIなど)の現地生産において、輸入関税の免除などを活用しています。

3. 先進製造業・ハイテク

  • 三菱電機・富士通: 中国が掲げる「中国製造2025」や最新の奨励目録に沿って、スマート工場向けの自動化技術やITインフラ、産業用ロボット分野で中国企業との提携や拠点拡大を進めています。
  • ASML・インテルなど: 規制の影で複雑な状況にありますが、中国国内での先端パッケージングや特定の半導体製造プロセスの維持において、地方政府レベルの優遇(所得税15%への軽減など)を受けてきました。

4. 地域限定の優遇活用

  • 海南島や深セン: 所得税15%の優遇を狙い、データセンター、グリーンエネルギー、高級消費品(免税関連)などの企業が進出しています。

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