EUの自動車への炭素繊維使用制限規制案の撤廃 規制案の内容と撤回の理由は?

この記事で分かること

  • 炭素繊維使用制限規制案の内容:EUが2025年に検討した「使用済み車両(ELV)規則案」の一部です。リサイクル困難や健康リスクを理由に、炭素繊維を有害物質と同等に扱い、含有制限や実質的な使用禁止を目指しましたが、現在は撤回・修正の方向にあります。
  • 撤回の理由:理由は主に、電気自動車(EV)の軽量化に不可欠な素材であり、規制が脱炭素目標の達成を妨げると判断されたためです。また、健康リスクの科学的根拠が乏しいことや、リサイクル技術の進展も考慮されました。

EUの自動車への炭素繊維使用制限規制案の撤廃

 EU(欧州連合)が自動車への炭素繊維の使用を制限しようとしていた規制案については、2025年を通じて議論が行われ、最終的に規制が見送られる(事実上の撤回)方向で決着しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR203AN0Q5A221C2000000/

 一時は日本の「お家芸」とも言える炭素繊維産業に大打撃となる可能性がありましたが、「環境(軽量化による燃費向上)」と「規制」のバランスを再考した結果、利用継続が可能になったというのが現状です。

自動車への炭素繊維の規制案とは何か

 自動車への炭素繊維(CFRP)規制案とは、2025年に欧州連合(EU)で議論された「使用済み車両(ELV)規則」の改正案の中に盛り込まれていた、炭素繊維の使用を厳しく制限・実質禁止しようとする動きのことです。


1. 規制案の具体的な内容

 この規制案は、もともと自動車のリサイクルを促進するためのルール(ELV指令)を、より強力な「規則(Regulation)」へ格上げする議論の中で浮上しました。

  • 有害物質への指定: 炭素繊維を、鉛や水銀、カドミウムといった「人体や環境に深刻な影響を与える有害物質」と同等のリストに加えようとしました。
  • 実質的な使用禁止: このリストに載ると、2029年以降、代替手段がある場合には自動車への使用が原則として認められなくなります。
  • 対象範囲: 主に「乗用車」と「小型商用車(バン)」が対象とされていました。

2. なぜ「有害」と見なされたのか?(規制の理由)

 EU側が懸念を示した理由は、主に以下の2点です。

  • 廃棄時の健康リスク:炭素繊維は非常に細く強固です。車を解体・粉砕する際に、微細な「繊維の破片(フィラメント)」が空気中に飛散し、それを吸い込むことで肺に炎症を起こしたり、皮膚や粘膜に刺さって痛みを生じさせたりするリスクが指摘されました。
  • リサイクルの困難さ:炭素繊維は樹脂と固められているため、リサイクルが非常に難しく、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を推進するEUの基本方針にそぐわないと判断されました。

3. 日本企業や業界へのインパクト

 この規制案は、世界市場の約5割以上のシェアを握る日本の素材メーカー(東レ、帝人、三菱ケミカルなど)にとって、死活問題となる内容でした。

  • 「非関税障壁」の疑念: 日本の強みである高級素材を狙い撃ちにすることで、欧州の産業を守ろうとする「非関税障壁」ではないかという見方も出ました。
  • EV戦略への打撃: 車体を軽くして航続距離を伸ばしたい電気自動車(EV)メーカーにとっても、有力な軽量化素材が使えなくなることは大きな痛手となります。

現在の状況

 2025年4月の提案直後から、自動車業界や日本の経済産業省、素材メーカー各社が猛烈なロビー活動と科学的根拠に基づく反論を行いました。

 その結果、2025年半ばには欧州議会がこの制限条項を削除する方針を固め、現在は「禁止」ではなく、「いかに安全に解体し、リサイクルするか」という情報開示の義務化など、より現実的な方向へ修正されています。

EUが2025年に検討した「使用済み車両(ELV)規則案」の一部です。リサイクル困難や健康リスクを理由に、炭素繊維を有害物質と同等に扱い、含有制限や実質的な使用禁止を目指しましたが、現在は撤回・修正の方向にあります。

撤回した理由は何か

 EUが自動車への炭素繊維(CFRP)規制案を事実上の撤回(修正)に追い込まれた主な理由は、「脱炭素戦略との矛盾」「科学的根拠の不足」を業界から強く指摘されたためです。具体的には以下の4点が決定打となりました。

1. 電気自動車(EV)普及への打撃

 EVは重いバッテリーを積むため、車体の軽量化が航続距離を伸ばす鍵となります。炭素繊維を禁止すると「2035年までに新車をすべてゼロエミッション車にする」というEU自体の高い目標が達成困難になると、自動車メーカーから猛反対を受けました。

2. 「有害物質」とする根拠の弱さ

 当初、EUは「微細な繊維がアスベストのように肺に刺さる」という懸念を理由に挙げました。これに対し、日本の炭素繊維協会などは、炭素繊維の直径(約5~7μm)が、肺の奥まで届くとされるWHO基準(3μm未満)より太く設計されており、科学的にアスベストと同等の危険性はないことを証明して反論しました。

3. リサイクル技術の進展

 「リサイクルできないから環境に悪い」という主張に対しても、すでに炭素繊維を回収して再利用する「リサイクル炭素繊維」の技術が実用化されつつあることや、ボーイングなどの航空機分野での実績が示され、禁止する正当性が失われました。

4. 欧州基幹産業への影響

 炭素繊維は自動車だけでなく、風力発電のブレード(羽根)や航空機にも不可欠です。自動車で規制が始まれば他のクリーンエネルギー産業にも波及し、欧州経済に深刻なダメージを与えるとの懸念が欧州議会内でも広がりました。


 現在は「禁止」ではなく、「廃棄時のリサイクル方法を明確にする」「安全な解体手順を確立する」といった、より現実的な運用ルールを作る方向で調整が進んでいます。

理由は主に、電気自動車(EV)の軽量化に不可欠な素材であり、規制が脱炭素目標の達成を妨げると判断されたためです。また、健康リスクの科学的根拠が乏しいことや、リサイクル技術の進展も考慮されました。

リサイクル炭素繊維とは何か

 リサイクル炭素繊維(rCF:recycled Carbon Fiber)とは、使い終わった製品(航空機や自動車の部品など)や、製造過程で出た端材から、炭素繊維を取り出して再利用した素材のことです。

1. どうやって作るのか?

 炭素繊維はプラスチック(樹脂)と固められた状態(CFRP)で使われるため、そこから「繊維だけ」を抽出する必要があります。

  • 熱分解法: 高温で熱して樹脂だけを焼き飛ばし、繊維を取り出す(最も一般的)。
  • 化学分解法: 薬品を使って樹脂を溶かし、繊維へのダメージを最小限に抑えて取り出す。

2. メリット

  • 環境負荷が低い: 新品(バージン材)を作るには膨大なエネルギーが必要ですが、リサイクル品はエネルギー消費を約1/10、CO2排出量を約70〜90%削減できます。
  • 低コスト: 高価な炭素繊維を安価(新品の半額程度)に入手できるようになります。

3. デメリットと課題

  • 強度の低下: 回収時に繊維が短く切れてしまったり、品質がバラついたりするため、新品に比べると強度が落ちることがあります。
  • 用途の制限: 高い安全性が求められる「航空機の主翼」などには不向きですが、「自動車の内装」や「家電の筐体(ケース)」、「建築資材」などには十分活用できます。

 EUの規制案が撤回された大きな理由の一つも、こうしたリサイクル技術が向上し、「捨てずに使い回す仕組み(サーキュラーエコノミー)」の目処が立ってきたことにあります。

使用済みの製品や製造工程で出た廃材から、樹脂を取り除き抽出した炭素繊維のことです。新品に比べ製造時のCO2排出量やエネルギーを約10分の1に抑えられるのが利点で、循環型経済に不可欠な素材として注目されています。

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