この記事で分かること
- グリーンスチールとは:製造工程でのCO2排出を大幅に削減した鉄鋼のことです。水素で鉄鉱石を還元する技術や、再生可能エネルギーを用いた電炉、排出量を特定製品に割り当てる手法などで作られます。
- 課題:「高額な製造コスト」、「クリーンエネルギー(水素・再エネ)の供給不足」、そして「国際的な定義の不透明さ」です。既存設備の刷新には巨額投資が必要で、製品価格への転嫁と市場の理解が普及のカギとなります。
- 富士通の役割:ブロックチェーンを活用してグリーンスチールの排出量データを改ざん不能な形で記録・管理することです。
グリーンスチールのサプライチェーン管理
富士通と経済産業省が進めている「グリーン鉄(グリーンスチール)」のサプライチェーン管理に関する取り組みは、日本の製造業が脱炭素社会で生き残るための極めて重要な戦略です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC261B30W5A221C2000000/
このプロジェクトの核心は、「その鉄がどれだけクリーンに作られたか」という目に見えない価値を、デジタル技術で証明・追跡することにあります。
グリーンスチールとは何か
グリーンスチールとは、「製造工程におけるCO2(二酸化炭素)排出量を大幅に削減して作られた鉄」のことです。
鉄鋼業は世界のCO2排出量の約7〜8%を占めると言われており、脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現するために最も重要なピースの一つとなっています。
1. どうやって作るのか
従来の製鉄(高炉法)では、鉄鉱石から酸素を取り除くために大量の「石炭(コークス)」を使い、その過程で大量のCO2が出てしまいます。グリーンスチールは、この仕組みを根本から変えます。
- 水素還元製鉄: 石炭の代わりに「水素」を使って鉄鉱石を還元します。化学反応で出るのはCO2ではなく「水(H2O)」になるため、究極のクリーン製鉄と呼ばれます。
- 電炉法: 鉄スクラップを電気の力で溶かして再利用します。再生可能エネルギー由来の電力を使えば、排出量を極限まで抑えられます。
- CCUS技術: 排出したCO2を回収し、地下に貯留したり再利用したりする技術です。
2. 「マスバランス方式」という特殊なルール
現在流通しているグリーンスチールの多くは、「マスバランス方式」という考え方に基づいています。
これは、工場全体で削減したCO2の量を、「特定の製品」に集約して割り当てる仕組みです。
- 例: 100トンの鉄を作る工程で10トンのCO2を削減した場合、その10トン分の削減効果を「特定の1トン」に全部乗せることで、その1トンを「CO2排出ゼロのグリーンスチール」として販売できます。
- メリット: 莫大な投資が必要な設備転換を待たずに、今ある設備からすぐに低炭素な鉄を市場に供給できます。
3. なぜ今、注目されているのか
主に以下の3つの力が働いています。
- 自動車メーカーなどの需要: トヨタなどのメーカーが、車を作る時の排出量を減らすために、材料である鉄のクリーン化を強く求めています。
- 炭素国境調整措置(CBAM): 欧州などが導入している、「CO2を多く出して作った製品」に関税のような負担を課す仕組みへの対策です。
- 投資呼び込み: 脱炭素に取り組まない企業は投資家から選ばれなくなるため、鉄鋼メーカーは生き残りをかけて開発を急いでいます。
グリーンスチールは、単なる「環境に良い製品」ではなく、「グローバルビジネスで勝ち残るための必須条件」になりつつあります。
| 項目 | 従来の鉄 | グリーンスチール |
| 主なエネルギー源 | 石炭(コークス) | 水素・再生可能エネルギー |
| 主な副産物 | 二酸化炭素 | 水 |
| コスト | 安価 | 高価(グリーン・プレミアム) |

グリーンスチールとは、製造工程でのCO2排出を大幅に削減した鉄鋼のことです。水素で鉄鉱石を還元する技術や、再生可能エネルギーを用いた電炉、排出量を特定製品に割り当てる手法などで作られ、脱炭素社会の重要素材として期待されています。
グリーンスチールの課題はなにか
グリーンスチールは、脱炭素社会の実現に不可欠な素材ですが、普及には主に「コスト」「技術・資源」「定義・信頼性」の3つの大きな課題があります。
1. 莫大な製造コストと「グリーン・プレミアム」
最大の課題は、従来の鉄に比べて価格が大幅に高くなる(グリーン・プレミアム)ことです。
- エネルギーコスト: 石炭よりも高価な「グリーン水素」や大量の「再生可能エネルギー」が必要です。
- 設備投資: 既存の高炉を壊し、水素還元炉や大型電炉を新設するために、1社あたり数兆円規模の投資が必要と言われています。
- 販売価格への転嫁: 従来の鉄より数割〜数倍高くなる可能性があり、それを最終製品(車や家電)の価格にどう反映させ、消費者の理解を得るかが課題です。
2. 技術的・資源的な制約
技術がまだ確立途上であることに加え、材料の確保も困難です。
- 水素還元製鉄の難易度: 水素での還元反応は「吸熱反応(熱を奪う)」であるため、炉内の温度を維持するのが難しく、安定した大量生産にはまだ時間がかかります。
- 原料(鉄スクラップ・高品質鉱石)の不足: 電炉に欠かせない「鉄スクラップ」や、水素還元に適した「高品質な鉄鉱石」は世界中で争奪戦になっており、確保が困難です。
3. 定義のあいまいさと「グリーンウォッシュ」への懸念
「どこからがグリーンスチールか」という国際的なルールがまだ固まっていません。
- マスバランス方式の是非: 削減量を特定の製品に割り当てる「マスバランス方式」は、早期普及には有効ですが、実態は「従来の鉄と同じラインで作られたもの」であるため、「見せかけの脱炭素(グリーンウォッシュ)」ではないかという批判が一部にあります。
- データの透明性: サプライチェーン全体で排出量を正確に計算・証明する仕組み(富士通と経産省が取り組んでいるようなシステム)が世界標準として定着しなければ、国際取引で正当に評価されません。

グリーンスチールの主な課題は、「高額な製造コスト」、「クリーンエネルギー(水素・再エネ)の供給不足」、そして「国際的な定義の不透明さ」です。既存設備の刷新には巨額投資が必要で、製品価格への転嫁と市場の理解が普及のカギとなります。
富士通の役割は何か
富士通の主な役割は、「グリーンスチールの価値をデジタルの力で証明・保証するプラットフォームを提供すること」です。
目に見えない「脱炭素」という価値を、ブロックチェーン技術を用いて可視化し、国際的に通用する信頼性を与える「公証人」のような役割を担っています。
1. 「排出量データの改ざん防止」と「追跡」
鉄が作られてから自動車やビルになるまでの長いサプライチェーンにおいて、CO2排出量のデータが途中で書き換えられないよう、ブロックチェーン(分散型台帳)で管理します。
- 役割: どの工場のどの工程で、どれだけCO2が削減されたかを「動かぬ証拠」として記録し続け、最終製品まで紐付けます。
2. 「マスバランス方式」の適正な管理
前述の「削減量を特定の製品に割り当てるルール(マスバランス方式)」が正しく運用されているかを監視します。
- 役割: 企業が削減した以上の「グリーン鉄」を架空に販売していないか、帳尻が合っているかをデジタル上で厳格に管理・計算します。
3. 国際標準(グローバル・ルール)への適合
欧州の炭素国境調整措置(CBAM)など、厳しい国際規制に日本企業が対応できるシステムを構築します。
- 役割: 日本の鉄鋼メーカーが海外へ輸出する際、富士通のシステムが発行する「証明書」があれば、現地の規制をクリアできるような「国際的な信頼のインフラ」を目指しています。
富士通の役割を支える技術要素
| 技術名 | 役割 |
| ブロックチェーン | データの信頼性と透明性を担保し、改ざんを不可能にする。 |
| ConnectionChain | 異なる企業の異なるシステム間でも、安全にデータを連携させる。 |
| AI・シミュレーション | 供給網全体での最適な排出削減計画や、ビジネスへの影響を分析する。 |
富士通は、単なるITベンダーではなく、「日本の鉄鋼業が脱炭素時代に世界で勝つための『信頼のプラットフォーム』を作る戦略的パートナー」としての役割を担っています。

富士通の役割は、ブロックチェーンを活用してグリーンスチールの排出量データを改ざん不能な形で記録・管理することです。複雑な供給網でも「脱炭素の価値」を正確に追跡・証明し、国際的に信頼される流通基盤を構築しています。

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