三菱電機のSiC半導体の領域拡大戦略 SiC半導体の特徴は何か?車載用以外の用途にはどのようなものがあるか?

この記事で分かること

  • SiC半導体とは:炭素とシリコンの化合物を用いた次世代素材です。従来のシリコン製に比べ、電力損失を大幅に削減し、高温・高電圧にも強いため、機器の省エネ化と劇的な小型化を実現します。
  • 車載に適した理由:電力損失が極めて少なく、EVの航続距離を約5〜10%向上させます。また、高電圧に耐え熱にも強いため、急速充電への対応や冷却装置の小型化が可能になり、車両全体の軽量化と省スペース化に直結します。
  • 車載用以外の用途:鉄道、エアコン、データセンター、太陽光発電など多岐にわたります。三菱電機がこれらを進める理由は、自社の鉄道や家電製品に組み込むことで製品競争力を高める(内製シナジー)とともに、EV市場の変動に左右されない安定した収益基盤を築くためです。

三菱電機のSiC半導体の領域拡大戦略

 三菱電機は、成長著しいSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体において、先行する車載(EV)向けだけでなく、自社の強みを活かせる「産業・インフラ・民生」の3領域へ戦略的に拡大を続けています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00771438

 2026年現在は、熊本県の新工場(泗水工場)での試作開始や、最新の「トレンチ型SiC-MOSFET」のサンプル提供など、量産体制と技術革新の両面で攻勢を強めているフェーズです。

SiCパワー半導体とは何か

 SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体とは、従来のシリコン(Si)に代わり、炭素(C)とシリコン(Si)の化合物を材料に用いた次世代のパワー半導体です。

 パワー半導体は、電気を「交流から直流に変える」「電圧を変える」といった電力の制御・供給を担う、いわば機器の「筋肉」のような役割を果たします。SiCはこの役割を劇的に進化させることができます。


1. SiCの圧倒的なメリット

 従来のシリコン製と比較して、主に以下の3つの強みがあります。

  • 電力損失が極めて少ない(省エネ)
    • 電力を変換する際のロス(熱として逃げるエネルギー)を大幅にカットできます。電気自動車(EV)なら、同じバッテリー容量でも航続距離を5〜10%伸ばすことが可能です。
  • 熱に強く、冷却装置を小型化できる(省スペース)
    • Siは150℃程度が限界ですが、SiCはより高温でも安定して動作します。また、熱を逃がす能力(熱伝導率)が高いため、これまで巨大だった冷却ファンや水冷システムを簡素化でき、機器全体を劇的に小型・軽量化できます。
  • 高い電圧に耐えられる(高耐圧)
    • 絶縁破壊強度(電圧に対する強さ)がSiの約10倍あります。これにより、薄い素子でも高い電圧を扱えるようになり、さらなる低抵抗化(=低損失化)が実現します。

2. 構造の比較と仕組み

 SiCがなぜ優れているのか、その物理的な理由は「バンドギャップ」の広さにあります。

特性シリコン (Si)シリコンカーバイド (SiC)
バンドギャップ約1.1 eV約3.3 eV (約3倍)
絶縁破壊電界0.3 MV/cm3.0 MV/cm (10倍)
熱伝導率1.5 W/mk4.9 W/mk (約3倍)
  • バンドギャップが広い:電気が漏れにくく、高温でもスイッチ機能が壊れません。
  • 薄く作れる:高い電圧に耐えられるため、素子を薄く設計できます。薄いと電気が通りやすくなる(抵抗が下がる)ため、発熱が抑えられます。

3. デメリットと課題

 非常に優秀なSiCですが、普及に向けた課題も存在します。

  1. 製造コストが高い:SiCはダイヤモンドの次に硬いと言われるほど硬く、結晶を作るのも加工するのも非常に困難です。そのため、チップの価格は従来のSi製の数倍になります。
  2. ウエハの欠陥:大きな結晶を高品質で作ることが難しく、製造過程で欠陥が生じやすい(歩留まりが低い)という課題があります。現在、各メーカーは「8インチ(200mm)ウエハ」への大口径化によるコストダウンを急いでいます。

4. 主な活用シーン

 現在、最も注目されているのはEV(電気自動車)ですが、それ以外にも「大電力」を扱う場所で次々と導入されています。

SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体とは、炭素とシリコンの化合物を用いた次世代素材です。従来のシリコン製に比べ、電力損失を大幅に削減し、高温・高電圧にも強いため、機器の省エネ化と劇的な小型化を実現します。

車載用に適している理由は何か

 SiCパワー半導体が電気自動車(EV)などの車載用に適している理由は、主に「航続距離の向上」「充電時間の短縮」「車両の軽量・小型化」の3点に集約されます。

 三菱電機などのメーカーがこの分野に注力するのは、SiCがEVの性能を決定づける「心臓部」になるためです。


1. 航続距離が伸びる(電力損失の低減)

 従来のシリコン(Si)製に比べ、電気を変換する際のエネルギーロスが劇的に少なくなります。

  • 低損失: インバーター(電池の直流をモーター用の交流に変える装置)での損失を50%〜70%以上削減できます。
  • 効率アップ: これにより、同じバッテリー容量でも走行距離を5%〜10%程度伸ばすことが可能になります。

2. 急速充電と高電圧化への対応

 次世代EVでは、充電時間を短くするために「800V」などの高電圧システムへの移行が進んでいます。

  • 高耐圧特性: SiCはシリコンの10倍の電圧に耐えられるため、高電圧環境下でも安定して高速なスイッチング(電気のオンオフ)が可能です。これにより、超急速充電にも無理なく対応できます。

3. クルマを軽く、広くできる(熱に強く小型)

 車載設計において、スペースの確保と軽量化は至上命題です。

  • 冷却装置の簡素化: SiCは高温でも動作し、熱を逃がす能力も高いため、これまでの巨大な冷却用ラジエーターや水冷システムを大幅に小さくできます。
  • 部品の小型化: 高周波での動作が得意なため、周辺部品(リアクトルやコンデンサ)も小型化でき、車内空間を広げたり、車両重量を軽くしたりできます。

システム全体でのコストメリット

 単体のチップ価格はSiCの方が高いですが、「バッテリーを小さくできる」「冷却システムを簡略化できる」という車両全体の視点で見ると、トータルコストを抑えられるため、テスラをはじめとする多くの自動車メーカーが採用を急いでいます。

SiCは電力損失が極めて少なく、EVの航続距離を約5〜10%向上させます。また、高電圧に耐え熱にも強いため、急速充電への対応冷却装置の小型化が可能になり、車両全体の軽量化と省スペース化に直結します。

車載以外にはどのような用途があるのか

 三菱電機がSiCパワー半導体において「車載以外」の用途を強化し、それを戦略の柱に据える理由は、自社製品との相乗効果(シナジー)とリスク分散、そして技術的優位性の維持にあります。

 2026年現在、同社は熊本県の新工場(泗水工場)を軸に、以下の戦略を展開しています。


1. 車載以外の主な用途

 SiCの「高効率・小型・高耐圧」という特性は、大電力を扱うあらゆる分野で破壊的な革新をもたらします。

  • 鉄道・社会インフラ
    • 用途: 新幹線(N700S等)や地下鉄の駆動用インバーター。
    • 効果: 電力損失を大幅に減らし、冷却装置を小型化することで車両を軽量化。三菱電機は世界に先駆けてフルSiCインバーターを鉄道に導入した実績があります。
  • 産業機器・再生可能エネルギー
    • 用途: 工場用ロボット(FA機器)、太陽光・風力発電の電力変換器(パワーコンディショナー)。
    • 効果: 24時間稼働する設備の電力コストを削減し、脱炭素(GX)に貢献。
  • 民生・家電
    • 用途: 高効率エアコン(霧ヶ峰等)やデータセンターの電源ユニット。
    • 効果: 待機電力や稼働時のロスを最小化。特にAI需要で電力不足が懸念されるデータセンターでの需要が急増しています。

2. 三菱電機が「車載以外」も進める3つの理由

① 自社製品への組み込み(垂直統合モデル)

 三菱電機は半導体メーカーであると同時に、鉄道車両、空調設備、産業ロボットの総合電機メーカーでもあります。

  • 自社の半導体を自社製品に使うことで、製品全体の性能を底上げし、他社には真似できない「省エネ性能」を武器に市場シェアを確保できます。
② EV市場の変動に対するリスク分散

 車載市場は巨大ですが、世界的なEV普及ペースの鈍化や価格競争など、外部環境の変化が激しいのが特徴です。

  • 鉄道や電力インフラ、データセンターといった「長期的に安定した需要」がある分野を並行して開拓することで、市況に左右されにくい収益構造を築いています。
③ 高付加価値・高耐圧領域での独占

 車載向け(主に400V~800V)に比べ、鉄道や電力インフラは数千ボルト級の超高耐圧が求められます。

  • この領域は参入障壁が非常に高く、長年の実績を持つ三菱電機の独壇場となりやすいため、高い利益率を維持することが可能です。

三菱電機の2026年戦略

 三菱電機は、2025年後半に竣工した熊本の泗水工場で、世界標準となる「8インチウエハ」による量産準備を進めています。

分野狙い
車載成長の「量」を追う(EV・急速充電)
非車載利益の「質」と「安定」を追う(鉄道・産業・家電)

用途は鉄道、エアコン、データセンター、太陽光発電など多岐にわたります。三菱電機がこれらを進める理由は、自社の鉄道や家電製品に組み込むことで製品競争力を高める(内製シナジー)とともに、EV市場の変動に左右されない安定した収益基盤を築くためです。

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