この記事で分かること
どんな製品を製造するのか
半導体製造のフォトリソグラフィ工程に不可欠なシンナー・現像液・剥離液などの高純度化学薬品を製造します。最先端プロセスに対応した高品位品をTSMCなど西日本の半導体メーカーへ供給します。
熊本に新工場を設立する理由
TSMCの熊本進出による需要拡大への近接対応が主因です。九州の半導体産業集積の活用、既存の阿蘇工場との相乗効果、生成AI・EVを背景とした中長期的な半導体需要の成長を見据えた戦略的布石でもあります。
フォトレジストの製造方法
樹脂・感光剤・溶剤を主原料に、ポリマー合成・ナノろ過・精製・品質検査を経て製造します。ppbレベルの超高純度管理と使用する光の波長に対応した処方開発が品質の要です。
東京応化工業の熊本の新工場
東京応化工業は、高純度化学薬品の品質向上および供給能力拡大を目的として、「阿蘇工場 阿蘇くまもとサイト」(熊本県菊池市)における新工場を竣工しました。
約130億円を投じて建設された新工場は、九州エリアの半導体生産の拡大に対応することを目的としており、敷地面積は12万8,000平方メートルの規模を誇ります。
新工場が設置された菊池市は、台湾の半導体大手TSMCが国内に設けた製造拠点のすぐ近くに位置します。種市順昭社長は「TSMCをはじめ西日本をカバーする拠点として、さらなる拡張工事も検討する」と述べており、同社はこの熊本拠点を西日本の半導体サプライチェーンにおける中核に位置づけています。
どんな製品を製造するのか
阿蘇くまもとサイトで製造するのは、半導体の製造工程に欠かせない以下のような「高純度化学薬品」です。
フォトレジスト付属薬品(プロセス薬品)
半導体製造工程のさまざまな場面で使用されるシンナー、フォトレジストを現像する現像液、表面改質剤などが高純度化学薬品に分類されます。これらは半導体チップ上に微細な回路パターンを描く「フォトリソグラフィ」と呼ばれる工程で不可欠な消耗材料です。
まず「シンナー」は、レジスト塗布後のエッジリンスやバックリンス、配管洗浄用、プリウエッ ト用など数十種類にわたる用途に対応しており、用途ごとに最適な製品が用意されています。
次に「現像液・リンス液」は、フォトレジストの露光・未露光部の溶解度差を利用してパターンを形成するための薬品で、半導体プロセスに対応するため金属イオンを含まない有機アルカリ(TMAH)が用いられます。
また「剥離液」は、エッチング後のレジスト除去や、エッチング時に発生した不純物の除去に使用される薬品です。
最先端プロセスに対応した高品位材料
阿蘇くまもとサイトの大きな特徴は、単なる量産ではなく品質の高さにあります。既存の阿蘇工場で高純度化学薬品を製造してきた実績をベースとしつつ、阿蘇くまもとサイトでは最先端の半導体製造工程に耐え得る高品位な製品を作るべく、新しい設備が導入されています。
TSMCの熊本工場向けに供給することを念頭に置いた、より厳しい品質基準に対応した製品ラインナップとなっています。
東京応化の主力製品・フォトレジストとの関係
東京応化工業はもともとフォトレジストの世界的大手として知られます。同社は1968年に半導体用フォトレジストの国産化を実現し、g線からEUVまでの全世代に対応するフォトレジストを展開しており、半導体用フォトレジストで世界トップシェアを誇ります。
今回の熊本サイトで製造する高純度化学薬品はこのフォトレジストと合わせて使用されるものであり、売上構成比はエレクトロニクス機能材料(フォトレジスト等)と高純度化学薬品でおよそ1対1となっています。同社の事業の両輪をなす重要な製品群です。
なぜ熊本での供給が重要なのか
東京応化工業が提供するこれら高純度化学薬品は、半導体製造の工程で培った世界最高水準の純度を実現した製品であり、半導体以外にもさまざまな産業分野で活躍しています。
熊本に拠点を設けることで、TSMCをはじめとする西日本の半導体メーカーに対して近接した安定供給体制を整え、輸送コストや品質管理のリスク低減にもつなげています。

阿蘇くまもとサイトでは、半導体製造のフォトリソグラフィ工程に不可欠なシンナー・現像液・剥離液などの高純度化学薬品を製造します。最先端プロセスに対応した高品位品の安定供給を通じ、TSMCなど西日本の半導体製造を支えています。
なぜ熊本に新工場を設立するのか
東京応化工業が熊本を選んだ背景には、地理的・産業的・戦略的な複数の理由が絡み合っています。
TSMCの熊本進出という直接的な契機
最大の要因はTSMCの熊本進出です。昨今の九州における半導体生産の拡大を受け、同社は2022年に熊本県菊池市に事業用地を取得し、新拠点の開設を決定しました。
半導体製造に不可欠なシンナーや現像液などの高純度化学薬品は、品質管理の観点から製造工場の近くで調達することが求められます。供給先であるTSMCの工場のすぐ近くに拠点を構えることで、迅速かつ安定した供給体制を整えられるのが大きな利点です。
さらにTSMCの動きは第1工場にとどまらず、TSMCの子会社JASMは2027年12月に熊本県菊陽町で第2工場を稼働させ、より先端の6ナノメートル半導体を製造する計画を進めており、投資額は約139億ドル(約2兆1,000億円)に上ります。
需要がさらに拡大する見通しのもとで、今から拠点を整備しておく先行投資としての意味も大きいといえます。
「シリコンアイランド九州」という産業集積の活用
熊本を選んだ背景にはTSMC以外の理由もあります。TSMCの菊陽町への工場新設を機に、半導体デバイス・製造装置・材料メーカーの新工場建設や拠点開設などの投資が九州に集中しており、「新生シリコンアイランド九州」の実現を目指す動きが広がっています。
九州は1967年に三菱電機の半導体工場が立地して以来55年以上の蓄積があり、デザインハウスから前工程・後工程のデバイス製造、装置、材料まで1,000を超える事業所が集積する産業エコシステムを形成しています。
このような素地があるからこそ、新工場を立ち上げるための人材や協力企業を集めやすく、長期的な安定経営が見込めます。
既存の阿蘇工場との相乗効果
同社は1984年に熊本県阿蘇市にすでに阿蘇工場を開設しており、高純度化学薬品の製造を長年行ってきた実績があります。
新拠点と既存工場の相乗効果を通じ、品質向上・供給能力拡大・西日本地域におけるサポート強化を目指しています。まったく新規の土地ではなく、40年以上の操業実績がある地域への追加投資であることも、リスクを抑えながら迅速な判断ができた理由のひとつです。
長期的な需要拡大への対応
九州への経済波及効果は約23兆円と推計されており、関連企業の集積が加速しています。生成AIや電気自動車(EV)の普及を背景に半導体需要は中長期的に拡大が見込まれており、熊本への投資は単なる今の需要への対応ではなく、将来の成長を先取りした戦略的な布石といえます。

東京応化工業が熊本に新工場を設立した主な理由は、TSMCの熊本進出による需要拡大への近接対応です。加えて、九州の半導体産業集積の活用と既存の阿蘇工場との相乗効果、中長期的な半導体需要の成長を見据えた戦略的投資という複合的な背景があります。
フォトレジストはどのように製造されるのか
フォトレジストの製造は、以下のような原料、プロセスから製造されています。
フォトレジストを構成する原料
フォトレジストは、ポリマー(高分子)・感光剤・溶剤を主成分とする液状の化学薬剤で、光によって性質が変化します。
さらに性能を高めるための添加剤が加わることもあります。露光工程で加工する回路の線幅によって、KrF(フッ化クリプトン)、ArF(フッ化アルゴン)、EUVといった異なる波長の光が使用されるため、それぞれの光源特性に対応した高品質のポリマーが用いられます。
フォトレジスト自体の製造プロセス
フォトレジストの製造は主に6つのステップで構成されます。
①原材料の選定・調合として、樹脂・感光剤・溶剤・添加剤などを高純度で選定し厳密な配合比で混合します。
②反応・合成工程として感光性を持つ高分子ポリマーを合成し、温度・時間の管理が重要です。
③ろ過・精製工程としてナノレベルのフィルターで微粒子や不純物を除去し高純度を維持します。④混合・希釈として製品の粘度や塗布性を調整するため溶剤と適切に希釈します。
⑤充填・包装として異物混入を防ぐためクリーンルーム内でボトルに充填し密封します。
⑥品質検査として粘度・感度・膜厚均一性・異物の有無などを厳密に測定します。
純度管理が最大の競争優位
製造上のカギとなるのが不純物除去の徹底です。半導体の回路がナノメートル単位で微細化するにつれて、材料に含まれる金属イオンや微粒子などのごくわずかな不純物が製品の欠陥に直結します。
日本のメーカーは長年培われた高度な合成・精製技術を駆使し、原料の段階から製品に至るまで不純物をppbレベルで管理しています。(ppbとは10億分の1を示す単位。)
■ 日本が世界をリードする理由
フォトレジストは特定の光の波長領域で反応するよう設計されるため、光源が変化するたびに新たな対応製品を開発しなければなりません。
日本は半導体メーカー・製造装置メーカー・原材料メーカーが揃うエコシステムを活かし、チームワークによるきめ細かい「すり合わせ」が有効に機能したことで、優れたフォトレジストの開発・生産技術を確立しました。また新規参入の壁が高いことも、日本企業の強みを持続させている要因のひとつです。

フォトレジストは樹脂・感光剤・溶剤を主原料に、合成・精製・ろ過・品質検査を経て製造される液状化学薬品です。ppbレベルの超高純度管理と光の波長に対応した処方開発が競争の核心であり、日本企業が長年の「すり合わせ」で培ったノウハウを強みに世界シェアの約9割を握っています。

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