この記事で分かること
- エチレンの用途:プラスチックの代表格であるポリエチレンの原料になります。レジ袋や容器、PETボトル、合成繊維、自動車部品、洗剤など、身の回りのあらゆる製品の基礎となる重要な化学物質です。全ての製品の元となるためエチレンの設備稼働率は大きな注目を集めるニュースとなります。
- 低迷の理由:主に、中国の巨大設備新設による供給過剰と自給率向上で日本の輸出先が消えたことが原因です。国内でも人口減少や脱プラによる需要減、安価なガスを原料とする海外勢に対するコスト競争力の低下が響いています。
- 日本メーカーの対応:競合他社との垣根を超えた大規模な設備集約を断行しています。同時に、安さ勝負の汎用品から、半導体材料や環境配慮型素材といった高付加価値分野へ経営資源を集中させることで、収益構造の抜本的な改革を進めています。
12月のエチレン設備稼働率が77%台に低迷
2025年12月のエチレン設備稼働率が77%台となっており、日本の石油化学業界にとって非常に厳しい状況が続いていることを示しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00771660
通常、日本のエチレンプラントは90%以上が採算の目安(好不況の分岐点)とされており、80%を割り込む水準は「構造的な不況」の状態にあると言えます。
エチレンは何に使用されるのか
エチレンは、そのままの形で製品として使われることはほとんどありませんが、加工(誘導品化)することで私たちの身の回りにあるプラスチック、ゴム、合成繊維、塗料などの膨大な製品に姿を変えます。
そのため、化学業界では「産業の米」や「石油化学の王様」と呼ばれています。主な用途を分類してご紹介します。
1. 「プラスチック」への加工:圧倒的な量
エチレンの需要の約半分以上は、ポリエチレン(PE)というプラスチックの原料になります。
- レジ袋・ゴミ袋・ラップ: 柔らかい「低密度ポリエチレン(LDPE)」が使われます。
- シャンプー容器・ポリバケツ: 硬くて丈夫な「高密度ポリエチレン(HDPE)」が使われます。
- 水道パイプ・ガス管: 耐久性に優れたプラスチックとしてインフラを支えています。
2. 合成繊維・不凍液(エチレングリコール経由)
エチレンから作られる「エチレングリコール」は、以下の製品に欠かせません。
- ポリエステル衣料: フリースやスポーツウェアの生地になります。
- PETボトル: 飲料容器として最も身近な用途の一つです。
- 不凍液: 自動車のエンジン冷却水が凍らないようにするために添加されます。
3. 家電や自動車部品(スチレン・塩ビ経由)
他の化学物質と組み合わせることで、さらに多様な性質を持ちます。
- スチレンモノマー: 断熱材(発泡スチロール)や、家電製品の外装、タイヤの合成ゴムになります。
- 塩化ビニル(PVC): 窓枠、壁紙、床材などの建材に使われます。
4. 特殊な用途:果物の「成熟ホルモン」
工業原料以外で面白いのが、植物ホルモンとしての役割です。
- バナナやキウイの追熟: 収穫時は青いバナナを、倉庫でエチレンガスにさらすことで、私たちが食べる頃に黄色く甘く熟成させます。
エチレンからできる主な製品まとめ
| 中間原料 | 主な最終製品 |
| ポリエチレン | 包装フィルム、バケツ、容器、パイプ |
| エチレングリコール | ポリエステル繊維、PETボトル、不凍液 |
| 塩化ビニル | 水道管、サッシ、電線被覆、雨樋 |
| スチレンモノマー | プラモデル、家電筐体、タイヤ、断熱材 |
| 酸化エチレン | 洗剤(界面活性剤)、医療用滅菌剤 |
このように、エチレンは現代生活の「素材の根幹」を支えています。だからこそ、稼働率77%という数字は、これら全ての製品の元となる「大本の蛇口」が締まりつつあるという、経済の冷え込みを象徴するニュースなのです。

エチレンは「産業の米」と呼ばれ、プラスチックの代表格であるポリエチレンの原料になります。レジ袋や容器、PETボトル、合成繊維、自動車部品、洗剤など、身の回りのあらゆる製品の基礎となる重要な化学物質です。
稼働が低迷している理由は
エチレン設備の稼働率が77%という極めて低い水準で低迷している理由は、主に「外部環境(中国の影響)」「国内の構造変化」「原料コスト」の3点に集約されます。
1. 中国による「供給過剰」の波
現在、世界的にエチレンが余っています。特に中国では、国策として巨大な石油化学コンビナートが次々と建設されました。
- 自給率の向上: かつて中国は日本からの輸出先でしたが、自国で賄えるようになり、日本の輸出先が消失しました。
- 安値攻勢: 中国で余った製品がアジア市場に安く流れ込み、日本の製品が価格競争で太刀打ちできなくなっています。
2. 国内需要の構造的な減少
日本国内でも、エチレンを使う製品の需要が減っています。
- 製造業の海外移転: 自動車や家電のパーツ生産が海外へ移り、国内での素材需要が減りました。
- 人口減少と環境意識: 国内市場の縮小に加え、プラスチック削減(脱プラ)の動きが加速し、包装材などの需要が落ち込んでいます。
3. 原料・エネルギーコストの不利
エチレンを作るための「コストの差」が、稼働率に直結しています。
- ナフサ原料の限界: 日本は主に原油由来の「ナフサ」を使いますが、米国(安価なシェールガス)や中東(直結の原油)に比べて製造コストが高く、国際的な競争力が低下しています。
- 設備の老朽化: 日本のプラントは建設から数十年経つものが多く、中国などの最新・巨大設備に比べて生産効率で劣るという課題があります。
「売れない(需要減)」うえに「作っても高い(コスト高)」という状況が続いています。そのため、あえて減産(低稼働)に踏み切らざるを得ない、あるいは採算が悪すぎて動かせないという構造的な不況に陥っています。

主に、中国の巨大設備新設による供給過剰と自給率向上で日本の輸出先が消えたことが原因です。国内でも人口減少や脱プラによる需要減、安価なガスを原料とする海外勢に対するコスト競争力の低下が響いています。
各メーカーはどう対応するのか予定なのか
稼働率77%という深刻な状況を受け、国内メーカーは「単独で生き残る」道から、「ライバル同士で協力して設備を減らす」という大転換(構造改革)に舵を切っています。
1. 設備の廃棄と集約(千葉・川崎地区)
特にプラントが密集する千葉地区では、他社と協力して「過剰な設備を止める」動きが加速しています。
- 出光興産 × 三井化学: 千葉地区にある出光の設備を2027年までに停止し、三井化学の設備に一本化して共同運営することを決定しました。
- 丸善石油化学 × 住友化学: 丸善の自社設備を2026年度中に停止し、両社の合弁会社(京葉エチレン)の最新設備へ集約します。
- ENEOS: 川崎にある2基のエチレン装置のうち1基を停止する検討を進めています。
2. 地域の枠を超えた共同運営(西日本)
瀬戸内エリアなどの西日本では、メーカーの垣根を超えた連携が始まっています。
- 三菱ケミカル × 旭化成 × 三井化学: 2025年に「瀬戸内エチレンLLP(有限責任事業組合)」を設立。2030年を見据え、水島地区などの拠点を共同運営し、将来的な設備削減や脱炭素化を共同で進める体制を作りました。
3. 「汎用品」から「高付加価値品」への転換
大量生産・安さ勝負の「汎用プラスチック(レジ袋など)」では海外勢に勝てないため、日本独自の技術が活きる分野へ投資をシフトしています。
- スペシャリティ化学: 自動車の軽量化部材、半導体材料、医療用素材など、利益率の高い高度な製品に経営資源を集中させています。
- グリーン転換(GX): 廃プラスチックを再利用する「ケミカルリサイクル」や、植物由来の原料への切り替えを進め、環境価値で差別化を図っています。
国内エチレン再編の主な動き(まとめ)
| 地区 | 主なメーカー | 対応内容 |
| 千葉 | 出光・三井・丸善・住友 | 設備の集約・停止(2026〜2027年) |
| 川崎 | ENEOS | 装置の削減を検討中 |
| 瀬戸内 | 三菱・旭化成・三井 | 共同運営組織(LLP)を設立、統合を模索 |
2026年は日本の石化産業にとって「縮小均衡」による生き残りをかけた大再編の年となっています。

各メーカーは「単独での存続は困難」と判断し、競合他社との垣根を超えた大規模な設備集約を断行しています。同時に、安さ勝負の汎用品から、半導体材料や環境配慮型素材といった高付加価値分野へ経営資源を集中させることで、収益構造の抜本的な改革を進めています。

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