経産省のフロンティア領域への投資:海洋CO2吸収 どのように吸収するのか?どんな点が難しいのか?

この記事で分かること

  • 海洋CO2吸収とは:海藻などの生態系(ブルーカーボン)や工学的な手法を用いて大気中の炭素を海に閉じ込める技術です。広大な海を巨大な「吸収源」に変えることで、温暖化防止の決定打として期待されています。
  • 海藻が使用される理由:成長が極めて速く、CO2吸収効率が高いのが特徴です。枯れた後は酸素の少ない海底に堆積するため、炭素を数千年以上も安定して封じ込められる点や、広大な海を利用できる点が最大の利点です。
  • 難しい点:主な難所は、広大な水中の吸収量を正確に計測・証明する技術が未確立な点、海水温上昇や食害による藻場の維持の難しさ、そして調査にかかる膨大なコストです。これらを解決するために、AIや水中ドローンによる自動計測技術の開発が急がれています。

経産省のフロンティア領域への投資:海洋CO2吸収

 経済産業省(METI)が、2040年頃の市場創出を見据えて、次世代技術(AI、半導体など)のさらに先にある「フロンティア領域」として6つの事業分野を特定し、投資を行うことを発表しています。

 これらは、民間企業だけではリスクが高すぎて投資が難しいものの、将来的に日本が主導権を握れる可能性が高い分野です。

 今回は海洋CO2吸収に関する記事となります。

投資な分野と内容

  以下のような6つの事業に投資を行っています。

事業分野主な投資・支援内容
天然水素国内外の有望な埋蔵エリアの調査、地下から水素を効率的に取り出す掘削技術の開発。
海洋ロボティクス水深数千メートルで自律稼働するロボット(AUV)の開発、水中通信インフラの整備。
海洋CO2吸収海水からCO2を分離・回収する設備の試作、海藻などを使った炭素貯留(ブルーカーボン)の実証。
ニューロテクノロジー脳信号を正確に読み取る低侵襲なセンサー開発、医療やリハビリでの臨床試験支援。
極限環境材料宇宙の放射線や深海の超高圧に耐える「新素材」のシミュレーションと製造ラインの構築。
量子センシング超高感度センサーを搭載した小型チップの開発、自動運転車などへの搭載試験。

海洋CO2吸収とは何か

 海洋CO2吸収とは、地球表面の約7割を占める「海」の力を利用して、大気中の二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する技術や仕組みのことです。

 陸上の森林による吸収よりもポテンシャルが高いとされ、脱炭素社会の切り札として期待されています。主に以下の2つのアプローチがあります。


1. ブルーカーボン(生態系による吸収)

 海草(アマモなど)や海藻、マングローブなどの海洋生態系が、光合成によって炭素を固定することです。

  • メリット: 自然の力を利用するため環境負荷が低く、魚の産卵場所(ゆりかご)としての機能など、生物多様性の保全にもつながります。
  • 事業化: 藻場を再生・拡大させ、その吸収量を「クレジット」として企業間で売買する市場が動き出しています。

2. 科学的・工学的な回収(ネガティブエミッション技術)

 テクノロジーを使って強制的に海にCO2を吸わせる、あるいは海水から抽出する手法です。

  • 風化促進: 海水に特定の鉱物を撒き、化学反応を促してCO2を重炭酸イオンとして安定的に溶け込ませます。
  • 海水直接回収(DOC): 海水から電気化学的にCO2だけを取り出し、それを地中深くに封じ込めたり、工業原料として再利用したりします。

なぜこれが「フロンティア領域」なのか

  • 膨大なポテンシャル: 海はもともと大気の約50倍もの炭素を蓄えており、わずかな吸収効率の向上で巨大な削減効果が得られます。
  • 測定の難しさ: 陸上と違い、水中でのCO2吸収量を正確に計測・証明する技術が未確立です。ここで海洋ロボティクスによる自動監視が不可欠となります。

海洋CO2吸収とは、海藻などの生態系(ブルーカーボン)や工学的な手法を用いて大気中の炭素を海に閉じ込める技術です。広大な海を巨大な「吸収源」に変えることで、温暖化防止の決定打として期待されています。

ブルーカーボンはどのように行われるのか

 ブルーカーボンは、主に「藻場の再生・保全」を通じて行われます。陸上の森林と同じように、海中の植物に光合成をさせて炭素を吸収させ、それを長期間にわたって海中に留めておく仕組みです。

1. 藻場の再生と拡大

 アマモ(海草)やコンブ・ワカメ(海藻)が育つ環境を整えます。

  • 植林ならぬ「植海」: 胞子を混ぜたブロックを沈めたり、苗を植えたりして、失われた藻場(磯焼け地帯など)を復活させます。
  • 環境整備: 鉄分などの栄養剤を投入したり、海藻を食べてしまうウニなどを駆除したりして、成長を助けます。

2. 炭素の固定(長期間の貯蔵)

 ブルーカーボンの最大の特徴は、吸収した炭素を「海底の泥の中」に閉じ込める点です。

  • 枯れた海草などが海底に堆積すると、酸素が少ないため分解されにくく、数千年にわたって炭素を泥の中に封じ込めることができます。

3. 計測とクレジット化

 企業が投資しやすいよう、吸収量を「価値」に変えます。

  • ドローン・衛星活用: 上空から藻場の面積を測ります。
  • 海洋ロボティクス: 先述のAUV(水中ドローン)などが水中の炭素濃度を測定し、正確な吸収量を計算します。
  • Jブルークレジット: 国際的・国内的な認証を受け、企業が「CO2削減分」として購入できる仕組みです。

ブルーカーボンは、アマモや海藻などの藻場を人工的に再生・保全することで行われます。光合成で吸収された炭素を海底の泥中に長期間閉じ込め、その量をドローンやロボットで計測し、排出権として取引します。

なぜ海藻や海草が利用されるのか

 海藻(わかめ・昆布など)や海草(アマモなど)が利用される最大の理由は、陸上の植物に比べて炭素を吸収・蓄積する能力が非常に高いからです。

1. 驚異的な成長スピードと吸収力

 海藻の成長速度は非常に速く、種類によっては1日に数十センチも伸びるものがあります。

  • 効率の良さ: 単位面積あたりの炭素吸収能力は、熱帯雨林(ジャングル)に匹敵するか、それ以上という研究結果もあります。
  • 光合成の最適化: 水中に溶け込んでいる高濃度のCO2を効率よく取り込み、短期間で体内に炭素を固定します。

2. 「海底」という最強の貯蔵庫

 陸上の森は、木が枯れて腐敗したり火事になったりすると、蓄えたCO2が再び大気中に放出されてしまいます。

  • 分解されにくい: 枯れた海藻が海底に沈むと、酸素が少ない「泥の中」に埋もれます。ここでは微生物による分解が進みにくいため、数千年にわたって炭素を閉じ込めることができます。

3. 未利用の広大なスペース

 陸上では植林できる場所に限りがありますが、日本は世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ海洋大国です。

  • ポテンシャルの巨大さ: 沿岸部だけでなく、沖合での養殖技術などが確立されれば、理論上は日本の排出量を大幅にカバーできる広大な「畑」が海には存在しています。

海藻・海草は成長が極めて速く、CO2吸収効率が高いのが特徴です。枯れた後は酸素の少ない海底に堆積するため、炭素を数千年以上も安定して封じ込められる点や、広大な海を利用できる点が最大の利点です。

どのような点が難しいのか

 ブルーカーボン(海洋CO2吸収)の実現が難しいと言われる理由は、主に「測れない・見えない・維持できない」という3つの高い壁があるからです。森林のような陸上の対策と比べ、水中ならではの特異な難しさがあります。

1. 「測る」のが難しい(計測・データ化の壁)

 企業が投資するには「どれだけCO2を減らしたか」を正確に証明する必要がありますが、海の中は数値化が極めて困難です。

  • 見えない広がり: 水中では電波が届かないため、人工衛星やドローンだけで面積を測るのが難しく、結局はダイバーが潜って手作業で調査しなければならず、膨大なコストと時間がかかります。
  • 複雑な計算: 海藻が吸収した炭素のうち、どれくらいが海底に沈み、どれくらいが再び分解されて大気に戻ったのかというメカニズムが完全には解明されていません。

2. 「見つける」のが難しい(環境の壁)

  • 不透明な海中: 日本の沿岸部は濁りがある場所も多く、上空から「どこにどれだけ海藻が生えているか」を把握するのが困難です。
  • 国際ルール: 海藻(ワカメやコンブ)による吸収を「正式な削減量」として認めるかどうか、国際的な基準作りがまだ発展途上であり、ルール形成の主導権争いが起きています。

3. 「維持する」のが難しい(気候変動の壁)

  • 磯焼けと食害: 海水の温度上昇により、海藻が枯れてしまう「磯焼け」が深刻化しています。また、活発になったウニや魚が海藻を食べ尽くしてしまうため、せっかく植えても一晩で全滅するリスクがあります。
  • 激甚化する災害: 台風や巨大な波により、再生した藻場が一気に流されてしまう可能性が常にあります。

主な難所は、広大な水中の吸収量を正確に計測・証明する技術が未確立な点、海水温上昇や食害による藻場の維持の難しさ、そして調査にかかる膨大なコストです。これらを解決するために、AIや水中ドローンによる自動計測技術の開発が急がれています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました