この記事で分かること
- GC-MSとは:混合物をガス状にして分離するGCと、成分の重さを測るMSを繋げた装置です。GCで成分を1つずつに切り分け、MSでその正体を特定します。食品、環境、鑑識など、複雑な成分の特定に不可欠な万能ツールです。
- なぜ電子衝撃法が利用されるのか:GCでガス化した試料とEIの仕組みが物理的に合致しており、導入がスムーズだからです。また、EIで得られる固有の破片パターン(指紋)を膨大なデータベースと照合することで、多成分からなる未知試料の正体を確実に特定できます。
GC-MS
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は、質量分析法のイオン化の一種である電子衝撃法とは何かに関する記事となります。
質量分析法とは
質量分析法とは、物質を原子・分子レベルでイオン化し、その質量と数を測定して成分を特定する手法です。「分子の重さを測る超精密な天秤」のようなもので、微量な試料から物質の同定や定量、構造解析が可能です。
GCMSとは何か
GC-MSとは、混合物を成分ごとに分けるガスクロマトグラフ(GC)と、分かれた成分の正体を突き止める質量分析計(MS)を合体させた装置です。
「バラバラにする力」と「見分ける力」を組み合わせた装置となります。
1. 2つの装置の役割
- GC(ガスクロマトグラフ):分離担当混合試料を加熱してガス化し、長い細管(カラム)に通します。成分ごとに「通り抜けるスピード」が違うため、出口から1種類ずつ順番に出てきます。
- MS(質量分析計):同定担当GCから出てきた純粋な成分に電子をぶつけてイオン化(EI法など)し、その重さと壊れ方を調べます。
2. なぜセットにするのか
もしMS単体で複雑な混合物(例:コーヒーの香り)を測ると、何百もの分子の破片が一度に検出され、どれが誰の破片かパニックになります。
GCで「1人ずつ順番に整列」させてからMSに送ることで、それぞれの正体を確実に特定できるようになります。
3. GC-MSでわかること
得られるデータは「クロマトグラム」(いつ出てきたか)と「マススペクトル」(どんな重さか)の2つです。
- 定性分析: 「これはアセトンだ」と名前を当てる。
- 定量分析: 「アセトンが10ppm含まれている」と量を測る。

混合物をガス状にして分離するGCと、成分の重さを測るMSを繋げた装置です。GCで成分を1つずつに切り分け、MSでその正体を特定します。食品、環境、鑑識など、複雑な成分の特定に不可欠な万能ツールです。
GCMSで電子衝撃法が使用されるのはなぜか
GC-MSにおいて電子衝撃法(EI)が標準的に使用される理由は、GCとEIの「相性の良さ」と「データの信頼性」にあります。
1. 気体試料との親和性
GC(ガスクロマトグラフ)は、試料をガス状にして分離する装置です。EIもまた、ガス状の分子に電子をぶつける手法であるため、GCの出口から出てきた成分をそのままスムーズにイオン化室へ導入できます。
2. 「指紋」による確実な同定
GCで分離される成分は、環境ホルモンや香料など多種多様です。EIは分子を細かく壊す(断片化)ため、得られるパターンは物質固有の「指紋」となります。これを数十万件のデータベースと照合することで、未知の成分でも名前をピタリと当てる(同定する)ことが可能です。
3. 感度と再現性の高さ
EIは構造がシンプルで、電子のエネルギー(70 eV)が世界共通で固定されています。そのため、日を改めても、別の場所にある装置を使っても同じデータが得られるという抜群の安定性があり、公的な検査や証拠書類として極めて優秀です。

GCでガス化した試料とEIの仕組みが物理的に合致しており、導入がスムーズだからです。また、EIで得られる固有の破片パターン(指紋)を膨大なデータベースと照合することで、多成分からなる未知試料の正体を確実に特定できます。
GC-MSで熱に弱い物質をどう分析するのか
GCは「試料を加熱してガスにする」必要があるため、熱に弱い物質の分析には工夫が必要です。主に以下の3つのアプローチをとります。
1. 誘導体化(化学反応で変身させる)
熱で壊れやすい部分(OH基など)に別の化合物を反応させ、「熱に強く、蒸発しやすい構造」に変えてから測定します。
- 例: 糖類やアミノ酸にシリル化剤を加え、熱安定性を高める手法が一般的です。
2. ソフトイオン化法の併用
GCの出口で、EI法の代わり、CI法(化学イオン化法)を使います。試薬ガスを介して低温・低エネルギーでイオン化するため、分子の断片化を抑え、元の形を保ったまま検出できます。
3. 分析条件の最適化
- 冷オンカラム注入: 試料を高温の注入口を通さず、直接冷たいカラムに入れてから徐々に加熱します。
- 短カラム・高流速: 高温にさらされる時間を極限まで短くし、壊れる前に出口(検出器)へ届けます。

熱に強い構造へ変える「誘導体化」を施すか、衝撃の少ない「ソフトイオン化法(CI法など)」を併用します。また、注入口の温度を下げたり、高温にさらす時間を短縮したりする装置運用の工夫で分解を防ぎます。
冷オンカラムとは何か
冷オンカラム注入法(Cold On-Column Injection)とは、GC分析において試料を加熱せず、「液体のまま直接カラムの入り口に入れる」注入方式のことです。
通常の注入法では注入口を300℃近くまで加熱して瞬時にガス化させますが、これだと熱に弱い物質は一瞬で壊れてしまいます。冷オンカラムはその弱点を克服するために開発されました。
冷オンカラムの主なメリット
- 熱分解の防止: 注入口を加熱しないため、熱に不安定な農薬やビタミンなども壊さずにカラムへ運べます。
- 沸点の高い物質に強い: 加熱による気化を利用しないため、蒸発しにくい(沸点が高い)成分も取りこぼしなく分析できます。
- 高い定量性: 注入口内での成分の選別(重いものだけ残る等)が起こらないため、正確な濃度を測るのに向いています。
どうやってガスにするのか?
液体としてカラムに入れた後、カラム自体の温度をゆっくり上げていくことで、カラムの中で初めて成分を蒸発させます。これにより、物質に優しい条件で分離がスタートします。

注入口を加熱せず、試料を液体の状態で直接カラムへ導入する手法です。注入後にカラムの温度を徐々に上げるため、熱に弱い物質や沸点の高い物質を、分解や取りこぼしなく精密に分析できるのが最大の特徴です。
GC-MSにはどんな種類があるのか
GC-MSの種類は、主に「MS(質量分析部)の仕組み」によって分類されます。用途に合わせて、スピード重視から精密さ重視まで使い分けられています。
1. 四重極型(SQ: Single Quadrupole)
現在最も普及しているタイプです。4本の棒状電極(四重極)に電圧をかけ、特定の重さのイオンだけを通過させます。
- 特徴: 装置がコンパクトで安価、操作が簡単。
- 用途: 定番のルーチン分析、農薬検査、食品分析。
2. トリプル四重極型(QQQ: Triple Quadrupole)
四重極を3つ並べたような構造(MS/MS)です。1つ目で狙ったイオンを選び、2つ目で壊し、3つ目でその破片を測ります。
- 特徴: 圧倒的な選択性と感度。ノイズを徹底的に排除できる。
- 用途: 血液中の微量薬物、超微量な環境汚染物質の定量。
3. 飛行時間型(TOF: Time of Flight)
イオンを飛ばし、検出器に届くまでの「時間」を測るタイプです。重いものほどゆっくり、軽いものほど速く飛ぶ原理を利用します。
- 特徴: 分解能が非常に高い。 重さが小数点第4位(精密質量)までわかるため、未知の物質の組成式を決められる。
- 用途: 未知成分の構造解析、法医学鑑定。

普及型の「四重極型」、超微量成分を確実に見抜く「トリプル四重極型(MS/MS)」、そして未知の物質の正体を精密な重さから突き止める「飛行時間型(TOF)」が代表的です。目的が「定量」か「探索」かで選びます。

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