この記事で分かること
- どんな開発を行うのか:日本化学工業の無機材料技術とTDKのノウハウを融合し、主原料であるチタン酸バリウムの超微細・高純度化を推進します。1,000層超の多層化を実現する分散技術や、次世代EV・AI向けの革新的な材料を開発します。
- チタン酸バリウムが使用される理由:比誘電率が極めて高く、小型でも膨大な電気を蓄えられるためです。電圧をかけると結晶内のチタンイオンが大きく動くペロブスカイト構造を持ち、この分極が連鎖して強い蓄電能力を生むため、MLCCに最適です。
- なぜ合弁会社を作るのか:材料の微細化と製品設計の「高度なすり合わせ」を迅速に行うためです。資本を統合し、門外不出の技術を融合させることで、開発期間の短縮と独自の高付加価値材料の安定確保を同時に実現する狙いです。
TDKと日本化学工業による合弁会社設立
TDKと日本化学工業は、2026年4月1日付で積層セラミックコンデンサー(MLCC)向け材料の開発を行う合弁会社「TDK-NCIアドバンスドマテリアルズ」を設立しました。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC027RC0S6A400C2000000/
今回の提携は、激化するMLCCの小型・大容量化競争において、材料段階からの差別化を図る戦略的な一手と言えます。
どんな材料を開発するのか
新会社「TDK-NCIアドバンスドマテリアルズ」が取り組む具体的な材料開発の内容は、主に積層セラミックコンデンサー(MLCC)の心臓部となる無機材料と、その製造プロセスの2軸です。
具体的には以下の3点が開発の核となります。
1. 超微細・高純度な「チタン酸バリウム」
日本化学工業が強みを持つ、MLCCの主原料であるチタン酸バリウム(BaTiO₃)の進化が最大の焦点です。
- ナノレベルの微細化: MLCCの薄層化(1層あたり数μm以下)に対応するため、粒子径を均一かつ極限まで小さくする技術を開発します。
- 高純度化: AIサーバーなどの高温環境下でも安定して動作するよう、不純物を徹底的に排除したセラミック粉末を追求します。
2. 1,000層を超える多層化のための「分散・塗工技術」
材料そのものだけでなく、それを「どう塗るか」というプロセス開発も含まれます。
- 高分散ペースト: 微細な粉末を液中に均一に分散させ、ダマ(凝集)のない滑らかなペーストを作る技術。
- 薄層化プロセス: より薄く、より多くの層(1,000層以上)を正確に積み重ねるための製造技術を、材料設計の段階から最適化します。
3. 次世代の「電子部品用機能性材料」
MLCC向けだけでなく、将来的に他の電子部品へ転用可能な無機・有機ハイブリッド材料の研究も視野に入っています。
- 高耐圧・大容量化への対応: EVの電源系統で求められる高電圧に耐えうる新しい組成の誘電体材料。
- 環境負荷低減材料: 製造工程でのCO2排出を抑える低温焼成材料などの開発。

日本化学工業の強みであるチタン酸バリウム等の無機材料技術と、TDKの電子部品ノウハウを融合を目指します。1,000層超の多層化を実現する超微細・高純度材料や、次世代の製造プロセスを共同開発し、AI・EV向けMLCCの進化を加速させます。
なぜチタン酸バリウムが使用されるのか
チタン酸バリウム(BaTiO3)が積層セラミックコンデンサー(MLCC)の主材料として使われる最大の理由は、その極めて高い比誘電率と強誘電体としての性質にあります。
1. 圧倒的な「比誘電率」
コンデンサーの蓄電容量(C)は、以下の式で表されます。
C = ε0εr × (S/d)
(εr : 比誘電率、S: 電極面積、d: 誘電体の厚さ)
チタン酸バリウムの比誘電率は数千から1万以上に達し、これは一般的なプラスチックや他のセラミックスと比べて数十倍〜数百倍の値です。
この高い数値により、極小サイズでも膨大な電気を蓄えることが可能になります。
2. 「強誘電体」という結晶構造
チタン酸バリウムは「ペロブスカイト型」と呼ばれる結晶構造を持ちます。
- 分極の仕組み: 結晶の中心にあるチタンイオン(Ti4+)が、外部からの電圧によってわずかに位置をずらします。
- 電気を蓄える力: このイオンの変位が大きな「電気双極子」を生み出し、外部電界を取り除いても分極を保持しようとする性質(強誘電性)が、高い蓄電能力の源となります。
3. 加工のしやすさと信頼性
- 焼成技術の確立: 粉末状にしてから高温で焼き固めるセラミックス工法に適しており、TDKなどが得意とする「薄く均一に塗り重ねる」多層化プロセスと非常に相性が良い材料です。
- 安定性: 化学的に比較的安定しており、適切な添加物(レアアース等)を加えることで、温度変化による容量変化を抑えるなど、工業的な制御がしやすい点も選ばれる理由です。

比誘電率が極めて高く、小型で大容量の蓄電が可能なためです。中心のチタンイオンが動く「ペロブスカイト型」の結晶構造が強い分極を生み、微細な粉末加工もしやすいため、MLCCの主原料として最適です。
なぜ比誘電率が高いのか
チタン酸バリウムの比誘電率が極めて高い理由は、その結晶構造の中に「外部からの電気(電圧)に対して、非常に大きく反応して動く仕組み」が組み込まれているからです。
1. ペロブスカイト構造とチタンイオンのゆとり
チタン酸バリウム(BaTiO3)は、立方体の角にバリウム(Ba)、面に酸素(O)、中心にチタン(Ti)が位置するペロブスカイト構造をとっています。
- 中心の「遊び」: この構造内では、中心のチタンイオンが動けるスペースにわずかな「ゆとり」があります。
- 変位の発生: 電圧をかけると、中心のチタンイオンが酸素の籠の中で大きく位置をずらします(変位)。この「プラスとマイナスの中心が大きく離れる現象」が、強力な分極を生み出します。
2. 強誘電性による「分極の連鎖」
チタン酸バリウムは強誘電体であり、隣り合う結晶内の分極が同じ方向を向こうとする性質を持っています。
- 分極の協調: 1つのチタンイオンが動くと、隣のイオンも引きずられるように同じ方向へ動きます。
- 相乗効果: この連鎖反応により、外部から加えた電圧以上に、材料全体として膨大な電荷を内部に蓄えることができるようになります。
3. 温度による構造変化(相転移)
常温付近でのチタン酸バリウムは、結晶がわずかに縦長に歪んだ「正方晶」という状態です。
- 歪みが鍵: この歪みがあることでチタンイオンの位置が不安定になり、電界に対してより敏感に、よりダイナミックに動けるようになります。これが、他のセラミックスには真似できない驚異的な比誘電率を実現している物理的な背景です。

ペロブスカイト構造の中心にあるチタンイオンが、電圧に応じて大きく位置を変える「遊び」を持っているためです。この変位が隣の分子と連鎖して強力な分極を生むため、膨大な電気を蓄えられます。
共同会社をつくるのはなぜか
TDKと日本化学工業が単なる協力関係ではなく「共同出資会社」という形をとる理由は、「材料の微細化」がMLCCの性能限界を決める最大の障壁になっているからです。
1. 開発スピードの劇的な向上
次世代のAIサーバーやEV向けMLCCは、1,000層を超える極薄の層を積み重ねる必要があります。
- 従来: TDKが材料仕様を出し、日本化学工業が試作して納品するという往復が必要でした。
- 新会社: 両社の技術者が同じ拠点で開発を行うことで、材料組成の調整とデバイスへの実装評価をリアルタイムで繰り返せます。これにより、開発期間(リードタイム)を大幅に短縮します。
2. 「すり合わせ技術」の秘匿と強化
MLCCの進化は「材料の粉末サイズ」と「ペーストの塗り方」の高度なすり合わせにかかっています。
- 密な連携: 日本化学工業の「無機材料合成技術」と、TDKの「多層化プロセス技術」を融合させるには、知的財産を共有し、運命共同体となる会社組織にするのが最も効率的です。
3. 安定したサプライチェーンの確保
世界的な需要拡大に対し、材料から部品までを一気通貫で管理する体制を構築します。
- 垂直統合の模索: 原材料の高度なカスタマイズが必要になる中、特定のパートナーと資本レベルで結びつくことで、他社が真似できない独自の高付加価値材料を独占的に、かつ安定して供給する狙いがあります。

材料開発と製品設計を一体化させ、開発スピードを最大化するためです。資本を共にする組織で両社の門外不出の技術を融合し、AIやEV向けに不可欠な次世代MLCCの材料を早期に、独占的に確立する狙いがあります。

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